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3 貴族と関わりたくはない





いやさ、違うんだって。


あんな綺麗な顔した人間の、女の子ならともかく男だぜ?

ムカっ腹が立つってなもんだろうよ。


他にも色々金目のもんを持ってたぞ。


金の腕輪にペンダント付きのネックレス、銀の指輪とそれについてた小さいレッドダイヤ。


あとはシュナイヤー工房の懐中時計に、鍛冶屋バルド製ミスリル銀の小剣まで佩いてたぞ。


サイフも他に2個持ってたし。


ラクセン聖金貨が服着て歩いてるのかと思ったぜ。


ボロサイフ一個で我慢したんだから、むしろ褒めてもらいたいね。


そんな話をババアにしたら、



「今度会ったらそんな奴とっ捕まえてきな。身代金で一生遊べるじゃないかい。」



なんて軽口を叩いていた。

本気で言っていないのはわかっている。


ちなみにババアのいる教会は、東西に走るビオラ通りからもう少し北に行ったところにある。


さらにその北側が貴族街だ。


貴族街を中心に、市民街、繁華街、貧民街とドーナツ状になっている。

まぁ、貴族街の高い城壁がある以外は、そんなに明確な分け方はされてないけどな。


貧民街をも超えた先には、大きな川が流れてる。


小高い丘になった王都中の下水が、それなりに流されていくから綺麗でもない川だ。





おれの主な収入には、泥棒の他に教会から頼まれる雑用がある。


手先が少し器用なので、ちょっとした工具なんかを作ったりしている。


鉄製のハサミや爪切りなんかが人気かな。

見よう見まねで作っているので、不恰好だけど切れ味さえしっかりしていれば客は満足する。


特に爪切りは好評なようで、今までにマトモなもんが無かったからシェアを独占しているらしい。


ババアが特許やらを取ったらしいから、その辺は任せている。

泥棒で食える稼ぎはあるから、臨時収入みたいなものだしあまり気にしていない。


手先は器用だけど、別に細かい作業が好きなわけじゃないからな。


そもそも鉄クズイジリだって、もとは泥棒道具を作るために始めたっていうのがある。


城壁を上り下りするのに使うロープと鉤爪に、ワイヤーが必要だったから作ったんだ。


ワイヤーは、この世界じゃまだ売っていない。

鉄を剣や棒にする事はあるが、ヒモにする発想はまだないらしい。


針とかハリガネはあったりするから、そのうち出てくるとは思うけど。


おれの知らないとこでは意外とあるかもな。

その辺で買えなかったから作っただけだ。


作り方もそんなに難しくない。

ハリガネを万力とかでもっと引き伸ばすだけだ。


こっちは細かい作業じゃないが、ただただ面倒なだけだ。


だから鉤爪近くの直接壁に当たる1mくらいしか、ワイヤーは作ってない。

予備はいくつかあるけども。







前のスリから2、3日経った。

おれは別に金使いも荒くないし、特に欲しいモノもないから当分暇だ。


1万L (ラン)ってのは、確かに遊び歩けばひと月で無くなるぐらいだが、三食の飯代くらいなら4、5ヶ月は食えるくらいだ。


さっきその辺の屋台で買ってきた肉入りのサンドイッチが、だいたい10Lだからな。

1Lで大体、10円くらいかな。感覚だけど。


そんなこんなで昼から教会に立ち寄って、お茶を嗜んでいた。

教会のババアはタバコ好きだけど、おれは紅茶の方が結構好きだ。


教会のコネを使って茶葉を仕入れて貰っている。

持って帰るのも面倒だから、ちょくちょくこうして喫茶店代わりにさせてもらっている。


産地は結構バラバラだがな。


この缶はえーっと、サル?セルビヤかな?

