古典の中のキャッチコピー
説話中心に進めます。
私は孫武の事を科学者と言いましたが、韓非子を同じノリで言えば、この人は世界最強格のコピーライターです。
韓非子には悪いですが、彼の名前を知っている人は歴史好きか、東洋思想に興味がある人、それとキングダムの読者だけでしょう。
はっきり言ってマイナー人物です。
ですが、彼が繰り出した数々の、傑作キャッチコピーを知らない日本人はいないでしょう。
今回は彼が送り出した、キャッチコピーを見ていきましょう。
「矛盾」
この言葉が一番有名かと思います。
市場で武器を商っている男が、手にした矛を示して、「この矛はどんななものでも貫く」と紹介します。そのすぐ後に盾を取り出して「この盾があればどんな攻撃も防げる」と言いました。
それを見ていた客の一人が「その矛で、盾をついたらどうなるんだい」と問いかけると、男は返答に窮しました。
この言葉はそのまま日本語です。
矛盾とは「物事の筋道や道理が合わないこと、つじつまが合わないこと、一貫性が無いこと」です。
韓非子曰く。
「賢人は徳によって民を感化し、強制手段はとらない。威勢で収める者は、何事も強制手段をとる。両者は矛と盾の関係で、両立し得ない。人の「人治」と、威勢に頼る「法治」とは相いれないものだ」
話はぶっ飛びますが、漫画パタリロで、パタリロが矛盾の矛と盾を作るお話がありました。
矛は文字通りなんでも粉砕するエネルギーを放ち、盾はどんなエネルギーも跳ね返す力を持っていました。
この矛で、盾を貫くとどうなるか。
パタリロの計算では、宇宙の半分が吹っ飛ぶそうです。
(゜Д゜)ノなんじゃそりゃ。
「逆鱗」
逆鱗に触れるの逆鱗です。
これもそのまんま日本語です。
竜の喉元にある逆さ鱗があるので、これに触れた者は容赦なくかみ殺される。
君主にも逆鱗があるので、臣下の者はこれに触れるのを避けなければならない。
君主を上手くコントロールするには、抑えるべきポイントがあるんだよ。よく観察しなさい。
韓非子は君主としての心得と、家臣としての処世術の両方を教えてくれる人です。
「想像」
人が象を想うで、想像です。
ゾウさんの骨を見て、生きていた頃の姿を想い描くことです。
紀元前の「イマジン」です。
Imagine there's no Heavenです。
(=゜ω゜)ノねっ。
皆さんご存じでしょう。
他にも「信賞必罰」「唯々諾々」「巧詐は拙誠に如かず」「主客転倒」「箕子の憂い」なんかもあります。
韓非子は当代一流の知識人でしたが、書物への過信を戒める警句もあります。
若い学生が、書物を背負って周の都へ行く途中隠者に出会いました。
隠者は言います。
「物事はすべてひとがおこなうものじゃ。その人の行為は時に応じて変化する。だから智者はこの世に不変のものがあるなどとは、決して思わないぞ」
「書物は人間の知恵によって生み出されたもの。だから智者は書物を有難がったりしない。やれやれ、どうしてお前さんは、そんなに沢山の本を背負っているのかね」
これを聞いた学生はハタリと悟り、その場で書物を焼き捨てて喜んだという。
(。´・ω・)?ん、言いたいことは分かるが、なぜ本を焼く。ってな内容です。
韓非子曰く。
「智者は言葉で人を教えないし、書物を所蔵などもしない。ものに執着せず、全ては道に任せて行う」
との、ことらしいのですが、それを書物にしているあんたは何なんだと言いたくなります。
この人のエスプリは高度過ぎで、偶に嫌味に感じることも有ります。
私が最も皮肉が効いているなと思ったものは次の一節です。
「郢書燕説」
郢(楚の国の都)の人が燕の国の大臣に手紙を書いていた。手元が暗いので召使に言いました。
「灯りを上げよ」
その時、うっかりして文中に「灯りを上げよ」と、書いてしまいました。
手紙を受け取った大臣は「灯りを上げよ」の意味が分かりませんでしたが、推察します。
「これはきっと、明をたっとべということだ。つまり、賢人を抜擢しろという意味だな。なるほど」
大臣は燕の国の王様に、賢人を抜擢することを進言し受け入れられます。
燕の国はも多くの賢人を用いたので国が発展しました。
大臣は郢の先生にお礼を言いましたが、「灯りを上げよ」と、書いた記憶のない先生は頭を悩ませましたとさ。
韓非子曰く。
「古典を読むとき、学者は意味のこじつけや拡大解釈に走りがちである。しかし、それは自分に都合よく解釈したものが多く、必ずしも古典の言わんとすることではないのだ」
耳が痛い。(/・ω・)/!!
拡大解釈なんて私の十八番ですから。
それを、古典である韓非子の思想に言われる。この逃げ場のない感じが最高です。
少し不思議(SF)なお話もあります。
墨子が三年がかりで木製の鳶を作りました。しかしそれは一日飛んだだけで壊れてしまった。
お弟子さんが鳶を褒めると、墨子は車の楔を作る職人には及ばないと言います。
「職人は一尺ほどの木材を半日足らずで、楔に加工する。その楔は三十石の重荷に耐え、しかも長く使える。儂の鳶は作るのに三年もかかったのに、一日飛んだだけで壊れてしまった」
韓非子曰く
「いくら精巧なものでも、実際の役に立たないなら価値はない。本当にに有益な技術だけが「巧」と言えるのだ」
ちょっと待て。墨子先生。鳶は一日飛んだんですよね。しかも作るのに三年費やしたという事は、単純な凧であったとは考えにくい。(墨子は戦国時代に、防衛用のびっくりどっきりメカを作っていた人で、当時最高クラスの技術者と思われます)
その鳶ってもしかして・・・グライダーなんじゃないの。人類史を書き直さないといけないんですが、それは。
因みにグライダーの研究は、1891年のドイツが初らしいです。
韓非子は、諸子百家時代の最終ランナーと言える人です。
彼は変革を主張し、儒学者が唱える復古主義に反対しました。
物事を突き放したかのように冷静に分析し、寓話や故事を引用して説得力とイメージが掴みやすい論説を示してくれます。
続く
次で最後です。
軽くまとめて終わります。
今回、この文章を打ち込んでいて驚いたのは「郢書燕説」が一発変換できたことです。
この変換を使う人、意外に多いのかな。