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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第四章 悪夢の町

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第80話:リヴェンと再び

「よくわかりましたね」

「弟だからな。あいつの考えそうなことは、理解している」


 裏町の廃屋の一つ。

 浮浪者しか住んでなさそうな建物の中に、あいつはいた。

 オークション会場にて、司会をやっていた女。ロザリンドの部下だろうとは思っていたが、やはりまだこの町に残っていたか。


 この建物自体は、騒動があった時に使われていた建物の一つだ。

 確か、トリシェルの奴が踏み込んだとか言っていたか。ひと暴れしたとも。


「それで、何か御用でしょうか」

「単刀直入に言う。ロザリンドに繋いでくれ」

「ライオネル様から、ロザリンド様へ伝えたいことが?」


 思わず舌打ちをする。


「……ああ。それと、この町では俺をその名で呼ぶな。リヴェンと名乗っている」

「失礼いたしましたリヴェン様。では、少々お待ちいただけますか? 連絡だけ入れてしまいますので」


 そう言い、女は机の上に置いてある紙にペンを置く。

 暗号だろうか、ぱっと見では何を書いているか読み取れないそれを記していくごとに消えていく。魔道具か。こんなぼろ屋に置いてあるには不釣り合いな品だが、ロザリンドの手勢と考えれば不思議はない。


「……あいつの様子はどうだ」

「ロザリンド様から必要な事以外の連絡を頂くことはございません。ですので、申し訳ありませんが本日も業務に勤しんでいらっしゃるご様子です、とだけしかお答えできません」


 義務的だな。らしいと言えばらしいが。

 世間話を部下とするタイプではない。必要な事だけやらせて、後は把握しながらも自分一人でやってしまうような奴だからな。

 逆に言えば、連絡がないのは元気な証拠ともとれる。部下の稼働量が少ないということは、一人で回せる量しかしていないという事だからな。


「――お送りいたしました。返答が来るまで、少々お待ちを」

「ああ」


 ずっと書いていた文字を目で追っていたが、やはり内容はわからなかった。簡単に解けるようなものではないようだ。


 沈黙。あれ以上の世間話も思い浮かばないし、特に恨み言を言うつもりもない。

 本来こうして要請すること自体おかしいのだ。俺たちは王位継承者同士、争うべき人材なのだから。

 だから、今回はかなり背に腹は代えられぬものとなっている。

 こいつ以上に、魔法に精通している奴を俺は知らない。


 紙が光った。文字が浮かび上がってくる。

 ぱっと見はただの紙とペンなのだが、どういう仕組みなのだろうか。


「おや、お早いですね」

「なんて書いてある」

「少々お待ちください。――おや、直接お嬢様が来られるみたいです」

「何?」


 まさか、本人が来るだと?

 あり得ない。あいつも相当忙しい身だろう。

 オークションの時は俺を連れ戻すためだと思えばやりそうだと思えたが、こうして用件すら伝えてないのに来るというのは想定外だ。


 俺が連絡を取ろうとしていること自体が異常事態だと捉えられたか?

 にしても、そんな気軽に来られる……あの服の内側に仕組む転移魔法陣がそんなに高性能なのか?


「とはいっても、申し訳ありませんが本人は来られないそうです」

「……どういうことだ?」

「少々お待ちください。もう少しだと思いますので」


 何のことだと思っていると、瞬間、この場の空気が変わった。

 何も見た目は変わっていないが、まるで重力が数倍になったかのような圧。

 閉じられていた女の目が、ゆっくりと開かれる。


「……こういうことですわよ」

「憑依か!」

「ええ、私の子たちには、このように緊急時にいつでも私を降ろせるようにしてもらってるわ」


 見た目は司会の女のままだが、中身が違う。

 精神だけがロザリンド、というべきだろうか。

 これも俺の知らない魔法だ。


「それで、私を呼び出すだなんて。相当追い詰められているようですが」

「……ああ。シャーロットが、魔法によって眠らされたまま起きてこない」


 訝し気にロザリンドは目を眇める。


「……にわかには信じられないことですわね」

「だろうな。高々その程度のことで――」

「いいえ。あの子がそのような呪いまがいに引っ掛かるわけがないということよ」

「どういうことだ?」


 呪いに引っ掛からない?

 もしかして、あいつの生まれに関係があるのか?


 ふと、なぜか効果が失われた失血呪の事を思い出す。

 あれもそういう事だったのか?


「その様子、どうやら彼女の事を知ったようね」

「……むしろ、知っていたのか?」

「ええ。私としては一族の確執だなんてものより、弟の思い人であることの方が大切なの」


 だから、手を出す気はないと。らしいと言えばらしいな。

 そこはまあわかった。だが、その前の事はどういうことだ。


「知ってるなら省略するわ。端的に言えば、彼女は存在の格が違うの」

「格?」

「そうね……堅牢な城壁を矮小な村人が一人で崩すことができると思って?」


 答えはもちろん、できるはずがない。

 道具があって、訓練された人間がいて、なお数人がかりで何とかするものだ。

 我が意を得たりと、ロザリンドは妖艶に笑う。


「人に使うことを想定された魔法や呪い、そんなものが彼女に通じるはずがない。もちろん、存在に語り掛ける精神系のものに限るけれども」

「なら、どうすればいい」


 ロザリンドは今度は晴れ晴れとした風に笑い、こちらへ手を差し出してくる。

 この手はなんだ?


