表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/9

Eランクとしての文句

更新です!お楽しみくださいませ!

「いや?アユムは......コイツはミストルの森で熊に追いかけられて気絶してただけだよ。記憶喪失らしいんだ。」


レグルスが苦々しい顔で否定する。いや、否定したつもりなんだろうが返答になってない。彼女もそんな事で納得するほど優しくはないらしく、彼女はさらに厳しくレグルスを問い詰める。


「僕はそいつの出自とか別に聞いてないよ。僕が聞いてるのはそいつのランク。重要なのはそいつがEランクなのかどうかでしょ。だから答えてよ。まぁ空窓(ウィンドウ)つけてないんだからそいつはどちらにせよ一旦連行じゃん?どうせ分かる事なんだから素直に答えようよ。」


「........」


レグルスはその言葉に沈黙を返す。状況証拠的にも反論など出来ないのだから当たり前なんだがこれ沈黙してても殺されそうだし、取り敢えず何か喋らねぇと。

俺は、必死に声を出す。生きるために。


「俺は.....ヒュッ.....」


俺が弁明の一言を喋ろうとしたその瞬間、レイピアが俺の顔を掠めて通り過ぎていく。一瞬後、頬に焼けるような痛みが走った。頬を触るともちろん出血している。突然の事に俺が呆然としていると、そいつが口を開く。


「黙っててくれるかな?君に発言は許してない。まだ殺さないけど、どのみち死ぬんだから大人しくしといてよ。」


冷然と目の前の彼女が俺にそう告げる。その目には殺意が満ちていて、まともに取り合ってくれそうもない。そんな中、重苦しく口を開いたのはレグルスだった。そして、レグルスは彼女に告げる。ありのままに。


「そうだ。アユムはE-のランクだ。だけどな。俺はダチとしてアユムを守ると決めたからよ。このまま殺すってんなら、お前と喧嘩する事になるぜ?」


「まさかそれで脅してるつもり?Eランクは処刑するのが規則だよ。ましてやそれの妨害は、明確な規律違反。先輩だって覚えてるでしょ?

"兵団軍規第一項、兵士としての責務の全うを、怠ったもしくは妨害した場合其の者は得点の半分の没収及び1週間の謹慎とし、役職がある場合は即時剝奪とする"

そのリスクを背負ってまでそいつを守る価値なんかある?」


「大切な人間を守るのに、損得勘定や価値を考える必要があるか?大切だから。それで理由は十分だろ。それに俺はこの制度は間違ってると思う。Eランクだって人間だ。存在するだけで処刑とかありえないだろ。アルマ。お前は正しいと本気で思ってるのか?」


内容は俺ごときが口出し出来るようなものでもない。レグルスはてアルマ、と言うらしい少女を睨みながら喋っている。アルマの方はその藍色の瞳がずっと俺を視界に捉えている。下手に動けばレイピアで串刺しにされるだろう。だから黙って聞いている。すると、少女のほうが苛立った口調でまくしたてる。


「覚えてないの?あの黒髪の悪魔を!」


「確かに覚えてる。だがあれは仕方のない事態だっただろ。それで、Eランク全員処刑っていうのはどうなんだ?」


「仕方ない....?先輩。それ、死んだ方々のお墓の前で言える?貴方達が死んだのは仕方のないことなんですって。言えるの?ふざけないでよ。人の命は、仕方ないで済むほど軽くない!」


「オイ。人殺しを肯定してる奴がどの口で命の重さ説いてんだ。その面も、セリフも全部飾りにしか見えねぇんだよ!!」


俺は思わずアルマにそう言ってしまう。本来は大人しくしておくのが得策なんだろう。それでも、こいつがそうやって命がなんだので怒ることが我慢ならない。その痛みを、悲しみを知っているのならどうして処刑を、ましてや罪人でもないやつのを肯定するのか。その精神が俺には分からない。


「黙ってろって言ったよね?君は何も覚えてないからそう言えるんだよ。Eランクが何かやらかす度に国はめちゃくちゃになった。黒髪の悪魔も死の伝染もそう!」


「黒髪の悪魔?死の伝染?さっきから何なんだよそれ!」


俺は思わず聞き返すような形で口を開いてしまう。エリシアがそう言えば言っていた。黒髪は迫害対象なのだと。おそらくその"黒髪の悪魔"が原因なのだろう。それに死の伝染も気になる。アルマは俺を睨みつけるも、レイピアで刺すことはせず話し始める。


