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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第二章 ロザリンドの魔手

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第26話:シャーロットと二週間後

「いらっしゃいませー。あっ、リヴェンさん。今日はどうかしましたか?」

「飯だ」

「はいはーい。マスター、いつもの一丁でーす!」


 調査依頼が終わり、俺たちの関係は平時のものへと戻った。

 補佐するという名目通り、何か用事があれば俺はリヴェンに呼ばれて色々と案内して回っている。この町についても既に大分理解が進んだだろう。

 その影響か、ここ最近のリヴェンは物腰が少し柔らかくなった。


 常に何かを警戒していたようなのが、打ち解けてきたのかもしれない。

 連盟でも、俺がやり取りを仲介しなくても良くなってきた。この間受付嬢の子に逆ナンされてた時はどうかと思ったけど……。


「最近よく来てくれますね、気に入ってくれましたか?」

「……まあな。ここらではこの店が一番優れている」

「ですってよマスター! やっぱわかる人にはわかるんですって!」


 育ちのよさそうなこいつにも認められるなら、やっぱりうちの料理は一級品なんだ!

 こうなったら、これを全面的に持ち出せばもっと繁盛できるのでは? 今の立地も悪くないし、外からくる客も取り込めるようになれば二号店を出すのも夢じゃない……?

 そんなことを考えているうちに料理もできた。安い、早い、美味い! 前世のフレーズだけど、これは真を突いてたんだな。


「はい、どうぞ。ふふ」

「なんだ、急に笑い出して」

「いえ、リヴェンさんもすっかり馴染んだなと思いまして。うちの店に」


 最初に訪れた時は――俺が悪かったとはいえ――あんなに浮いていたのに。

 今となっては、常連さんに交じって飯を食っていても誰も気にしていない。時々俺と関りが深いからという理由で絡まれているけど、逆にいえば絡んでもらえるぐらい馴染んでいるということだ。


 なんだかんだ、調査依頼が終わってから二週間ぐらい経ったかな。

 その間に大きな出来事もなかったし、お金は順調に溜まっていっている。

 リヴェンも連盟から一目置かれるようにはなってきたかな。そろそろ個人で依頼を受け始めることもできるはず。


 ぼちぼち、俺の補佐無しでもなんとかなる感じにはなってきた。かなり早い段階だけれど、終わりが見えるのはいいことだ。

 俺としてはこの契約、めっちゃ利益が出るから続けたいんだけど……。こいつが有能すぎて俺がいらなくなる速度まーじで早い。


「……なんだ。こっちを見て」

「いいえ、なんでもないでーす」


 こいつ、俺のことどう思ってるのかな。

 いや、どうせ都合のいい道具ぐらいにしか思ってなさそうだけど。顔に惑わされてくれるような人間じゃないし。


 こうやって改めて人との関係性を考えると、俺こいつの事結構気に入ってたんだな。

 そりゃあ、出会い方はあれだったけどさ。そこまで悪い奴じゃないってのは結構早い段階でわかったし。

 最近は憑き物が落ちたみたいに穏やかになってきたし。焦りがなくなったというか、腰を据える覚悟ができたというか。

 思えば、最初のあの雰囲気はダンジョンの秘宝を最短で手に入れようという焦りがあったんだろうな。ダンジョンの秘宝を求めてるなんて、どんな事情があるんだろう。

 色々と不思議な奴だよなぁ。


 リヴェンはそっちが主目的だと割り切ってる影響か、俺を一切そう言った目で見てこないから、こいつと話してると俺も心休まるようにもなってきた。男の人と話していて気を使わなくていい相手は、これで四人目だ。

