第十八話:メローラの正体
俺はクマゾウと一緒に橋を渡り終え、遂に鉱山は目の前となった。
「賢者の石を採掘するために、鉱夫達がここを渡るための橋を作ったんですよ。
その橋で、アヴァロン王国へ直接運んだりしていますが、今となってはアンデット連合の組員達が出入りするために使われます。
稀に捕まえた魔物や奴隷にされた人々を乗せた監獄馬車がこの橋を通って行くんですがね」
「その魔物と奴隷は?」
「それもわかりません。
オイラが知っているのはこの程度です」
「そうか……ん?」
俺は何かに気づいて、すぐに後ろに振り返った。
「兄貴、どうしました?」
「……少しここで待ってて」
「はい?」
俺は橋の前に立った。
どうやら3匹の魔物が橋を渡ってきた。
「もしかして、魔物ですか?
お、オイラがお相手を!」
「いや、違うぞ。
多分、俺に用があるんだ」
その3匹の魔物の正体は、ユニコーン、大蝦蟇、フクロウだった。
「ヒヒーン!」
「ホッホーッ!」
「ゲロッ!」
(フクロウって、こんなにデカかったっけ?)
どうやら俺が倒した魔物の中からこの3匹だけが立ち上がったようだ。
「兄貴、もしかしてさっきのあの異常な一撃で魔物を一掃しましたか?」
「あぁ、その中のコイツらだけが立ち上がったんだ」
「だとしたら、仲間にした方がいいですよ」
すると目の前にこんなのが表示された。
『ユニコーンと大蝦蟇とフクロウがあなたと従魔契約したそうにこちらを見ています。
従魔契約をしますか?』
その下には、”はい”か”いいえ”が表示された。
「勿論だ。
ちょうど援軍が欲しかったところだ!」
俺は迷わず”はい”を押して、『従魔契約完了』と表示された後、ユニコーンと大蝦蟇とフクロウのそれぞれのステータスを表示させて、それをみて確認した。
『名無し』
種族:ユニコーン
レベル:22
通常スキル:攻撃力増加、浄化、俊足
固有スキル:回復(普通)、雷(普通)、光(普通)
攻撃力:75
守備力:98
速度:190
体力:635
『名無し』
種族:大蝦蟇
レベル:46
通常スキル:根性、硬化、再生
固有スキル:水(普通)、土(普通)
攻撃力:469
守備力:345
速度:178
体力:2314
『名無し』
種族:フクロウ
レベル:15
通常スキル:暗視、透視
固有スキル:闇(最弱)、風(最弱)
攻撃力:56
守備力:57
速度:60
体力:348
「悪くないステータスだし、これで充分だ!
後は名前をつけるだけ!」
「流石兄貴!!」
ユニコーンにはバナクス、大蝦蟇にはテンジク、フクロウにはイーロップと名付けた。
すると、そのタイミングで、アンデット連合の組員達と思われる男達が鉱山から出てきた。
「来よったで!!」
「裏切りモンの山賊もおるで!!」
「あのガキもいるぞ!!」
するとクマゾウが立ち上がった。
「兄貴、ここは任せてくだせぇ!!
このクマゾウが命変えても、お守りしますぞ!!」
更に、テンジクもクマゾウの隣に立った。
「ゲロッ!!!!」
「いつの間にあのでっかい魔物を手懐けやがったんだ!?」
「そんなのでビビってんじゃねーぞ!!
さっさと始末するで!!」
「兄貴、オイラ達のことはいいから先に進みな!」
「いいのか?」
「ああ、あそこは手薄ですぜ!
今のうちだ!」
「わかった!」
俺はイーロップとバナクスと一緒に手薄になった鉱山の入り口へ急いで入った。
「おい待てや!!
誰が入っていいって言ったか!?」
「すぐに追いかけろ!!」
「……兄貴より先に、このオイラを倒してからだ!!
オイラが兄貴を指一本触らせねーぞ!!」
「なんやと?」
「上等やないか?」
「それはこっちのセリフだ。
……いいからかかって来な!!」
「ゲロッ!!!!」
「……いいだろう!!
望み通りに相手にしてやるよ!!」
「お前を始末したら、あのガキをすぐにでも追いかけるからなぁ!!」
「……まぁええわ!
どうせお前は役立たずの山賊だ!