「話してあげるよ。君も殺される理由くらい知っときたいでしょ?黒髪の悪魔は後でいいや。長いからさ。先に死の伝染から話してあげる。」


「見逃す、って選択肢は?ないのか?」


「今の話の流れであったらビックリでしょ。話し終わったらしっかり君を殺すから。」


「俺はあっちの部屋に行ってる。話が終わったら呼んでくれ。」


「まぁ気分のいい話じゃないしね。いいけど、この家にはいてね。先輩も一旦ついてきてもらうし。」


いやいや。レグルス!?この状況でどっか行くことあるか?ずっと黙ってたし。俺がいつ串刺しになるか分かんねぇんだぞ?そうやって大焦りしている中アルマが話し始める。


「まぁ後にもう一つ話あるからざっと話すね。12年前、一人の男が殺人をして捕まったんだ。そいつEランクでさ。Eランクはその時はまだ処刑対象とかじゃなかったけど、単純に社会的地位が低かったんだよね。その逆恨みみたいなのでCランクの女性を殺したんだってさ。ナイフで背後から一突き。ひどいよね。」


アルマは胸糞悪そうに話す。いや確かに聞いてていい気持ちはしないのだが、思うところはある。だから俺はその疑問を正直にぶつけてみた。


「その社会的地位を平等にしないから不満も出るし、そういう事件が起きるんだろ。戦闘に関係のない農業の異能(スキル)でもBランクだったりするんだろ?区分の基準もよく分からないし、その不満の声を聴いてやらなかった国の落ち度もあるんじゃないのか?」


「どうして一緒にする必要があるの?能力が求められる社会で、能力が低くて冷遇されるのは当然の道理だよ。さっき言ってたBランクの子は先輩から聞いたのかな?その子で言えば、異能(スキル)は成長促進。栽培している植物を1時間程度で収穫可能な状態にできるスキルなんだよ。兵団の食料はあの子がいないと賄えない。


あのね。実力や能力が違うのに扱いを一緒にしたら、Eランクのやつらは助かると思うよ。でも、そうしたらAやSランクの子達から不満が出ると思わないの?どれだけ努力しても、何の役にも立たない人間と扱いが一緒なんて僕ならバカらしくてやってらんないね。平等なんか存在しないんだからさ。そこはさっさと諦めてとしか言いようがないよ。」


確かにその意見も一理あるんだろう。全て平等にするのなら努力や研鑽は馬鹿らしくなるだろう。多少の差は仕方ないのかもしれない。それでも!それでも!!俺は湧き上がるその激情を抑えることなくアルマに吐き出す。


「お前の意見は正しいよ。確かにそうだ。それでもな!"生きることくらい”は!許してもいいんじゃねぇのか!全員が悪いわけじゃねぇのにEランクってだけで殺してどうすんだよ!!」


「君のそれが何の怒りかは知らないけどさ。煩いから声量落としてくれる?

取り敢えず話を戻すよ。そいつはもう殺人を何回も犯してて普通に死刑になった。でもそいつの異能(スキル)が最悪だったんだ。そいつのスキルは、自分が死んだ時その自身の死亡地点から半径500mの人間全員を即死させるってやつだったんだよ。」


「無差別にか?というか事前に異能(スキル)確認とかしなかったのか?」


「そう無差別にだよ。死刑が執行された瞬間、大勢の人々が死んだ。それこそ何の罪もない人々が大量に。その中には....当時その場所から家が近かった僕の家族もいた。僕はちょうど任務があって出払ってたから死ななかったんだけど。君に分かる?理不尽に家族を奪われる気持ちが!....こんな事君に言っても無駄か。

ちなみに空窓(ウィンドウ)の装着が義務付けされたのもその事件が要因だよ。元々空窓(ウィンドウ)は国外で自分の国の兵士を見分けるために作られたものだし。その頃は着用は義務じゃなかったんだ。」


その話を聞いて俺は思った。確かに理不尽だと。多くの人間が悲しみ、苦しんだのだろうと。同時にこうも思った。でも、それは何一つとして、Eランク処刑の免罪符にはならないだろうと。その時、アルマは俺に一つの問いを投げた。


「で?この話を聞いて君はどう思うの?まだ僕達が間違ってると思う?」


俺はその問いに......沈黙を返すしかなかった。


最後までお読みいただきありがとうございます!

最近冷え込んでまいりました。皆様も体調には是非是非お気をつけください。


誤字脱字等あれば報告お願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