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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第一章 ダンジョンの異変
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第4話:シャーロットとイレギュラーボス

 四階層にたどり着いた。

 エリアボスがいる階層の構造は決まっており、階段を下ると一本道が続いている。

 一本道の途中では魔物が出てくるようなことがなく、ボスがいる大部屋まで続いているだけだ。


 他の階層からエリアボスの階層にモンスターが来ることもないため、緊急避難先としても扱われている。ダンジョン内の数少ない安全地帯だ。


 一本道を歩いて行くと、巨大な二枚扉がある場所にたどり着く。

 左右それぞれの扉に同時に触れると、動きそうもない巨大な扉がひとりでに開くようになっている。冒険者の間では代表者一人が扉の中央真正面に立ち、扉を開けるのが慣習になっていた。

 今回は俺が開け方を教えて、男に扉を開けてもらうことになった。

 男は俺を信用しきっていないらしく、試しに一度開けさせて、閉じるところまで実演させられた。


 男が開けた扉の先に広がる闇を見通して、彼と改めて話し合う。


「この先に行けばエリアボスが出てくるんだな?」

「は、はい」

「お前はついてくるのか?」


 当然の疑問だ。正直俺はこの場に残っていたい。

 残っていたいが、行かなければならない。


「それが、その、その階層にいる全員が扉を潜らないとエリアボスが出ないようになってまして……」

「面倒だな。なら、俺が入る瞬間だけ上の階層にいろ」


 これも当然の発想だ。彼としても、足手まといを連れて戦いたくはないのだろう。

 でも、それもできない理由がある。


「エリアボスに誰かが挑んでいる最中は、階層に立ち入ることもできないんです。封鎖されてしまうので……」


 そう、これも厄介な仕様の一つで、誰かがフロアボスに挑んでいる最中には、セーフポイントであるボス前のフロアに立ち入ることができない。階層へ下りるための階段が封鎖されてしまうのだ。

 俺が今仮に三階層に戻った場合、彼が戻ってくるまで一人で三階層で生き延びなければならない。そんなことを実行できる自信はない。


「まあ、いい。ハンデ付きというのも悪くはない」


 諦めがついたのか、男は溜息を吐いて同行を許可してくれた。

 助かった。涙目で訴えかけていたのが効いたのかもしれない。

 俺の面の良さも捨てたものじゃないな。


「行くぞ。俺の側から離れるなよ」

「はい」


 男は剣を一振りして、具合を確かめてから扉の向こうへと進んでいく。

 俺もその後ろを追いかけるようにボス部屋へと足を踏み入れた。


 俺たちが入ったことで、背後の入り口が徐々に閉まっていく。

 部屋を照らす唯一の光の線が狭まっていき、やがて途切れる。広大な部屋を暗闇が満たす。扉が完全に閉じたのだ。

 一寸先も見えない完全な暗闇の中で周囲の様子もわからない状況が数秒続くと、壁沿いに青白い炎が灯っていき、部屋の中をほのかに照らしていく。


 部屋の中央には、先ほどまでいなかった存在が立っていた。


「……あれは?」

「スケルトンジェネラルです」


 この階層のエリアボス。スケルトンジェネラル。

 戦闘の痕である凸凹が残されたくすんだ金色の鎧を身にまとい、腰には直剣を携えている。左手には身の丈をゆうに超える巨大な旗を持っている。古めかしい旗布が風もないのにはためている。


