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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第二章 ロザリンドの魔手

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第42話:シャーロットと破綻の音

 オークションが始まる。本番前だと思っているからか、口の中が乾く。

 九割九分心配ないと思っていても、不安は消しきれない。

 そんなときは、周りを見渡す。リヴェンもトリシェルも、いつも通りの顔で席に座っている。

 緊張しているのは明らかに俺だけだ。

 ガスを抜く気持ちで、長く一息を吐く。


 落ち着いたら周りの光景が目に入ってくる。一日目、二日目と変わらない大きな会場。目の前にいくつも並ぶ空席と、まばらに座る冒険者たち。何もおかしなところはない。

 気になって、レイナードの方を見る。向こうも特に何もなさそうだ。

 嫌な気持ちだけが悶々と胸の中で渦巻く。


「それではみなさんもう雰囲気には慣れましたよね? 昨日笑ったあなたも、泣いたあなたも、今度はきっと輝ける三日目を始めたいと思います!」


 司会のお姉さんが声を張り上げて、オークション開始の合図を告げる。

 駄目だ、集中しないと。ここが勝負所なんだから、呆けてる場合じゃない。

 頬を叩いて、気を引き締める。

 リヴェンからなんだこいつみたいな目で見られたが、気にしない。いつもの事だ。流石に慣れた。


「トリシェル。仕込みはきちんとできてるんですよね?」

「ん、だいじょーぶ。こっちの合図で動き出すように言いつけてあるよ」

「土壇場で裏切る可能性は?」

「ないね。愚かなことにもしそうなったら、彼の人生に先はないって教えてあげたからさ」


 怖い話だ。引き金を引いたのは俺だけれど、寒気がする。

 でも、言う事聞いてくれれば何もしないから。うん、あくまで予防措置のはず。

 ……しないよな? トリシェルなら裏でこっそり色々とやっててもおかしくはない。んだけれど、流石にしないよな?

 ここはしないと信じよう。うん。


「リヴェンさんの方は策は上手くいきそうですか?」

「ん? ああ、まあ何とかなるだろう」

「そんな他人事みたいな……」

「他人事、か」


 少し諦めたように笑う。

 なんからしくないな、どうした?


「実際のところ、俺自身の手で何とかしてやりたいが、そうはならなさそうでな」

「それでちょっと不満げなんですか?」

「不満……。そうかもしれん。いや、あの怪物との争いを前にそんなことに気を取られてるわけにはいかないんだがな」


 理性ではわかってても、感情的なところで引っ掛かりを覚えてる感じか。

 でもまあ、何とかなること前提ならよかった。

 試しにレイナードの様子も見る。うん、特に変わりはなさそうだ。あいつがあの調子なら向こうは確実に大丈夫だろう。そういう奴だあいつは。


 ついでに、あの馬鹿の姿も探す。

 ……いた。昨日と同じ位置か。

 余裕綽々といった感じで椅子にふんぞり返っている。腹立つなぁ~。隣にいるのは件の仲間だろうか。昨日はいなかったから、ばらけれてたのを近くに集めたんだろう。


「……シャーロットちゃんは不安?」


 俺の真後ろの席に座っているトリシェルが見かねて声をかけてきた。

 ちょっと挙動不審だったか? 周りを見すぎたかもしれない。


「不安ってほどじゃないですよ。ただ、何か嫌な感じがするって言う感覚があるだけです」


 この言葉には、トリシェルだけでなくリヴェンも反応を示した。

 慌てて補足する。


「別に、負けるって気はしてないですよ。ただ、胸につっかえがあるような、そんな感じがするんです」

「んー。ここはダンジョンじゃないけれど。でも、シャーロットちゃんの事だから言語化できないだけで何かに気づいてるって可能性もあるよね」

「うっ」


 なるほど。そういう解釈をされるのか。


「何かあるとしても、今は目の前のことに集中するしかないだろう」


 こいつは冷静だ。目の前の現実をしっかりと見ている。

 やっぱり、今でもこいつがあんなに狼狽してたなんて信じられないな。


「ですね。……あっ、あれがそうじゃないですか?」


 話しているうちに、結構時間が進んでいたみたいだ。

 件の刀が入ったショーケースが、ステージが開き下から上がってきた。


「こちらの品は東方から伝来した品! 刀と呼ばれる剣の一種です! 実際の武器としての強度も確かながら、美術品として愛でても良いでしょう! 名前は――」

「――カグツチ。持ち主を選ぶ、妖刀だ」


 カタログにない情報を、確かめるようにリヴェンが口にする。

 妖刀か……。そう言われると、禍々しく見える。ごめん嘘、俺の眼にはただの刀にしか見えない。


「では、まずは金貨十から――」

「二百!」


 司会の説明が終わり、入札開始の合図と共に金額が跳ねあがる。

 誰が声を上げたかと思ったら、あの馬鹿だった。

 勝ち誇った顔でこちらを見ている。


「まずは有象無象の振り落としかぁ」

「もとよりこちらも同じことをやるつもりだった。二百二十!」


 負けじとリヴェンも金額を上げる。

 こいつの上限金額は四百。それも、必要な金に手をつけてという事で、実際に使えるのはそれよりも少ないはずだ。


「二百三十!」

「二百三十五!」

「二百五十!」


 そこらかしこからコールが上がる。

 これは昨日レイナードが連れてきた人たちか……?


