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田丸少年は無表情

作者: ばち公

 田丸少年はことごとく無表情である。

 マンションにて訪ね先を間違え、全く見知らぬお姉さんが出てきたというのに、いっそそのお姉さんの方が気後れしてしまう程に堂々とした無表情である。

 しかし気付く人は気付いただろう。齢八歳、既に泰然自若を絵に描いたような立ち姿である彼の耳に、ほんのりと赤色の差しているのが。


 担任教師すらひるます眼光爛々の田丸少年に戸惑いを見せるのは、田丸少年の貴重な友人、中田ひとしくんの隣に住む、仲田琴子お姉さん。

 彼女、田丸少年がいつも以上に口を閉じてしまうほどの美人だった。垂れ目がちな瞳はこちらもとろんとしてしまうほど甘やかで、艶のある焦げ茶色の髪は柔らかく結い上げられていた。

 戸惑いを押し隠し、鈴のなる声で優しく声をかけるのだが、しかしそれで田丸少年、余計に何も言えなくなった。

 対する仲田琴子お姉さんは、凛々しい目付きの小学生の寡黙さに、ますます困ってしまうばかりであった。


 それでも賢い仲田琴子お姉さん、なんとか田丸少年の事情を(主に背負っているランドセルから)察すると、中田家のチャイムを代わりに鳴らしてくれた。


「中田と仲田、手紙が間違えられることも多いんだ」


 と笑う、貴重な友人ひとしくんの言葉も右の耳から左の耳へ。最早宿題にも手がつかない。

 田丸少年はぼんやりと、あの綺麗なお姉さんのことを思い出す。


 チャイムを鳴らすほっそりとした人形のような指先。「またね」と笑う、なだらかに優しげな声。小さく手を振る控えめな笑顔がドアの向こうに消える。

 今日この日、ぽかぽかとした春心地を体現したかのような人だった。


 うっとりと耽りながらも、やはり無表情の田丸少年。また間違えてチャイムを鳴らすと決意した。

 とっても賢い中田ひとしくんは、そんな友人の無表情にも色々察して一人頷き。

 外で小さくくしゃみの仲田琴子お姉さんは、一人花粉症かと首を傾げた。

【習作】描写力アップを目指そう企画「第一回 ヒトメボレ描写企画」に参加した短編です。

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― 新着の感想 ―
また間違えてチャイムを鳴らす決意。 無垢なる思いが伝わってきました。 良かったです。
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