今までご苦労やったなあ?
……その働きぶりから見て、退職金はなしや!!!」
「それで結構だ。
アンデット連合とこうしておさらばできるんやったら、それで清々するわ!!」
「よし、すぐにぶっ殺せ!!」
「死ねや!!」
「テメーら如きにオイラが死んでたまるか!!!」
「ゲロッ!!!!!」
クマゾウとテンジクは、アンデット連合の組員達との戦いが始まった。
そして俺はバナクスに乗り、肩にイーロップを乗せて、鉱山の中へ入った。
「……ここからは時間を止めて進めるか!」
俺は時間を止めることにした。
するとここで面白いことに気づいた。
「ホッホーッ!」
「ブルルッ!」
「なるほど、俺に触れられていると、時間停止の影響を受けないのか?
となると、俺に触られた人もきっと、影響を受けないはずだ」
そう、俺はバナクスとイーロップをほぼ触れていたから、時間停止スキルの影響を受けないことを知り、これは使えると考えた。
そこから俺はバナクスとイーロップと一緒にサンゾロを探した。
パコッパコッパコッパコッパコッパコッパコッパコッパコッパコッ!
(それにしても、ここは完全に掘り尽くされているなぁ……おそらく今は奥深くに掘り続けているんだなぁ……それよりも、幹部のサンゾロってどこにいるんだ?)
俺がそう考えていると、イーロップが周囲を見始めた。
「ホーッ?」
するとイーロップはとある方向を見つめた。
「どこを見てるんだ?」
俺がそのイーロップが見つめる方向を見つめると、そこには奥へと続く広い空洞があった。
「あそこに何かあるのか?」
俺はイーロップとバナクスと一緒にその空洞へ入って行った。
その空洞へ進み続けると、大きな扉が見えてきた。
「こ、これは……なんてデカさだ!
ってことは……サンゾロがいるのか?」
するとイーロップが頷いた。
「ホーッ!」
「……そうか。
なら、これを解いて、入るとするか!」
俺は時間停止を解除して、バナクスとイーロップと一緒に扉を開いた。
ガチャンッ!!!!
すると、部屋には一人の男がいた。
その男はすぐに俺とバナクスとイーロップに気づいた。
「……来ると思ってたぞ。
お前なんだろ?
ククルカンを従魔にしたっていうガキは?」
「……そうです。
ご存知なんですね?」
「そういうお前も、俺らのことを知っているんだろ?」
「……えぇ、あなた方の正体はアンデット連合で、あなたがその直系幹部のサンゾロだと聞いています」
「なら、話が早いなぁ……単刀直入に聞くが、要件は?」
「ここを出て行ってもらいます。
それを言いに来ただけです」
「だろうなぁ……お前らのことは、アヴァロン王国にいる例の内通者から話は聞いとるからな」
「……メローラのことですね?
本人からそのことは聞かせていただきましたよ。
それがきっかけで、彼女はもう笑わなくなって、無口で無表情となりました」
「そうか。
脅しが効きすぎたようだなぁ……数年前、俺はあの小娘を見つけた時は目につけた」
「ま、まさか……ロリコンですか?」
「んなわけねーだろ?
あの小娘から大切なもんを奪い取ってやったんだ!」
そう言って、サンゾロはポケットからあるものを取り出した。
「そ、それは!?」
「これはアヴァロン王国の王家代々が受け継ぐとされる正当な後継者の証だ。
この証は、アーサー国王の息子の一人であるロオルが持っているとされている……だが、そのロオルは現在、勇者としての修行の旅に出ていると聞いてなぁ……本来ならソイツからこの証を奪い取るつもりだった。
しかし、そこにあの小娘の存在を知った。
ロオルとメローラはどちらも正当な後継者として認められた兄妹……どちらもその証を持っている。
だが、もしもその証が失われた場合、後継者になる資格がないとされ、その権利が剥奪される」
「つまり、メローラはそれが発覚すれば、王族ではなくなって、追い出されることを恐れているってことですね?
それも、あなた達のようなヤクザに奪われているのなら、それこそ王族としての権利がヤクザに奪われたってことですね?」
「そういうことだ。
だが俺は王様になるつもりはねーが、コイツを人質みたいな扱いにすれば、操り人形として役に立つと考えた」
「……だからメローラは、アンデット連合のための内通者となったんですね?
