第二十三話:キャンドルフォンについて
次の日の朝、俺は完全復活をしたルシファーに昨日届いた手紙を見せた。
「……タルタロスのオーナーからの招待状ですね」
「俺も驚いたよ……タルタロスはヒナセから詳しく話を聞いたのでね。
まぁ、俺は別に遊ぶつもりはないけどね」
「……これ、あなたに直接会いたがっているようにしか見えませんね。
私はカジノに対する悪い偏見がありますからね……信用はできません。
おそらく、何か裏があるとしか思えません」
「というと?」
「……タルタロスは既にアンデット連合に乗っ取られ、アンデット連合がタルタロスでやりたい放題しているんです。
あなたをそこに招待することがおかしいんです」
「そう考えることができるのか……でも、これはアンデット連合に関する情報の入手、そしてそこにいる幹部を引き摺り下ろすチャンスでもあると思う」
「ふふっ……そうかもしれませんね。
ですが、もしも行くのでしたら……服を脱いでください」
「えっ?」
俺は言われた通りに服を脱いだ。
するとルシファーは俺の背中に触れて、呪文を唱えた。
すると、俺の背中から絵が浮かび上がってきた。
「……刺青を入れさせていただきました。
刺青スキルには、その絵によって様々な効果が発揮されるのです。
あなたには、私達エンジェル族が神獣として崇拝している守護竜バハムートの刺青を入れさせていただきました。
これならどんな災が来ても、きっとあなたのことを守ってくれます。
ただし、効果は3日間しかなく、それが過ぎると自然と消えてしまいます。
とは言ってもどうせオリュンポス帝国までは片道1日はかかりますから、帰ってくる頃にはとっくに消えてるかと……」
「なるほど」
「それと……」
そう言って、ルシファーは、あの蝋燭と貝殻を合わせたような道具を取り出した。
「こちらは、”キャンドルフォン”と呼ばれるもので、これを利用して、連絡することができます」
「蝋燭?」
「ただの蝋燭ではありません……この蝋燭は、スライムの粘液を混ぜて作られた魔力がこもった蝋燭で、この貝殻は、アンモナイトの殻を使ったものです。
この蝋燭を作る専用の職人がいて、必ず一人二本ずつ作る必要があります」
「二本?」
「スライムは、粘液でできた魔物で、その粘液には無数の細胞が活発に動いており、スライムの粘液内の細胞同士で、魔力を共有する性質があります。
それを利用して作られたのがこの蝋燭……”スライムキャンドル”と呼ばれています。
火をつけることですぐに魔力が発動され、その魔力はもう片方の同じ魔力を持つ蝋燭に共有され、その時に勝手に火がつきます。
その火は魔力が燃料となり、その蝋燭に含まれている依頼人の情報を読み取り、火はその人の顔の形となって、それで互いに連絡し合うことができる仕組みとなっています」
「相手側も?」
「はい、魔力を共有されるので、その魔力の持ち主にもしっかりと相手側の蝋燭の火も同様に相手の顔の形となります。
ただし、それができるのは自分とその相手だけです。
ですから自分用と相手用のために一人二本必要となります」
(いわゆるケータイ電話のようなものか?)
「詳しい使い方は、ヒナセに聞くと良いでしょう。
ヒナセも私と連絡するための蝋燭を持っていますから」
「一人二本だから……もしかして、他の人と連絡するためには何本かも必要ってこと?」
「そういうことですね。
とは言っても、事前にヒナセから私と連絡するために渡されたものですけどね。
ちなみにあなたに渡したのは、元から私が持っていた蝋燭のうちの一本ですけどね。
後のことは彼女に聞いてください」
「わかりました」
そして一通りの準備を済ませた後、俺はヒナセと合流した。
「タツヒサ、聞いたわよ。
アンタ、オーナーから招待されたの?」
「あぁ、この通りな」
俺はヒナセに頼まれて作った景品となるものと一緒に招待状を渡した。
「……とんでもない奴に目につけられたね。
オーナー自身がタルタロスを乗っ取ったアンデット連合の直系幹部の一人だからね」
「行ってみないとわからんけどな」
「それもそうね……何が起こるかわからないからね!
さて、創造スキルで作ったもらったこれらが全部揃ったところで、行きますか!
