第二十九話:叔父貴の言葉
「さぁ!!
ついにこの時間が来ました!!
皆様、大変お待たせしました!!
これより、“奴隷vs魔物”の開幕です!!
対戦相手となる奴隷達は12人に加え、一人の挑戦者がいて、合計13人となります!!
対する相手の魔物は……マピングアリ、トロール、刑天となっております!!
どれもダンジョンでよく見かける“ミニボス”に該当する魔物達で、どれも多くの冒険者達を葬り去ったと言われているまさに“冒険初心者にとっての障害壁”となる存在です!!」
とうとう闘技場が始まった。
「もうダメだ……おしまいだ……」
「あんな奴らに勝てねーよ!!」
「もう楽に死ねるな……奴隷から解放されるのなら」
〔既に戦う気力がないな……)
そんな俺の様子を見たステインが話しかけた。
「今戦う気力がないと思っておるな?」
「えっ!?」
「なんとなく、そんな感じがするでござる。
ここにいる奴隷達は全員最初から諦めていたのでござる。
この闘技場で戦わせられる魔物のほとんどは、普通の冒険者では勝てないような強敵ばかりでござる。
なんならダンジョンにいるボスもここに放たれるのでござる」
「じゃあ……この場にいる人達は勝てずにそのまま殺されるのですか?」
「そう言うことになるであろうな。
だが拙者とマンマゴル殿を含めた生き残りがおる。
それも、自由を得るためにこの闘技場で必死に生き残った」
そこにマンマゴルも加わって話し出した。
「アタシらは何度もダンジョンで攻略した経験があるの。
だからこうして今も生き残ることができているけど……残念ながらそう長くはないよ」
「うむ、拙者も死にかけたことが何度もあったでござる」
「そうだったのか」
(ここで生き残って、彼らをここから解放してもらわないと!)
その闘技場には、ミカアニも見ていた。
「最初はマピングアリ、トロール、刑天か……まぁ、オートブルとしては最適だがな」
「兄貴、本当にいいんですかい?」
「そうじゃないと、面白くないからね。
それより、今回の試合でのメインディッシュは、ちゃんと用意してあるんだろうなぁ?」
「問題はありません。
兄貴のお気に入りのフルコースの”5連続ボスラッシュ”をご用意しております」
「そうか……なら僕はそれを楽しみにしているよ」
(タツヒサ……君を知った時から只者ではないと思った。
君が勝ったら、約束は果たしてやるよ)
そしていよいよ最初の戦いが始まった。
「ぎゃあおおぉぉ〜〜!!!」
「グオオォォッ!!!」
「うおおぉぉ〜〜〜〜!!!!!」
マピングアリ、トロール、刑天が襲いかかった。
「ここは俺がやる!」
俺は先に立って、毒剣を取り出し、そしてマピングアリ、トロール、刑天を斬りつけた。
ズバァッ!!!
「えっ!?」
「何が起きたんだ!?」
「マジかよ!?」
「すげー!!」
奴隷達は驚いた。
そして勿論……
「アイツ何者だ!?」
「あんな強敵を瞬殺しただと!?」
観客達も驚いた。
そりゃ無理もない。
マピングアリ、トロール、刑天は全員俺に瞬殺されたからだ。
「アイツ……」
「なんと……」
ステインもマンマゴルも驚いた。
勿論、司会者も驚いた。
「な、なんと!!!
マピングアリ、トロール、刑天が瞬殺されました!!!
普通なら多くの奴隷達が苦戦して、ほとんどが捕食されているはずなのに……こんなことは今までにはなかったぞ!!!」
そんな中、ミカアニだけは微笑みながら感心していた。
「これはすごいね……やっぱりタダの転生者じゃないと思ったんだよ!!
タツヒサ……君って前世では何かすごい家の出身とかじゃないかなぁ?
例えば、先祖が武将の一族とか政治家の子供……もしくはヤクザの組長の子供とかではないだろうか?」
そしてそばにいた組員にこう命じた。
「おい、もうあのフルコースをさっさと始めろ」
「へい!」
そして俺はステインとマンマゴル(二人とも武器を持っているため)以外の奴隷達のためにより強い武器を創造スキルで作り出して、それをその奴隷達に渡した。
「い、いいんですか!?」
「こんな強い武器を俺に?」
「あぁ、使ってくれ!
ここで死ぬのなら、何もせずに死ぬより……最後はかっこよく死のうじゃないか?」
「でも……」
俺はここで、かつての叔父貴のことを思い出した。
俺がまだ幼かった頃、幼稚園から出て、叔父貴と一緒に帰っている途中で、組員達がボロボロになってやってきた。
話を聞くと、暴れ回っている外国の犯罪組織との抗争で負傷したようだ。
「お前ら……こんなところでノコノコとそんな情けない姿を見せに来たんか?」
「す、すいません!
