第十七話:異世界転生した元日本人の山賊
「……タツヒサよ。
アンデット連合の本拠点がどこにあるのかはわからんが、奴らに不法占拠されている賢者の石が取れる鉱山に向かうと良い。
この城から北東に位置する」
「わ、わかりました」
「……娘のことも、この国のことも……頼んだぞ」
そう言って、アーサー国王は部屋から出た。
「……はぁ、仕方ない。
ちゃっちゃと片付けるか!」
こうして俺は、一人でアンデット連合に立ち向かうこととなった。
「鉱山があるのが北東だから……あっちか!」
城から出た俺は、すぐに鉱山がある北東へ向かった。
北東までの道のりは、商店街から農地へ抜けていく必要があり、更にその先には危険生物が潜む森に入る必要があった。
その森の中心にある山がその鉱山で、そこには不法占拠しているアンデット連合の奴らがいるってことだ。
どうせなら、付近の人に話しかけて、どんな状態なのかを知る必要がある。
「何?
賢者の石の鉱山に行くだと?
やめとけ!
あそこにはアンデット連合が乗っ取ってんだ!
誰にも近づけねーしよ!」
「お兄さん、悪いこと言わないからやめとけって!
捕まったら即アイツらの奴隷にされてしまうよ!」
「冒険者にタダで金を貸す代わりの条件として、奴らの依頼を達成できないと自分の土地や武器などを含めたすべての財産を没収するという悪質な契約をさせるギルド勧誘詐欺を平気でやるような連中がいるんだぞ。
しかも山賊を雇って、護衛させている噂もあるからなぁ……悪いこと言わねーからやめときな」
「鉱山に入るための巨大な橋……そこには誰も入れないように、山賊が門番をしているぞ。
山賊はとても厄介な相手だからなぁ……関わらない方が身のためだ」
なるほど、要するにやりたい放題ってわけだ。
そういえば、俺が生まれる前に住んでたあの町に、他のヤクザどもが好き勝手にやったそうだが、それが親父の耳に届いて、速攻でそのヤクザ達をボコボコにして、町から追い出したんだっけ?
もしも親父がこの異世界にいたら、速攻で鉱山に攻めてきて、そこからガチの抗争が始まるなぁ……相手は一応異世界のヤクザだからな。
そして遂に商店街と農地を抜け、森に入った。
森には、案の定魔物が潜んでいた。
(オオカミにクマ、ヒョウ、ラプトルに加え、ケレンケンまでいるのか……)
そう思いながら、俺はダンジョンで手に入れた毒剣を取り出し、それで攻撃したが、案の定瞬殺し、同様にそこから地面が向こうまでに斬れてしまい、芋づる形式に他の魔物達も全員瞬殺、そして付近の木全部切り倒された。
ドガァッ!!!!
「やっべ!!
やりすぎたか……」
毒剣を直した後、俺はこのまま真っ直ぐ鉱山へ目指した。
ところが、俺の背後からノコノコとついてきたとある魔物の存在に気づかなかった。
「……」
「……」
「……」
そして遂に鉱山に繋がる橋を見つけた。
「アレか?
なら、まずはそこにいる山賊を倒さないとな!」
俺はとりあえず大声で叫んでみた。
「おい山賊ども!!!!
ここにいるんだろ!?
俺はここに渡りたいが、お前らを倒さないと渡れないと聞いたんだ!!!!!
俺が負けたら俺が持ってる金は全部くれてやるが、俺が勝ったら、ここを通させてもらうぞ!!!!!
勝負するからさっさと出てこい!!!!!!」
俺がそう言った瞬間、背後から一人の大男がやってきた。
その大男が山賊だった。
「ほう?
ここに通りたいのか?
なら身につけてるもん全部よこしな!」
「……お前がその山賊か?
確か、アンデット連合に雇われたらしいなぁ?」
「なるほど、オイラのことを知っていたのか?
