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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第二章 ロザリンドの魔手

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第41話:シャーロットは不安の中

 オークション三日目がやってきた。

 競売の決戦の日だ。

 トリシェルには昨日別れる直前に仕込みを頼んでいたけれど、うまくやってくれるだろうか? あれだけの情報収集能力があるのなら、うまいことやってくれるだろう。


「それで、大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ない。昨日のうちにレイナードとあいつが連れてきた連中との打ち合わせはしておいた」


 どうやら、俺とトリシェルが去った後にやっていたらしい。

 俺たちが俺たちで色々と策謀を重ねてる間、こっちでも同じようなことをしていたとか。

 ……リヴェンの顔を見る限り、結構自信があるみたいで。なら、いいけれど。


「へぇ~。どれだけのお手並みか、見せてもらおうかな?」

「……なぜこいつがここにいる」

「え?」

「こいつはレイナードの仲間だろう、なぜ俺たちと行動を共にしている」


 一日目二日目と違うのは、今日は最初からトリシェルが俺たちと行動を共にしているというところだ。

 オークション会場へ向かう道中も、こうやって三人並んで歩いている。


「あっ。ひっどーい。私は今回やる気なかったから向こうで登録してないの。だから誰と一緒に入ろうと自由ってわけ」

「護衛としてなら、事前申請なくても入れますからね。私の枠で入ってもらうんです」

「だが、向こうでもいいだろう」


 まあ、リヴェンの気持ちはわかる。

 この二人は基本的に仲が悪いから、一緒にしたくないって気持ちもある。俺もあんまり常に側に置いておきたくはない。

 でも今日ばかりは一緒にいてもらった方が都合がいいんだよな。


 細かい理由の説明は……まあ、しなくてもいっか。

 競売に集中してもらいたいしな。


「まあ細かいことはいいじゃないですか。邪魔にはならないと約束しますから」

「……お前の仕込みか?」

「へ?」


 視線がこちらへ向く。

 疑うような視線。それだけ競売に本気だってことかな?


「あー。まあそうですね。昨日ちょっと話して、今日の競売のために色々とやってもらったんですよ」


 結局、一つ作戦を思いついたので、トリシェルにできないか尋ねたのだ。

 できると言い切ったので、立案だけして任せたのだけれど……実際どうなるのかはわからない。

 リヴェンたちの策と変な形でかみ合わないといいけれど。


「……わかった。なら、いい」

「いいんですか?」

「ああ。……」


 ああ、の後に何か続けようとした口の動きだった。しかし、その後の言葉が発せられることはなかった。


 少しの間の沈黙。

 耐え切れず、俺から話題を持ち出す。


「そういえば、今回リヴェンさんが出せる限度額って幾らなんですか?」

「活動資金を放棄して、四百と言ったところか」

「四……っ」


 言葉を失った。桁が違う。銀貨とかじゃないよな、金貨だよな。

 単純に俺が数年必死で貯めて五十枚のところ、八倍。これが王族か。


 ふと、視線を感じる。そちらを見ると、トリシェルが何かアピールしたそうにしていた。

 聞くだけ聞いてみるか。


「私、私もお金持ってるよシャーロットちゃん!」

「……トリシェルから借りると後が怖いので嫌です」

「酷い!」


 当然だ。金なんて知り合いからは基本借りないに越したことはない。

 借りていいのなら、俺はもっと早く市民権を購入できていた。でも、後が怖いから自分で全額稼いだんだ。


 そろそろオークション会場に到着するな、と言うところですっと俺の前が塞がれる。

 なんだ? リヴェンが俺を隠すように立っていた。


「そこを退け、汚らしい異邦人めが」

「断る」


 こ、この声は! あのクソ馬鹿野郎!

 前まともに見てなかったけれど、もしかして待ち伏せされてた?

 リヴェンは気が付いて、気を利かせてくれたのか。


「なんだ、言いたいことがあるなら言ってみせればいいだろう。それとも、その大層な口は飾りか? 新しく作ってやろうか?」

「何を――っ!」

「おお、喋れたじゃないか。次は意味がある言葉を発してみるか?」


 うっわ。煽りおる。

 どことなく楽しそうなのは、鬱憤が溜まっていたからのか。宣戦布告してきた相手だからなのか。


 どこを見ていいか迷い、視線を彷徨わせているとトリシェルと視線が合った。

 少し複雑そうな顔をしつつも、ウインクを飛ばしてくる。

 ……ああ、これもひょっとして作戦の内なのかな?

 だとしたら、なんでこいつはリヴェン側の作戦知ってるんだ。


「それで? こちらはそちらと違って忙しい身でな。用件は短くしてもらえると助かる」

「お前、よくもそのような口を……っ!」

「耳が遠いのか? 一度では理解できないというのならば、もう一度言った方がいいか?」


 見えてないけれど、馬鹿野郎が顔真っ赤にしてるのがわかる。

 返答に詰まってしまっているあたり、本当に馬鹿なんだなこいつ。


「そこらへんにしときなよ~。可哀そうじゃん」


 トリシェルさん!? 声色が笑ってますよ!?