オリュンポス帝国に!」
「あ、あぁ……」
俺はヒナセと一緒にオリュンポス帝国へ目指すこととなった。
ヒナセからは、従魔を連れても問題はないけど、なるべく騒ぎにならない魔物が良いってことで、イーロップを連れて行くこととなり、荷車は引き続きシンナラとレオライに引かせることとなった。
それ以外の従魔(オークや大蝦蟇など)は全員、周囲の人達が怖がるし、特にバナクスに関しては珍しい魔物”レアモンスター”とされており、その一体であるバナクスはユニコーンであるため、悪質な冒険者や盗賊などに狙われる可能性があるそうだ。
カミカゼは存在そのものが危険なため、イーロップとシンナラとレオライがマシってことで、一緒について行く従魔として選ばれた。
「あのユニコーンは確実に狙われるからね!
”レアモンスター”と呼ばれる珍しい魔物は、確定でレアアイテムを落とすことがあって、そのレアアイテムは金以上の価値があるの。
ギルドからのミッションとして出るけど、その報酬は家が買えるほどの大金だからさぁ……例え誰かの従魔になったとしても、悪質な冒険者や盗賊などの犯罪者達に狙われるケースがあるの。
そういうレアモンスターを探すよりもそのレアモンスターを従魔にしている人を狙った方がいいからね」
「そんなことがあるのか……」
「実際にそういった例もあるし、そのほとんどは証拠隠滅のためにその従魔契約を交わした人自身も殺されたって話もあるから!」
「なるほど……」
「それと、ルシファー様からキャンドルフォンのことを聞かされてるとは思うけど……」
「あぁ、聞いてるよ!
詳しいことはお前に聞いてくれって!」
「でしょうね。
まぁ、私は商人だから、いろんな人達との連絡をするため、たくさんのキャンドルフォンに使うスライムキャンドルを持ってるの!
まぁ、わかりやすいように印をつけてるけどね。
まぁ、ルシファー様から渡されたスライムキャンドルを見たらわかると思うけど、色がつけられて、わかりやすいようになってるよ!」
「確かにルシファー様から渡されたのは黒色の蝋燭だったけど」
「私のはこれ!」
ヒナセが俺に見せてくれたのは、濃いピンク色の蝋燭だった。
「ちなみに同じ色があっても、ちゃんと区別できるようになってるの。
デザインや柄模様とかはあるけど、最も区別できるのは、スライムの粘液内の細胞に入れ込んだ使用する人の遺伝子が入ってるの」
「遺伝子?
血とか髪の毛とか?」
「そう!
特に血が一番遺伝子が取れるからね!
職人によっては髪の毛でも作ってくれる人がいるけど、基本的には血を入れて作るんだよ。
まぁ、作ってもらうように依頼する時にその職人に聞いてみるといいよ!」
「なるほどね」
「少なくともアンタのその創造スキルで作ることはできないと思うけどね!
そういう特殊なアイテムは作れないはずだと思うよ!」
「……試してもいいか?」
「いいよ!」
俺は試しにそのスライムキャンドルを作ってみることにした。
しかし、できたのは、スライムの見た目をした”タダの蝋燭”となった。
「かわいい蝋燭ができたね!」
「いや、そんなつもりはないけど……」
「これでわかったでしょ?
いくら創造スキルがあったとしても、この世界で量産されたら困るものは作れないように制限されているからね!」
「そういうことか」
「そう!
さぁ、話はここまで!
ここからは急いで行くよ!」
俺とヒナセ、イーロップ、シンナラ、レオライは急いでオリュンポス帝国へ向かった。
その頃、タルタロスのとある部屋には、オーナーらしき一人の男がワインを飲みながら、巨大な水晶から映し出されているタルタロス全体の様子を見ていた。
「今日も絶好調だね!
世界最大のカジノとして有名なタルタロス……まさに多くのハエが集まってくる誘惑の蛍光灯の光そのもの……そうやって遊んでる間に、いつの間にか借金してしまい、気づいた頃には……奴隷という負け犬君に成り下がるのさ!
だがここはカジノで、借金をしたのは、自分の欲に飲み込まれた愚か者……つまり、自業自得!
まぁ、僕にとってはそれで合法的に奴隷を集めることができるのさ!
でも、あのアヴァロン王国の賢者の石の鉱山の件から、アイツに興味がある……調べさせてもらったけど、確か名前は”タツヒサ”……いつも素晴らしい景品を届けに来てくれるあのヒナセさんと同じこの世界に転生した人間だってことは名前の時点で既に察しがついた。
あの酒呑童子が襲撃したあの場所に、僕からの特別な招待状を送りつけてやったよ!
……僕、君に会うのがとっても楽しみにしているんだ!
……待ってるからなぁ……タツヒサさん!」