確かにオイラはアンデット連合にこの橋の番人として雇われた。
しっかし、ここを守るだけで、大金が手に入るからよぉ〜!
いやぁ、山賊のオイラがこんな簡単な仕事にありつけるとは……しかもここを通る奴らの身ぐるみを剥がせば、その分の報酬も多くもらえるんだからなぁ……確か、オイラが勝ったら、金をくれるんだっけな?
だが、それプラスで、テメーの武器とかもいただくからよぉ!」
「だが俺が勝ったら、ここを通させてもらう。
アンデット連合があの鉱山を不法占拠しているから、ソイツらを追い出せっていうアーサー国王からの命令だ」
「なるほど、そういうことか?
なら尚更……ここを通すわけにはいかんなぁ!?」
そう言って、大男は巨大な斧を取り出した。
「これでぶった斬ってやるよ!!!!」
「……」
俺は毒剣を取り出して、一騎打ちをした。
ズバァッ!!!!!!
「!?」
ドサッ!!!!
なんと、大男は見事に真っ二つに斬れてしまった。
「ああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!!
いってえええぇぇぇ〜〜〜よ!!!!!」
「ヤッベッ……やりすぎたか!」
俺は慌てて最強の回復スキルを大男に使った。
ぱああぁぁ……
すると真っ二つになった体は、その回復スキルのおかげで、元に戻した。
「あ、アレ?
さっきまでオイラの体が……しかも痛くねーし!」
「……やりすぎてしまったが、こればかりは仕方ない。
とりあえず、俺の勝ちってことで、約束通りにここを通させてもらうよ」
「……なぁ、なんでこんなオイラをテメーが助けた?
その回復スキル……明かに異常だろ?
そんな回復スキルが使えるのは、世界でたったの数人しかいないんだぞ?
それも全員、最も優れた最強の僧侶だと聞いているがなぁ……」
「さぁ?
少なくとも俺は、ここの人間ではないんだよ。
……異世界転生して、オーディンとゼウスからこのスキルが俺に与えられたんだ。
ただそれだけだ」
「異世界転生?」
大男はすぐにハッとした。
「テメー、そうなのか!?」
「何が?」
「お、オイラも実は異世界転生した元日本人なんだよ!!!」
「えっ?」
「オイラはなぁ……かつては窃盗犯として散々悪さをしたんだ。
だがオイラが死んだあの日、窃盗する標的があの豹狼組だったんだ……それが原因で、その組員達に殺されてしまったんだ。
オイラはもう地獄に堕ちると覚悟していたが……まさか閻魔大王からやり直せと言われ、そのまああのオーディンとゼウスのところに送られた。
そしてそこからオイラは、この異世界へ転生した。
だが、ここにいても、誰とも馴染めなかった……」
「だから山賊になったのか?」
「あぁ、そうだよ!
ほんでここにアンデット連合がやってきてなぁ……オイラをこうして雇ってくれたんだよ」
「なるほどな……だが残念ながら、実は俺は、その豹狼組の組長の息子なんだ」
「な、なんだって!?」
「このことは誰にも言ってないがな。
俺も正直、ヤクザの息子として生まれたくはなかったんだ。
この世界で今、第二の人生を歩んでいるんだ。
……さて、もうそろそろいいかな?
俺、急いでるからさ!」
そう言って、俺は橋を渡ろうとした。
すると大男が俺に向かって土下座をした。
「お待ちくだせぇ!!!
オイラ、テメーを……いや、兄貴の家来となります!!!
オイラに、もう一度チャンスをくれませんか!?」
「……」
俺は振り返って、土下座している大男を見つめた。
「俺はタツヒサって名前だ。
お前は?」
「オイラは、山賊のクマゾウと申します!
タツヒサ兄貴、是非ともオイラも一緒に戦わせてくだせぇ!!」
「はぁ……わかったよ。
だからもう土下座なんてやめてくれ!
……お前を俺の仲間にする。
その代わり、俺の仲間になるのなら、お前はその時点で既に俺の国の住人になってもらう」
「住人?」
「後で話す。
それよりも一緒に戦ってくれるんだろ?