 カタコンベダンジョンらしくアンデッド系のエリアボスで、単体の能力よりも群れを率いるものとしての能力が優れている。

 つまり、このボス戦は群れとの戦いとなるのだ。


 スケルトンジェネラルが旗を高く掲げると、地面からスケルトンの軍勢が這い出てくる。


「ほう、そういうモンスターか」


 スケルトンジェネラルの強さは、無尽蔵に湧き出るスケルトンの軍隊。その飽和攻撃。

 同時に、それがこのエリアボスが弱いとされる理由だ。エリアボスに挑むような冒険者は、たかがスケルトン程度に手間取らない。

 物の数にならないような木っ端がどれ程いようが、薙ぎ払われて終わる。


 数に頼るボスという面から、スケルトンジェネラルもスケルトンを少し強くした程度の能力しかない。

 スケルトンを次々倒せるぐらいの殲滅能力があれば、問題なく倒すことができる程度のボス——なはずだった。


「……なかなか骨がありそうじゃないか」

「いえ、いえ! 違います、こんなの知らない!」


 スケルトンジェネラルがひと際大きな咆哮を上げる。

 ただのスケルトンに混ざり、斧と盾を装備したスケルトン―—スケルトンウォーリアーが出現した。

 それだけではない、剣と盾だけでなく、鎧を身にまとったスケルトンナイトも少量ながら出現した。等級として、ナイトは単純な戦闘能力でいえばジェネラルよりも高いと言われている。


 酒場で過去に聞いた情報の中にはこんな事例なかったぞ!

 こいつはただスケルトンを出すだけのボスだったはずだ。特殊スケルトン、フロアボス突破以降の階層に出現するモンスターをポップさせるなんて、あっていいはずがない!


「気を付けてください! あの武装しているスケルトンは前の階層に出てきた奴とは強さが全くの別物です!」

「知るか。見ればわかることをグダグダと喚くな、鬱陶しい」


 異常事態であることを伝えたいのに、この男相手だと通じない。

 ボス部屋から退避しようにも、俺では扉を開くことはできない。ボスを倒さずに入り口を再度開くのは、最初に扉を開いた人物でなければならないからだ。

 今回はこの男だ。この男が撤退する意思を持って入ってきた扉に触れなければ、扉は開かない。


「この程度で終わるのなら、最初から俺はその程度だったというだけの話」

「それ、私も巻き込まれるんですけど――っ!」


 俺の悲鳴はどこかへ消えた。誰にも届かない声は出していないも同然だ。


 襲い掛かってくるスケルトンの群れを蹴散らしながら、男はスケルトンウォーリアーたちと斬り結ぶ。

 だから、必死に男の背後から離れないように立ち回る。最中に、それを妨害するように俺へとスケルトンが飛び掛かってくるが、悉く男の手によって斬り払われる。


 乾いた音と共に転がっていく、スケルトンの残骸。

 重なっていく屍の山に、俺は思わず身を凍えさせた。


 この男に隙なんて欠片もない。全方位から襲いかかってくる敵を、狂いなく捌き切ってみせていた。

 こんな動きができる奴、俺は他に数人しか知らない。本当にこの町に来たばかりの人間か?

 そうやっている間にも、正面に立ちふさがっていた複数のスケルトンウォーリアーが一掃されているのだから、驚きも驚きだ。


 てか、なんでスケルトンは俺を狙ってきた? 回復魔法すら使わずただそこに居るだけなんですけれども? 弱い奴から片づけるような知能、お前らにあったっけ?


「また湧いてきます!」

「無限に出てくるな。本体を倒さない限り続くのか」


 男はこの戦闘のギミックを理解したらしい。スケルトンジェネラルの方を向き、狙いを定めた。


 ただし、スケルトンナイトがスケルトンジェネラルを守る様に布陣しており、その守りを突破しない限り肉薄することは不可能だろう。


「すぐ終わらせる」


 男は俺を置き去りにして、一瞬でスケルトンジェネラルへと迫っていく。すかさず、スケルトンナイトが横一列に並んで壁を作り、進撃を阻む。

 彼の一撃はスケルトンナイトをまとめて砕くが、一掃とまではいかない。


「オ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛ォ゛」


 男を眼前にして、スケルトンジェネラルが咆哮を上げた。

 これも初めての行動。スケルトンジェネラルは機械的な迎撃しかしないはずだ。


「なんだ、文句があるなら言って見せろ骸骨風情が!」

「イマ゛、オマ゛モ、イタ、マズ」


 喋った……?

 何を言おうとしたのかはよくわからなかったが、確かに言葉を発しようとした。

 モンスターが人の言葉を話すなんて、聞いたことない。

 てか骨がどうやって喋るんだ。発声器官どこだよ!


