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TS異世界転生姫プレイ  作者: farm太郎
第一章 ダンジョンの異変
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第13話:シャーロットと異名の理由

「燃えっろ~」


 気の抜けた掛け声と共にモンスターの群れが炎に包まれる。いつ見ても恐ろしい魔法だ。これが人に向けられればひとたまりもない。


 現在第二階層。階層を一つ下りたことで、ダンジョンに変化が起きた。

 まるで下りる俺たちを先に行かせない様にモンスターたちが動いていると錯覚させるほど、接敵回数が増えたのだ。


 なるべく温存の方針を取っていたトリシェルの魔法も解禁して、少しでも探索の速度を速めつつ。

 俺の出番がきていないのが幸いか。回復魔法が必要なほど重傷を負ったやつは今のところいない。


「しっかし、モンスター増えたねぇ」

「これがイレギュラーと言えばイレギュラーだけど、何がそうさせているのかを確かめないとね」


 そうだ。それが調査というものだ。

 不意にこちらの顔を覗き込むように、体を捻らせたトリシェルが見てきた。


「ねーえ、シャーロットちゃん。特に何も感じない?」


 唐突だな。何だいきなり。

 真っすぐ見つめられると、ちょっと照れくさくて顔を背けてしまう。

 にかりと笑われた。な、何だよ……。


「いえ、特には……」

「んー、じゃあ気のせいかな」


 なんだよ! 何が気のせいなんだ。

 いきなり話を振られてもわからないっての。お前と違ってこっちは感覚型じゃないんだ。

 感じ取れる範囲も内容も段違いなんだっての!


「何か気になる事でもあるのか」

「黙りなよ。私に話しかけるな」


 おいおいおい。まだ喧嘩腰なのかよ。

 リヴェンも片眉を上げて、怪訝そうにしている。何が原因なのか、何が目的なのか計りかねているんだろう。

 しょうがない、俺が割って入ろう。


「喧嘩はやめてください。それで、何か気になるんですか」

「んー、ちょっとね。でも、シャーロットちゃんが何も無いっていうのなら、気のせいだと思う」


 何なんだその俺に対する信頼度の高さは。

 不思議そうにレイナードがトリシェルに問いかける。


「言ってみたらどう? 悩むなんてらしくもない、君はとりあえず動くタイプじゃなかったっけ」

「まあ、そうだけどー。ちょっとね、口にはしづらいというか……」


 そう言いながら、トリシェルはしきりにこちらの様子を窺っている。

 何なんだ一体。セクハラのタイミング以外でこいつがそんな周りを気にするなんて、珍しいこともあるものだ。


「まあいっか。新米で物を知らないリヴェン君はシャーロットちゃんが幸運の女神様って呼ばれてる理由を知ってる?」

「……厭味ったらしい。知らんが、それと何の関係がある」


 因みに俺も詳しくは知らない。

 一緒にダンジョンに潜っていた仲間から、幸運のお守り扱いされてるのは知っていた。

 幸運のお守り扱いがなんでそう大層な呼び名になったのか、経緯はさっぱりわからない。

 そもそも幸運のお守り扱いされてる理由にすら明るくないんだけれども。


「ダンジョン関係の判断で、シャーロットちゃんが間違うことはないんだよ」

「ええっ!?」


 何それ。さらっと凄い重圧かけられた気がするんだけれど!


「ほう、興味深い話だな」

「ダンジョンの声を聞いてるって噂だよ。そこらへんどうなの?」

「知りませんけど!? なんですかダンジョンの声って!」


 ダンジョンの声ってなんだよ、そんなもの聞いたこともないぞ!

