君と彼女は違う
[空から落ちる君を見たい]
「ねェ、私がもしも別の人間みたいになったら愛してくれる?」
「………….、君としては愛さないな」
「そっか」
「でも、愛してね。私を一人にしないでね」
「あぁ、約束しよう」
紅葉が綺麗な公園。
夏の風は消え、肌寒くなってきた季節である。小学生はだんだんと上着を着て登校する季節だろう。
そんな景色を僕は病室からただ眺めていた。
別に僕が怪我をしたわけではない。病気にかかったわけでない。
ほとんど何もない部屋に、木製の丸椅子一つ。その上に座っているのが僕だ。
僕はベットの上に寝たきりの人物の見舞いに来た。
真っ白なシーツの上に横になっている葉幸。
医者が言うことが難しくてよくわかなくなったけど、葉幸は意識喪失になる可能性が高いらしい。
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭は真っ白になった。
壊れていく音がよく聞こえる。
幸せは音を立てて崩れ落ちていく。
まだ灰色の綺麗な瞳を見ることはできない。起きない葉幸に毎日会いにくるのは本当に馬鹿馬鹿しいと思う。だが、足を運ばずにはいられなかった。
一人寂しい病室に僕の息の音が響いく。
「早く、目覚めないかな?葉幸」
〈数日後〉
君が目覚めたと報告が入った。
無我夢中でアスファルトを蹴り、肩で息をする。ジンジン痛む足を気にする暇もなく病室の扉を開ける。
大きな音を立て開けた先にはいつもは見れない綺麗な黒髪。
クルリとこちらに振り向いた瞳は未来を見ているようで、何も見ていなかった。
「どちら様でしょうか?」
コレが君が最初に発した言葉だった。
高過ぎない声が病室に響く。落ち着いている声は僕の期待を壊すのに十分だった。
もしかしたら、意識は戻っているかもしれない。
そんな淡い期待だ。
病室に流れる冷たい空気は僕の汗を冷やしていく。あぁ、期待は裏切られる。いつどんな時だって。
「葉幸の友達だよ」
僕の力ない声が響くこともなく風に流された。
「そうですか、本当に私と仲良かったんですね」
「うん、葉幸とは仲良かったよ」
もう、地球上の誰よりね、僕は葉幸を愛していた。
少し話した後、病室を出た。
やはり君とは話しても、心のピースは埋まらなかった。
不安が取り除かれた心はなくなったピースがはっきりとわかる。
病室の前虚無感に打ちひしがれた。
くる時とは違い少し色褪せている廊下。
話していても、君の立ち姿も葉幸とは違う。
どう話していても、葉幸と違う人間もしてみてしまう。どうしても、どうしても違うと思ってしまうだ。
だから、君を君として愛してあげよう。
須知 葉幸の体を君が持っている限り。
葉幸と約束した事を破ることはないだろう。
「僕ともう一度友達になってくれる?」
僕はいつでも笑っているよ。
君の涙を見たくないから。
葉幸の瞳から流れる涙を見たくないから。
この偽りの笑顔尽きるまで、君のそばにいると誓おう。
君が空から落ちてくれたら、葉幸は戻ってくるのかな?
「早く目が覚めないかな?葉幸……」
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