街
街はとても賑やかだ。
大通りや広場では露店が立ち並び、朝から大勢の人が行き交っている。
時刻は現在10時を過ぎた頃、
これから昼へ向けて一番賑わう時間帯だ。
そんな街、
の、あまり大きくない普通くらいの通りをダンテは歩いている。
肩にはマリーが入っている頭陀袋を担ぎ、なるべく目立たないように仕事服ではなく、一般的な男性用の服を着て歩いている。
無地のタンクトップにジーパンだ。
今のところ、特に目立った様子なく、普通に街を満喫できている様子だ。
今日の一番の目的は、この通りにあるパン屋へ、今朝ちょうど切らしたパンを買いに行くこと。
……は、実は口実で、本当の目的はパン屋の5軒手前にある花屋にある。
「あら?エドモンドさん?おはようございます‼︎お久しぶりですね?」
「……ええ、お久しぶりです。アナさん」
まぶしくらいの明るい笑みで朝の挨拶をするのは花屋のアナさん。
ダンテの、街に来た時の楽しみだ。
アナさんは、ダンテがこの街へ仕事を探しに来てすぐ、丁度同じタイミングで店を出した綺麗な女性だ。
街へきて少ししても仕事が見つからず、途方に暮れていたダンテに声をかけてくれた、優しい女性。
たまたま自分の知り合いに仕事を募集しているという方がいると、その方にダンテを紹介してくれたのだ。
今のダンテがあるのはアナさんのおかげという訳だ。
毎日仕事に疲れて精神をすり減らしているダンテにとって、アナさんの顔を見て、話をしている時が唯一、落ち着ける時なのだ。
「今日はお仕事おやすみですか?」
ニコッと微笑んで聞いてくるアナさん。
可愛い。
「……はい」
「そうですか、ゆっくりと体を休めてくださいね?」
「ありがとうございます」
素っ気なく答えるのもいつものこと、
彼女にはまだ仕事のことは言っていないのだ。
仕事が決まって何の仕事と聞かれた時、答えられなかった。
アナさん自身も知らない様子だったみたいだし、言えない仕事と言ったら「すごいです‼︎」と言ってくれた。
「いい仕事を紹介できたなら私も嬉しい」
とまで言ってくれた人に「実はあなたに紹介してもらった仕事は処刑人でした」
なんて言ったら、ショックで気を失うと思ったからだ。
決して今の仕事に不満があると言う訳でもないし、アナさんに何か思う訳でもないが、なんとなく言えないでいた。
「……最近」
「はい?」
すると、アナさんは何やら言いにくそうにやや俯いて話し出した。
「最近、エドモンドさんの姿が見えないので、少し心配してしまいました」
時々、
仕事の休みがない時がある。
久しぶりに顔を出すと、今のように少し不安そうにしてくれる。
優しいのだ。
アナさんも、気付いているとは思う。
どんな仕事とまではまだ分からないだろうが、不定期の休みに、やつれた顔、街へ来た頃から少し痩せたか、そう言った少しの変化から、危険な仕事をしているのではと心配してくれるのだ。
そんな彼女を不安にさせないためにも、休みの日は欠かさずこの店へ顔を出すのだ。
「大丈夫、俺は身体くらいしか取りえないし、力仕事だからこの時期は忙しくて、休みがあるだけでも嬉しいくらいです」
「そうですか?」
「そうです」
「なら……」
渋々といった様子で納得してくれるアナさん。
「では、俺はこれで……」
「はい、お気をつけて」
適当なところで話を切り上げる。
これもいつものことだ。
アナさんとは少し話ができるだけでも幸せなのだ。
「今度‼︎」
立ち去ろうとアナさんに背を向けるダンテへ、後ろから呼び止められる。
振り返るダンテ。
アナさんと目があった途端、アナさんは今自分が何を言おうとしたのか気付いたようで、急に顔を真っ赤にして慌て出す。
「そのっ……今度……次‼︎次、エドモンドさんのお休みの日にでも、お昼ご飯、ご一緒しませんか?」
流石に予想していなかったようで固まるダンテ。
思いもよらないアナさんからの誘いに一瞬思考が止まってしまったようだ。
「ぜ、是非」
食い気味に返事をするダンテ。
返事を聞いたアナさんは、
「はい‼︎是非‼︎」
ニコッと、より一層明るい笑みをダンテへ向けた。