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1の後悔

「あの時好きな人に告白すればよかった。」「駐車をもっと丁寧にやってたら廃車にならなかったのに。」「就職失敗した。」「父の死から逃げてしまった。」大なり小なり生きていれば誰しもが後悔をする。人間はその後悔を乗り越えて成長していくという綺麗ごとがあるがこの言葉はあまりにも綺麗だ。まさしくその通りで、恋愛で失敗したなら次の恋愛に活かせばいいし、駐車に失敗したなら今後はより一層注意すればいい。つまり、後悔はある意味では可変的なのだ。気持ち一つでどうにでもなる。しかし、ただ一つ変わらないものはある。それは過去そのものだ。後悔から今後生きていく未来がより良いものへ変わるかもしれないが、過去はどんなことがあっても変えられない。タイムマシンなんかあてにならないし。人間はいつまでも変わることのない過去に囚われている。



「やっべ、もうこんな時間か。バイト行かなきゃ」

時計を見ると時刻はすでに夜の7時を回っていた。アルバイト先は家から徒歩3分ほど歩いたところにある【ペンダラス】というバーだ。店名の意味はマスターが昔創設した不良チームの名前らしいがとても不良だった過去があるようには見えない優しいマスターだ。そんなマスターに誘われ俺は就職先をここに決めた。せっかく大学に入ったんだし大手企業などを狙うか迷ったが、正直就職活動をするのがめんどくさく脳死でアルバイト先を就職先に変えた。

「お、おはよう!今日もよろしく!」

バーに入るとカクテルグラスを拭きながらマスターが声をかけてくる。

「純一が立派なバーテンダーになるのが楽しみだな」

マスターの口から100回はこの言葉を聞いている。俺が脳死でここで働くことを決めたと知ったらマスターは後悔するのかな。過去を変えられるとしたら俺を不採用にするのかな。

そんなことをいつも考える。

このバーで働いてからやたら「後悔」や「過去」という言葉を意識するようになった。理由は俺のある能力から来ている。


「いらっしゃいませ」

オープンと同時に顔なじみのおっさんが入ってくる。人と話すことに興味はないが聞き上手らしく色々な話をよくされる。無意識で聞き上手になれているのはとてもありがたい。

お酒が回ると人は過去の話を中心に話し始める気がする。嘘か本当かわからない武勇伝や経験人数、友人や家族の話。そして人生の後悔について。

1時間半ほど話を聞いた後お会計をしてほしいと頼まれた。

「今日はどっちかな」

心の中で呟く。

「純一君、今日はクレジットカードでお会計頼むよ」

そういって俺にクレジットカードを手渡してくる。

カードの末尾番号が10のクレジットカードだ。

ここで俺は一呼吸を置く。カードを決済機械に差し込み暗証番号の入力をお願いする。

おっさんは慣れた手つきで暗証番号を入力し、俺は目線をそらす。

目線をそらす理由はお客さんが安心して暗証番号を入力できるようにという飲食店の暗黙の了解らしい。俺はこの瞬間にあることが起きる。

「来たか」

一瞬目の前にノイズが走り、目線を正面に戻すとそこはバーではなくとても2022年とは思えない場所だった。

スマホを触っている人はいないし、服装も妙だ。やたら肩幅がとんでもなく強調されている服を着ている人が多い。そして街中のポスターには「ドラゴンクエストIII発売」の文字。

そう、俺はなぜか末番号が10のクレジットカードでお会計を進める時、目線を外した瞬間過去へ飛ぶことができるのだ。


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