第二十一話:数年ぶりの笑顔
「着いたな!
城に!」
「兄貴、アーサー国王に会いに行くんですか?」
「あぁ、報告をしないといけないからね!
悪いが、みんなは外で待ってもらえないかな?
クマゾウ、バナクス、テンジク、イーロップは全員の見張りを頼んだぞ。
中には奴隷にされた魔物がいるからね」
「へい、お任せくだせぇ!」
「ヒヒーンッ!」
「ホッホーッ!」
「ゲコッ!」
俺はクマゾウ、バナクス、テンジク、イーロップ、そして鉱山から解放した奴隷全員(奴隷にされた魔物も含む)をその場で待機して、城へ向かった。
「ここを通してもらえませんか?
陛下に報告しなければならないので」
「あなたは確か、タツヒサ様ですね?」
「陛下から聞いております。
陛下なら玉座であなたを待っておられるので、どうぞ入ってください」
城に入った後、俺はアーサー国王が待っている玉座へ向かった。
その玉座には、アーサー国王が待っていた。
「おぉ!
戻ってきたか!」
「はい、ただいま戻りました。
ついでに、メローラさんを呼んでもらえないでしょうか?
大事な話がありますので」
「わかった」
アーサー国王は、側にいた兵士にメローラを呼んでくるように命令した。
「……さて、戻ってきたってことは、私に報告するのだろ?」
「はい」
俺はこれまでのことを全て報告した。
「……なんてことだ。
まさか本拠地が国境にあるとはな。
それも、ここアヴァロン王国、ヴァルハラ国、オリュンポス帝国の三つの国が直接繋がってる国境になぁ……だがヴァルハラ国もオリュンポス帝国も脅威だと感じているだろう。
とりあえず、鉱山の件はご苦労だった。
……それにしても、魔物と奴隷を無理矢理働かせ、賢者の石を掘り尽くしてしまうとはな。
この国で唯一の賢者の石が取れる鉱山だったが、そうなってしまえば、諦めるしかなかろう。
既にただの岩山になっているのは間違いないからな」
「本当に何もありませんでした。
ただの広い空洞のような場所でした。
洞窟かなと思えるレベルでした」
「おそらくアンデット連合に乗っ取られてからは、あらゆる場所を掘り尽くしまくって、それでそのような空洞ができてしまったのだろう」
「それだけではありません。
実はその空洞になる規模になったのは、奴隷を無理矢理働かせて掘らせたからで、しかもミノタウロスなどの魔物も奴隷として扱われていました」
「なんと……あのミノタウロスが!?
あの魔物は、かなり交戦的で、よりも凶暴な魔物として知られておるのだ。
そのミノタウロスが奴隷だなんて……あり得ぬ。
だが、お前がこうして報告してくれるのなら、本当のようだな」
「その奴隷達は全員私が解放しました」
「……言っておくが、我が国では奴隷の面倒は見れんぞ。
奴隷は借金を背負った者だけがその返済のためになるのだ。
どこで借金したのかは知らぬが、我が国では面倒は見ないし、そこに魔物も含めるのなら、尚更危険だ。
その奴隷をどうするのだ?」
「……責任を持って、私が面倒を見ます」
「正気か?」
「ちょうど国民が欲しかったところなので、彼らを国民として迎え入れるつもりです。
まぁ、その代わりに借金した分はしっかりと働いてもらいますけどね。
アイツらと違って、ちゃんと就職させますがね」
「……そうか。
なら、仕事場を作らないといけないな」
「はい、そのつもりです」
「それなら、ギルドを導入してはどうかな?」
「ギルド?」
「ギルドなら、奴隷でもちゃんとした仕事がもらえるぞ。
ただし、借金返済までの間、奴隷にはギルドからの報酬はもらえないがな」
「なるほど……」
「ちょうど良い人材がいる。
その人材をそっちに派遣させる。
その人と建物一つだけあれば、ギルドとしてすぐに成り立つ」
「わかりました。
ありがとうございます……ギルドのための建物は、こちらで用意しておきます」
「うむ、頼んだぞ」
すると、そこへ兵士に呼び出されたメローラがやってきた。
「やっと来たか……タツヒサから大事な話があるらしいぞ」
「……」
メローラは、俺のところに来た。
「大事な話ってなんですか?」
「……これを」
俺はポケットからサンゾロから取り返した王族の証を見せた。
「そ、それは!?」
「……もう大丈夫ですよ。
あなたには、もう隠し事をする必要はないかと」
その様子を見たアーサー国王は困惑した。
「か、隠し事とはどういうことだ!?」
「落ち着いてください……今から話すことは、彼女が今の性格になった原因です。
それも、アンデット連合との関係があります」
「な、なんと!?」
「……先に言っておきますが、メローラにとっては、あなた方を巻き込んで欲しくないと思って、その罪悪感でずっと一人で苦しんできました。