正直読めない単語ばっかりだ。



「ニグ!あんたに客だよ」

「ん?はいよー」



ニグというのはこの世界でのおれの名前だ。


来たときから付けられていた、鉄の首輪に彫ってあった文字から付けられた。


なんだかんだ1年経つのだが、今も首輪は外れていない。

ただの鉄だったら、おそらく外れているんだが。


今はそれを隠す用の、ボロ切れをスカーフ代わりに巻いている。

何もしないと目立つからな。


カップの残りをグイッと飲み干す。


教会は、一応王様直々に認可されている建物だから、たまに街中での雑用を任されることがある。


認可はされてるが詮索もされないので、非合法なお仕事も引き受けている。


そのうちの一つが、こういう人材の斡旋ってわけ。


忍び込んだり、細かい仕掛けを作るのはおれの得意分野だからな。

おれが必要になる客っていうのに、そうロクなやつもいなかったりする。


もっともおれは事情が事情(ダークエルフ)だから、それ込みで話せる(・・・)やつ限定にはなるから、そう多くはない仕事だけど。


おれがここにいる時にちょうど客が来るなんて、タイミングがいいもんだ。



「どっちよ。」


とおれが尋ねるとババアは、左手の小指を立てて振った。

そこにはおれが作ったピンキーリングが嵌っている。


つまり、おれが何か作ったりする、技術面のお仕事ってことだ。


代わりに非合法な依頼がくるときは、タバコを持った右手を揺らして教えてくれる。


アウトローなガジェット作製でも右手だったりするが、左手ってことはまぁおれ自体に危険が及ぶことはなさそうだ。


というわけでそういう時は、ちゃんとした女の子みたいな口調で応対する。

客商売は第一印象が大事だとさ、知らんけど。



「こんにちは〜、金属技師のニグです!本日はどういったご用件でしょうか〜、あ?」



ドアを開けて笑顔で応接間に入ると、そこにいたのは先日スリした坊ちゃんとそのツレだった。


思わず笑顔も凍りつく。



「どうしたんだい、間抜けヅラして」

「これはこれは、巷で噂のニグ博士というのは、このようなお若い女性でしたか。」



お、落ち着け。バレちゃいないはずだ。

あの時は声も変えてたし。



「ええ、実際にお会いするとよく仰られます〜。こんな小娘がか!みたいにですね〜」

「ハハハ、小娘だなんてとんでもない。素晴らしい腕をお持ちなようです。シスター・マクワのお墨付きらしいですからね。」



ババアがいつになく怪訝な目でこちらを見てくる。

なんやねん。


ちなみにマクワというのはババアの名前だ。


ババアはそのままススーっと部屋を出て行った。

仕事の話で席を外すのは普通かもだけど、なんだか嫌味な雰囲気を感じとったらしい。



「それで、ご用件はどういったものでしょう?」

「ええ、実は王都周辺での水道機構についてのご相談がありまして。」


こういったものになります。と坊ちゃんは数枚の羊皮紙と、金のネックレスを取り出した。

ペンダントの付いている、アレ(・・)だ。


おれの顔も自然と引きつっていく。


おずおずと差し出されたペンダントを開けてみると、片面に十字架、もう片面に8枚羽根の大鷲があしらわれた家紋。


こ、こんな家紋を持った貴族はこの国には一家しかない。


常識のないおれでもわかる。



「こちらの方は、ラクセン王家王位継承権第2位の、アルバート・ヴァイス・ラクセン王子になる。」


王子の隣にいた、無愛想気味な黒髪の短髪がそう切り出した。


お、おい。マジでなんでお前ら、街角の酒場なんかに出没してやがったんだ。





坊ちゃんたちは、早速話を切り出した。



「つまり、新たな水源の確保が必要になっている、と?」

「ええ、ラクセンは水の都とも呼ばれる都市で、上下水道の普及エリアは他国に比べて抜きん出ていますが……。現在貴族街エリアの12の泉のうち、まともな水量を確保できているのはひとつしかありません。」

「そんな状況になっているとは……存じ上げておりませんでした……。」



おれが知らないのにも理由がある。

そもそも、貴族街にしかまともな上水道がないからだ。


細やかな彫刻が施された泉も、城壁の向こうにしか存在しない。


市民街以下で利用できるのは、せいぜいおこぼれ気味に使えるいくつかの井戸と、下水施設くらいなもんだ。



「そこで、以前ダウジングマシンなるものを開発したニグ博士を訪ねてきたというわけだ」

「井戸の発掘には、今や欠かせない物となっていますからね。」

「いやぁ、あれがですか。あははは……。」



そ、それは。前におれがただハリガネを曲げただけのものをマジックアイテムみたいにして売ったら、一瞬で盛り上がって流行ってしまったやつだ。


所詮ジョークグッズだろ、と作った本人であるおれすら思っていたのだが、魔力という概念があるこの世界では、どうやらバカにならない効果があったらしい。


もしかして貴族街の泉が枯れ出してるのって、市民が井戸を掘りまくったせいってのも、あります?

もし「続きを」とか「おもろい」などと思われた方は、下の【臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前】の九字を切ってください。

作者のやる気につながります。

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