だったら、すぐに着いてきて!
……本当にやり直したいのならな」
「勿論です!」
すると、目の前にこんなのが出てきた。
『クマゾウがあなたの仲間になりたそうにこちらを見ています。
仲間にしますか?』
その下には、”はい”か”いいえ”が表示された。
でも、俺は迷わなかった。
「しっかりと俺を守ってね!」
そう言って、すぐに”はい”を押した。
すると、”クマゾウがあなたの仲間になった”と表示され、すぐにルシファーのステータスが表示された。
『クマゾウ』
種族:人間
レベル:35
通常スキル:攻撃力増加、翻訳、硬化
固有スキル:格闘(最強)、窃盗、土(普通)
攻撃力:415
守備力:321
速度:90
体力:255
(なるほど、まぁまあなステータスだが、これも悪くないな!)
山賊の大男ことクマゾウがこうして仲間となった。
「なるほど、その条件がアンデット連合の壊滅ってことですか?」
「あぁ、それで今、手始めにこの不法占拠しているこの賢者の石が取れる鉱山に来たんだよ。
何か知ってる情報はないか?」
「そうですねぇ……オイラはそこまで詳しくはねーが、少なくとも賢者の石は最も金になる激レアアイテムなんですよ。
その鉱山さえ手に入れたら、一生遊んで暮らせるほどの価値があるんですよ。
実際にそう言った鉱山を巡った国同士や異なった種族同士の戦争が勃発したり、アンデット連合のように、ヤクザやギャング、マフィアといった犯罪組織が勝手に乗っ取ることがあるんですよね。
一度乗っ取られたら、誰もその鉱山に近づくことすらできねーんですよ」
「なるほどなぁ……その鉱山に誰がいるんだ?」
「オイラを雇った張本人なんですが、確かアンデット連合直系幹部のサンゾロって男です。
勿論普通の人間ですがね」
「サンゾロか……ソイツをぶっ倒して、アンデット連合の本拠地がどこにあるのかを吐き出させるとするか!」
「それがいいですよ!」
その頃、鉱山の内部にある大きな部屋に、一人の男がケータイ電話として機能する蝋燭と貝殻を合わせたような道具に話しかけた。
「……そうか。
ご苦労だったなぁ……」
「ありがとうございます。
親父、酒呑童子が例の場所へ向かったという知らせが来ました」
「あぁ、知っているぞ。
八岐大蛇を倒したククルカンを従魔にしたあのガキがいる城だろ?
既に噂が出回っているからなぁ……」
「はい、それなんですが、想定外なことがありました」
「何?」
「……あの城には、何故か引退したはずのエンジェル族領王国”エーリュシオン”の元女王のルシファーがいることです。
そして、どういうわけか、ランスロットとマーリン率いるアヴァロン王国軍と例のククルカンが援軍として駆けつけてきたのです。
それで今、苦戦しているそうです」
「……そうだったのか。
まさかあのルシファーが……まぁいい。
俺が直接あのバカにさっさと戻ってこいという撤退命令を出しておく。
お前は引き続き賢者の石の鉱山を頼んだぞ、サンゾロ」
「……了解しました」
そして火を消して、通信を終えた。
すると部屋にその男の部下が入ってきた。
「兄貴、申し上げます。
山賊のクマゾウが寝返りました」
「誰に?」
「……ククルカンを従魔にしたと思われる例のガキかと……」
「そうか。
まぁ、あの山賊はもう用済みだし、そもそも役立たずだからなぁ……どうせあのガキは、俺らをここから追い出そうとしてここに向かってるんだろ?
だったら、今すぐにでも返り討ちにしてやれ。
あのガキと役立たずに指一本もこの鉱山に入れるんじゃねーぞ」
「はい!」
手下がすぐに部屋から出た。
「……もうそろそろ頃合いか?
あのメローラとかいう小娘も用済みだからよぉ……」