なので……彼女にお許しを」
「……メローラよ。
何があったのかは知らぬが、正直に話せ。
話を聞いた上で考える」
「……父上、ごめんなさい。
実は……」
メローラは、今までのことを隠さずに全て話した。
「……そうだったのか」
「……」
そこへ、グィネヴィアが駆けつけてきた。
「……話、聞かせてもらいました。
メローラの身にそんなことがあったとは」
「……」
するとアーサー国王とグィネヴィアは二人でメローラに抱きついた。
「……よく頑張ったな」
「ち、父上……」
「正直に話してくれてありがとう……ですが、あなたは何も悪くありません」
「むしろ私がお前の異変に気づけなかったことだ」
「王族の証は確かに誰かに取られてしまえば、本来ならあなたを王族失格となって、勘当して国から追い出すところでした。
ですが、あなたはそれを言えずに怯えてしまいましたね」
「は、母上……」
「……私には、それをする権利はない。
それは、かけがえのない娘だからだ……勿論、我が息子が旅から帰ってくるのをずっと待っておる。
家族というのは、宝石よりも、その王族の証よりも、より高い地位よりもずっと、高い価値がある特別な存在だ」
俺はこの様子を見て思った。
(……俺は、こういうのが望んでたんだよ。
子供の頃からずっと、”ヤクザの息子”であることを理由に、普通の家族としての夢を叶えられず、そのままヤクザという闇に染まりつつあった。
アーサー国王とそのお妃様は、本当に家族を大切にできる素晴らしい王族だと思うよ……そういう意味では、ヤクザだった俺とは対照的だったな……ずっと親父から俺を過保護にしすぎるあまり、家族としての愛情を感じることができなかった。
親父は親父なりに俺を愛していたとは思うけど、俺にとってはそれが逆効果となって、俺自身にヤクザと家族に対するコンプレックスが生まれていたのかもな)
俺はそんな複雑な思いを抱えながら見た。
すると、アーサー国王とグィネヴィアは俺を見た。
「タツヒサ様……でしたね?」
「は、はい!」
「娘の王族の証を取り返して……いいえ、アンデット連合に繋がれた鎖から娘を解放してくれて、ありがとうございます」
「わ、私は特に……」
「賢者の石の鉱山の件、ご苦労であったな。
後の事は、我々に任せてもらえないだろうか?
お前はその間に、国づくりの続きをするが良い……アンデット連合の本拠地が判明したからには、ヴァルハラ国とオリュンポス帝国と連携して、本格的にアンデット連合の殲滅の準備をしなければならぬ。
娘を苦しめた分のツケを払わせないとなぁ……」
「ですがアンデット連合の壊滅は私の……」
「無論お前に殲滅を引き続き頼む。
だが、それまでの間には、こちらで準備をしなければならぬ。
お前の国にも、また襲撃してきても良いように、しっかりと準備をしなければならぬ。
アンデット連合の殲滅の任務はそこで中断し、準備が出来次第、アンデット連合を軍事力で殲滅させる。
その大将として、お前に任命する」
「……わかりました。
では、私もしっかりと準備をします。
後の事はそちらに任せて良いでしょうか?」
「勿論だ。
それと……メローラよ。
お前には彼の国にいてもらう……婚約者として、タツヒサを支えるが良い」
「はい、お任せください!」
そういったメローラは、少しだけ微笑んだ。
「その笑顔が見たかったです……数年ぶりの笑顔が見たかったんです!」
「あぁ……久しぶりに見たな」
「あ、あのー……良いんですか?」
「……あぁ、ただし正式に結婚したわけではない。
一時的に婚約者として、お前のところにお邪魔するだけだ。
……くれぐれも、結婚式を開くまでの間、娘に手を出すなよ?」
「それは……大丈夫です……」
「とにかく、今回はご苦労だったな。
準備が出来次第、お前に声をかけさせてもらう。
メローラは、そちらに引っ越すための準備をしなければならないから、しばらくはこちらに来れないがな。
とりあえず、お前は自分の国に帰るが良い」
「……ありがとうございます。
それでは」
そう言って、俺はそのまま城から出た。
そこにはカミカゼとその背中にいつの間にかクマゾウと解放した奴隷達が乗っていた。
「カミカゼ!?」
「よく帰ってきたな……汝を迎えに来たぞ」
「兄貴、まさかククルカンを従魔契約していたとは……流石です!
オイラは一生ついていきます!」
「いつの間に乗ってるの!?」
「汝の仲間だと聞いたのでなぁ……余の背中に乗せた」
「兄貴が乗る場所はしっかりと残してありますよ!」
「……まぁいいっか!」
俺はカミカゼに乗って、そのまま自分の城へ帰った。




