第三十四話:優しい
ギルドから出た俺は次にメローラ姫を学校へ案内した。
その学校というのは、賢者の石の鉱山で奴隷として働かされた子供達に加えて、闘技場で危うく魔物の餌となるところだった奴隷の子供達にカミカゼが勉強を教えていた。
「これがあのククルカンですか!?」
「名前はカミカゼ……私にとっての最初の従魔です」
「美しい……初めて見ました。
しかもなんて神々しいお姿……まるで聖神教で見た風神の絵そのものです」
「初めて会った時にお見せできれば良かったのですが、今日であなたにお見せできてよかったです」
するとカミカゼが俺とメローラ姫に気づいて声をかけた。
「おや?
タツヒサ殿ではないか?
その隣にいるのは確か、アーサー国王の娘のメローラ姫……どうやら負の呪縛から解放されたようだな」
「あぁ、俺もここまで元気になってくれて良かったと思っているよ!
まさかこんなに笑顔が可愛いと思っていなくてね!」
「まぁ、恥ずかしいです!」
「それはよかったな。
余にとっては汝らのような人間のちっぽけな出来事には興味はない。
だが、タツヒサ殿の従魔となったからには、汝らに力を貸してやろうぞ。
メローラ殿……遠慮せずに余の力を頼るが良い」
「あ、ありがたきお言葉……」
俺はチラッと子供達の様子を見た。
子供達は今問題を解いている様子だった。
「どうやらあの様子だと子供達も楽しく学校で勉強できているようだね!」
「うむ、最初は余のことを恐れていたが、今となってはこのように慣れておるし、サボらずに真面目に余の授業を受けておる」
「それを聞けてよかった!」
するとメローラ姫は疑問に感じたのか、俺に質問してきた。
「ところでタツヒサさん、この子供達の親は、ここにいますか?」
「……いや、いません。
経緯はわかりませんが、この子達は奴隷として働かせていたようです。
中には、魔物の餌として売られてしまった子もいるそうです。
この子達は、おそらく二度と親に会うこともできず、家族の温もりも知らないんです」
「そうだったんですね……可哀想です。
父上も奴隷にされた子供達のことが放っておけないんです。
口では“我が国では奴隷の面倒は見ない”とは言っていますが、諸事情で奴隷となった子供達、犯罪組織などに誘拐された子供達に心を痛めています。
なので父上は、マーリン様とランスロット様にそう言った子供達を保護するように命じています。
きっと父上は、あなたが優しい人だと思っているので、あなたがこうして奴隷達を国民として受け入れていることには、何も言わないんです」
「そうだったんですね……」
なんでだろう……どこかで俺の親父のことを思い出してしまう。
親父も、そして叔父貴もなんだかんだ言って、子供や障害者などの立場の弱い人間には優しい傾向があり、あの借金を背負った人ですら、不器用ながらも衣食住は保証していた。
そういえばあの時、俺がまだ小学生で、初めて友達を俺の家に案内した時、出迎えてくれた叔父貴のことを思い出した。
「なんだお前らは?」
「え、えっと…… 辰久の友達です!」
「興味本位で来ちゃいました……」
「……坊っちゃま、アンタの友達なのか?」
「う、うん……」
「そうか。
おいお前ら、お前らのようなガキは気安くここに来たらダメだ。
ここは、俺達のような汚い大人が汚い仕事をする場所だ。
お前らはまだ純粋なガキだ…… 坊っちゃまと同じようにな。
まぁ、友人関係に突っ込むつもりはないが、せめて遊ぶ場所をよく考えておくことだ。
ここはお前らが遊びに来ていい場所ではない……いいな?」
「う、うん、わかった!」
「でも僕達は辰久がヤクザの息子と知っても、友達になりたいんだ!」
そこへ、親父が顔を出した。
「辰久、帰ってきたか!
しかもお友達も一緒とは……ワシは嬉しいぞ!」
「お、親父……」
「いつもワシの息子と仲良くしてくれて、こっちも嬉しいんじゃ!
これからも仲良くしてやってくれ!
ワシらのことを嫌ってもいいが、息子のことは嫌いにならないでくれ!」
「うん、大丈夫!」
「むしろ豹狼組ってここを守ってくれるんでしょ?」
「そ、そうなんか!?
まぁいいや……せっかくの友達じゃ!
お菓子くらい食べて帰ってくれ!」
「お、親父、ですがこの子達をここに入れるわけには……」
「あぁ!?
なんか文句あるか!?」
「いえ……ないです」
「これはちょっとした社会見学じゃ!
まぁ、遠慮せんと上がってくれ!」
「親父、いいの?」
「おう!
お前がこうして友達を連れてきてくれるのは、ワシは嬉しいからなぁ!
いや、これからの楽しみにしておこうか?」
「いや、何を言ってるんですか!?」
「お前は黙っとけや!」
「はい……」
という感じで、不器用ながらも俺が初めてできた友達のことを受け入れてくれ、美味しいお菓子も提供してくれた。
「タツヒサさん、どうかしましたか?」
「ん?
いえ……なんでもないですよ。
少しだけ、昔を思い出してただけなんです」
「昔……ですか?」
「まぁ、ちょっとしたもので、別に話すようなことではありませんよ」
「そうですか……ですが私はあなたのことが知りたいんです。
もしも私に昔話をしてくれるのなら、私はいつでも待ってますよ!」
「……うん、その時にお話しましょう」
俺とメローラ姫はそんな話をしてから、学校から立ち去った。




