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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第四章 悪夢の町

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第88話:リヴェンと夢の人形たち

 さて、まずは小手調べとさせてもらおうか。

 俺が考えるに、ゴーレムどもは数が多い分単体の性能は大したことがないはずだ。

 ここは夢の中。即ち、イメージに左右される。これは道中で気が付いたことだが……。

 人がいない、普通入ってこないと思い込んでいる裏路地には誰も入ってこなかった。店の外、シャーロットは人がいっぱいいると思い込んでいたからこそ、あれほどの大群がでてきた。クランハウスの中、誰もいないと確信していたから何も出てこなかった。


 この仮説はかなり確証がある。よって、その分野に造詣が深ければ深いほど、奇抜でとびぬけたことはしづらくなるはずだ。

 ゴーレムみたいなものはそれこそ魔法側の専売特許だ。数を増やせば質が落ちる、道理を無視しているかどうか試さねばならない。


 カグヅチを水平に構え、横なぎにゴーレムを一刀両断にする。

 地面から産まれた存在だけあって、硬くはある。しかし、切れないほどではない。

 人型をしているそれの脇上をばっさり切り落とし、地面に落ちては崩れ落ちた。そのまま、残された胴体部も形を失っていく。

 なるほど。精巧な作りもされていない。これでは時間稼ぎにしかなら――。


「トリシェル!」

「あはっ! 気が付くのが遅いよリヴェンくんさぁ!」


 そうだ。あいつの本職はマジックキャスター。壁を作り出したならば、やることはただ一つだ。

 俺の視線の先には、炎の槍を片手に掲げたトリシェルの姿がある。距離がまた離れている。あいつなりに見極めた安全距離というわけだろう。

 炎の揺らめきに合わせて、奴の青色の髪が怪しくはためいていた。


「燃えちゃいな!」


 煌々と煌めく焔の槍は、途中の大気を焦がしつつこちらへ接近してくる。

 夢の中だとは思えないほどの圧。迫力。喰らえばただでは済まないという直感。

 対処は、受けるか? いや、難しい。ならば避けるしかない。


「逃がすとお思いで!」

「なにっ!」


 気が付けば、足元に薄氷がうすらと広がっており、俺の足をその場に固定している。

 いつの間に? 気が付かなかった。先ほどまでは何もなかったはずだが。


 いや、原因を考えるのは後にしろ、思考のリソースを対処に回せ。

 避ける、無理。受ける、不可能。ならば答えは一つ、切るしかない。

 ここは夢の中だ。イメージしろ。この刀ならばできる。魔法すら両断して見せての妖刀だろう?

 重心を整える、刀を真正面に、精神を統一する。


 紅の渦が一直線に迫ってきている。熱が肌を焼く、眼の水分が煮えたぎる。

 見据えて――切る。

 白の残光が赤を切り開き、残されたのはチリ紙のように散らばる紅炎だった。


「なっ! めちゃくちゃか!」

「次はこっちから行くぞ」


 驚きは隙を生む。薄氷を砕き、足を自由にするのには十分な時間だ。

 姿さえとらえてしまえば、時間稼ぎに付き合ってやる必要もない。

 邪魔なものを踏み砕き、全力で一歩を踏み出す。続く二歩、三歩。瞬く間にトリシェルと俺との距離は近づく。


「ちょ、ちょっ!」

「遅い」


 ゴーレムたちを動かして進路を塞ごうとしても無駄だ。一足飛びに足場として利用し、その上を飛び移り距離を縮める。

 これらは無駄だと気が付いた後の行動は早い。戦輪を袖から取り出し、すぐさまその場から飛びのきつつこちらへ戦輪を飛ばしてくる。

 ……違和感がある。しかし、今は気にしない。


「どうした、随分と甘い対応だな」

「ははっ、余裕だね」

「この程度ならな」


 戦輪を叩き落とすのも造作はない。所詮紐に操られている道具だ、軌道を読むのは容易いし、魔力で動かしてもその手のはロザリンド相手で慣れている。

 このぐらいは想像されてると思ったが、トリシェルの表情は苦し気だ。


 トリシェルの戦い方は、ロザリンドの時に見た。

 その戦輪を駆使し、魔法陣を描き広域魔法を展開しつつ、自力で魔法を行使する疑似的な魔法の同時展開が強みだろう。戦輪自体も相当なものだ。この三要素、相手するのは厳しいものがある。

