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⑮ ???、契約を交わす

本日二話目


色々と仕様です。

(名前……そうだよね。彼の立場なら確認しないと駄目だよね)


行太は少女の名を聞く理由を『下衆の発想』と考えていたが、名を問われた少女はそれが下衆の発想とは捉えていなかった。


少女は自分が救われた時の事を鮮明に覚えていた。

あのとき、あの場で行太は確かにこう言ったのだ『己の仕事はゴブリンの駆除であって、君たちの救出では無い』と。


さらに、彼の言葉に対してグダグダ文句を言っていた女性たちをあっさりと消しているのである。やり方は不明ではあるが、少女は『間違いなく行太がやった』と確信している。


つまり、何が言いたいかというと、ミキは目の前に座っている少年のことを正義の味方とは思っていないのである。


正義の味方ではない以上、打算や保身に気を配るのは当然のことだ。ミキにはそう考えるだけの理性があった。


また、ミキから見たら行太は正義の味方ではないものの、何の得もないのに自分を地獄から救ってくれた人であり、今もこうして匿ってくれている恩人であることになんら違いはないのだ。


故に正直に話を打ち明けられた今でも、ミキは行太に対して悪印象はもっていなかった。


(そんな恩人に迷惑をかけるわけにはいかない、よね。……でも)


もしあの男が、かつて父と呼んでいたあの男が自分の捜索願いを出していた場合、自分はあの男に引き取られることになるだろう。


……その後はどうなる?

証拠隠滅のために殺される?

もう一度他のゴブリンの巣に叩き込まれる?


どちらにせよ地獄である。かと言ってこのまま黙秘を貫いたとしても何が解決するわけでもない。


むしろ目の前の少年の不興を買ってしまう分だけマイナスとなる。


今のミキが縋れるのは目の前の、神保行太と名乗った少年だけなのだ。不興を買うわけにはいかないのだ。


(……怖い。でも、この人はあそこで言った)


ミキは覚えている。あの地獄で自分が発した『生きていけるのか?』という問いに対し、行太が『生きていけるさ。そうでなくては助ける意味がない』と言ったことを。


だから彼が自分の名を確認しているのは、言葉通りの意味で法律上、もしくは手続きの関係で知る必要があるからだ。


そう考えていたところに、行太から声が掛かる。


「少なくとも俺は君をあそこに叩き込んだ『共生派』ではない。もしも君をあそこに叩き込んだのが君の家族でも、その家族が君の捜索願いを出していたとしても、俺はギルドに報告はするが君を家族に引き渡すつもりはないぞ」と。


(嘘……じゃなさそう。それに……)


苦々しい表情で『自分は共生派ではない』と告げた行太の様子を見て、ミキは自分の考えが正しかったことを確信したと同時に、自分をゴブリンの巣に叩き込んでくれた元凶の存在を知った。


「共生派、というんですね」


「あぁ」


(『共生』なるほど。確かにあの男は魔物との理解がどうのと言っていた。そしてそういう思想を持つ連中は『共生派』と呼ばれている。……それはつまりアイツみたいなのは他にも沢山居るってこと!)


……この瞬間、少女は『共生派』こそが全ての元凶だと認識し、それを己の復讐の対象とした。


もちろん目の前でミキを観察していた行太も、彼女の心の動きは察していた。しかし行太は復讐に燃えるミキの考えを訂正をしようとは思わなかった。


当然だ。行太が共生派に対して恨みを抱くように仕向けたのもあるが、大前提として彼らがミキを地獄に叩き落としたのは紛れもない事実なのだ。


「……ミキ、です。姉小路ミキと申します」


実家を敵と認識したミキは、少し前までは家名を隠すことを考えていたことはおくびにも出さず、正直にフルネームを名乗ることにした。


すでに実家を『敵』と認定したミキは、自分がフルネーム名乗ることで親が『共生派』であることを――少なくとも『共生派』と何らかの関りがあることを――知られた結果、家族や実家に雇われている人間がどうなろうとも、もはや知ったことではないと判断したのだ。


報復される可能性はあるだろう。


だが行太は裏切らないと言ってくれた。今のミキには行太が支えであった。だから全てを委ねるつもりで名乗ったのだ。


「姉小路、なぁ。なるほど、そりゃ警戒もするわな」


そんなミキの思いを知ってか知らでか、行太は顎先を撫でながら独り言ちる。


姉小路家の名は行太でさえ知っている。なにせ「始まりの冒険者」の一人を生んだ家であり、当然のように壁の中にも影響力を持つ名家なのだから。


ミキが本家の人間か分家の人間なのかは知らないが、少なくとも姉小路家は『年頃の娘をゴブリンの巣に叩き込む程度には共生派の思想に染まっている』ということがわかっただけでも十分な収穫。そう考えることにしたのである。


