第二十八話:クール系エルフとサムライ・ドワーフとの出会い
「実力が知りたい?
そのためだけに?」
「君に来てもらったのは、ククルカンを従魔にした君の実力をこの目で見させてもらうからです」
「な、なんだと!?
だったら最初からそう言えばいいのに!?」
「そうはいきませんよ……こうして君に僕の長話に付き合ってもらったのは、闘技場のセッティングの準備をしていたからです。
つまり、この時点で既にその準備は終わったのです」
「兄ちゃん、アンタと一緒に来ていたあの商人の女の子がオリュンポス帝国内の宿屋にアンタの従魔と一緒にいることはわかってるんですよ」
「ま、まさか!?」
「そのまさかや!」
「あの子達に悪いが、アンタが言うことを聞かなかった場合、その子達をここに連れてきますわ」
「ついでにあの酒呑童子が襲撃した例の場所にいるルシファーや例のククルカン、山賊クマゾウ、そしてそこの住人達も一緒にな」
(コイツら!?)
「安心してください……場所が分かっただけで、何もしてませんよ。
ただ、この場で抵抗するのなら、ソイツらをここに連れてきて、目の前で処刑しますよ。
勿論、負けた場合はそれに加えて、僕達も君が作ろうとしている国となるあの無法地帯もいただきます」
「やっぱりお前らは……」
「そう怒るなや。
何もしてないってさっき言うたやろ?」
「だからって!?」
「アンタは、おとなしく闘技場に出て、勝っていればいいんですよ…アンタはそうやって、闘技場を盛り上げればいいんですからなぁ」
「君に拒否権はありません…僕は君を信じているからね…ククルカンを手懐けた少年って、それ相応の実力を秘めているはずだからね」
「……」
「兄さん、どうしやす?」
「はぁ、わかったよ。
参加すればいいんでしょ?
勝ったら、文句はないんだろ?
でも、こっちにも条件がある!」
「なんやと?」
「条件ってなんや?」
「黙ってな!!」
「あ、兄貴!?」
「ですが……」
「彼を無理矢理出場させるんですよ?
そのくらい、僕が君の条件を聞かなければならない権利がありますからね。
それより、その条件って?」
「……闘技場に奴隷がいるんだろ?
その奴隷達をこっちに譲ってくれ。
それと、タルタロスの金を資金援助として送ってくれ」
「な、なんやと!?」
「ふざけんなや!?」
「調子に乗るなよ?」
「……問題ない。
でも、金を送ってもいいけど、何に使うの?」
俺は真剣な顔になって言った。
「……俺の国造りのためにな」
それを聞いた俺以外全員驚いたが、ミカアニだけは微笑んだ。
「なるほど、そう言うことか……だからあの場所に、城があって、そこにあのルシファーがいるとはなぁ……」
「彼女は一応、引退して、隠居している最中です」
「知っていますよ。
こちらで調べはついていますから……」
「兄貴?」
「まさか、あんな奴にこのタルタロスの金を!?」
「いくら使っても、金はここに腐るほどあるんだよ。
問題ない……資金援助してやる。
ただし、闘技場で勝てたらの話だけどね。
君は戦えるかい?」
「あぁ」
「では、死ぬ覚悟は?」
「勿論、ある」
「……フッ、それで結構です。
君には覚悟があるようですね」
「ここに来た時点で死ぬ覚悟はできている」
「……わかった。
では、始めようか?」
こうして俺は、闘技場で戦うことになった。
俺が参加することになっているのは、「奴隷vs魔物」で、どうやら数人の奴隷達と一緒に魔物と戦うようだ。
しかもその魔物は、ミカアニが話していた通りのダンジョンから連れてこられた強敵である。
俺は試合が始まるまでの間、待合室で待つことになった。
しかし、俺以外にいるのは、10人の奴隷達だった。
「死にたくないなぁ」
「奴隷として生きるより、魔物に襲われて死んだ方がマシだ」
そんな呟きが聞こえてきた。
すると、俺の隣に一人の女性が隣に座ってきた。
「隣に座っていいかい?」
「あ、はい……どうぞ」
「じゃあ、邪魔するよ」
その女性は見た感じ、エルフで、クール系美人ってところかな?
「……新入りか?」
「新入りってか、ここに参加してこいとオーナーからそう言われてね……別に借金して奴隷になったわけではないけど」
「そうかい……まぁ、あのオーナーのことだ。
そう言うのをやる奴だよ。
アイツは、タルタロスに来た強そうな奴を見つけたら、ここに放り込むのさ。
そしてオーナー自身が満足するまで、ここから出られないようになってんのさ」
「……あなたもですか?」
「いや、借金で、その返済のためにここにいる。
だけど、いつ完済できるかわからないし、いつ出られるのかもわからんよ。
……ところで、名前は?」
「タツヒサです。
あなたは?」
「……マンマゴル。
生まれはエルフ族領王国”エルドラド”から来た冒険者だよ」
「ちなみに、少し失礼な質問ですが、何で借金されたんですか?」
「……嵌められた。
それだけさ」
「嵌められた?」
「そう、それでここにいるんだよ。
でも、詳しい話は、ここではできない。
ここから出れた時にだけ話してやろう」
「そうですか……」
すると、一人の小さなヒゲの男が話しかけた。
「お主、見ない顔でござるな?
新入りか?」
「新入りではないけど……」
「彼は無理矢理ここに入れられたよ。
あのオーナーにな」
「なんと!?
そうであったか!?」
「こ、この人は?」
「コイツはドワーフのスライン……アガルタっていうドワーフ族の国の生まれだけど、長い間ジパングを拠点に暮らしていたせいで、自身も侍になったんだ。
”サムライ・ドワーフ”って呼ばれてるけどな」
「いかにも……それがしはステインでござる!
そちらはなんて申す?」
「タツヒサです」
「うむ、名前を覚えておこう」
「……ちなみに、どうしてここにいるんですか?」
「ジパングがどこかのヤクザに襲撃され、拙者はそれで捕まった。
そして、ここに売却され、ここの主人のために戦う羽目になったでござる」
(違うけど、彼も俺に似たような感じで、ここに連れてこられたんだな……おそらくそのヤクザこそがあのアンデット連合のことだろうな)
すると、部屋に一人の男が入ってきた。
その男は、ミカアニのそばにいた男達の一人だった。
「おい奴隷ども!!!
準備が整ったから、さっさと行くで!!!」
大声でそう言った。
「はぁ……」
「また戦うのか」
「もう死にたい」
「嫌だ!
もう戦いたくない!」
奴隷達はそう呟きながら部屋から出た。
「さぁ、行くよ」
「共に行くでござる」
「あ、あぁ」
俺はステインとマンマゴルと一緒に部屋から出た。
いよいよ、闘技場での試合が始まるようだ。




