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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第三章 ダンジョンに住まうモノ

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第53話:シャーロットと一時離脱

「町、ですか?」


 それは、裏町と言う事だろうか?

 確かに裏家業の連中はそっちに固まっているけど……そんな表現するだろうか?

 違和感が拭えない。


「そうだとも、我らが姫よ」

「あの、その姫ってのは何ですか。恥ずかしいので止めてくれません?」


 よくよく考えてみれば、流石に裏の連中相手に姫プレイしたことない。

 姫プ被害者が冒険者やめて裏行ったとかならわかるけれど。


 でも、その姫じゃないなら、結局何の姫なんだ?


「ははは、そっか。まだ自覚がないんだね」

「いや、自覚も何も……私、育ちはただの村娘ですよ?」


 決して、どこか高貴な生まれ育ちとかではない。

 ああ、でも髪色が特徴的だから、もしかしてあるのか?

 そう考えると辻褄が合う部分もある。不思議なところもあるけど。

 いや、でも、そうなると……。

 ううん、やっぱりないだろう。そんな気はしない。


「まあまあ、いいじゃないか。君が私たちの姫であることには変わりはないんだ」

「いや、なのでその呼び方をやめてほしいって話なんですけれど……」

「そうは言われても、他に相応しい呼び方がないんだ」


 いやいや、そんな言うほど? 私の事なんだと思ってるの?


「素直に名前で呼んでくださいよ。シャーロットでいいですから」

「そんな! 名前で呼ぶだなんて恐れ多い!」


 一体全体本気の本気で私の事を何だと思ってるんだお前は!

 本気で私が知らないだけで何かあるのか? いや、でもだったらこれまでの色々は何。

 うーん。よくわからない。目の前の相手も、私の扱われ方も。


「そんな大層なことは言っているつもりはないんだ。それに、きっと姫の為にもなる」

「私の、ためですか?」

「そう。どうやら、姫は自分についてあまり詳しくないみたいだ。知りたいとは、思わないかな?」


 俺が、俺自身について詳しくない?

 こいつは俺の何を知っているっていうんだ。

 確かに不思議なことも、理解できないこともある。それらの答えを、知っているのか?

 暗闇の向こうで、セイラムが笑っているような気がした。


「両親について、髪の色について、知りたいとは思わないかな?」


 それは、まさしく核心に近い言葉だった。

 不思議に感じてしまっていたこと、知りたかったこと、それらの大本。

 セイラムは、知っている? 俺の疑問に答えてくれるのか?


「冷静になれ」


 思わず暗闇の向こうに伸ばしかけていた手を、横から掴まれて止められた。


「リヴェンさん」

「論外な提案だ。見知らぬ奴、敵意を不意に見せてくる相手の本拠点へ赴くだと? あり得ない話だ」


 確かに。言われてみれば、そうだ。

 俺たちはセイラムの事を全く知らないのに、ついそっちの方向で話を進めさせられていた。

 正体先が裏町だとしても、迂闊に入ることなんてできるはずもないのに。

 あそこはよそ者に対して非常に厳しい場所だしな。招待されたとして、行きたいとは思わない。


 秘密は、当然気になる。でも……。


「やめてくれるかな、そういう風に姫を唆すのは」

「ほう? 詐欺師の常套句だな。冷静になるなと言ってくるとは」

「詐欺? 物を知らない部外者が口を出すなと言ってるだけなんだけどね」

「部外者と来たか。無理があるな。俺はこいつのパーティメンバーなんだから」


 なんかバチバチしてる……。こわ。

 ううん、でもこの話の中心は俺なんだよな。

 なら、回答は俺が出さないといけない。

 ちょっと考えてみる。


 秘密は、もちろん知りたい。家族についても、もしかしたら生みの親は生きているとか言われるかもしれない。もしそうなら、会ってみたい。家族として扱えるかはわからないけれど、会うことはしたい。

 ……でも、でも! ここはリヴェンが正しいんだ。

 知りたいけれど、知りたいけれども!


