特典3「いざ王都へ」
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実家へと走ること少々。
『魔法神の寵愛』の上昇率バフに驚きながらも、火があがっているのが見えた。
焼き討ちってか。
反乱を起こした側にも、相当な怒りが溜まっていたのだろう。
とはいえ人の家をめちゃくちゃにしていい道理にはならないけどな。
自分の家がどうなろうとも、きちんとこの目に焼き付けるとしよう。
さて、実家に到着したわけだがどう見ても焼かれているんだよなあ。
まだ書庫にあった読んでない本もあるんだが、これではもう手遅れか。
戻ってきたものの死体とか見たいわけじゃないし、どうするかな。
「ガキが3人どこにも居ないぞ!手分けして探せ!!」
こんな中に出ていったら飛んで火に入る夏の虫だし。
とりあえず家族の気配だけでも探ってみるか。
「『探知』」
ピコンッー 探知魔法 を習得しました。
家の裏手に反応が3つ。
たぶん兄さん3人が捕まってるってところかな。
弟はわからないが、姉さんは嫁に出て久しい。
両親はまあ・・・考えないようにしておこう。
しかし実の親が居なくなったというのに俺はなんの感情も抱かないんだな。
一緒に居た記憶は1年半とはいえ、ここまで育ててくれた恩もあり何か思うと思っていたんだが。
どうやら俺はかなりの薄情者らしい。
兄さんたちを開放したとして事態が好転するとも思えないが・・・とりあえず火の消火くらいはしてやるか。
水よりは酸素をなくしたほうが早そうだ。
土魔法で囲い込むように・・・こんなものだろう。
土を操作して燃えている家だけを包み込み蓋をした。
当然裏手の兄さんたちは巻き込まないように。
周りにいた連中の驚いた声が響いているが、まあ見つかったところで俺のステータスならどうにでもなる。
今後の家族の身の振り方がどうなるのか気になるところではあるが、貴族だった親が居なくなったことで子である俺達はその身分の剥奪は逃れられない。
ティティー様の言っていたとおり、没落貴族となってしまった。
身分にこだわるつもりはないけど。
さて、兄さんたちには悪いが開放だけしたら俺も街に戻るとしよう。
薄情者だとか、クズ野郎とか。
色々言われてもいい。
人外ステータスの持ち主として、無駄な殺生はしたくないんだ。
土魔法を操りそれぞれの縄を切り落とし、隙を見て逃げ出したのを確認。
これでもうここに戻ってくることはないだろうな。
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案の定街の閉門時間は過ぎており、仕方なく近くで野宿することになった。
まあこれも冒険者気分で楽しかったけど、やっぱり布団で寝たいものだ。
サクヤを預けていた商会に顔を出すと中に案内され、落ち着かない様子のサクヤと再会。
「お兄ちゃん、家はどうなったの・・・?」
恐る恐る聞いてきたサクヤに事情を説明。
家が燃やされていたこと。
両親はおそらく間に合わなかったこと。
兄さんたちは捕虜になっていたこと。
隙を見て開放して無事に逃げ出したこと。
弟はどこにも見当たらなかったこと。
そして、俺達はもう貴族ではなく平民に落ちたということ。
順を追って説明していくうちに涙ながらに納得してゆくサクヤ。
兄3人を助けなかったことに関しては何も言ってこないんだな。
「たぶんアタシが行っても怖くて動けなかったと思うから。
開放してくれただけでひとまず安心かな。
それより、お兄ちゃんが無事に戻ってきてくれただけで良かった。」
弱々しくも言葉を発しながら、泣き顔を俺の胸に埋めてきた。
謝罪しつつ頭を撫で続けてしばらく。
ようやく落ち着いたようだ。
2人並んでソファーに腰掛け、今後のことを話すことにした。
「お兄ちゃんはこれからどうするの?」
「うーん、魔法学院に通いたい気持ちはあるから王都に行こうかと思っているけど。」
「じゃあアタシも行く!
