第二十七話:矛盾
「着いたよ。
ここから部屋に入るよ。
ここなら静かだし、誰にも邪魔されないからね!」
俺はミカアニと一緒に部屋に入った。
しかし、入ってみると、さっきまで明るかったタルタロスとは違って、薄暗い空間に包まれていた廊下があり、その先には再びドアがあった。
そのドアに入ると、そこにはタルタロス全体の様子が映し出されている巨大な水晶がある部屋があった。
その水晶以外では、普通にヤクザの事務所とあまり変わらない部屋だった。
「ここなら、誰も邪魔してくることはないでしょうね!」
「それはそれでありがたいよ。
俺はお前に色々と聞きたいことがあるからさ!」
「だろうね!
僕も君のことが知りたいからね!」
「そうか……まずは俺からだ」
「どうぞ!」
「……どうして俺をここに招待した?」
「そりゃ君があの無法地帯にある城の城主だからでしょ?
君は今、無法地帯で国を作ろうとしていることをね……それにもう一つ理由があるんだ」
「もう一つの理由?」
「……君が、あの伝説の魔物のククルカンを従魔にしたことだよ」
「……俺が従魔にしたククルカンが八岐大蛇を倒したっていう話はすでに広がっていたか」
「勿論、それくらいならここでも伝わりますよ。
それがきっかけで、前から興味があるんだよね……僕からもいいかな?」
「あ、あぁ……」
「君、あの鉱山に襲撃して、サンゾロさんに勝ったんでしょ?
なんのために?」
「アーサー国王から、アンデット連合を殲滅するように言われてなぁ……本拠地がどこにあるかを調べるために、あの鉱山に行ってきた。
でも鉱山にいる奴らは俺に襲いかかったから、俺とその仲間達が返り討ちにした。
その後、鉱山内に入って、そこにいたサンゾロからある大事なものを取り返し、そしてアンデット連合の本拠地がある場所を聞き出した。
後は……そこにいた奴隷達を解放して、その後にアーサー国王のところに戻って、報告をしたことだ」
「その大事なものって?」
「……俺と婚約することになったメローラ姫の王族の証です」
「……まぁ、そこを突っ込むつもりはないけど、流石あの負け犬君だ!
やってることはクズそのものだよ!
でも、中には王族との関わりとの関係を持つヤクザとかもいるし、中には国そのものを王であることを偽りながら乗っ取ったクズ野郎もいるよ」
「……ソイツらのことをクズとか言ってるけど、お前はどうなんだ?」
「嫌だなぁ〜、僕はここを乗っ取ったこと以外、面倒なことに首を突っ込みたくないんだよ!
そもそも僕、王族に直接首を突っ込んでまでやるような卑怯者とは違うのだよ!
それに、ここのかつてのオーナーだって、君が思ってる以上に、人権すらまともに扱わないほどの大クズ野郎なんだ。
まぁ、そんな奴ほど、僕に敵うわけもなく、そのままここを僕に乗っ取られて、ちゃんちゃんだしね!」
「そうか?
でも奴隷とかを見ていると、人として扱っていないのは変わりないのでは?」
「それは奴隷としての定めだけど、僕にとって奴隷はただの労働者だと思っている。
いつも口で奴隷なんて軽く言うけど、ここでは奴隷に対する暴力は、闘技場以外では禁止にしているんだ。
そうじゃないと、闘技場が盛り上がらないしね……闘技場では多くの死者を生み出してしまうのは事実……でも、ここだけの話なんだが……」
「ここだけの話?」
「そう……ここを運営している僕だけが知っている情報で、アンデット連合の連中には全く知らないことだ」
「!?」
「……実は死んでしまった奴隷は、本人には直接いいませんが、その時点で借金はチャラにしてるんです。
そして死んでしまった奴隷には、僕が持つ最強の蘇生スキルで完全に蘇らせる……でもそうして復活した元奴隷達は、名前を含めた人生そのものを失った状態となる」
「記憶とかは?」
「一応記憶を保ったまま蘇らせることはできるが、僕の場合は、同じ奴隷になってほしくないから、全てをリセットしてから蘇らせる。
記憶喪失になりながら蘇った元奴隷達に、新たな名前を与え、そして新たな職業を与えた。
このことを外に漏らせば、僕はアンデット連合に背いた裏切り者扱いとなる……」
「ってことは、ここで働いているスタッフ達って!?」
「そう、ここで働いているスタッフがそれだ。
でも、闘技場で戦った経験がある元奴隷に関しては、あえて地上に送り込み、オリュンポス帝国の兵士にさせている」
「!?」
「……君もさっき出会っただろ?
ヒナセさん達と一緒に、あの門番を」
(どう言うこと……アイツは立場的に俺とは敵対関係にある……なのに)
「ちなみに、サンゾロさんのような他の幹部から奴隷を送れと言われる時がありましてね……仕方なく送り込むんだよね」
「ちょっと待って!」
「ん?」
俺はさっきからのミカアニの話についていけないし、所々に矛盾しているように感じた。
「……さっきから聞いてるけど、色々と矛盾しているような気がするんだ」
「どうしてそう思う?」
「普通、俺のような何も知らない人間に堂々と自分のことを言っていいのか?
そんな友達レベルみたいにか?
せめてもう少し交流を深めないと……」
すると、ミカアニはニヤリと不気味な微笑みを浮かべた。
「そっか……やっぱり君でも騙せなかったか!」
「……嘘をついてたのか?
それとも、俺をここまで呼び出して、長々とお前の話を聞いていたってことは!?」
「……そういうことです」
ミカアニがそう言った瞬間、俺の背後には、いつの間にかアンデット連合の組員達が10人もいた。
それもただの組員ではなく、あのクマゾウに負けないくらいの大男達だった。
「兄貴、随分とお待たせしましたわ」
「ご苦労だったな。
それと悪かったな……待たせてしまってよ」
「いえいえ、このくらい待てますよ」
俺をここで長話を聞かされたのは、そのための時間稼ぎだったと理解した。
「最初からそのつもりだったんだろ?
まるでお前が寝返るつもりで話していたから、危うく騙されかけたけど」
「勘違いしないでください……彼らは私の大事な部下です。
さっきまでの話は、当然ながら彼らも知っています。
僕達は、いつでもアンデット連合を裏切れるんですからね」
「ど、どういう意味だ!?」
「まぁ兄ちゃん、怖がらんといてやぁ!」
「ここからが本題や!」
「せやけど、うちらはアンタとは仲良くしたいつもりでなぁ!」
「兄貴がアンデット連合を裏切るってなら、俺らもついていきますわ」
「せやけど、そう簡単に裏切られへんのや!」
「せやから、アンタをここに招待したんです」
「どういうつもりだ!?」
すると、ミカアニは真顔になった。
「……僕は知りたいんです。
君の実力を……その実力を見せてくれないと、真の目的を話すことはできないんですよ」




