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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第二章 ロザリンドの魔手

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第49話:ロザリンドと黒の一族

「お帰りなさいませお嬢様」

「ただいま。私が不在の間、お母様は?」

「お変わりなく」

「それはよかったわ」


 ライオネル――リヴェンと名乗っていたあの子たちと別れてから、再度転送魔法を用いてラウディナル王国へ帰ってきました。

 その王宮、黒の城。見た目は白色を基調としているのに、黒の一族が住まうからそう呼ばれているこの場所。私達が住むのは、一角にある離宮。一般的には赤宮と呼ばれてます。


「お嬢様、お坊ちゃまのご様子は……」

「元気でやっていたわ。あの分なら、巣立ちと許容できそう」

「左様ですか。それは、何よりでございます」

「ありがとう。あの子の成長を喜んでくれて」


 この執事――ピスキスも、私達が生まれる前からお母様に仕えてくれている。王宮において数少ない私たちの味方。

 ただでさえ立場が弱い、権能も持たないあの子が飛び出していったときは、散々心配していたというのに、いざ成長したとなると、手放しに喜んでくれる。

 あの子は、このことがわかるかしら。きっと、思いもしないのでしょうね。


 出来損ないの自分は母親から愛されていない。そう思うのは仕方がないにしても、周りの人からも愛されていないなんて限らないのに。


「それでは、これからはどうなさるおつもりで?」

「お母様の意向を叶える方針に変更はないわ。私は継続して、玉座を目指します」

「では、坊ちゃんと……」

「対立は、しません」


 ピスキスがホッとした様子を見せる。

 身内同士での争いを見たくないからでしょうね。

 他の兄弟と玉座を争っている? まさか、腹違いの兄弟なんて、家族ではないわ。

 あれらは全員敵。私たちを虐げる、愚かな敵。

 いつか、身の程をわからせてあげないとね。今はまだ、他にやるべきことがあるわ。


「お母様の望みはあくまでも自らの子が玉座を得ること。ならば、私がとってもあの子がとっても同じことでしょう?」

「譲られた玉座で満足されるような方だと?」

「まさか。愛するあの子は、そんな器用な子ではないわ」


 思わず笑ってしまう。ピスキスもわかって言っている。

 楽しい冗談だこと。


「まずは、愚かな上の兄を抑えるところからやりましょうか」

「何か御用があれば、この老骨に何なりとお申し付けください」

「ありがとう。ハイデンを動かすと、あの父に筒抜けになるもの。頼みたいことができたら、お願いするわね」

「はっ」


 最も待遇の低い赤宮にありながら、私たちがやってこれたのはピスキスの働きも大きい。

 裏切り者だらけのこの宮で、無事にお母様が生き残れているのがその証拠。

 私がいるうちは大丈夫だけれど。

 あの子を連れて帰らなくて良かったかもしれない。お母様の癇癪と、あの子のケアと、ゴミどもの相手は流石に辛いかもしれないから。


 感謝しなければね。あの子が私の手を離れてもいいぐらいに成長してくれたことに。

 寂しさは、あるけれども。


「ふふっ」


 思い出して笑ってしまう。

 戦いの中で、あの子が見せた表情を。

 あんな顔ができるようになったのだと、嬉しさを噛みしめる。

 不思議そうに見てきているけれど、こればかりはピスキスにも与えたくはない。私だけの宝物として心の中に大事に保存しておく。


「ねぇ、ピスキス。あの子、私の権能を切ったのよ」

「!? よもや。崩壊の権能を破ったのですか!?」

「そう。でも、それはあの子の側にいた子のおかげ」


 シャーロット。不思議な子だったわね。

 なぜあの子の側に彼女がいるのか、不思議でならない。


 ああ、でも気づいている様子はなかったわね。

 ならば、本当に偶然知り合ったのでしょう。

 いや、これも運命なのかしら。権能を持たぬ黒の一族の側に、白の神子。

 建国の焼き直しでも行うつもりなのかしら。そうだとすれば……楽しみね。


 髪色は白ではないけれど、染めているのだとすればわかる。

 白の一族は己の髪色に誇りを持っているはずだけれど、出生のことを思えば納得できた。 

 他にも、権能の不安定化など要素は揃ってる。間違いはないでしょうね。


 本当に大事なのは、あの子にとってよき人となってくれているという事実。彼女が何者かなんて、些細なことね。

 ああ、今から産まれてくる子供が楽しみ。きっと可愛らしい子が産まれるわ。


「優れた王には、優れた臣民が付き従うものよ。あの子は……友に恵まれている」

「……左様ですか。お嬢様が仰るのなら、そうなのでしょう」

「本当に、テンユウは勿体ない損失だったわ」


 第二王子――ラハクの手出しのせいで、私たちの王位継承戦はややこしくなってしまってる。

 本来の形を失い、必要もない政治戦にまで手出しする羽目になった。

 あの子が王を目指すなら、本当に飛び出て正解。そこら辺の勝負勘の良さも、王の素質ではあるわね。


 ああ、本当に思えば思うほどあの子を褒めてあげたい。

 あの子の為ならば、その道を邪魔する奴らを排除しきってもいい。

 それで手にした玉座に、あの子が求めるものがないからやらないけれども。


「ほほほ。無事に刀は渡せましたかな?」

「ええ。あの子の手に渡ったわ」

「本当にあんなやり方でよかったのですかな? 素直に手渡しすれば、お坊ちゃまも感謝されるでしょうに……」

「いやよ。嫌われたくないもの」


 テンユウが死んだ直後のあの子の姿は見ていられなかった。

 何とか武器だけは奪い返したけれど……私は声をかけられなかった。今でも悔やんでる。声をかけるべきだったと。


「……今更だと思いますがね」

「なに」

「いいえ、差し出がましい口でした」


 苦手に思われるという自覚はあるわ。

 あの子の為を思って、散々壁として立ちはだかってきたんだもの。今更って思われるのも仕方がないわ。

 でも、それでも、愛する弟に好かれたいという思いは捨てられない。

 私たちは、愛の一族だから。


 ねぇ、ライオネル。貴方も苦しむことになるわ。

 その愛は、種族の確執を超える愛。

 枯れる可能性の方が高いでしょう。

 けれど、実るときにはきっと……他の追随を許さない、巨大な果実が実るはず。


「……あの子の未来が楽しみね」

「ええ、本当に」


 さて、そろそろ和やかな雑談も終わりにしましょう。

 やるべきことをやらなければ。


「私たちは私たちの仕事をしましょう。あの子が帰ってくるときに、きちんと戦わせてもらえるように。戦場を作り出す仕事を」


 いつか、あの子が帰ってきたときに。

 その本懐を遂げられるように。

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