第三十二話:心の闇
その日の夜、俺達はヒナセが待っている宿屋へ向かった。
そこにはずっとヒナセが外で待っていたようだった。
「遅いわよ!
ったく、心配したんだからね!」
ところが、俺の背後にいるステインとマンマゴル、そして何十人の奴隷達を見て驚いた。
「ちょっとアンタ、なんで奴隷達を連れているのよ!?
何があったのよ!?」
「悪いなぁ……これには深い訳があるんだ!」
俺はヒナセに”ある話”以外の出来事を話した。
それを聞いたヒナセは呆れた。
「そういうことだったのね。
まぁでも、オーナーがちゃんとアンタとの約束を果たしてくれたから、それでいいけどね。
でも、資金援助の話のことは、ルシファー様には内緒よ?
前にも言ったけど、カジノをする人が大っ嫌いだからね」
「わかった。
言わないようにするよ」
ところが、”ルシファー”に、マンマゴルとステインが反応した。
「なんと、ルシファー様とお知り合いでござるか!?」
「まさかアンタ達、ルシファー様の家臣なの!?」
これにヒナセが慌てた。
「ちょ、ちょっと待って!?
詳しい話はその……とりあえず二人だけ宿に入って!
それから私が話すからね!」
ヒナセはステインとマンマゴルを自分の部屋に入れて、これまでのことを話した。
その間、俺は奴隷達のために創造スキルで全員分の寝袋を創造した。
「みんな、これで寝てくれ」
「あ、ありがとう!」
「あったっけぇ!!」
「闘技場ではずっと冷たい石の上で寝てたから……」
翌日、オリュンポス帝国を後にした俺達はそのまままっすぐ帰ることにした。
一方その頃、タルタロスでは……
「兄貴、本当に良かったんですか?」
「闘技場用の奴隷を全員あげてしまうとは……」
「これでいいんだよ。
どうせ新しい奴隷と入れ替えようとしていたところだ。
そろそろ役立たずの奴隷を闘技場送りにしておけ」
「承知した」
「直ちに」
ミカアニは二人の部下達にそう命令した。
その二人の部下達はすぐに部屋から出た。
部屋には、ミカアニだけが取り残され、一人でワインを飲んだ。
「……タツヒサ、君のあの力が必要だ。
僕の復讐劇のために……彼らとの関係を良好にしておこう。
あのルシファーとも仲良くなれば、僕の復讐劇もスムーズに進む。
資金援助はそのためにあえて了承してやった……全ては、アイツらに対する復讐を!
待ってろよ……僕をここまで闇堕ちさせたあのクソ野郎ども!」
そう呟いたミカアニには、どうやら心の闇を抱えていた。
「アンデット連合には正直、忠誠心なんてない。
アンデット連合のためにこのタルタロスを乗っ取り、アンデット連合のために奴隷をここで働かせまくっている。
全てはあの時からの復讐のためにしかない……なんだってやるよ。
心を壊してまでな」
そう言いながら、ミカアニはワインを飲み干したのでした。
すると部屋にまた別の部下が入ってきた。
「失礼します」
「何用だ?」
「キュウタエがお見えです」
「久しぶりに聞くね。
いいよ、ここに招待してくれ」
ミカアニはそう指示して、キュウタエという人物を自分の部屋に招き入れた。
キュウタエは、アンデット連合の幹部の一人で、サテュロス族の男で、ミカアニにとっての“兄弟”という唯一の親友でもある。
「久しぶりだね」
「久しぶりだな兄弟。
タルタロスは相変わらず栄えているようだな」
「おかげで大変だよ。
ったく、バカな連中が簡単に奴隷にまで堕ちてしまうからね!
まぁ、ある意味奴隷の確保ができて助かるけどね」
「当然だ。
タルタロスは世界最大のカジノ!
それも、一日だけでは遊び尽くせない程の遊び場が山程ある。
一発逆転を狙ってやってくるバカも多いから、その借金で奴隷になるのも当たり前よ」
「だよね!
でもそれでも懲りずにバカな連中がやってくるよ。
まるで腐った果物に群がる虫達のようにね!」
「そういやよぉ、サンゾロがやらかしたってのは本当か?」
「うん、あの負け犬君はそもそも、アヴァロン王国で乗っ取った賢者の石は全然取れていないし、しかも例のククルカンを従魔にしたあの少年に負けてしまったからね。
傷が癒えるまでの間は謹慎処分だってよ」
「情けない奴めが……調子に乗るからだな」
「ついでに酒呑童子もまた親父に怒られてたよ」
「確か撤退させられたんだよな?
まぁ、あの本物のアホは撤退には納得しないだろうな。
よりによって、相手はあの“魔王”と恐れられたルシファーとククルカンにな」
「……ちなみにそのルシファーがいる場所の支配者がククルカンを従魔にした少年だよ。
まだ国名はないからほぼ城主だけどね」
「ほう?
あの魔物だらけの無法地帯にか?
面白そうだな……」
「その少年とは、極秘に手を組んでるんだ。
僕の復讐劇のために」
「何?」
「とは言っても本当の目的であるアイツらへの復讐劇のことはまだ彼には言っていないけどね」
「……ちなみにソイツは?」
「既に昨日、闘技場で僕のお気に入りの海坊主まで倒したよ。
今はここにはいないけど」
「是非とも会ってみたいなぁ……まぁ、俺はお前と同じ立場でいるようにするからな」
「うん、なるべく仲良くしたいからね。
一応アンデット連合とは敵対する様子だけど、僕は迷わず彼に寝返る予定だ」
「そうか、なら俺も一緒に寝返ってやるよ兄弟!」
「うん!」
するとキュウタエは何かを思い出した。
「そういや!
お前が恨んでいるあのクソ勇者一行は今どこにいるか知ってるか?」
「どこって?」
「温泉王国“蓬莱”にて、バトルコロシアムでロオル一行と試合をしているようだ」
「蓬莱か……だいぶ遠いね。
ロオルって確か、勇者を目指しているあのメローラ姫の兄で、アーサー国王の後継ぎと言われている青年だね?
僕も彼には会ったことはあるが、とても強かったよ。
間違いなく、本物の勇者になれる……アイツらと違ってね」
「一応蓬莱にもアンデット連合の幹部が一人いるようだが……どうする?」
「いや、放っておこう。
アイツらは僕自身が復讐をしないと意味がないからね」
「そっか……まぁ、力になるぜ。
俺も正直、“異世界転生勇者”と自称するあのバカどもにも恨みがある。
もしもその時が来たら、俺も呼んでくれ」
「わかった」
そう言った後、キュウタエは部屋から出た。




