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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第三章 ダンジョンに住まうモノ

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第56話:リヴェンと深淵に潜むモノ

「さて、どこから探したものか」


 第七階層。エリアボスを超えた先にたどり着いた。

 少々時間がかかった。まさか、早くもエリアボスが復活しているとはな。

 まあ能力に差がなければ大した敵ではない。


「……暗いな」


 すぐ後ろに光源係がいないせいだろうか。それとも外の時間が反映されているのか。

 心なしか、より一層暗く感じる。

 腰に下げている照明魔道具一つでは足りなかったかもしれんな。


「さて、俺一人で見つけられるかどうか……」


 襲ってくるモンスターは大したことがない。

 カクヅチの切れ味はすさまじいものがある。以前使っていた剣も業物ではあったんだが、これは格が違う。

 こんなものをあいつは使っていたのかと思うと、笑いが込み上げてくる。


 今はそれがありがたい。


「おい! セイラム! いるか!」


 声を張り上げてみるも、起こるはずの反響すら聞こえてこない。音も闇に飲み込まれるのか? 

 いいや、セイラムは闇の向こうから話をしていた。なら、反響しないほど広いだけなんだろう。


 少し待ってみるも、返事はない。

 目的の相手でない俺が来ても、相手する必要はないということか。


「……まあいい、ならば、探し出すだけだ」


 せっかくのダンジョンの秘宝の手がかりだ。逃せるはずがない。

 あいつを安全な場所まで連れていくため、一度は引いたが、二度目はない。

 必ずここで答えを掴む。


 闇の向こうで何かが蠢く気配を感じる。

 良くないものがそこにいる。錯覚か? いいや、直感には従うべきだ。


 刀を構える。何が来てもすぐさま切り捨てられるように。


 直感は正しかった。礫が幾つもこちらへ向かって飛んでくる。

 慌てず、冷静にそれらを捌く。

 最初は礫だけだったが、徐々に異物が混ざり始める。

 僅かに触れた服の先が焼け落ちたのを見るに、おそらく腐食性の何か。実態はつかめないが、体液の類に見える。


 つまり、闇の向こうから俺の場所を察知し、攻撃してきているモンスターがいる。


「……上等だ。この程度で追い返せるとでも?」


 だとすれば、甘く見られたものだ。


 礫を捌く手を緩める。前へ進む足を作るために。

 数だけを見れば相当だ。全てに意識を割けば俺の実力ではやりきれない。

 少しでも怪我を負うリスクはあるが、必要最低限だけを捌き、ある程度は受ける覚悟を固める。

 意識をしっかりさせれば、大した攻撃ではない。

 少なくとも、ロザリンドのしごきに比べればそよ風と同じ程度のものだ。


 息を僅かに吐き、大きく吸いこむ。

 新鮮な空気が肺を満たすと同時に全力で前へと出る。


 近づけば闇はその分遠のき、やがて奥に潜むものの正体を明るみに晒す。

 必死になって近づけまいと礫を放っていたのは、八つの触腕を持つ怪物だった。

 それぞれの触腕の先に穴が開いており、そこから礫やら体液やらを射出している。手数が多いわけだ。


 見えてしまえばどうということはない、狙っている方向、射出のタイミング、全てがわかる。

 わかれば最適な動き方もわかる。どういう風に体を動かし、刀を振るうべきか。


「怯えているのか?」


 俺の姿を視認して、僅かに動きが変わった。何としても近づけまいという弾幕。狙いもめちゃくちゃ、見当違いな方向にばらまき続けるだけの弾幕だ。

 敵が勝手に弱体化してくれたのならば、これ以上のことはない。

 容赦など必要であるものか。


「俺の道を塞ぐな! 弱卒が!」


 一刀の元、切り伏せる。

 振りぬき、通り過ぎた少し後にモンスターから体液が噴き出す。じゅわりと周囲を溶かす音が聞こえた。

 ふん、最初から自滅覚悟で突撃していれば少しは結末は変わったかもな。


「ふうん。君は怯えている子を殺すことに何の躊躇いもないんだね」

「……セイラムか」

「お呼びのようだからね。それに、姫を出迎える前にあまり場所を荒らされるのは好きじゃない」


 声がした方を向く。相も変わらず姿は見せない。

 近づくか? いや、それは嫌な予感がする。


「それで、私に何のようかな? もしかして、姫を一緒に説得してくれる気にでもなったのかな?」


 すっとぼけた風に言い放つ。全てをわかっている癖に。

 僅かに苛立つが、すぐに収める。


 相手の術中に収まるな。相手の雰囲気に飲まれないのは戦闘の大前提だ。

 正体のつかめない相手と戦うときは、まずは探るところから始めなければならない。


