プロローグ
目が覚めたら、異世界にいて、奴隷だった。
重くて仰々しい鋼鉄の首輪を巻かれ、両手を縄で縛られて、挙句檻の中に閉じ込められている。
檻は薄暗い幌の中にあり、馬車の荷台に積み込まれているようだ。
ガタガタと揺れるこの檻の中で、こんな仕打ちの割には身体中のどこも痛くないと思えば、ひとつ気付くことがあった。
この体は、女のものだ。おれは前世、男だったはずなのに。
体を見下ろすと、薄くて粗雑な貫頭衣に包まれた、それなりに女性的な膨らみがあるのがわかる。
夢にしては、ヤケにリアルな感触だ。
多分だが、女の奴隷は男のそれより扱いが丁寧になる。
というか、おそらく、きっと、丁寧になればなるほど、そういう用途の奴隷なんだろう。
拘束されて、監禁されて、輸送されている割には、肉体的に苦痛を感じていない理由は、つまりそういうことだろう。
大事に、運ばれている。高級な売り物として。
逃げなくちゃ、ここから何処かへ。
どうにかして、縄を解く必要がある。
だけど、どうにもならない。
少なくとも、魔法でも使えなきゃ、到底無理だ。
何か起きてくれ神さま!と、本気で目を瞑って、願ってみた。
何も起きるはずない、と思った数瞬。知りたくない現実を見るようにゆっくり開いた目蓋が、激しい閃光に貫かれた。
目が痛くなるくらいの光と、キャンプファイアみたいな熱と、交通事故みたいな衝撃を感じた。
一瞬で気絶させられたらしいおれは、起きた時に目の前に広がる焼け焦げた森と、焼け崩れた馬車と、何か肉が焼けた匂いと、焼け残った自分の服が、いっぺんに入ってきたのだった。