特典2「この結末を見届けて」
-----
洗礼から1年少々経過した。
相も変わらず貧乏ではあったが、スープに味がついたりパンが多少なりとも噛めるものになったりと変化があった。
というのも、家族には技能神の加護をいただいたと報告をしたのだ。
嘘は言っていない。
本当のことを少しだけ言っただけだ。
この世界では五柱様から加護をいただき、それに見合った神様を信仰する風習があるようだ。
両親からは技能神様を信仰するのがいいと言われたが、どうしたものかな。
さて、俺の加護を知った両親は俺に物を造らせ、それを行商人や街の商店に売るという行動を見せた。
おかげで我が家の食卓は少しばかり変化が見られたのだ。
売値から材料費を引いた2割が俺に、残りを家にいれるという取り決めがされている。
正直少なすぎるとは思いもしたが、技能レベルをあげつつ成人に向けてお金を貯められる。
そして家計の足しにもなるのであれば良しと判断した結果だ。
今となっては
日曜大工 5
家具職人 5
栽培 5
木材加工 5
のスキルも習得した。
そろそろ魔法の勉強もしておきたいと兄様に相談したところ、15歳になると王都にある「魔法学院」に進学できると教えてもらえた。
とはいえ学費は当然自分負担となるので、頑張って貯めているところだ。
最近では行商人の方々とも話すようになり、いろんな人脈もできてきた。
当然身体を鍛えることも忘れていない。
剣は毎日振り、基礎体力向上のためのトレーニングも欠かさない。
朝はトレーニング、昼間は物をつくり、夜は魔法のトレーニング。
これをこの1年少々、永遠と繰り返している。
おかげで魔法に関しても
身体強化 3
速度上昇 3
剣術 3
槍術 2
弓術 2
と、魔法を創造してここまでレベルを上げることができた。
実践がないのでなかなかレベルが上がりづらいのが玉に瑕だが。
ちなみに経験値が入らないのでレベル自体はあがっておらず、相変わらず1のまま。
しかし魔法のトレーニングで魔力が。
そして基礎体力向上トレーニングにより体力がそれぞれわずかながら上昇した。
当然誰にも見られるわけにはいかないのでステータス隠蔽スキルも取得済み。
俺以外の誰かが見ると改ざんされたステータスが見えるという処置を施している。
そしてお金を持ち歩くためのアイテムボックスも抜かりなし。
この世界で自分の側より安全な場所はないだろうしな。
まあこの生活を学園入学まで繰り返し、学園に入学して上位の成績を収めれば将来苦労せずに済むだろう。
人生ハードモードだと思っていたのだが、意外となんとかなるもんじゃないか。
昔からやればできる子だったからな、俺は。
やらなかったことが多いだけだ。
-----
日々は流れ、妹のサクヤが今日洗礼式を迎えることになった。
付き添いは俺が担当することになっている。
というのも、上の兄弟たちとは歳が離れており1つ違いの兄である俺が一番接しやすいからと懐かれているのだ。
懐かれている相手を邪険に扱うこともないのでこちらも可愛がっていた。
俺が来てから1年半程度とはいえ、その中で一番共に時間を過ごしたのはサクヤだろう。
「お兄ちゃんのときはなんかすごい光ったんでしょ?
アタシのときもそうならないかなあ。」
わくわくといった表情で前を歩くかわいい妹。
だがあれは割とイレギュラーだったはずだ。
自分で言うのもなんだがポンポンと俺のような人外が生まれてしまっては、この世界はとっくに破滅しているだろう。
他愛のない話をしながらだったので、自分のときと同じ道を歩いたものの体感は早く到着できた。
やはり会話というのは大事だな。
そんなこんなで教会に向かっている最中。
周りの人たちの視線とひそひそと話す、嫌な感じを感知。
俺はこの正体がなんなのかを知っているが、サクヤは居心地が悪そうに俺の腕を震える手で掴んできた。
「お兄ちゃん、なんかここやだ・・・。」
「大丈夫だよ。きっと俺達が美形すぎてそれを疎んでいるだけだから。」
「えー・・・自分で言うのもなんだけどアタシもお兄ちゃんも結構なブサイクだよ・・・?」
失礼な。
日本で言えば俺達は結構モテる部類の美男美女なはずだ。
転生してきた時に鏡で見た美少年という自分への感想は未だに変わってない。
そして妹のサクヤも12歳にして、可愛らしいの中にも綺麗を兼ね備える美少女だ。
お兄ちゃんはサクヤの将来有望さに今から心配だと言うのに。
この世界の感覚がおかしいだけなのだ。
と自分に言い聞かせるも、ハードモードだからな。
チート能力の代わりにその辺りに補正がかからないようになっているのだろう。
嫌な視線から逃げるように教会にたどり着いた俺達は、さっそく洗礼式を受けることに。
妹のサクヤが五柱様の像の真向かいに膝をつき、俺がその右後ろで膝をつく。
俺のときと同じ司祭様が洗礼の儀式を始めた。
まあ俺のときだからこそあれだけ光ったのだ。
妹のサクヤは転生者というわけではない。
なのであっさり終了するだろう。
と思いきや五柱様の像が光り始め、俺は1年ぶりに五柱様方の前に召喚されていた。
-----
「えっと・・・今日は妹の洗礼式ですよ?」
「分かっておる。お主の成長ぶりをこの目で見たくての。」
なんだろう、このおじいちゃん感。
孫が久しぶりに会いに来たから嬉しくて出てきちゃいました、みたいなやつ。
でも魔法神様は相変わらず本当にお美しい。
年齢と立場が対等であったなら全力で口説きたいレベルだ。
せっかく信仰するのであれば、この人(?)が良い。
そんな思考をした途端に姿を消したと思えば俺の真横に出現する魔法神様。
「もうっ、おだてても何もでないわよお?