 俺の驚愕を見て、トリシェルは曖昧に笑ってみせる。


「……所詮噂だったみたいだね。とにかく、冒険者間では困ったときにはシャーロットちゃんに聞けば、正しい判断が得られるっていう共通認識があるんだよ」

「えぇ……なんですかそれ。リーダーが判断を下してくださいよ、私じゃなくて。なんで私に責任を負わせるんですか」


 確かに物を聞かれることは多かったけどさぁ。そういう経緯だったの? 驚きだよ。

 なんでそういう噂が広まったのかも疑問だし。誰だよ言い出したの、本当に。


「まあ、曰くがない話でもなくてね。シャーロットが無理だって判断したことを強硬しようとすると碌なことが起きない。っていうのが発端かな?」

「そんなの、素人にもわかる危険に突っ込む方がおかしいって話なんじゃないですか?」


 俺の言葉でレイナードは笑う。

 当然だ。俺にもわかる危険に突っ込む奴がおかしい。


「シャーロット、君は今の状況を考えて、今すぐ帰った方がいいと思う?」

「え?」


 また不意に質問で返された。何なんだ一体。


「……まだいけると思います。帰りの事を考えても、少し余裕が残るかと」

「うん、僕はちょうど一度撤退した方がいいか悩んでいたところだったよ」


 意見が食い違い、思わず一瞬固まってしまう。瞬きを何回かして、ようやく理解した。

 レイナードはイレギュラーの事を警戒しているのだ。帰りでは更にモンスターが増える可能性もある。

 モンスターの目的が先に進ませない事ならば、帰り道は簡単だろうが。そんなの希望的観測でしかない。

 ダンジョンの中では何が起きるのかわからない。それを忘れかけているところだった。


「トリシェル、残りの魔法はどんな感じ?」

「うーん。まあ範囲広げての一掃系は四回ってところかな。細々と分けるならもうちょっと使えるよ」


 四回。多いようで、実際少ない。

 今の遭遇率で考えると、帰る前には尽きてしまうだろう。


 改めて、考えてみる。帰るべきかどうか。

 ……安全を取るのなら、帰るべきだ。でも、行ける気がする。

 これに関しては感覚の問題だ。結局今日戻っても、明日以降探索しなければならない。問題の先送りに過ぎない。

 それよりかは、流れで探索できる今日のうちに終わらせてしまいたい。


 俺の魔法はまだ残っている。装備もそこまで消耗しているわけではない。明日以降の事を考えても、余裕はあると思う。


「どう、行けると思う?」

「……はい、行けると思います」


 明日以降のリソースを別のところに回すために、こちらの方がいいと思う。

 中途半端に今日を終わらせる気にはならない。


「うん、なら行こう」


 俺の意向は快諾された。

 なるほど、こういう事なのか。この判断が間違っていたことが少ないから、俺の意見が尊重される。

 幸運のお守り扱いってのも納得だ。ゲン担ぎに何よりってことだろう。

 女神ってのは、本当に言い過ぎだと思うけれど。


「幸運の女神様、ダンジョンの声を聞く、か」

「それ、やめてもらっていいですか?」


 ぽつりと嫌なことを呟くリヴェンに文句を言う。


 先を進んでいくと、不思議なことにぱたりとモンスターの出現が収まった。

 二階層の探索もおおよそ終わり、一日のやるべきこととしては十分な成果が見込まれている。

 二階層のマップを頭に思い浮かべる。やはり、三階層に降りる階段付近にモンスターが多くいた気がする。そうなると、原因はもっと奥にあるという事なのだろう。


 それよりも、何か違和感を感じる。何だろうか、この違和感は。

 奇妙、奇妙? ダンジョンの声なんて聞こえはしないが、何か耳鳴りがしているような――。


「ん、どうかした? シャーロットちゃん」

「いえ、耳鳴りがしているような気がして」

「耳鳴り? ――ちょっと待ってね」


 トリシェルはマジックバッグからポーションを一つ取り出すと、こちらへ差し出してくる。

 飲めという事だろうか。確認すると、そのようだ。

 試しに飲んでみる。何のポーションだろうか、これ。微妙な味の違いなんかで分かる人もいるが、これはあまり飲みなれない味だった。

 ……耳鳴りは少し収まった? 気がする。


「あっ、少し収まったような気がします」

「うん、なるほど。いやあ、気が付かなかったなぁ」


 マジックバッグから同じ色のポーションを取り出して、トリシェルはそれを一飲みした。


「レイナード、耐毒のポーション飲んで。多分麻痺毒がそこら中に撒かれてる」

「えっ!?」


 驚いた。これ耐毒のポーションだったのか。

 いやいや、それよりも麻痺毒が撒かれている? 耳鳴りの原因が麻痺毒?

 耐毒のポーションは解毒のポーションと成分は殆ど同じで、効果時間と効き方が違うだけって聞いたことはあるけれど、微量な麻痺毒が解毒されて耳鳴りが解消されたってこと?


 イレギュラーの一種だろうか。一般的に起こる事ならレイナードが事前注意してくれているはずだ。


「……空気中だな。言われてみれば、変な臭いがする」

「気が付かなかった。シャーロットが一番体が弱いから、効果が出るのも早かったんだね。気が付いてくれて助かったよ」

「あはは……」


 喜んでいいような悲しいような。非力なのが役に立つとは。

 でも、イレギュラーでこんなことが起きているとは。

 今このダンジョンは連盟が公式に声明を出して封鎖してるんだったかな。封鎖して正解だったな。

 知らずに彷徨ってたらいつの間にか麻痺毒に侵されてるなんてやばすぎる。


「いつからだろう」

「少なくとも二階層に入ってからだろうな。気が付かないほど微量、しかも動いている俺らよりも先に非戦闘員に効果が出るあたり、大した毒ではないだろうが」

「シャーロットちゃん、耳鳴りがしだしたのはいつから?」

「つい先ほどから……ああ、何となくわかったかもしれません」


 微弱な毒が散布されてるとなると、その範囲の特定が必要だ。

 でも、二階層全体ならもっと早くに効果が出ててもおかしくはない。

 二階層の中でも更に一部で引き起こされている現象だろう。


「たぶん、三階層へ降りる階段付近です。今の場所からもそう離れてませんし、動いているうちに回ったんだと思います」

「……なるほどな。やはり、奥に進ませたくないとみて間違いないだろう」


 俺はリヴェンの言葉に頷く。

 三階層に続く階段付近を先ほど通ったから、その影響を受けたのだと思う。

 三階層以下はこの麻痺毒散布が激しくなっていると考えていいだろう。


 本当にこのダンジョンに何が起こっているんだ? ここまで悪質な環境だとは思わなかった。


「わかった。もうすぐ二階層の探索も終わるし、それが終わったら地上へ帰ろう。三階層は明日以降になるけれど、耐毒ポーションを多めに用意しておく必要性がありそうということで」


 既に何も見つからない体で、明日以降のまとめに入っている。

 それが正しい。明らかに、イレギュラーの原因はこの先にありますよと言われているようなものだ。

 このままダンジョンを潜って、イレギュラーを無事に見つけられるのだろうか。


 明らかに苛烈になっているダンジョンの環境に、俺は内心で怯えていた。

 その様子に気が付いたのはただ一人だけだった。

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