ですが頼みがあります!」
「何?」
「叔父貴、すぐに援軍と一緒にこちらに来てもらえへんやろか?」
「アイツら、相当な兵力で俺らを追い詰めてるんですわ!」
「せやから援軍が必要です!
叔父貴も来てくれると」
叔父貴はここで叱責した。
「何甘えたこと言ってんだ!!!
俺らは誇り高き豹狼組やろうが!?
ヤクザとしてのプライドを捨ててどうするんだ!?」
「す、すいません!!」
「すみません!!」
「せやけど……」
その時に言った叔父貴のあの言葉は、今でも覚えている。
それを思い出した俺は、奴隷達に叔父貴と同じことを言った。
「不利だからって、数で勝とうとかより強い武器を持とうとか……必ずしもそれで勝つとは思わないことだ。
負けるつもりで挑んで来い……死ぬ時は、せめてかっこよく死のうではないか?
そして生き残ったら、しっかりと生きる希望を持って、新たな人生を挑もうではないか?」
それを聞いた奴隷全員が涙を流した。
「……そうだよなぁ」
「アンタの言う通りだ」
「目を覚ましてくれてありがとう!」
「せめて、戦って死のうじゃないか!?」
奴隷達の士気が大幅に上がった。
(あの後、叔父貴からそう言われた組員達もやる気を出して、簡単な手当てをした後に再び殴り込みに行ったんだっけ?
その結果、外国の犯罪組織との抗争でその外国の犯罪組織は完全壊滅……豹狼組たったの数人で外国の犯罪組織を潰したってニュースでそう取り上げられたな?)
「……アイツ、やるじゃん」
「生きる希望を与えたようだ」
ステインとマンマゴルは感心していた。
(奴隷の士気を上げるとは……しかも創造スキルも持っていたとはな)
ミカアニもそう思いながら感心していた。
そんな時、いよいよ次の戦いが始まった。
「お待たせしました!!
ここからはスペシャルな試合”5連続ボスラッシュ”を行いまーす!!
先ほどのマピングアリ、トロール、刑天が瞬殺されましたが、果たして奴隷達は無事に生き残れるのか!?
さて、最初に戦ってもらうのは……」
すると、闘技場に巨大なムカデが現れた。
「アレはジパングのダンジョンでよく見かける大百足ではないか!?」
ステインが驚いた。
「グルルルルルッ……」
大百足……ステインによると、ジパングでは一般的に見かけるボスだそうだ。
(大百足は確か、藤原秀郷に倒されたという伝説があったな)
「侍の国ジパングで見つかるダンジョンによくいると言われているボスモンスターの一体で、あの土蜘蛛と同様に多くの冒険者達を葬り去ったと言われています!!
なんでも、即死するほどの最強の毒の牙を持ち、噛まれるとあのマンモスですら即死だと言われています!!
今回は、この大百足が最初のボスとして君臨します!!」
そして大百足は俺達を襲いかかった。
「おりゃあぁ!!」
ズバァッ!!!
真っ二つに斬った。
しかし、大百足はなんと再生して、元に戻った。
「斬ったはずなのに、再生して元に戻った!?」
「グルルガアァ〜〜ッ!!!」
すると、ステインが立ち上がった。
「ここはそれがしにお任せを」
そう言って、刀を取り出し、その刀を大百足の首を目掛けて斬り出した。
「北辰一刀流……不動散華剣!!」
ズバァッ!!!
ステインは見事に大百足の首を斬り落とした。
「タツヒサ殿、今だ!!」
「あ、あぁ!!」
俺は首を失った大百足の胴体を斬った。
ドサッ!
しかし、斬られてもそれでも動き出した。
「みんな、ここでトドメをさすよ!!」
そう言って、マンマゴルは10人の奴隷達と一緒に斬られた大百足の胴体に一斉攻撃した。
「フッ、大百足は首を失っても体は動き続ける。
その体を細かく刻まないと倒せない。
まぁ、大百足は、倒し方さえわかれば、たいした敵ではないがな」
ミカアニはそう呟きながらワインを飲み干した。
「これを見ながら飲むワインは格別だな」
「兄貴、おかわりしましょうか?」
「いや、だいぶ飲んだから流石にそこまでにする」
そして俺達はなんとか大百足を倒すことができた。
「アイツって不死身なのか?」
「……いや、単純に再生スキルが異常なだけで、それ以外はたいした敵ではない。
だが、お主のその異常な攻撃力のおかげで、倒すことができた。
感謝致しまする」
「まだ礼を言うのは早いと思いますよ!
これからが本番なんで!」
「……確かにそうね」
ステインとマンマゴルと俺の様子を見たミカアニは指示を出した。
「次はアイツを放て」
「へい!」
「少々お待ちを」
(次からソイツらの出番がないかもしれない……その時こそ君の”真の実力”が見れる。
期待しているからね、タツヒサ……)