「……」


顎先を撫でながらそんなことを考えている行太の前で、ミキは表情を一切変えず、静かに行太を見つめていた。


傍から見れば気丈な態度と言えるかもしれない。しかし一見堂々としている態度とは裏腹に、その手はぎゅっと毛布を握り締めていた。


怖いのだ。


今までの会話で、ミキは行太があの男の仲間ではないということは確信している。しかし、しかしだ。あの男の仲間ではないということと、ミキの味方であるということはイコールではないのである。


確かに行太は共生派と敵対しているかもしれない。でも、それはそれとして、本人が言うように、探索者である行太にはギルドへの報告義務があるのもまた事実。


報告をした結果、たとえ行太が何もしなくても、報告を受けたギルド職員が姉小路家からの報酬目当てでミキを売ることだってあるだろう。その場合、誰がミキを守ってくれるというのか。


(……またあんな目に遭うのだけは絶対に嫌!)


沈黙の中そう考えたミキはすぐに行動に移った。


「お願いしますっ! なんでもしますから、共生派にだけは売らないでください!」


ベッドから転がり落ちるように降り、床に土下座するミキ。


ミキとてゴブリンによって穢された自分の「なんでも」に価値が有るとは思ってない。だけど今の自分にはこれしかないのだ。


今のミキには「あんな目に遭うくらいならいっそ殺してくれ!」という思いと「どうしてもあの男に復讐したい!」という思いがある。もちろん「死にたくない!」というのは生物としての本能だ。


誰がそれを否定できるだろうか。


「ん? いまなんでもするって?」


「は、はい! なんでもします!」


「ほうほう」


ミキから頼み込まれる形となった行太は「手間が省けた」と言わんばかりに笑い、そして言葉を紡ぐ。


「丁度いい。とりあえず君にしてもらいたいことがあるんだが……」


「やります! やらせてくださいっ!」


「おぉう。やる気があるねぇ。だけどまずは話を聞こうか?」


「は、はい……」


(た、助かったんだよ、ね?)

何をさせられるかはわからない。しかし少なくとも売られることは無さそうだ。行太の様子からそう判断したミキは、安心からか土下座の態勢のままヘナヘナと脱力してしまう。


結果的に土下座を通り越して五体投地になっているミキをベッドに戻しながら、行太は『ミキにしてもらいたこと』を伝えた。


「君には俺の弟子として探索者になってもらいたい」


「探索者、ですか?」


「そうだ。詳しくは後で話すが、今の君は特異な体質になっている。その君を軍や共生派に取られないようにするためには、一般人であることよりも探索者でいてもらった方が都合がいいんだ」


「でも、私には探索者としての素養が……」


探索者としての素養の有無は幼少期にほぼ強制的に調べられる。そしてミキが受けたときの検査結果は『素養なし』であった。


始まりの探索者の家に生まれておきながら探索者の素養がない。それは彼らにとって、恥だ。嫁に出すにしても「子供に素養の無さが遺伝しては困る」と言われて断られてしまう。


そういった事情もあって、実家の姉小路家は自分をゴブリンの巣に叩き込んだのだろう。


「大丈夫だ、問題ない」


それを伝えようとしたミキだが、行太は一瞬も悩むことなく言い切った。


「えっと……いいんですか? 私に特別な力なんてありませんよ?」


「力ならもうあるさ。あとは君が選ぶだけだ」


「もう、ある?」


ミキには行太が何を言わんとしているのかはわからなかった。しかし、どう考えても自分が行太の庇護無しで生きていけるとは思えなかった。


(いや、生きていくだけなら体を売ったりすればなんとか生きていけるかもしれない。けどそれだと私を地獄に叩き込んだあの家に復讐することができないっ!)


復讐には力が必要だ。そして目の前にいる少年が『力ならある』と言ってくれている。

ならば、自分が探索者になることになんの不都合があるというのか。


「なります。私、探索者になります!」


そう伝えたミキの表情は、まるで願いを叶える為に魔法少女になることを決意した少女が如く、実に覚悟が決まったものであった。


















……一方、そんな覚悟を決めたミキの顔を間近で見ることになった行太はそのときどんな表情をしていたかというと、ミキ曰く『(新規契約者をGETした某地球外生命体が如く)とてもやさしそうな微笑みを浮かべていた』という。





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