わたしはマルクルスでは見た目は悪いと言われ続けてたんだからねえ!」
と言いながらも頬を赤らめつつ頭をくしゃっと撫でられた。
少し身体が温かいのはなにか恩恵を授かったということなのだろうか。
あとでステータスを確認してみるとしよう。
「まあわしらの楽しみなんて、もうお主の成長を見続けるくらいしかないからのう。」
俺くらいの化け物がそう簡単に生まれない、と遠回しに言われているようなもんだな。
「化け物というよりは人外じゃな。その歳で人間やめとるぞ。」
1年ぶりに会えたというのにひどい言われようだ。
人間じゃなかったら亜神ということになるのだろうか。
「なれないことはないがの。
今はまだならないほうがいいじゃろうな。
それよりも今回はサクヤちゃんの洗礼じゃったな。
どんな恩恵にしてやろうかのう。」
五柱様たちが集まり、何やら話し合いを始めた。
洗礼式の一瞬の間に実はこんな会議が行われていると思うとなんだか面白い。
それでも五柱様たちは1人1人真剣に向き合い、どんな恩恵を授けるかを決めているのだろう。
この世界の人間すべてに向き合う。
これぞ神様。
素晴らしいとしか出てこないわ。
「うーん、本来であればごくごく普通の子にするのだが・・・。
タクミを一人ぼっちにするとろくなことが起きないじゃろうから、せめて魔法だけでも理解できる相手は必要じゃろうな。」
「じゃあわたしの加護だけは最大値、あとはごくごく普通の加護でいいんじゃないかしらあ。」
「まあそれに2人ともこのあと家がなくなるわけだし。
普通の子にはそれは耐えられんかのう。」
待て待て、なにか色々聞き捨てならないワードが連発しているのですがー!?
のですがー
ですがー
すがー
がー
・・・
どんなタイミングで現実世界に戻しやがるんだあのおじい様たちは。
気になってそわそわしちまうじゃねえか。
「これにて洗礼の儀を終了する。
サクヤ・イスタルよ、汝に五柱様の加護があらんことを。」
「ありがとうございます。」
さてこれにて儀式は終了。
五柱様の会話では、サクヤもそこそこ優秀な加護を得られたはずだ。
ステータスを後で見せてもらうとしよう。
そういえば俺も魔法神様からなにか新しく恩恵を授かったっぽいんだよな。
俺もあとで確認しておくとしよう。
帰り道がてら、サクヤのステータスを見せてもらえた。
ーーーーー
サクヤ・イスタル 12歳 レベル1
職業:なし
称号:大魔導師、ブラコン
HP 29 MP 10567
スキル:
魔法神の加護 5
創造神の加護 3
魔法適性 5
火属性魔法 2
水属性魔法 5
風属性魔法 5
詠唱破棄 5
魔法創造 3
ーーーーー
他人のステータスは初めて見るが、サクヤの表情を見る限り素晴らしいものなのだろう。
俺のステータスが異常なだけか。
称号も大魔導師だなんてすごいじゃないか。
ん?・・・ブラコン・・・?
「にゃああああああああ!?」
いきなり変な声をあげたと思ったら顔を真っ赤にして両手を大きく振り回し、ステータス画面を閉じるサクヤ。
「お兄ちゃん・・・見た・・・?」
真っ赤な顔の涙目で俺を見てくるかわいい妹。
おそらくブラコンのことを言っているのだろうが、優しく微笑みながら頭を撫でておいた。
「うぅー・・・アタシのも見せたんだから、お兄ちゃんのも見せてよ!」
「仕方ないか。ステータス・オープン。」
ーーーーー
タクミ・イスタル 13歳 レベル1
職業:物造り
称号:女神の寵愛を受けし者、五柱の使徒、魔法神の寵愛を受けし者、魔法神の弟子、シスコン
HP 52 MP 425721
スキル:
女神の寵愛 10
魔法神の寵愛 10
魔法神の加護 10
武神の加護 7
創造神の加護 7
商業神の加護 5
技能神の加護 5
武術 7
体術 7
魔法適性 10
火属性魔法 10
水属性魔法 10
風属性魔法 10
地属性魔法 10
スキル創造 7
日曜大工 5
家具職人 5
栽培 5
木材加工 5
身体強化 3
速度上昇 3
剣術 3
槍術 2
弓術 2
言語理解
文字習得
ステータス隠蔽
アイテムボックス
ーーーーー
なっげぇ!!
