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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第二章 ロザリンドの魔手

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第32話:シャーロットとオークション開催

 オークション会場は見事、というべき豪華さだ。

 段々とステージを見下ろすよう扇状に並べられた椅子たちは、前世の劇場ホールそっくりだ。

 いや、それよりも豪華かもしれない。使われている素材の煌びやかさは使う人々の生活水準を上回る程度に整えられているに違いない。

 だって、そうしないとメイン利用客の目を楽しめられない。でも、彼らは盗むとかは考えないんだろうな。そのぐらいの人たちしか利用できない場なんだと、再認識する。


「ひっろいですねー」

「おい、俺らの席はあるのか。立ち見とかではないんだろうな?」

「ああ、それならきちんと用意されてますよ。えーと、あっちかな?」


 カタログの背面にはホールの座席表がある。

 カタログ本体と一緒に送られてきた紙を読み、指定の座席の場所を探す。多分、こっちの方だと思うけど……。ああ、これかな?


「ここら辺ですね」

「ふむ、悪くないな」


 俺たちの席は、ステージから見てやや左側に寄った中段の位置にあった。

 もっと前の方かと思ったけど、そういうわけではなさそうだ。


「もっと前列の下の方かと思いました」


 オークションの品と一緒に品定めで見られるように前方で一塊にされるものだと。

 そうした方が、色々と都合がよさそうに思える。


「通常なら、そうだろうな。だが、周りを見てみろ」


 リヴェンに促されて周囲を見回す。

 見たことがある顔がちらほらと……当然、全員冒険者だ。彼らはそれぞれ固まらない様に、ばらばらに配置されているみたいだ。

 ううん? まばらに分布してるなとは思う。本当なら身分が下ってことで、全員まとめて最下段の前列に押し込められそうなものなのに。


「不思議か?」

「ええ、まあ」


 リヴェンはわかっていない様子の俺を鼻で笑う。おいこら。


「俺らは顧客兼、護衛という事だ。よく見ろ、二階の上等な席近くにはレイナードがいる。他にもそこそこやりそうな奴らは揃って上階、そうでない奴は下の方だ」


 言われて見直すと、確かに。

 なるほど、何かあった時には俺らに周りの人々を守らせるつもりだったのか。

 それじゃあ、上等な席に近いほど連盟からの評価が高いってことか?

 それとも、護衛する腕が高いって見込まれてるってこと?


 ん? じゃあなんで俺がこの位置? 戦闘能力がほぼない俺なんかもっと下でいいはず。特に、今回はリヴェンを連れて行くと事前に連絡した覚えもない。

 ……まさかな。


 そう思ってリヴェンの方を見ると、あの愉快気に笑う表情をしていた。思っていることはわかる。俺が考えたくないことだ。


「随分と連盟からは気に入られているらしいな。幸運の女神様は」

「ああああああああ! それやめてくださいって何回も言ってますよね!」


 お前本当にやめろ、恥ずかしいったらない。

 あー、ほんと。嫌な奴だよ。ふざけやがって。

 あっ。恥ずかしさから視線逸らしたらレイナードと視線があった。手を振ってきたし、振り返しとこ。


「因みに、どういう基準で席の等級を考えている?」

「え? 単純にステージの見やすさじゃないんですか?」


 俺が知ってる劇場の席はそうだ。二階の一番前とか側面の観覧席は上等だとか、前列はそうでもないとかぐらいの知識しかない。

 他になんかあるか?


「……お前は変なところで知識が足りないな」

「失礼な!」


 ため息交じりに言うセリフがそれかよ!


「会場の仕組みをよく見ろ」


 リヴェンは指を一本立て、次々に会場の各所を指さしていく。


「まず、出入口に近いところ。あそこは何かあった時に外へ逃げやすい。同時に、正面から敵が乗り込まれた際には真っ先に危険になる。だから一長一短だ」

「ふむふむ」

「次に二階席。これは比較的安全だ。下階に比べて途中の経路が複雑で防衛網も堅い。観覧目的としても全体を見回せて悪くない。つまり、上等な連中が集まるところだな」

「なるほど」

「ステージ付近。ここは狙われやすく、何かイレギュラーが起こるとすればここだ。出入口からも遠く、近すぎるあまり優雅な観覧にも適さない。危険かつ不便な場所だ」

「そうなんですね」


 下階の中央付近は自由に動けるから、判断を臨機応変にできる人材が割り当てられるとのこと。

 こいつ、周囲を見回してると思ったらそんな戦術的な事考えてたのか?

 何と戦う気なんだ。俺説明したよな? ここはこの町で今一番安全な場所だって。

 なあ、戦闘から一回離れないか?