 だが、この戦法には決定的な弱点がある。

 戦輪を十分に扱えなければ、戦術の幅が失われるということだ。優先権を取り続けること前提の戦術。初見殺し特化と言えばわかりやすいか。


 舞う戦輪を、片端から邪魔をする。

 逃げながら動くトリシェルをいきなりとらえるのではなく、陣を完成させないように徹底しつつ追い詰める。

 拙速ではなく確実を。俺は知っている、こいつは強いことを。


「そういう、嫌がらせばっかの行動、モテないよ!」

「それで良かった試しなどない!」


 軽口を叩いていても、明らかに余裕はなさそうだ。

 その気になれば、今すぐにでもその喉に切っ先をねじ込めるだろう。

 でも、この違和感は何だ? 何かがおかしい、何かが違う。


「――私に集中しなよ!」

「なんだと?」

「私はここだ! ここにいる! お前の敵を見ろ! リヴェン!」


 トリシェルの叫びと同時に、大きく地面が揺れる。

 魔法の行使だと理解した俺は、瞬時に距離を取り直す。あの状況で向こうが取るならば、接近が悪手となるような魔法だ。

 俺の読みは半分正しく、半分間違っていた。


「……驚いたな」

「ここは夢の中だよ。想像さえすれば、普段できないようなことだってできる」


 周りにいたはずのゴーレムたちは皆崩れ去り、新しく生み出されたそれに吸収されていく。

 新しく生み出されたゴーレム。その姿はまさしく――。


「ドラゴン、か」


 土くれの竜、と言えば格好はつかなさそうに思えるが、さてはて実際のところはどうなのやら。

 大きさはおよそ高さだけで大人十人分はあるか? 股下を余裕で潜れそうだな

 ただの見掛け倒しならば結構なのだが。


「行くよ! 全力で行くからね!」

「ああ」


 ドラゴンゴーレムが口を開くと同時に、その口の中が赤く染まる。

 炎か。トリシェルの魔法で見せかけているのか、ドラゴンゴーレムとしての機能なのか。

 流石にあれは……切れなさそうだな。


「薙ぎ払え!」


 掛け声とともに、俺はその場から飛び退る。

 跡が弧を描くように放たれた熱線が、先ほどまで俺の立っていた場所を溶かし大きく抉っている。

 火力は十分。頭がおかしくなって受ける選択をしないで正解だったな。

 シャーロットは……遥か後方にいるな。そこなら、巻き込まれる心配もないだろう。


「リヴェンさん! 大丈夫ですかー!」

「ああ! 巻き込まれないように気をつけろよ!」


 さて、次はこれをどうするべきか。

 観察してみる。家屋の瓦礫をも巻き込んで作られたゴーレムは、先ほどまでの土くれとは見るからに違う。簡単に切れはしなさそうだ。

 動きは鈍重、隙を見て駆け上り、トリシェルを潰せば――ああ、そうか。

 違和感の正体を理解する。どうやら、俺はあのゴーレムドラゴンを正面から潰してやらないといけないらしい。

 それが……シャーロットの要望に沿う形になるだろうしな。


 思わず鼻で笑う。夢の中らしい馬鹿げた挑戦だ。

 だが、我儘だなと笑ってやった以上叶えてやらねばなるまい。

 わざと俺に夢の中で殺されようとしている、あの逃げ腰の奴を咎めるために。


「トリシェル」

「……何」

「諦めることを、諦めろ」

「はあ?」


 俺はカグヅチを一直線にトリシェルへ向け、宣戦布告の体制を取る。


「俺は今から、その土塊を叩き切る」


 僅かな沈黙。少し遅れて、大きな笑い声が聞こえてきた。


「本気で言ってる?」

「ああ」

「じゃあ……やってみなよ!」


 さあ、本番と行こうか。

 ドラゴンゴーレムを中心に円を描くように、一定距離を保って移動する。

 旋回性能は悪くない。こっちの動きについてこれなくても、反応はしてくるだろう。

 何をするにしても接近するしかない。近づいてから速度感を間違えることだけは避けたい。


「ぐるぐる回って、眼を回すとでもっ!」

「思っちゃいないさ。だが、そろそろ行かせてもらおう!」


 速度感は見切った。一気に距離を詰める。

 ドラゴンゴーレムの口内が光る。熱線。これはきちんと向いている方向さえ見ていれば問題にならない。

 放たれる瞬間に軸をずらし、俺の横を掠めていく。

 触れれば蒸発だろうな、だが、怖くはない。


 さあ、接近したぞ。

 俺を迎え撃つは、ふるい落とされる爪の一撃。これを……思い切り迎撃する。


「ぐっ……」

「圧倒的質量に勝てるわけないじゃないか!」


 やはり、硬い。そう簡単には切らせてもらえないらしい。

 これが切れるならば端から細切れにする予定だったが、変更せざるを得ない。


 うまいこと横に流し、足の下を滑りこむようにして腹の下に潜りこむ。

 そのまま背面に回りこむついでに腹を軽く切りつけてみたが、これも切れない。

 中々……骨が折れそうだな。


「ちょこまか動いても、状況は好転しないよ!」


 真下の俺を踏みつぶそうと地団太を踏んでくる。

 これにはたまらず、俺も真下から脱出する。流石に踏みつぶしは無理だ。振り下ろしとはわけが違う。

 さてはて、速度感は予想通り問題ない。後は、どうやってこいつを叩き切るかだな。


「――油断したね?」

「は?」


 思考が遅れたのは一瞬。

 形があまりにもらしいものだから、意識から外れていた。

 こいつはゴーレム、作り物だ。つまり……熱線を出す場所は自在に作りだせる。


 咄嗟に首を傾け頭を横にずらす。顔の横すれすれを熱線が通り過ぎる。頬が僅かに焼けた気がする。致命傷ではない。

 こいつ、足先に小型の口を作り出してそこから熱線を撃ってきやがった。


「残念、避けられちゃった」


 全然残念そうじゃない声色を何とかしろ。

 今すぐ、その面の色変えてやる。


「じゃあ、これなら避けられるかな?」


 熱線を撃ちだす口が、無数にドラゴンの口に生まれ、それらが赤く染まる。

 これらすべてから熱線が放たれるのか? できるのか?

 いいや、できるはずがない。理性は否定する。本能は叫ぶ。切れ、と。


 ――切るしかない。切れるのか?

 迷っている余裕すら惜しい。

 構え、脱力、力む瞬間を見極めろ。


「リヴェエエエエエエエエエエン!」


 シャーロットの叫び声が聞こえた。


「やれぇえええええええええええ!」


 ――夢の中ではイメージできるかどうかが重要になる。

 それは、本人だけが重要なわけではない。


 白い軌跡だけが、俺の視界には映った。

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