一緒に暮らしながら通おうよ。」
サクヤを置いていくという選択肢は俺の中にはない。
とはいえ今の俺の手持ち財産では1人分の学費で精一杯だ。
王都で家を借りて1年強を過ごしながらでは、1人分ですら不足する。
金策を打たないといけないのは間違いないな。
「12歳で冒険者登録ができるし、入学までは冒険者としてお金を稼ぐか。」
「魔法の練習にもなるし、いいかもね!」
こうして可愛い妹と共に王都に向かうことになった。
とはいえ日本で言うところの広島県から東京都に向かうようなもんだ。
当然新幹線はもちろん、電車などもない。
俺達の年齢や体力も考えて、走っていくのはさすがに無理がある。
馬車もそれだけの距離を乗り継いだらとんでもないお金がかかる。
時間だけはあるということで徒歩で冒険しながら行くとしよう。
最低限の服や日用品、日持ちする食品や地図を購入。
結構な金額になったがまあ良いだろう。
あとは武器屋で一番安い杖を2本購入した。
魔法使い2人だからな。
いざとなればサクヤを抱えて逃げるので防具はない方がいい。
他の荷物はすべてアイテムボックスに入れるので、身軽さ重視だ。
サクヤのお花摘みを待っている間に、必要なスキルを作っておくとしよう。
ピコンッ 料理 スキルを習得しました。
ピコンッ 飲料水生成 スキルを習得しました。
ピコンッ 気配察知 スキルを習得しました。
ピコンッ マッピング スキルを習得しました。
なんだか冒険者っぽくなってきたぞ。
なかなかに楽しめたところでサクヤが戻ってきた。
さてそれじゃあかわいい妹と仲良く、いざ王都へ!
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「王都ってどんなところかな?」
「そのへんの情報も道中で集めながらだな。
王宮と魔法学院があることくらいしか知らないや。」
「学院があるってことは、やっぱり魔法適正を持ってる人たちがいっぱいいるのかなあ。
ちょっと楽しみかも!」
言葉の通りにワクワクしているサクヤに和みつつ歩みを進める。
とはいえなあ。
五柱様が話してた言葉を信じるのであれば、人外である俺の理解者としてサクヤの魔法適正があるわけで。
ということは実際に『魔法神の加護5』を持っているサクヤが相当な使い手ということになる。
つまり平均的な数字が3としても、だ。
5を持っている人間からしたら学院の生徒レベルの相手は務まらないのではないだろうか。
だって12歳にして『大魔導師』の称号を持っている奴なんて他に居ないんじゃないか?
当然それ以上を持っている俺は論外として。
楽しそうな妄想をしている妹の邪魔をするつもりはないが、少し心配にはなるな。
頭を使いすぎたのか、小腹が空いてきた。
そろそろご飯にしようと声をかけると嬉しそうに頷くサクヤ。
妹という存在がこんなに可愛いだなんて知らなかった。
アイテムボックスから鍋と食材をとり出したところで、サクヤがなにかに気づいた。
「『魔法創造』ー料理!!」
ピコンッー 料理 スキルを習得しました。
そういえばサクヤも『魔法創造』スキルを持ってたんだったか。
俺もさっき隠れて作ったとはいえ、せっかくスキルを作ってくれたのだからここは任せるとしよう。
土魔法で簡易的な土台を造り、火魔法で着火。
鍋に軽く油を引いて温まったら食材を投入。
塩コショウで味をつけて完成だ。
平原のど真ん中で料理を楽しむ兄(13)妹(12)とは。
「んー!初めてにしては美味しい!」
言葉のとおり美味しい。
もちろん外なので簡単な炒め物ではあるのだが、実家で食っていたものがアレだからな。
日本で一人暮らしをしていた頃の、これぞ男の炒め物感を思い出す。
・・・米がほしくなるな。
食後は水魔法で食器を洗い、風魔法で乾燥。
そしてアイテムボックスに戻す。
魔法便利かっ!!
でもこんな簡単なことしかしていなくても魔法の習得レベルはあがっていく。
魔法を練習したい俺達にはちょうどいい時間かもしれない。
日も落ちてきたので今日はこの森のあたりで野宿することにしよう。
とはいえここは『物造り』の腕の見せ所だ。
少し森に入ったところで大きな箱を土魔法で作り出し、お湯を生成して中に入れる。
するとどうでしょう。
森の中に即席露天風呂のできあがりだ。
これにはサクヤも大喜びで、一緒に入ろうと駄々をこねるほどだった。
仕方がないのでタオルを巻いて背中合わせならという条件で一緒に入ることに。
「アタシは地属性魔法だけは使えないのよね。
全属性使えるお兄ちゃんが羨ましいよ。」
「うーん、他の人のステータスを見たことはないけど、3属性でも凄いことだと思うぞ。」
たぶん。
信憑性で言えばかなり高いと思うけどな。
ソースは五柱様。
「でも旅をしながらなのに、こんな素敵なお風呂に入れると思ってなかったもん!
