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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第三章 ダンジョンに住まうモノ

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第63話:トリシェルと消息不明

 ――部屋から出て行ったっきり、帰ってこない。

 シャーロットちゃんは抜けてるところはあるけど、馬鹿じゃない。このセイラムが目を光らせてる状況で、町に繰り出すはずがない。

 だから、少しすれば戻ってきてくれるはずだ。そう思ってしまった。

 私が追いかけても、彼女の心情を逆なでするだけだろう。追いかけるのを、躊躇ってしまった。


 結論から言うと、これが間違いだった。

 彼女は姿を消した。


 クラン面子にも話を聞けば、道を通ったのを見たけれど、クランハウスから出て行ったことまでは気が付かれていなかった。

 ならば、と思いクランハウス内のどこを探してもその姿はどこにもない。

 そうなると可能性はもう一つしかない。出ていってしまったのだ。

 誰にも気づかれず――全てを一人で背負い込んで。


 考える。

 今すぐ追いかければ、追いつける可能性はある。でも、私が慌ててクランハウスから出れば、セイラムにシャーロットちゃんに逃げられたことを教えるも同然だ。私が見つけるのが早いか、向こうの手先が見つけるのが早いか、もちろん後者だと思う。


 シャーロットちゃんの生存能力を、私は知っている。その辺で死ぬ心配はしていない。

 彼女は知らないけれど、この町には彼女の味方になってくれる人は多い。一人になれば、当然周囲の警戒もするようになるだろうし、下手を打つ危険性は減る。

 それに――誰も信じないときの彼女は、容赦なく他人を切り捨てられるようになる。


 失敗した。

 心の底から後悔する。後悔と言わずとしてこの感情をなんといえばいいのかわからない。

 どうして私はあそこでついて行かなかった。感情よりも、身の安全の方を優先するべきだろうに。優先順位を計り違えた愚か者め。


「心配は、してない。する必要がない。彼女は周りが思っているよりも、立ち回りが上手い」


 でなければ、この町で顰蹙を買う行為をし続けて、今の今のように平穏に暮らせてはいない。

 この町に来た時から、いいや、来る前からの情報を照らし合わせれば――シャーロットちゃんは心の拠り所がない時ほど動きに無駄がなくなる。

 自分の心を踏みつぶして、目的しか見なくなる。だから、彼女は、心配、いらない。


 ……考えを切り替えよう。


「いなくなってしまったのなら、意識を切り替えなければならない。私が、次にやるべきことは……」


 勘違いするな。ミスしてもいい。ミスしたうえで、その後の最善を取るのが重要なのだ。

 勘違いするな。一度のミスで動揺し、その後もミスを重ね続けることこそが最も忌避するべきことだ。

 役目を、忘れるな。


 息を長く吐く。動揺は他人に伝わる。いつもの通りに振舞えるように、呼吸を整えろ。


 大義名分がなくなった以上、今最も気を付けるべきはセイラムと接触することだ。

 特に、シャーロットちゃんを見つけるという目的に関して一致してしまっている。青の一人として、見つけるまで手伝えと言われれば拒否することはできない。


 迂闊に外に出ることはできない。中で出来ることをやろう。

 クラン面子に話をするか? シャーロットちゃんとリヴェンが泊まることになったと説明したのに、早々にいなくなれば疑いをもたれる。

 ……いや、優先度は低い。それらは後でいい。

 先にやらないといけないのは


「おい! トリシェル!」


 二階の廊下から、彼がやってくる。

 目も耳も使えないはずなのに、平然と何もないと思わせるほど自然に歩いている。

 ……やっぱ、こいつも結構おかしいんじゃないかな。


「あいつはどこへ行った?」


 頭を掻く。髪の毛が乱れるけれど、そんなことはどうでもいい。

 面倒事になった。ただそれだけだ。



 リヴェンが衆目の前でシャーロットちゃんがいない宣言をしたせいで、彼らにはまた後で事情を話すと伝えることになった。

 彼らから外に話が漏れないといいけども……。でも、こいつの方を優先した方がいい。

 部屋に戻る様に誘導し、私たちは部屋へと戻る。

 途中、周りからの視線が凄い気になった。けれども、構っている余裕もない。後で説明すると言ったのだから、後にしてもらおう。


 彼を椅子に座らせて、私は隣に椅子を持ってきて座る。


「で、あいつはどこへ行った」

『出て行った』


 隠すか、隠さないか一瞬だけ迷い、隠すべきでないと判断した。

 隠したところでそのうちわかること、不信感を持たれるぐらいならこの場で感情を発露させた方がいい。

 ……シャーロットちゃんにも、そのつもりだったんだけどな。


「……なるほど。わかった」


 思ったよりも、いや、下手すれば私よりも、リヴェンは落ち着いていた。

 驚く。わざわざこの状態で出歩いてきたぐらいなのだから、よっぽど身を案じていると思っていた。

 そうでもない? そんなはずはない。昨晩のやり取りを見ればわかる。

 では、なぜ。


 驚き、手が止まる。

 リヴェンは鼻で笑ってみせる。


「驚いているな」

『なぜ』

「落ち着いているように見えると? そう見えるか?」


 見えていないはずの目に、開かれる。

 空虚なはずなのに、不思議と輝いているように見える。

 これは、熱だ。


「もうあいつの考えなんぞ、手に取るようにわかる。どうせ、自分のせいだと思い詰めてどこかへ消えたんだろう」


 部屋が振動している? いや、実際にはピクリとも動いていない。

 私が錯覚させられた? 気配を感じ取ることの訓練では、随一の成績を修めていた私が?