「良くぞ吠えた!」


 彼には何かが通じたらしい。

 一呼吸の間に残ったスケルトンナイトを蹴散らし、スケルトンジェネラルと斬り結ぶ。

 スケルトンジェネラルは持っている旗で剣を防ぎ、弾いて見せる。

 彼とスケルトンジェネラルの距離が再び開いた。


 これまで飾りだとしか思っていなかった腰の剣を抜き放ち、スケルトンジェネラルは応戦の構えを見せる。部屋を照らす炎を反射し、剣が鈍く光る。

 男はひと際獰猛な笑みを浮かべた。


 俺は自然とその光景に目を奪われていた。これから繰り広げられる激戦の予感に、思わず見惚れてしまっていたのだ。

 ―—スケルトンたちが背後に迫ってきていたことにも気づかず。

 間抜けなことに、何の抵抗もできず拘束された。


「え、ちょっと、待った待った待った!」


 そのままスケルトンの群れに担がれて、どこかへ運ばれていく。

 ちらりと男の方を見ると、スケルトンジェネラルとの戦闘に夢中でこちらに気が付く素振りを見せない。

 やばい、これどこに運ばれるんだ。


「たすけ、助けて! 助けて!」


 悲鳴を上げる。

 過ぎていく風景は、どんどんとダンジョンの奥へ進んでいることを教えてくれた。

 まずい。奥へ進む分には、フロアボスの階層はボスを倒す必要がないのだ。

 このままでは、ダンジョンの奥地で孤立することになってしまう。


「やばいって、助けてーっ!」

「——何をやっている」


 ボス部屋の奥の方まで運ばれた段階で、男が助けに来てくれた。

 スケルトンたちが殲滅され、ふわりと宙に放り出される。彼は自由落下する俺を片腕で支えて、無造作ながらも立たせてくれる。

 危ないところだった。もう少しでダンジョンの深層に連れ去られるところだった。


「あ、ありがとうございます」

「人が興に乗っているところに水を差すな。荷物は荷物らしく、大人しくしていろ」


 ふと、支えられたときに変なところを触られなかったことに気が付いた。

 しれっとこんな顔して注意してくれたのかもしれない。

 ……いや、これ興味がないだけだな。そういう意志がまったくないだけだ。


「さて、邪魔をされたな。仕切り直しといこうか」


 男は剣をスケルトンジェネラルへ向け直す。

 スケルトンジェネラルは既にボロボロで、俺がスケルトンたちと戯れている間に激戦が繰り広げられていたようだ。


「オ゛ォ゛ォ゛! ヨグ、モ。オノレ゛ェ゛!」


 怨念のこもった声でスケルトンジェネラルは叫ぶ。空虚な眼孔がこちらを睨みつけてきた。

 込められた気迫に思わず怯んでしまう。

 けれど、男は嬉しそうに、かつ好戦的な笑みを浮かべた。


「敵ながらいい気迫だ。これ以上恥を晒すことのない様に終わらせてやろう」


 彼の姿が消えた。少し遅れて、スケルトンジェネラルの背後に現れる。五メートル以上離れている距離を一瞬で? 目で追えなかった。

 男が剣を鞘に納めてから一拍遅れて、スケルトンジェネラルが膝から崩れ落ちる。その衝撃でばらばらに崩れ落ちていく。

 地面を転がっていくスケルトンジェネラルの頭蓋骨。それと目が合った、気がする。


「——メ、ザマ」

「……え?」


 俺を見て何かを言ってきた。聞き取れなかったが、確かに何かを伝えようとしていたように見えた。

 しかし、次の瞬間にはスケルトンジェネラルの頭蓋骨は男に踏み砕かれ、塵となって霧散する。

 何を伝えようとしたのか、もうわからない。


 いや、気のせいだったんだろう。うん。モンスターが話すだなんて聞いたこともないしな。

 俺の聞き間違いだ。鳴き声が偶然そう聞こえただけ。それでいいだろう。


「残されたのはこの旗だけか。……俺の求めているものではないな」


 男には何も聞こえていなかったのか、彼はただただドロップ品を物色している。


 イレギュラーは多かったが、何はともあれボス部屋の扉は再度開かれた。

 ボス戦は、終わったのだ。

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