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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第三章 ダンジョンに住まうモノ

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第74話:トリシェルとパラダム

 楽しい時間は過ぎるのが早いというけれど。どうして退屈な時間はすぐには過ぎ去ってくれないのか。

 私にとって、この時間は苦痛でしかない。


 クランの面子にも誰にもバレないように抜け出し、秘密の待ち合わせ場所で私は彼と落ち合う。

 どこにでもあるような民家でありながら、部外者には知られていない地下が存在するその家は、ある意味私の故郷とでも呼べる場所だ。

 そんなところにいるのは当然関りが深い人物。同時に、会うたびに二度と会いたくないと思わせてくる人物。


 彼の名はパラダム。白の一族であり、私の養父でもある。

 同時に、殺せるのならばこの手で殺してやりたい最も憎き人物。


「――と、いう感じで終わりでしたね」


 実際にあったことを報告する。一応形だけでも、私の管理者はこの男だ。

 それを当然だといわんばかりに頷くだけで片づけられるのだから、なおの事腹が立つ。


「そうか。セイラムの核は?」

「ここに」


 リヴェンに譲り渡すよう頼まれたらどう断ろうかと思っていたけれど、そうはならなかった。

 あの男の事、きっと私が渡すわけないって見切っていたんだろうな。


「ふむ。あいつが負けるとは……正面から戦えば、こちらに勝ち目はないだろうな」

「でしょうね。ぶっちゃけ私もまともに戦って勝てる気しないですよ」

「厄介だな。直ちに姫の身に危険が及ばないのは僥倖であるが、黒の一族だ、いつ気が変わるともわからん」


 奴らは裏切りの一族だからな。とパラダムは続ける。

 ……私は正直、過去にあった戦争の詳細までは知らない。必要ないから、と。

 知っているのは、黒の一族と白の一族は共に暮らしていたところ、黒の一族が裏切り白の一族を迫害し始めたという情報と、そのきっかけとなったのが白の神子――シャーロットちゃんの立場の人だとも。


 白の神子は、白の一族にとって替えようのない存在だ。

 他の白の一族全員より、神子一人の存在の存在の方が尊いとすら思っている。

 それを、一度は失ってしまった。

 故に、今の彼らは歪んでしまっている。

 二度と失ってたまるものかと。


 セイラムは黒の一族を滅ぼすことで。

 パラダムは表舞台から姿を消させることで。

 それぞれの方法と思惑で、神子の安全を確保しようとしている。


 別にそれが悪いとは思わない。私もそう思っているから。

 白の眷属たる青の子供たちは、彼らに忠誠を誓っている。そのために生まれてきたし、そのために生きてきた。今更そのことに疑問を持つこともないし、他の事なんて考える気も起きない。

 でも、こいつらは別だ。こいつらに関しては、わざと私をそう育てた。自分たちに反感を持つコマとして。

 いずれ必要になることだと判断して。


「トリシェル、姫は覚醒なさったのだな?」

「ええ、それは間違いなく。あれがそうでなければ、節穴だったってことでこの両目を抉ってもいいですよ」


 まあ、本人は間違いなく自分の身に何が起きたかなんて無自覚な様子だったけれども。

 あの圧、間違いなく白の神子としての力に目覚めた証拠だった。

 実際、セイラムによって改変されたリヴェンの体も治してしまった。白の一族としての力がなければできないことだ。


「なら、もはや見守る必要もあるまい。計画を実行するときが来た」

「町中に散らせた連中を集めるってこと?」

「しかり。姫の身の安全のために回していた手勢を、計画実行のために移動させる。姫の身の安全は不安定になるが、やむをえん。危険なきよう、連盟に手回ししておくとしよう」


 迂闊なシャーロットちゃんがこの町で無事に過ごせていたのは、私たちが裏で手を回していたからという面が大きい。

 それを一時とはいえ解除するのだから、パラダムの本気度合いが窺える。


「ところで、トリシェル。お前は最近姫ととても親しくしているようだな」

「……そうだね」

「お前の目から見て、姫のお人柄はどうだ。変わらぬ様子か」


 変わらぬ、か。

 何と比較してなんだろう。いや、わかってる。シャーロットちゃんの前、以前の姫様と比較してということかな。

 私は話でしか知らない。だから、ここは所感を離した方がいいはず。


「――一度でも懐に入れてしまった相手にはどこまでも寄り添い、心を砕いてしまう。ちょっとばかし優しすぎる人だよ」 

「そうか。変わらぬか。そうか……」


 その声はどこか遠い過去を思い出しているのがよく伝わる、郷愁に溢れた声だった。

 こいつもこんな声出せたんだなって、真面目に思ってしまった。


「恨まれますよ。間違いなく」

「覚悟はできている。姫が俗世から離れてくださるならば、この身一つぐらい捧げよう。核を砕かれ、不浄に塗れて消え去ろうとも本望だ。唾棄すべき名として歴史に刻まれようと構わぬ」


 このことをシャーロットちゃんが知れば、どう思うんだろう。

 ……以前の私だったら、こんなことは考えなかったんだろうなぁ。


 業腹だけど、私もパラダムが正しいと思っている。だから、恨まれる覚悟はできている。

 でも、この事実を知っても、彼女なら許してくれるんじゃないかって、深くかかわった今なら思ってしまう。これは強欲かな。


 私は彼女を裏切る。彼女へ許されざることをする。

 ずっと、頭の片隅には入れていたことだけれど、いざ現実として直面すると、思うことはあるかな。


「セイラムの核はお前が持っておけ」

「私が? なんで」

「形は違えど、志を同じくした仲間。姫に牙を剥く首謀者の咎で汚すのは忍びない」

「……はいはい。じゃあ持っておきますよ」


 どっちが持っていても大差ないだろうに。

 まあ、いいのか。どうせ大差ないんだったら、どっちが持っていても。


「トリシェル。お前の魔法が肝だ。役目を放棄する気はないな?」

「……ないですよ」

「ならば、良し。明日にでも全域に伝令を出す」


 あーあ。本当に今日は楽しかったな。

 シャーロットちゃんとわちゃわちゃ遊んで、あのひねくれものを弄って遊んで。

 本当に、あの時間がずっと続いてくれればよかったのに。


「『悪夢の町』計画を実行する。姫には俗世に失望してもらい、その身を引いてもらおう」


 この計画が実行されれば、二度と正面から顔を見ることはできないだろう。

 覚悟はできてる。最初から、そのつもりで彼女に近づいていたんだから。

 そう、お前はずっと彼女を騙していたんだ。だから、未練を捨てろ。

 全ては姫のために。この身を捧げろ。


 ……そのために生まれ、そのために死ね。

 血の定めた、宿命の元に殉じろ。

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