王族や貴族が内通者などのそういった犯罪組織に加担していたことが発覚すれば、国を大きく揺るがす大問題に発展するでしょう。
最悪な場合、加担した王族や貴族は処刑されることも……」
「その通りだ。
あの小娘は、誰にも巻き込みたくない気持ちで、内通者になったのだ。
”これを返したければ、情報をこっちに流せ”となぁ……そしたら、非常に美味しい収穫ができたんだ」
俺はあの時、メローラとの会話を思い出した。
「じゃあ、あの賢者の石の鉱山も!?」
「……私のせいです。
向こうから、金になるようなものを寄越せと言われましてね……この国では、賢者の石が最も取れる産地として知られています。
だから、その賢者の石の鉱山についての情報を流したんです」
「それは……やってはいけないことだよな?」
「はい……賢者の石やミスリルなどの激レアな鉱石を巡った戦争が勃発するほどの価値があります。
それを簡単にアンデット連合に明け渡してしまったんです」
「……そうだったのか」
「私のせいで、結果的にみんなに迷惑をかけてしまったんです」
「でも、それでもメローラは、それ以上に刺激したくないから、今まで誰にも言えなかったんだよね?」
「……それを言えるのは、何も知らないあなただけです。
父上からアンデット連合の壊滅を依頼されましたよね?
……その情報は、既にアンデット連合に流してしまいました。
ここに来るちょっと前にね」
「……」
その時のメローラは、罪悪感による涙を流しながら話していた。
「……後はお前らの情報だ。
とは言っても、もうこれだけあの小娘から搾り取るだけ搾り取ってやった。
後はもう用済みだ……今からあの小娘を暗殺させる。
その時はコイツを目立つ場所に置いて、まるで自殺しかかのように見せる。
そうすれば、俺らに消された証拠はなくなる」
俺は、この時初めて怒りを感じた。
そして、その同時にヤクザの息子としての血が騒ぎ始めた。
「……そうでしたか。
これでようやくわかりましたよ。
だったら尚更、あなた……いや、お前のことを尚更放っておけねーな?
このチンピラが!?」
「ほう?
その気になったか?
だが、口の聞き方を気をつけた方がいいぞ?」
サンゾロは、銃を取り出した。
チャッ!
「じゅ、銃!?」
「ただの銃じゃねーぞ?
アダマンタイトで作られた最強の銃だ。
これを一発撃たれた奴は、例えどんな魔物だろうが、苦しみながらジワジワとダメージを与えて殺すのだ。
弾もアダマンタイトとミスリルを混ぜて作られた殺傷力が高い代物だ……お前のその貧弱な武器も通用しねーぞ?」
そして背後から組員達が入ってきた。
「いつの間に兄貴の部屋に侵入者が!?」
「どうやって入れたのかは知らねーが、ここでお前は終わりだ!!」
「その首を晒したるわ!!」
「袋のネズミ状態や!!」
「……なんてこった。
いつの間にかここに嗅ぎつけてきたのか!?」
「ちょうどいい……先に俺の部下達と遊んでいきな!」
おおおおぉぉぉ〜〜〜!!!!
「やむを得ん!!」
ズバァッ!!!!
「!?」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
「ぎゃああぁぁ〜〜!!!」
一振りで、組員全員を真っ二つに斬りつけた。
その同時に鉱山の一部も一緒に斬れた。
「……これは驚いた。
まさかお前がそんなバカみたいな攻撃力があったとはなぁ……」
「……もうお前の部下どもはいないぞ」
「フッ……俺から見たらただの役立たずの手駒どもだがな」
「……バナクス、イーロップは下がってて」
「ヒヒーンッ!」
「ホッホーッ!」
バナクスとイーロップはすぐにその場から離れた。
「てっきりそっちの雑魚な従魔も参戦するかと思ってたがな」
「いや、二人っきりにしたかった。
それだけだ」
「なるほど、二人っきりってことは、ここで殺し合いがしたいってことだろ?」
「殺し合いではない。
少なくともお前からその大切なものを取り戻すことが、俺のやるべきことだ!」
「……俺から取り返してみな。
お前に楽に一発撃ってやる」
「悪いが、銃如きで俺は死なねーよ」
俺は毒剣を構え、サンゾロは銃を構えた。