「だが、それまでの様子から、気にしていた様子はなかった。つまり、お前との会話で聞き捨てられない何かがあった。違うか?」


 質問の形式をとっていながら、答えは求めていないと語気でわかる。

 これまでの付き合いでの確信。おそらく、こいつは私よりもシャーロットちゃんの考えについて詳しいように思える。……悔しいことに。

 私にはわかってないことが、わかっているのだろう。


「馬鹿野郎が」


 唾を吐き捨てるように言い放った。


「寝て思考がはっきりした。おい、トリシェル」

『なに』

「俺の部下を呼んで来い。ニールという男に、『枯れた地で笛を鳴らせ』と伝えればわかる」

『何をする気』

「何をする気、だと? そんなもの……決まっている」


 思わず飛びのいてしまいそうになる体を咄嗟に抑え込んだ。

 気迫が溢れ出た? 私がこいつに気圧された? 違う、これは……っ!


「誰を敵に回したのかを教えてやる」


 話として聞いたことはある。死の淵に立たされたり、希望も見えない暗闇の中でこそ、たどり着ける極致があると。

 もし、もしもこの気迫がそれに足をかけた証拠だというのなら。


「絶望の時間は終わりだ。落ちたならば後は上がるだけ。挑戦者として、お前の腕前はどれ程か。じっくりと確かめさせてもらうぞ――セイラム」


 机の上に置いてあったカップがひび割れ、中身が漏れ出した。


 口角が上がる。

 腐っても黒の一族か。こいつもまた、人の枠を超える権利を得ている者なのだと、理解した。


 ◇ ◇ ◇


 私は急ぎ、リヴェンの泊っている宿まで向かう。

 途中クラン面子が話かけてきたけれど、後にしてほしいと手を跳ねのけた。彼らにできることは何もない。

 むしろ、下手に動かれれば困る。


 この宿は一見するとただの宿だが、運営している店主が異質だ。過去暗殺者として活躍し、町の権力闘争に一役買った人物。

 それだけに、当然セイラムの息もかかっている。

 さてはて、来てみたはいいけども……。


「いきなりは酷いんじゃないかなぁ? 店主」

「……腐った面が俺の店の前に来てたもんでな」


 瞬き一つで世界は変わる。

 閉じる前までは何もなかった場所に、開いた後はナイフが置かれている。

 喉元すれすれ。呼吸の仕方を間違えれば、一瞬で食い込み切り裂かれるだろう。


「青が何の用だ。もう暗殺稼業は引退したぞ」

「君んところの客に用事があるの。王子様の部下の子たち」

「俺が伝えてやる。言え」

「言えない」


 ナイフの腹を指で押して、そっと喉元からどかす。

 元々力なく握られていたそれは、押せばすんなり動いてくれた。


「君がまだセイラムと繋がっている可能性を、私は捨てていない」


 店主は苛立たしそうに舌打ちをする。

 道を行きかう人々が喧嘩の気配を察知してこちら向き、店主の姿を確認するとそっと視線を逸らした。

 まずいものを見たと言わんばかりに駆け足で逃げていく。


「誰があの外道と。気分が悪い」

「子供たちは元気?」

「俺が知る限りはな。寂しいが、町から出てった連中はよくやってるよ」


 手品のように彼の手元からナイフが消え、店内へ誘うように扉を開いてくれる。

 私は従い、店の中に入る。私のすぐ後ろにつくように彼も店内に入り、すぐさま店の扉が閉められた。

 符丁に間違いもなし。この分なら、信頼してもいいだろう。


「セイラムの手先は?」

「しばらくはもうこねぇだろうな。一人死んだぐらいで逃げるなら最初からやめとけってんだ」


 やはり、昨晩襲撃にあっていたらしい。

 まあそこら辺の奴がこの店主には勝てない。正面から冒険者として戦えば、私は勝てるけれど。暗殺者として戦わされた場合……ちょっと怪しい。できればやりたくない。

 

「おい! お客さんだぞお前ら!」


 店主の怒鳴り声を聞きつけ、二階から男連中が顔を出す。

 いずれも、警戒の色を露にしている。

 その中で一人だけ雰囲気が違う男がいる。彼だけは、こちらに警戒させないように気配を殺し、全体図を見るような位置に立っていた。

 いつでも指示を出せるように。


 だから、私はそいつを指出して名指しする。


「あなたがニール?」

「え、ええ。そうですが」


 軽く驚いた様子だった。

 笑ってしまう。黒の手ごまも愛嬌があるじゃあないか。


「君たちの王子様から伝言だよ。『枯れた地で笛を鳴らせ』」


 私の言葉を聞いた瞬間、全員の気配が――消えた。

 そこにいるままに、静かに命令に従う人形と化したのだ。

 全ては、彼らの王のために。意志が一つに統一された瞬間を見た。


 さてはて、今の私にできることは少ない。

 だから、どうか、君たちが全力で働いてくれることを祈るよ。

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