第二十四話:森の主
俺とヒナセ、イーロップ、シンナラ、レオライはオリュンポス帝国へ目指していた。
しかし、急いで行くため、近道をするために、森に入って行くことになった。
「この森を真っ直ぐ進めば、オリュンポス帝国への国境に辿り着くの。
まぁ、普通はこの森の主を恐れて、誰もこの森に入らないの。
まぁ、普通の旅人や冒険者とかなら、遠回りして森に入らずに行くか、アヴァロン王国とオリュンポス帝国の国境あたりにある沼地に設置されている長い橋を通っていくかのどっちかだよ。
前までは川に直接船で渡れるようになってたけど、アンデット連合がアヴァロン王国、オリュンポス帝国、ヴァルハラ国が直接繋がってる国境に本拠地を構えてから、船に対する略奪や誘拐などが目的の襲撃が行われたり、料金を高額に請求してくるぼったくりの事例があるため、誰もその川に船で渡ろうとはしないし、国境を繋ぐ橋を作ったら、アンデット連合の組員達に占拠される危険性があるため、未だに作られてないんだよね」
「ちなみにアンデット連合以外の犯罪組織はいるの?」
「いるよ!
アンデット連合以外にも、凶悪なエルフ達の集団であるギャング組織”コキュートス”、極めて危険なドワーフ達が集まったマフィア組織”ヘルヘイム”、他にも桃源郷を中心に活動するヤクザ組織”阿鼻組”とか……ダンジョンほどではないけど、それでもこの広い世界にはいるよ」
「……なぁ、犯罪組織って、脅威なんだろ?
異世界転生って、魔王とかが脅威となって、その魔王を倒す的な流れかなと思ったけど……」
「最初はそう思ってたけど、どうやら違うみたいなんだよね」
「……どういうこと?」
ヒナセは歩きながら説明した。
「……この世界での”魔王”っていうのは、ただの権力の強い順の一つでしかないんだ。
一番下の順で言うと、城主、国王、魔王、皇帝、邪帝、神皇って感じで、魔王は十二人、皇帝は五人、邪帝は三人、神皇は一人だけなんだ。
神皇はこの世界を支配する最強の支配者……たった一つの発言だけでも世界を変えてしまうの。
そう言う意味では、神皇こそが本当の意味での”魔王”と言えるかもね?」
「じゃあ、この世界の魔王って?」
「魔王っていうのは、国王よりも上……まぁ、ここはアーサー国王が治めるアヴァロン王国だけど、それよりも一つ上が……確か、アヴァロン王国からだいぶ離れたところにある魔王ヨウメイが治める黄泉国とかかな?
…ちなみに、かつての元エーリュシオンの女王様だったルシファー様って、実は魔王とされたの」
「そうなの!?」
「アンタが帰ってくる前、あの襲撃で力尽きたルシファー様をランスロットとマーリンが看病してたでしょ?」
「そうだったな……そういえば、アーサー国王も、引退したとは言っても今もルシファー様って言って、ルシファーのことになるとだいぶ敬語が強くなってたような……」
「そう!
それがルシファー様が相当強い影響力があって、引退した後でも未だに魔王だった頃の影響力が残っているの。
少なくともアンタは、今は城主とみなされてるけど、どのみち他の王族達や貴族達と出会うことになる。
何も知らない彼らを相手にする時、ルシファー様のことを今みたいに呼び捨てしない方がいいからね」
「……わかった。
肝に銘じておくよ」
しかし、俺はある疑問を感じた。
「……そういや、この森にずっと歩いてるけど、魔物が全然襲って来ないね」
「言われてみればそうね……いつもなら襲ってくるけど……明らかにあまりにも不自然すぎるわね」
すると、イーロップは突然と首を振り回しながら周囲を確認し始めた。
「ホーッ!」
それに続いて、シンナラとレオライは牙を剥き出しにして唸り声を出した。
「ガルルルッ!!!」
「ガルルルッ!!!」
「さっきまで静かだったのに、お前らどうしてしまったんだ?」
「……何かがいると思ったんでしょうね……少なくともだんだんと嫌な予感がしてきたね」
「何かが現れるのか?」
俺はすぐに毒剣を取り出して構えた。
すると、森の奥から足音が聞こえてきた。
ドシンッ……ドシンッ……
「ま、まさか!?」
ヒナセは青ざめた。
その瞬間……
ドシンッ……ドシンッ……!!!!
「ぎゃあああおおおぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!!!」
「て、ティラノサウルス!?」
しかも……
「ぐうぅおぉ〜〜〜〜〜!!!!!」
「出たね……森の主!!!」
「あのデカいクマが!?」
「アレはナンディベア……ククルカンと同じ伝説の魔物の一体とされ、神獣として崇拝されている伝説のクマ”キムンカムイ”の進化前と言われているクマ……ボスとしてどこかのダンジョンに潜んでいるという目撃例があるけど、あまり詳しい生態がわかっていない謎多き魔物よ……一応アルクトテリウムから進化したとされているけどね」
「アルクトテリウム?」
「アイツほどではないけど、それでもかなりの多きさを誇るクマの魔物……名前はおそらく、転生する前の世界で発見された最大級の古代のクマの化石の名前に由来すると、前の世界での古代生物に詳しい知り合いからそう聞いたけどね」
「前と同じ世界の動物に加え、絶滅したはずの動物もいるとはなぁ……こっちの世界の方が明らかにおかしすぎるレベルにデカいし、見た目もかなり異なってるからなぁ……ここがただの世界ではないことだけは言える」
俺は前に出た。
「ヒナセ、先に行ってて!」
「えっ?」
「イーロップ、シンナラ、レオライはヒナセを頼む!」
「ホッホーッ!」
「ガオォッ!」
「ガオォッ!」
「ちょっと!?