「トリシェルトリシェル」

「ん、なあにシャーロットちゃん」

「最初にふるい落としをしたのに、仲間うちで値段を吊り上げる必要ってあるんですか? 相手が上げてきたら被せるんでいいんじゃないですか?」


 振り返って、わからないので解説してほしいとねだれば、少し考える素振りを見せてから答えてくれる。


「まずね、こういうのって当然最終値を決めておくんだよ」

「少しでも安く競り落とそうとするんじゃないんですか?」

「一般的な競りだとそうだね。でも、今回はそうじゃない。二つの勢力のぶつかり合いなの」


 ふむふむ。なるほど?

 何が違うんだ?


「お互いに限度額まで出すならシンプルでわかりやすいね」

「てことは、そうはならないってことですか?」

「その前に決着がつくからね」


 んん? どういうことだ? 俺の頭ではよくわからない。

 なんで限度額に行く前に決着がつくことがあるんだ?

 俺が首を傾げている姿がそんなに愉快なのか、トリシェルは満面の笑みだ。ぐぬぬ……。


「まあまあ、見てればわかるよ」

「あっ、投げ出しましたね」

「今ちょうどいいところみたいだよ? ほらちょうど三百台に乗ったところみたい」


 促され、意識を会話からオークションに戻す。

 会場の熱気を感じる。

 ただ、どこか冷たい空気が漂っているような気もする。

 隣を見ると、リヴェンは薄く笑いを顔に張り付けていた。


「話は終わったか?」

「ええと、はい。今どんな感じですか?」

「お前らの仕込みだろう。向こうが破綻した」

「はい?」


 馬鹿どもの方を見る。

 すると、周囲の人目を集めているのにも関わらず、席を立って隣の人の胸倉を掴んでいる姿がそこにあった。


 なるほど。トリシェルに頼んでた仕込みは、さっそく起動したらしい。


「……ちょっと、和を乱すように言っただけですよ」


 俺がトリシェルに頼んだのは、入札の金額の釣りあげ方を集団で制御するって言うやり方を聞いていたから、それを邪魔してくれという内容だ。

 決まった金額以外を入札、更に言えば高めに入札するようにやらせた。

 早い段階で実行されたのは、リヴェンたち側の策を邪魔しないためだろう。


 少し相手の仲間の間の信頼が揺らげばいいなぐらいで提案した案だったけれど、なんか思ったよりも効果がありそう……?

 明らかに向こうが入札を躊躇っている。


「それが致命傷なんだよシャーロットちゃん」


 後ろの席のトリシェルがこちらへ身を乗り出してきた。そんなことするなら最初から隣に座ればいいのに。


「集団戦と言ってもね、最終的に金を払うのは本命である一人だけ。つまり、意図しない限度額のオーバーがあり得るんだよ」

「限度額になり、焦り、仲間と思っていた連中が思わず払いきれない金額を入札してしまう。限界での勝負ではそのリスクが常に付きまとうわけだ」


 お、おお? なるほど。

 なら、個人でやれば……いや、それだと金額のあげ方のコントロールが完全に奪われるのか?

 純粋な限界値で勝負するのも、よほど覚悟が決まっていない限りは避けたいはず。安く競り落としたいという原則がここで出てくる。


「ペースを握られれば、及び腰になる」

「及び腰になれば、入札できなくなる」

「結果、値段の決定権を失う。限界値で勝負する覚悟がなければ、手を引くしかないという思考に陥るわけだ。提案がお前と聞いて驚いたが、いい手を打つじゃないか」


 ……思った以上にしっかりと心理戦をしていたらしい。

 気軽に邪魔しちゃお! ぐらいの気持ちだったのに、ほんとだよ。


 でも、そっかぁ。確かに、どこまでつり上がるかわからないのに入れてもな。

 俺にもその気持ちは理解できる。


「ええい、お前らはもう引っ込んでろ! 三百十!」


 余裕で声がここまで聞こえてくる。馬鹿の声だ。

 周りの仲間を足蹴にして、高らかに宣言している。


「……元気に向こうは入札してるみたいですけれど?」

「ふむ。思っていたよりも胆力があるのかもしれん」

「馬鹿すぎてそのあたりの駆け引き理解してないだけじゃない? 見栄だけで限界額行く気かもしれないよあれ」

「かもしれん」


 酷い言われよう。でも、実際それが正しそうなのが……。


「え、じゃあ結局限界値勝負になるってことですよね?」

「私が調べたところ、向こうの限界値は三百五十ぐらいかな」

「いや、だがそんなことをして大丈夫なのか? 聞いた話だと、家の金なんだろう?」

「大丈夫じゃないと思うけどねー。下手すれば除名レベル――」


 そうはならないという会話をしていたはずなのに、そうなろうとしている。

 おかしな展開だ。


「三百五十!」


 そして、今まさしく向こうは限界値に手を付けた。

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