「実際に見てみるまでは何とも言えないわ。お姉ちゃんと町中デートしましょ?」


 エスコートをお求めのことらしい。

 ……この姿で違和感はあるが、今唯一の手掛かりだ。

 そっと伸ばされた手の下を支えるように、手を重ねた。


 ◇ ◇ ◇


 俺の宿まで帰ってきた。

 部屋に入ってくる前、ニールなんかは俺が誰を連れているのか察したのだろう。すぐに臨戦態勢に入ったが、即座に状況を理解したのが苦々しい表情に変わった。

 そのまま道を譲ってくれたので、部屋までロザリンドを案内する。

 「よく訓練されてる子ね」とロザリンドからの評価は高かった。


「リヴェン、戻って―—っ!」

「レイナード。今は味方だ」


 何かわかっていない様子の女二人組を置いて、レイナードが即座に戦闘態勢に入った。

 こいつも、俺が誰を連れてきたのか理解したらしい。

 本人は今は圧を控えていて、見た目も違うというのに。


「また会いましたね。金髪の剣士さん」

「……僕はレイナードだよ。リヴェンのお姉さん」

「この子のお友達でしょう? 気軽にロザリンドでいいわ」


 名乗った瞬間、呆然としてた二人組も構えを取った。

 オークションで何が起きたのか、クラン内で一応情報共有はされているようだ。

 だが、今ここで争われるのは困る。


「二人とも。……なるほど、確かに、凄腕だ」

「ああ。俺が知る仲で、最も魔法に精通しているのがこいつだ」


 ロザリンドは寝ているシャーロットの元へ無造作に近づき、そっとベッドの縁に腰かけた。そのまま、そっと手を握る。


「……ふむ。珍しい魔法ね。失われたものだと思っていたけれど」

「何かわかったのか?」

「ええ。この子が寝たきりになった理由まで」

「それは何ですか!」


 俺が詳しく聞こうとしたところ、魔法使いの女の方が食い気味に質問をした。

 よほどわからないのが悔しいようだ。


「前提として、この子にかけられている魔法は一種類。そして、それは眠りを誘うものではないわ」

「どういうことだ?」

「この子にかけられている魔法は『共有化』。術者と感覚や状態を共有する、そういう魔法よ」


 ――この瞬間、俺の脳裏には一つの記憶が想起されていた。

 今は姿が見えない人間。共有化魔法を使える人間。

 青い髪の、あの女。飄々として、何を考えているのかわからない。


「眠っているのは、共有している相手が寝ているからでしょうね。夢の内容も同様に。本人ではなく、術者に魔法をかけ、その効果を“共有”する。随分と手の込んだことをするわね」

「で、でも! そんな魔法普通は弾かれますよね! よほど肉体的接触を重ねて下準備をしているか、心を許していたりでもしない限りは……」

「そうね。実際、本人の魔力を錯覚させられるぐらい似ている魔力があるでしょう? これは長い時間、長い期間をかけて馴染ませたもの。随分と術者とは付き合いが長いのね」


 肉体的接触。

 思えば、あいつは事あるごとにこいつに触れようとしていた。嫌がっていた様子が激しかったが。

 心も、最初こそあれだったが、ここ数回の騒動で一緒に活動するうちにすっかり許してしまっていた様子だ。


 視線を感じて振り返る。レイナードがこちらを見てきていた。

 その眼は、俺と同じことを考えているようだった。


「……そこの二人は、心当たりがあるみたいね」

「ああ。こうもぴったり合わさると嫌になるほどに」

「信じたくはない、けどね。僕から見て、彼女はそんな人には思えない」


 だが、現実的証拠はこう言っている。

 見つけるしかない。術者――トリシェルを。


「レイナード、頼む、あいつの行動記録を教えてくれ」

「僕は……」

「頼む」


 この事実を認めたくないのか、レイナードは中々口を開かない。

 その視線はどこへ定まること無く彷徨い、逡巡を如実に示している。


「……術者を見つけないでも、取れる手はあるわ」

「何っ!?」

「この子の夢、もとい術者の夢にお邪魔してしまえばいいの。この場にいる、この子を通じて」


 視線をベッドの方面に移すと、ロザリンドは左手を宙に彷徨わせて文字を空中に描いていた。

 魔法か何かなのか、軌跡に線が残り輝く文字が残されている。

 それは魔法陣だ。おそらく、共有化のものだろう。


 宙に描かれた魔法陣は描かれ終わると指先に導かれるままシャーロットの上に動き、ひと際強く輝いた。


「もちろん、向こうの本拠地に乗り込むわけだから不利な戦いにはなるわ。けれども、今すぐ取れる手段としてはこれが最善ではなくて?」

「そんなこと、共有化は失われたはずの魔法だって、さっきあなたが。私だってそんな魔法使えないのに……」


 対抗心がまだ残っているらしい。

 そんなことはどうでもいいが、ロザリンドの言うことが信じ切れないのもそうだ。

 簡単に口では言ってみせているが、できることなのか? 相手に負担はないのか?

 気になる点は多々ある。


「いいことを教えてあげるお嬢さん」


 だとしても、俺の心は既に決まっている。


「人を思う。その心に限界なんてないし――誰かを思う人間に、不可能なんてないのよ」

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