「……護衛も兼ねるということは、いざという時の可能性を考えておく必要があるということだ。あまり気楽に構えすぎるなよ」


 考えていることが丸わかりだったのか、リヴェンは目を細めてこちらを見てくる。

 ちょっと、圧が。圧が強いかな。


「え? あ、そうですねー。あはは……」


 ちょっと不真面目に見えてたのか? でも、俺は正直オークション楽しみに来ただけだし……。

 それに、実際に荒事になっても俺ができることなんて何もない。

 俺の回復魔法も正直そういう状況だと凄い使いづらいしわかってほしい。

 あっ、でも俺の回復魔法は触れてる相手にしか使えないって教えたことないんだっけ。じゃあしょうがないか。一般的な回復魔法は普通に離れてても回復させられるもんな。ある程度近づく必要はあるけれど。


 気を取り直して、オークションに意識を戻そう。

 もう少しで始まるはずだ。


「思ったよりも満席になりませんね」

「……お前、正気か?」


 なんだよ。その世間知らずを見る目は。

 知るわけないだろ! 前世でもこういう場には縁がなかったんだよ!

 あっ、でかでかとため息吐きやがった!


「隣り合うところに知り合い以外を置くわけがないだろう。こういうのは、予め招待する人数に合わせて席を割り振っておくものだ」

「そうなんですか?」

「大衆向けの観劇では違うだろうな。だが、今回は見たところ招待客しかいない。なら、不要な軋轢を避けるためにある程度の区分でスペースを分けるのが良策というわけだ」


 ああー、うっかり仲が悪い連中が近くの席にいたら嫌だもんな。

 じゃあひょっとして、上階の人が多くて下の方の人が少ないのはそういう事なのか?

 向こうは一大グループとかで、下のはそれに属さない人たちとか?


 リヴェンに視線で答え合わせを求めると、静かに頷かされた。


「ついでに加えるならば、冒険者との知己を深めるための割り振りでもあるんだろうな」

「あっ、あー! もしかして、私たちの側の席が空席なのは、上の人たちが気になる冒険者の近くに座りに行けるように……」

「あくまで予想だがな」


 オークションのやり取りを通じて、探りを入れられるように冒険者たちの周りはある程度自由席にされているってわけか!

 いやあ、よくも考えてあるものだ。俺は身分とかの事しか気にしてなかった。

 でも、この場で即興で考えたにしては詳しすぎる気がする。

 もしかして……。


「こういう場に覚えがありそうですが、心得があったりします?」

「……多少な」


 やっぱり。

 道中でも育ちはいいとは思っていたが、こういう場所にもよく来るような身分だったんだな。

 参加する側だったなら、そういう事に詳しくてもわかる。

 ま、こいつは交流とかしないでぽつんと一人で座ってそうだけれども。


 失礼なことを考えているのがバレたのか、またじろりと睨みつけられたので慌てて視線をステージに向ける。


「あっ、ほら、始まりますよ」

「……誤魔化されてやるか」


 助かったみたいだ。


 騒々しかった会場も、ほとんどの人が席について近くの人物と歓談している。

 レイナードはここでも大人気だ。遠目からでもしょっちゅう話しかけられている様子が見られる。

 一方で、俺たちの周りには誰もいない。先ほどの通路でのやり取りの影響もあるだろう。俺としては、いない方が気楽でいい。

 俺たちもそれぞれ席に着き、オークションの開始を待っている。


 会場の照明が暗くなる。ステージが明るく照らし出される。

 始まるのかと思っていたら、ステージの暗幕が開いた。

 拡声器となる魔道具を持って、可愛らしいお姉さんがステージの端から中央へ歩いてくる。そして、中央で足を止めて一礼した。


「みなさんお待たせいたしました! 今季も我ら冒険者連盟主催、オークションを開始の時刻となりました!」


 開始の宣言と同時に会場が沸く。方々から拍手が聞こえ、俺は思わず周囲を見回してしまった。


「通常のダンジョンの品では満足できない! 表にはあまり出てこない希少品を手に入れたい! 是非とも叶えましょうその願い! 夢の品々が載っている魔法の本は片手にお持ちですか?」


 魔法の本、カタログの事か。

 ちらりと脇に置いた本を見る。きちんとそこにある。


「これより開かれますは、四日間の妖精市(フェアリーマート)。同じ品が二度出てくるとは限りません。一期一会の旅路を、どうか最後までお楽しみくださるようお願いいたします!」


 そう言い終わると、また一礼。同時に、先ほどよりも大きな拍手が巻き起こった。


「ねえねえ、こういう口上ってお決まりなんですか?」

「そうかもな。オークションに参加したのはこれが初だから確実なことは言えん。観劇では似たような口上はあった」


 はえー。やっぱり場を盛り上げるのって大事だからどこでもやるんだな。

 俺も思わず聞き入っちゃったもん。なんか、不思議と耳に入ってくる声だったんだよな。

 あの拡声器の魔道具の効果だろうか。だとしたら、あれも相当高価なものだけれど。

 ……あれ持ってアイドルライブでもやってみたらどうなるんだろ。この世界でアイドル見たことないし、見てみたいな。


「カタログの内容は覚えているのか? 出品内容は載っているんだろう?」

「あっ、はい。一日目から三日目までは全部載ってますね」

「予算はあるのか」

「えーと、一応金貨五十枚ほどは……使う気はありませんが」


 おい、なんだそのしけた額みたいな顔。

 これでも必死に貯めた平和な生活への第一歩なんだぞ!


「それでは、開幕を飾りますは――」


 おっと、始まった始まった。

 気を取り直して、俺はオークションの熱気を存分に楽しむことにした。

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