「すみませんが、提案には乗れません」

「……それは、そこの邪魔者のせいかな?」


 背筋が凍る。

 怒り? いいや、それを通り越して憎悪すら感じる恐ろしい声色だった。思わずゾッとしてしまうほど冷え切った声。


「本性を現したな」

「ははっ、汚らわしい恩知らずの一族が。最初からこうすればよかった」


 闇の向こうで何かが蠢いている。

 俺でもわかるほど、良くない何かがそこにいる。


「逃げるぞ!」

「は、はい!」


 既に立ち上がっていたリヴェンに手を引かれ、足をばたつかせながらも立ち上がる。

 何かがいる、何かが来る。直感だけが危険を教えてくれている。


「次はどっちだ!」

「右、右です! その次は左!」


 来た道を急いで戻る。

 後ろから迫ってくる気配はそこまで速くはない。俺たちと同じ速度か、少し遅いぐらいか。


「逃げないでよ~」

「ほざけ!」

「姫には変なことしませんから~」

「信じられる要素どこですかそれ!」


 セイラムは覇気の籠ってない声を後ろから投げかけてくる。

 裏にはどんな感情があるのか読み取れない。それが恐ろしい。

 絶対に追いつかれたくない。


「モンスターだ、俺の後ろから離れるなよ!」

「は、はい!」


 進む速度は緩めずに、リヴェンの手が俺の手から離れる。

 刀を抜き放ち、目の前に暗闇へと振るった。

 同時に、俺たちの横を肉塊が通り過ぎ、地面にべちゃりと落ちる音がした。


「ひっ」

「足を止めるなよ!」

「わ、わかってます!」


 意識してなかったが、周りの状況が殆どわからないまま動くことがすごく恐ろしい。

 道も、あってるはずなのに間違っていたらと思うと躊躇ってしまいそうになる。

 追いつかれる前に、走り抜けないといけないはずなのに。


「逃げても無駄だよ」

「試してみないことにはな!」

「姫、答えから逃げても何も変わらないよ」

「耳を貸すな! 詐欺師の言うことだ!」


 リヴェンの声を頼りに正気を保つ。

 後ろからの圧も、振り返ればその姿が見える気がして恐ろしい。

 何もかもに恐怖してしまっている。これは、良くないとまだ冷静な部分の自分が告げる。


 ばさりばさりと切り捨てられては隣を通り過ぎていくモンスターの群れ。

 どこにこんな量のモンスターがいたんだ? 通ってない道から寄ってきたにしても、的確に俺たちの元へ寄ってきているのはおかしいだろ!


「見えたぞ、階段だ!」


 前からの声に、ようやく顔をあげられる。

 すぐそこには上の階に続く階段があった。

 よかった! たどり着けた!


 俺たちは一心不乱に階段を駆け上り、エリアボスの蝙蝠がいた場所まで戻ってきた。

 蝙蝠の死体はすでになく、暗闇で端までは見通せないものの、ただの広間がそこにはある。


「……ここで迎え撃つぞ」


 俺の状態を確認したリヴェンが、切り返し階段へと刀を構える。

 精神的負担もあり、俺は既に体力が結構きつかった。出口まで走り続けろと言われると、正直できない。

 だから、ここで迎撃するしかないというリヴェンの判断だったんだけれど……。


「……」

「……こない、ですね?」


 構えて待っても、一向に下から何かが来る気配はない。

 どれだけ待っただろうか。正確な時間はわからないが、俺の呼吸が落ち着くぐらいには時間が経った。

 諦めてくれた、のか……?


「やれやれ、そこまで拒否されると私も傷つくよ~」

「ひゃあ!?」


 階段の下から、不意に声が聞こえてくる。

 いる。セイラムがそこに。


「まあ、今はいいよ。私はここで待ってるからさ。それに……」


 声色はまた呑気なそれに戻っている。


「君たちは、必ず戻ってくることになる。気づけないはずが、ないんだからね」


 しかし、予言じみた言葉は、声色関係なしに不気味さを醸しだしていた。


「帰り道には気を付けてね~。モンスターは撤収させておくからさ」


 そう言いながら、声は遠ざかっていく。

 ……帰った? のかな。


 少しして、リヴェンも構えていた刀を下ろした。

 気配もしなくなったんだと思う。なら、本当に帰ってくれたのか。

 安堵から、思わずその場に座り込んでしまう。

 あっ、そういえば寝袋下に置き去りにしちゃった。また買わないと。

 余裕ができたからか、そんなことにも気が付いた。


 ふと、ぶつぶつと呟く声が聞こえ、すぐそこにいる彼を見上げる。


「気づかない、ではなく気づけない、だと?」

「リヴェンさん?」


 どこか様子がおかしい。

 先ほどのセイラムの言葉を何度も反復しているようだ。

 そんなに引っかかる要素があったか? まあ、ちょっと不気味だったけれど。


 戻ってくることになる。だなんて、まるで俺たちが自分の意志でセイラムに会いに行くことになるみたいな。こんなことがあったら、戻ってくるはずがないだろうに。

 そんなこともわからないのかな? そこまで考え無しとは思えないけれど。


 まあいいや。結局俺が怪しい依頼を受けたのが悪かったんだ。

 あーあ、後でリヴェンに謝らないと。

 とりあえず、もうダンジョンから出よう。泊りの装備も下に置いてきたわけだし、居座る理由もない。


「リヴェンさん。もう出ましょう。リヴェンさん?」

「ん、ああ。わかった。そうだな」


 見上げたリヴェンの顔は、明らかに何かに思い至った顔で。

 表情は決して、晴れやかではなかった。

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