 呼吸を深く行う。集中するためにも、落ち着くためにも。


「ダンジョンの秘宝を持っているな」

「ふむ、ダンジョンの秘宝、か。何の事だろうね?」


 僅かに笑っている。馬鹿にされているのは明白だ。


「ダンジョンを全て、ダンジョンを制御するもの。それが、ダンジョンの秘宝だ」

「そんな大それたものを持っているはずがないじゃないか! 私のことを何だと思ってるんだい?」


 何だと思っている、か。

 そう問われるのならば、答えてやろう。推測に過ぎない、俺の妄想を。


「この町の創設者。その一人」

「……へぇ」


 空気が、変わった。

 刀を構える。どこへ向ければいい? 嫌な気配は周り全てから感じる。

 まるで、この空間全てが俺の敵に回ったかのようだ。


「一応聞いてあげようか。なんでそんな結論に至ったのかな?」

「最初からおかしいと思っていたんだ」


 そもそも、ダンジョンとは何だという疑問から始まった推論だ。

 ダンジョン、それは無限の富を生み、無数の命を飲み込む魔窟。

 ――そう思われている。いいや、思わされている。


 この世に無限のものなど存在するはずがない。無限に見えるならば、必ずその源に何かがある。

 元々はいずれぶつかるであろう、権能に対抗するために考えていた論だった。

 まさか、こんなところで披露することになるとは思わなかったがな。


「前提が間違っている。ならば、間違った前提を広めた人物がいると考えれば納得ができる」

「なるほど。それで?」

「この町はダンジョンを軸に町が成り立っている」

「普通の事じゃないかな? ダンジョンが鉱山に置き換わってもおかしくない」

「それがおかしいんだ。――なぜ、ダンジョンはこの町にしか存在ない?」


 世界は広い。この町に近い地理条件の場所は、他にもあるだろう。

 にもかかわらず、この町にしかダンジョンは存在しない。

 だからこそ各国が集まり連盟をつくり、ダンジョンを管理しようとしているのだ。

 これが自然発生するものならば……同じ場所に複数生まれるのはおかしい。明確に自然の道理に反している。


 ――それこそが、一つの事実を指し示している。


「お前らだろう、ダンジョンを作り上げたのは」


 ダンジョンは自然発生したものではない。それが、俺がたどり着いた結論だ。

 人工的に作られ、循環することでその根源を無限に見せかけている。

 そして――循環させるためには人為的な仕組みがいる。


 人々には知られぬように。バレないように。

 到底一人で成し遂げられる所業ではないからな、他にも仲間がいるに違いない。


「……ははっ! 驚いた! 君は信じるって言葉を知らないのかな?」

「悪いが、常に考え模索しなければ到底生きていられない立場だったものでな。前提を疑う事には慣れてるんだ」

「因みに、その仮説を考え着いたのはいつからかな?」

「最初から。この町に来ると決め、情報を集めた時からだ」


 壁を壊しても直しに来る存在やら、特定のモンスターは入り込めないなんか、作り物だと言っているようなものだった。

 自然にできているものならば、もっと上手く生態系に組み込まれている。

 動きがあまりに機能的すぎた。


「それで? 仮にその仮説が正しいとして、君は何がしたい」

「変わらんさ」


 俺は構えた刀を顔の横まで上げ、地面と水平になる様に構える。

 テンユウがやっていた、突撃の型だ。


「ダンジョンの秘宝を手に入れ、その力を手中に収める。そして王となる。ダンジョンがなんであるかは関係ない」

「……なるほどね。少しだけ評価を上げさせてもらうよ。君は賢いみたいだから」


 褒められても嬉しくもない。

 乾いた拍手の音を頼りに、切っ先を調整する。

 殺すことはできない。即座に両の腕を切り落とし、無力化する。


「うちの姫様は、少し抜けてて助かったよ」

「はっ。騙しやすくて、か?」


 確かに、あいつはダンジョンについてのあれこれを考えるなんてことしないだろうな。

 何も考えずに現実を受け入れているようだった。


 目の前の事だけしか見ず、目の前のことに全力だった。

 ……そう言う愚直さは嫌いじゃないと教えてくれた。


 置いてきて正解だったな。

 この場にいたら、どんな顔をしていることか。


「正直、君はそんな脅威ではないと思っていたんだ。でも、認識を改めさせてもらうよ」


 拍手が止む。

 同時に、俺は闇の向こうを目指して全力で駆ける。


「……君は黒の一族の中でも権能を持たないから見逃してあげてもいいかなと思ってたんだけど」


 不意に視界が暗闇に包まれる。

 照明が消えた? 魔道具が壊れたか?

 違う、それだけじゃない。

 気配も、臭いも、音も全てが――。


「絶望に満ちて、狂いながら死ね」


 聞こえた次の音は、耳元で囁く声だった。

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