お兄ちゃん様々だね!」
「ちゃんなのか様なのか、わっけわかんねえな。」
そんな会話に2人で笑い合う。
やっぱり、身分なんて関係ないな。
この笑顔が見れるなら、平民だろうがなんだろうが構いやしないさ。
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その後は2人で魔法を駆使して寝床を用意して寝ることに。
枕と布団を買っておいて正解だったな。
サクヤが辺りを綺麗に掃除して、俺が土魔法でベッドを生成した。
そんなこんなで森の中で眠りについた。
寝始めてからしばらくして。
ピコンッー 『気配察知』
む、何か近づいてきたのか。
まあこんな森だからな。
生き物がどれだけ居ても驚きはしない。
サクヤを起こさないようにそーっと抜け出し、『探知』を頼りに敵の場所と数を把握。
どうやらゴブリン20匹ほどに近づかれていたらしい。
森の中なら氷魔法がいいだろう。
「『氷柱砲』。」
ピコンッー レベルアップしました。
ピコンッー レベルアップしました。
素晴らしきかな『探知』魔法。
姿形も見ずに魔法の無駄打ちもなく終了。
さて、睡眠に戻るとしよう。
また起こされても面倒なので結界でも張っておくか。
ピコンッー 結界 スキルを習得しました。
ピコンッー 自動砲撃 スキルを習得しました。
結界に近づいてきた敵に対して『氷柱砲』を自動で砲撃するように設定。
サクヤが音で起きないように結界範囲半径100メートル。
これでいいだろう。
それじゃあ、おやすみ。
ピコンッー レベルアップしました。
ピコンッー レベルアップしました。
ピコンッー レベルアップしました。
ピコンッー レベルアップしました。
ピコンッー レベルアップしました。
ピコンッー レベルアップしました。
うるせええええええええええええええ!!!!
レベルアップ通知オフ!
ムカついたからサクヤを抱き枕にして落ち着こう。
はあ・・・こんなかわいい・・・妹といると・・・落ち着・・・ぐう。
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木々の隙間から日の光が出てきて目が覚める。
うん、なんだかんだでよく寝れた。
そういえばサクヤを抱きまくらにしてしまったんだった。
俺が起きたのが分かったのか、サクヤが震える声で話しかけてきた。
「おおおお兄ちゃん、ここここれは一体どうなったらこうなるのかな・・・?」
「ああわるい、魔物の襲撃でなかなか寝付けなくてよ。
サクヤにくっついてれば落ち着くかなと思ったからやってみたんだけど、おかげでめちゃくちゃ寝れたわ。」
「アタシは全然眠れなかったけどね!?
目バッキバキだよ!?」
あら、それは申し訳ない。
とりあえず謝罪して落ち着くまで寝てていいと伝えるも、寝れる気がしないから起きてるとのこと。
うーむ、これからはサクヤ抱き枕はやめておくとしよう。
ひとまずひとっ風呂浴びて目を覚ましてくるとのことで、風呂を準備。
入ってる間に寝ている時に倒したモンスター素材の回収でもしておくか。
ゴブリンの討伐証明はだいたい耳と相場は決まっている。
もし他のモンスターが居たとしても、散々異世界ファンタジーに没頭していた俺だ。
おおよその素材の見当はついている。
『速度強化』を使って走って結界の周りを回り、見つけたら魔法剣で斬り落としてアイテムボックスに回収だな。
おかげで『剣技』スキルも伸ばせるだろう。
素材を集めながら旅をして大きな街で換金。
あわよくば王都につく前に冒険者登録ができていたらベストだな。
さて、素材回収も終えて簡単なベーコンエッグを作り終えサクヤを待っているのだが。
そういえば昨晩レベルアップしてたな。
ちょっとステータスでも確認しておくか。
「ステータス・オープン。」
うーん、どれどれー。
うお、なんか10レベルもあがってるんだけど。
HPが4桁になってるな。
上がり幅がでかいのは・・・『武神の加護』のおかげか。
レベルアップ時の能力上昇に補正値がかかる、と。
あとはアイテムボックスもレベル2にあがってるな。
使用していくごとに容量があがるとかだろうか。
平均レベルがわからないが、この調子であげていくと本当に開いちゃいけない画面だな。
そろそろ1000文字に近づいてきたことだし、たまに開くくらいでいいかもしれない。
なぜって?読みづらいからさ。
「うわーいいにおい!」
風呂上がりのサクヤが焼きベーコンの香りにつられて現れた。
「それじゃあこれを食べたら辺りを元通りにして、また王都へ向けて出発しよう。」
「うん!いただきます。」
俺だけじゃなく、サクヤのレベルもあげれるような仕組みを考えておかないとだな。
目標は、王都までに2人ともレベル50ってところかな。
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