毎回これ見るの大変だぞ。
しかしまあ、うーん・・・やはり人外。
他人にはもっと短く見えてるとはいえ、だ。
ところで新たな称号を獲得してるな。
『魔法神の寵愛を受けし者』と『魔法神の寵愛』か。
そして『大賢者』が消えて『魔法神の弟子』になっている。
さっきの頭を撫でられたときに発動したものだろうか。
『魔法神の寵愛を受けし者』
(魔法に関するすべての事象に上昇補正値がかかる。
威力上昇補正。
無詠唱ですべての魔法を行使できる。)
『魔法神の寵愛 10』
(いかなる状態異常、魔法の効果も受けつけなくなる。)
『魔法神の弟子』
(魔法神レビスとの契約の証。)
・・・ぶっ壊れスキルじゃねえか!!!
こんなの持ってることが知れたら、危険人物として処刑されてもおかしくねえぞ。
ステータス隠蔽スキル持っててよかった。
というか名前は知らなかったが、レビス様というのか。
五柱様の中でも俺の信仰する主神様が決まったな。
あの美しく優しいレビス様だ。
喜んで信仰を捧げるとしよう。
サクヤのステータスを見るに、同じくレビス様を信仰するのだろうしな。
ん?もう1つ称号増えてるな。
・・・シスコン・・・?
「お兄ちゃんのステータスすごいねえ。
『魔法神の寵愛を受けし者』なんて初めて聞いたよ。」
「待て、俺のステータスがどこまで見えてる・・・?」
「えっとねえ。」
ーーーーー
タクミ・イスタル 13歳 レベル1
職業:物造り
称号:賢者、魔法神の寵愛を受けし者、妹想いの兄
HP 52 MP 20423
スキル:
魔法神の寵愛 5
魔法神の加護 5
技能神の加護 4
武神の加護 2
武術 2
体術 2
魔法適性 5
火属性魔法 5
水属性魔法 5
風属性魔法 2
地属性魔法 2
日曜大工 4
家具職人 4
栽培 3
木材加工 3
アイテムボックス
ーーーーー
「こうだね。」
なるほど、隠蔽はうまく働いているらしい。
とはいえあまり見られたくない箇所も残ってるな。
特に妹関連のあたり。
隠蔽スキルをあげる特訓もしなければならない。
「何にしても、お兄ちゃんと同じで魔法神様にご加護をもらえたのは嬉しいな。
最強の魔法使い兄妹になれるかもねっ!」
ニコッと笑いかけてくるかわいい妹の頭を撫でつつ帰路につく。
この笑顔だけでも守ってやらないとな。
これから起こりうる没落の未来から。
-----
日も落ち始めた頃。
ようやく家の近くまでやってきたが、先ほどから家の方向から街の方へ馬車が多く通っている。
こんな時間から街に向かっても門が閉まって入れる時間に間に合うかどうか。
だというのに次から次へとすれ違う。
さすがにこれはおかしい。
そう思った矢先、すれ違った馬車が真後ろで急停車した。
「良かった、無事だったかタクミくん!」
日頃から顔なじみの行商人の方が血相を変えて馬車から走って降りてきた。
俺の両肩を掴み、焦りながらも冷静に言葉を進めた。
「君の領地が賊に襲われているんだ!
すでに何人もの犠牲者もでている・・・!
君たちも私の馬車に乗って街まで避難しないと・・・!」
来たか、没落の未来。
思っていたよりも早かったな。
小さな悲鳴をあげるサクヤをよそに、俺は覚悟していたこともあり落ち着いていた。
「申し訳ありませんが、妹をお願いします。
俺はどんな未来になるとしてもこの目で結末を見ておきたい。」
「ダメだよお兄ちゃん、危険すぎる!
お兄ちゃんが行くならアタシも行く!!」
「・・・ごめんな、サクヤ。」
即座に睡眠魔法を生成し、サクヤを眠らせた。
眠ったサクヤを行商人に任せて代金を支払い、街へと向かってもらった。
没落の未来が、まさか賊に滅ぼされるからだとは。
まあ領主ですらあんな貧困生活をしていたのだから、普通に生活していた領民たちも相応だったのだろう。
そして俺のおかげか俺のせいか、多少なりとも俺の家の生活基準があがった。
それにより不満が爆発、反乱が起きたといったところか。
覚悟していたとはいえ思っていたよりも冷静に判断できている自分が恐ろしい。
「『速度強化』。」
緑色の光が自分を包む。
さて、この結末を見届けて・・・。
いや、場合によっては俺の手で決着をつけるか。
読んでくださった方々が少しでも楽しんでいただけますように。
もし楽しんでいただけたらブックマーク登録などしていただけたら本当に嬉しいです。
応援よろしくお願い致します。