 俺の隣からリヴェンの隣に進み出て、煽るのに参加し始めた。

 なんであなたまで参加するんです?


「む、そうか。まあ、特に言うこともなさそうだし、行くか」

「そうそう、行こ行こ~。相手にする必要ないって」


 そう言って、二人は歩き出す。

 え、これ俺もついていかないといけない奴だよな? 置いてかれて馬鹿と二人きりとか嫌だよ?

 てか俺いないと会場内入れないからね君たち! 待ちなさいよ!


 二人が馬鹿の横を横切っていくその後ろを駆け足でついていく。

 すれ違いざまにちらりと様子を見た。顔は真っ赤に染まっていたし、これ以上ない屈辱とばかりに歯を食いしばっているのが一瞬でもよくわかった。


 そして、すれ違う。

 俺は後ろの様子を気にしつつ、二人についていく。大丈夫だろうか。何も言ってこないだろうか。


「待て!」


 破裂したような声が響き渡る。

 俺たちは足を止め、振り返る。僅かにリヴェンが笑っているのが見えた。


「お前、今日の競売で競り落とそうとしているものがあるんだろう?」

「……ああ、そうだな」

「ふっ。なら、残念だったな。それは僕が競り落とす」


 あっ。少し調子戻った?

 言いたいことを言えて、すっきりした様に見える。


「ほう。それは宣戦布告か?」

「譲ってやってもいいぞ? お前が、その子を諦めるならな」


 そう言いながら、視線が注がれる先は俺。

 ……俺!? この文脈で!?

 後ろから鼻で笑った声が聞こえた。


「何を言うかと思えば。話にならんな」

「幼気な少女を囲っておいてこの外道が! 身の程をわからせてやる!」


 俺そんな幼く見える!? 確かにちっこいけどさぁ!

 普通に失礼ですよあなた、びっくりですよこちら。はい。


「身の程、か。それで、何が言いたい」

「ふん。簡単な話だ。お前が脅して連れているその子を、必ず僕は解放して見せる! 覚えておくことだな!」


 ……わぁー。すっごい論理の飛躍。いつの間に俺は脅されてることになったのかなぁ。

 最初の出会い? うーん、脅されたとは言えないかなぁ。

 これが本物かぁ。うん、トリシェルとのやり取りでわかってたとはいえ、来るものがある。

 控え目に言って、今すぐ消えて欲しい。


 そんな俺の思惑は、誰も気にしない。ただそこにあるだけのトロフィーとして扱われている。


「やってみるといいんじゃないか? できるならな」

「今から負けた後の身の振り方を考えておくんだな!」


 そう言い切り、馬鹿は去っていった。

 何だったんだあいつ。


 姿が見えなくなってから、今度はかみ殺したような笑い声。

 見ると、リヴェンもトリシェルも愉快そうに笑いをこらえていた。


「あそこまでとはな。少し、聞いていたとは言えど想像以上だ」

「あー、面白い。ね、シャーロットちゃん。仕掛けが作動した時が楽しみだね!」

「え? あ、はい。そうですね」


 もうあいつがひどい目に遭うことは確定している状況。俺はそこまで楽しむ気にはならなかった。

 ただ、できればもう二度と出会いたくないとは思った。

 それが一番の望みだ。ああいう手合いとは、必要がないなら付き合いたくない。


 必要なら手玉に取るぐらいはするけれど。疲れるんだよね。


「おい、せっかくならお前たちが仕掛けた仕込みも道中で教えろ」

「情報交換だね。いいよ、今回は手伝ってあげる」

「……喧嘩だけはしないでくださいねー」

「わかってるわかってるー」


 楽しそうにあいつを嵌める内容を話し合う二人。

 俺はその背中を見て、溜息を一つ吐いた。


 正直あの馬鹿の事はもう半分ぐらいどうでもいい。トリシェルの抱えてきた情報と、やらせた策であいつが破綻するのはわかりきってる。

 不安なのは、別のところだ。


 直前になり湧いてきた疑問。

 このオークションには、当然それぞれの品に出品者がいる。

 つまり、リヴェンが求める形見の刀にも、出品者がいるということだ。


 それは一体誰が? リヴェンの友を殺した人物か? 異国の品で、異国の地で倒れたであろう人物の形見が、こんなところにあるのはおかしい。

 当然リヴェンは探したはずだ。でも、今の今まで手に入れられてなかった。

 誰かが隠していたと考えるのが自然だ。それを、わざわざ出してきた意味とは何か。


 タイミングが良すぎるのだ。全てが。

 何から何までが全て用意された作意を目前になって感じ取れた。

 もしかして、俺たちはもう蜘蛛の巣の中にいるんじゃないか。


 ……当日の今となっては、出たとこ勝負するしかない。

 用意していた魔道具の指輪をなぞる。まともに使える品ではないが、これに頼らないといけない場面が来るのかもしれない。そう思うと、非常に嫌な気分になる。


 オークション会場の前の広場は、何も変わらず人で賑わっていた。

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