いくら攻撃力が高すぎるアンタでも、そう簡単に倒せないよ!!」
「急いでるんだろ?
だったら先に行け!!
俺のことはいいから!!」
「で、でも」
ヒナセが言いかけた瞬間、イーロップに引っ張られ、シンナラとレオライは荷車を引っ張りながら走っていった。
「俺はもうだいぶレベルが上がったはず……攻撃力も更に上がっているし、しかも今回もこの毒剣の出番!!」
俺は毒剣で立ち向かい、ティラノサウルスとナンディベアも俺に襲いかかった。
ズバァッ!!!!!!!
一方、ヒナセ達はなんとか逃げ切ることができた。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思ったよ。
でもイーロップ、ありがとうね」
「ホッホーッ!」
「それと、シンナラもレオライもお疲れ!
ちゃんと荷車から何も落ちずにここまで運んでくれてありがとうね!」
「ガオォッ!」
「ガオォッ!」
「でも、ここまで来たから、もう大丈夫……後はタツヒサが心配……」
すると、一人の旅人がヒナセに声をかけてきた。
「……すみません。
ちょっといいですか?」
「は、はい!
なんですか?」
「……私は今、ギルドからのミッションで、バロメッツという植物を探しているのだが……」
「バロメッツ?
確か、ヒツジの姿をした植物の魔物で、レアモンスターの一種ですよね?」
「はい、そうです」
「……残念だけど、ここにはいませんよ。
この森にいる魔物はほぼいない状態ですからね……」
「えっ?」
「今、この森にはティラノサウルスとナンディベアが出現していたので……」
「……そうですか。
では、他の森にあたってみることにしますね」
「でしたら、賢者の石の鉱山にある森はどうでしょうか?
そこには稀にユニコーンとかのレアモンスターが出現していることがあるので……」
「そうなんですか?
ですがあそこは確か……」
「鉱山そのものに近づかなければ、大丈夫ですよ。
アイツらはそこまで手に出すことはないので!」
「……わかりました。
ありがとうございます。
では、探してみます」
「頑張ってね!」
旅人は一礼して、そのままその場から去った。
「……タツヒサ、大丈夫かな?」
すると、休んでいたイーロップとシンナラとレオライは突然と立ち上がり、そして警戒し始めた。
「ガルルルッ!!!」
「ガルルルッ!!!」
「ホッホーッ!!!」
「ま、まさか……もう嫌な予感がする……」
その様子を見たヒナセは青ざめた。
すると、森の奥からティラノサウルスとナンディベアが揃って姿を現した。
ドシンッ……ドシンッ……!!!!
「ぎゃあああおおおぉぉぉ〜〜〜〜〜!!!!!!」
「ぐうぅおぉ〜〜〜〜〜!!!!!」
「う、嘘でしょ!?
そんな……嘘だと言ってよ!!!!」
ところが……
「心配かけさせて悪かったな!」
「……へっ?
タツヒサ?」
当然だ……俺を見た全員が唖然とした。
そう、実は俺は既にティラノサウルスとナンディベアを瞬殺していた。
しかも、俺の一撃で、周囲の隠れていた魔物達も一緒に倒してしまった。
「だいぶアイテムが集まってきたなぁ……見た感じ、収納スキルにも限度があるみたいだし、インベントリもそろそろ満タンになってきた頃みたいだな」
俺は自分のステータスの収納スキルにあるインベントリ内のアイテムを確認した。
すると、倒されたはずのティラノサウルスとナンディベアが起き上がった。
「い、生きてやがったか!?」
俺が武器を構えた瞬間……
『ティラノサウルスとナンディベアがあなたと従魔契約したそうにこちらを見ています。
従魔契約をしますか?』
その下には、”はい”か”いいえ”が表示された。
「ま、マジか……でも、どうしょうかなぁ……」
悩んだ末に、俺は”はい”を押してしまった。
「……ってことでね!
ティラノサウルスにはレックス、ナンディベアはダフシェリって名付けたよ!」
「はぁ……アンタねぇ……この前のミノタウロス達といい、どうしてアンタのところって、そんなヤバい魔物しかいないの?
コイツらがいたら目立つでしょ?
無理して従魔にしなくていいのよ?」
「で、でも色々考えたら、コイツらもいた方がいいかなって……例えば、魔物の襲撃とかアンデット連合の襲撃とかね……それに多分、タルタロスで何が起きるかもわからないからさ!」
「やれやれ……仕方ない。
でも、あんまり目立たないようにしないとね!」
「わ、わかった」
一応、新たにレックスとダフシェリが加わった。