 本当に、得難い縁だと思う。


「今日は何の御用ですか?」

「なんだ、飯を食いに来ただけではだめなのか」

「駄目ではないですけど、リヴェンさんがうちに来るときって大体私に会いに来てくれたときじゃないですか~」


 あ、眉が動いた。ちょっとイラっとしたみたいだ。

 俺のこういう能天気な動きが気に入らないみたいなんだよな。


「……飯を食い終わったら話す」

「はいはーい。あっ、いらっしゃいませー、こちらの席にどうぞー!」


 俺への話よりも、飯を優先か。本当にうちのご飯を気に入ってくれたようだ。

 それはそれで、とても嬉しい。


 リヴェンが飯を食べ終わって、口の周りを拭いている。育ちがいいなぁ。

 周りを見てみる。豪快に食べかすを散らかしている連中ばかりだ。

 でも、周りがそんな中でも上品な仕草が嫌味に見えない当たり、本当に堂に入ってる。


「……どこか周りに話を聞かれない場所はないか」

「人前では話しづらい話ですか?」

「ああ。少しな。今後の活動にも関わる話だ」


 今後の活動に関わる話か。それは大事な話だ。

 んー、でもここら辺で秘密の話ができるところってどこがあるかな。

 奥の部屋? マスターには聞かれる恐れはあるけれど、それを許容してくれるのなら。

 それがだめなら俺の部屋しかないけれど……今アリスちゃんいるんだよね。


「どっちがいいですか?」

「そもそも俺がお前の部屋に入ることを気にしないのか」

「え?」


 言われれば、まあ確かに。

 リヴェンならいっかなって思ってたから特に気にしなかった。

 別に下心とか持たないだろうし。奥の部屋よりも俺の部屋の方が秘匿性は高くなるし。


「……まあ、別にいいですよ?」


 周りが騒めいた。なんだなんだ。それそんなに変な事言ったか?

 ……少し考えてみて理解した。思わず顔が赤くなる。

 しまった。本当にめっちゃ気を許してた。まるでこれじゃ俺が誘ってるみたいじゃないか。

 あっ。リヴェンが大きく溜息吐いた。


「わかった。そう言うのならお前の部屋でいい。だが、何もする気はないぞ」

「誘ってるわけじゃないですから! 本当ですから!」

「その程度の事はわかっている。はぁ、お前はその迂闊な動きをする癖を治せ」


 頭に手を当てて呆れられる。


「い、いいですから! ほら、行きましょう! 早く、早く!」


 こうなったらもう急いでこの場を離れたい。顔が熱い。


 無理やり背中を押して、二階の俺の部屋まで連れてくる。

 部屋の中に入ると、ベッドの上に寝転んでアリスちゃんが絵本を眺めていた。

 どうやら文字の勉強をしていたらしい。一人でも文字が読めるように勉強しているなんて、とても偉い。用意した甲斐があるってものだ。


「あっ、お姉さん! と、お兄さん」

「きちんと過ごせているようだな」

「ふふん、うちの次代の看板娘ですよ」

「ほう、明け渡す気になったのか」

「いえいえ、まだまだ私がナンバーワンですけどね!」


 他愛のないやり取りをしてから、アリスちゃんには少しの間部屋から出てもらった。

 残された絵本をリヴェンは興味深そうに眺めている。


「見たことがない類の本だな。絵があるということは、図鑑か?」

「それはアリスちゃんのために作った本ですね。絵と文字があるので、文字を覚えるのに使えるなと思いまして」


 幼い子供が文字を覚えるのにはやっぱり絵本だろうと思って、作ったのだ。

 幸いなことに、お金と時間に余裕があるからできたことだ。

 市民権を買うにしても、少し時間をおいてからの方がいいという判断で、まだお金は手元に残してある。市民権を買っても今すぐにどうこうできるわけでもないしね。

 それなら、お金をある程度遊ばせておいて、必要になった時に備えられるようにしておいた方がいい。もちろん、お金を使える余裕が生まれたらすぐにでも市民権に替えたいけれど。


「絵本、だと。作った? 誰がだ」

「誰がって、私がですよ」

「お前が?」

「はい」


 なんだなんだ。そんなに驚かれることか?

 リヴェンは絵本のページを次々にめくって、内容を読み込んでいる。

 読み終わったらしく、本を閉じられた。


「お前は作家だったのか?」

「違いますよ?」

「ならば、話作りの基礎、絵の描き方、どこで習った。素人の駄作というわけでもなかったぞ」

「……あっ」


 話に関しては前世で見聞きしたものだし、絵に関しては前世の趣味の一つだった。

 全て前世産です。説明のしようがない。

 これは……取れる選択肢一つしかないな。


「そ、そんなことどうでもいいじゃないですか! それよりも話って何ですか?」


 全力で話を逸らす! それしかない!

