教えてくれない事
戦争について何でも知っている孫子ですが、教えてくれない事柄もあります。
先にも述べましたが、長期戦のやり方は教えてくれません。
禁止するだけです。
その他にも、さらっと述べて終わりの部分もあります。
今回は、その辺りに突っ込んでみましょう。
・兵站
軍隊が活動する為に必要な物資の、調達や運搬方法についてです。
それまで武将の聖典のような扱いをされていた孫子の兵法書ですが、近代以降その評価が下がりました。
その一因が兵站の軽視です。
孫子は補給物資の不足にはうるさい人ですが、肝心の補給物資の調達方法は現地での調達です。平たくいえば略奪します。
更に本国からの補給は三回までという、謎のルールすら存在します。
当時はこれでも良かったのです。
というよりも、交通路や運搬方法が未発達だった春秋時代において、本国から補給物資を頻繁に運送すること自体が、非現実的だったのでしょう。
それに敵国の集落を襲って食料を確保すれば、敵の兵糧事情を圧迫できます。
苦労して運ばなくてもいいし、相手に損害を与えることが出来るので一石二鳥の作戦です。
今は出来ませんけどね。
食料と燃料ぐらいなら何とかなりますが、武器や資材の現地調達は不可能です。
何処の集落に徹甲弾やトマホークミサイルの在庫があるのでしょうか。日本なら小銃の弾の確保ですら不可能です。
という訳で孫子は兵站については詳しくありません。
時代的に仕方ありません・・・といいたいところですが、ある存在がそれを真っ向から否定します。
孫子かいた中国から遥か西の彼方に、ローマ人とかいう人たちがいましてね。
この人たちの戦略の根幹が兵站です。
策謀とかどうでもいいのです。
(゜Д゜)ノ兵站こそ我等が命。
兵站の事を英語でロジスティクスといいますが、これはこのままラテン語です。スペルがちょっと違うだけ。
孫子はローマ人と違い、兵站には冷淡です。
これは、孫子の片手落ちというよりも、ローマ人が変だと思います。
兵站重視の発想は、20世紀になってようやく浸透した考え方です。まぁ、どこかの国の海軍は、輸送船の代りに駆逐艦を兵站に投入して大失敗しましたけどね。
ローマ人の先進性に、我々は二千年ぐらいたって、ようやっと追いついた感があります。
両者の違いが面白いですよね。
・防衛戦
孫子が述べてくれないカテゴリー其の二。
防衛戦についての記述は一切ありません。
城攻めはしてはいけませんと述べるだけで、自分が城に籠って戦う場合についての言及は無しです。
ここから「攻撃は最大の防御」という発想が生まれたのでしょう。
確かに攻撃している最中は、防御の必要性は低いです。
また、孫子は主導権の確保に重点を置きます。
先手、先手を打ってゆき、相手に何もさせずに短期に勝負を決めますので、受け身である防衛戦はそもそも不味い戦い方なのでしょう。
しかし、我々現代日本人からすると、防衛戦闘についての言及が欲しかったですね。
私 (。´・ω・)/ だって、専守防衛なんだもん。
孫子 (。-`ω-)// なにそれおいしいの?
この孫子の発想に反発したのが、後の時代に現れた墨子です。
彼は彼で極端でして、攻撃の禁止。防衛戦闘一辺倒です。
墨子は防衛戦闘の技術者集団みたいなものを結成したそうです。
部外者から言わせていただきますと、(=゜ω゜)ノ「あんたら、もう少しバランスを取ってもらえませんかね」
・アメリカ式物量戦
兵站重視の上位互換。
圧倒的物量で乗りきるドクトリンです。
スーパー金持ちが貧乏人を、反撃も許さず踏みにじる作戦です。
これは流石に想定外でしょう。ローマ人ですら思いつきません。
孫子は軍を動かすと日に千金が掛かる。だからこそ費用がかさむ前に戦いを終えよと教えます。しかし、日に千金掛かることが苦でもない金持ちなら何日でも戦えます。
知恵を絞る必要も、無理を重ねる必要もありません。相手が息切れするまで、じっくり待つのみで勝利です。
アメリカ軍相手には孫子の兵法も形無しです。
まぁ、そのアメリカ軍ですら負ける時は負けるんですけどね。
・ゲリラ戦法
焦土作戦の一種です。
短期決戦の真逆の発想で、長い時間と屍の山を築いて最終的な勝利? を探る方法です。
国土は荒廃して、勝ったとしても苦しい生活が待っています。
理知的な孫子には理解不能な戦闘方法でしょう。
理知的にゲリラ戦をする人は、相当やべー奴です。何人か心当たりがあるところがまたヤバイ。
彼は当時の人にしてみれば、比較的国家意識がはっきりとしている人です。
政府、軍、参謀本部、前線部隊などの、部署ごとの役割を重視しています。一つの塊としての共同体による勝利を模索します。
それらの全てがあやふやなゲリラ戦は、流儀に反するでしょうね。
ただ、アメリカ式物量作戦には効果的な戦法だったのです。アフガンがいい例です。
以上が、孫子が教えてくれない戦い方になります。
重箱の隅をつつくような回になってしまいました。
続く