 ほらほら、本題に入ろうよ!


「……」


 ああ、凄い目で見られてる。胡散臭そうなというか、詐欺師を見る目で見られてる!

 でも説明できないものは説明できないし、誤魔化しきるしかない!


「ほら、アリスちゃんをあんまり廊下に待たせてると悪いですよね? さっさと用事済ませてしまいましょう!」

「まあ、いい。追及は今度させてもらうとしよう」


 許してもらえた? ぎりぎりセーフかな?

 問題の先送りでしかない気がするけれど。まあ今凌げれば後でどうにかできるでしょう。こんなどうでもいいこと、忘れてるかもしれないし。


「それでだな今から二週間後に少々忙しくなる予定が入った。お前を連れて歩いている余裕がないかもしれない」

「……それが案件ですか?」

「そうだ。一応俺の補佐役だからな。都合をつけておくべきだろう」

「それは、そうなんですが。ううん」


 二週間、二週間後か。何かあったような気がする……。なんだっけ。

 結構楽しみにしてたイベントだった気がするなぁ。

 思い出した。オークションだ。


「うーん、そうですか。実は誘おうと思ってたイベントがあるんですが、ちょうど被ってしまっていますね」

「被っている? 何かお前の方でも予定があるのか」

「そうですね。この間の調査依頼での報酬の一環で招待されてるイベントがあるんですよ」


 レイナードぐらいになると、自分の伝手で行けるだろうから、リヴェンを誘おうと思ってたんだった。

 俺が一人で行くと、それこそ参加者に襲われる可能性があるから一人ではいけないし。リヴェンが不参加なら、しょうがないけど不参加にするしかないかなぁ。


「何のイベントなんだ?」

「興味あります?」

「聞くだけは聞こう」


 予定あるけど、これそうだった行くみたいな感じなのかな。

 面白そうかどうかで余裕作ってくれるかどうかみたいな感じなのかもしれない。

 なら、一応伝えるだけ伝えますか。伝えて駄目なら、半分諦めで。


「連盟主催のオークションですね」

「オークション? どんな品が出品されるんだ」

「気になります? 出品予定品のカタログ貰ってますから、見てみますか」


 オークションに現段階で出品される予定の品は、既にカタログとしてもらっている。これは招待客全員に配られているらしい。

 じゃあ落札目的じゃないのなら参加する必要はないんじゃないかって? そういうわけでもない。

 オークションには飛び入りや、急遽出品されることになった品なんかも出てくる。そういうのに逸品が紛れてたりするものだ。


 だから実際にオークション会場にはいきたいんだけど……。

 と思ってたら、リヴェンがカタログの特定の部分をじっと見て動かない。


「何か気になる品がありましたか?」


 言いながら背伸びしてカタログを覗き込む。

 見ていたのはどうやら刀みたいだ。とことん武人だなこいつな。


「……このオークションには、俺も参加できるのか?」

「え? 私がついていればできますけれど、二週間後ですよ?」

「なら、参加する」

「用事は!? 二週間後って忙しいんですよね!?」

「何とかする。お前も手伝え」


 有無を言わさぬ口調。そこには出会った当初に戻ってしまったかのような圧があった。

 何がそこまで引きつけられたんだ?


「何か欲しいものがあったんですか?」

「……ああ」


 重苦しい、引き出すような肯定の言葉。

 それだけ欲しいと思うのに、前向きさを感じない。

 いったい何に、そんなに惹かれているんだろう。


「その刀が、そんなに欲しいんですか?」


 リヴェンは一瞬たりともカタログから視線を逸らさず、重々しく頷いた。

 

「一体それは何なんですか?」


 俺の問いに、答えようとして一度口を開けたが、すぐに閉じられる。

 答えるかどうかで迷っているみたいだ。目を閉じて、熟考している。

 少しの間の沈黙。やがて、考えがまとまったのか、目を僅かに開いた。


「……亡き友の、遺品だ」

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