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⑫ 主人公、未亡人と契約の話をする

少しして。俺はリビングにて風呂から上がってきたシズカさんと向き合い、今後彼女にやってもらう仕事の内容を説明していた。


「まず探索者として働くアキラさんのサポートについてお話ししましょう」

「はい。よろしくお願いします」


「簡単にお話はしましたが、サポートと言っても、主にしてもらうことになるのは娘さんの体調やメンタルの管理になります。慣れてくれば金銭的な管理や依頼の選別もありますね」


まんまマネージャーだな。だがここで重要なことがある。


「ですが、暫くのあいだ彼女が請ける依頼の選別は私がします。期間は、そうですね。少なくとも在学中は私の指示に従って頂きます。たとえ知り合いやギルドの職員。果ては学校の教師や国の役人がどのような依頼を紹介してこようとも私の許可がない限り絶対に断ってください。その際は私の名前を出してくださってもかまいません」


自分たちで請ける依頼を決めたいと思うかもしれないが、弟子も彼女も素人だからな。勝手に依頼を受けて死なれても困るんだよ。


「……それはこちらからお願いしたいくらいです。娘をよろしくお願いします」


「承りました。それと、私を巻き込む為にギルドや学校が強制依頼をチラつかせる可能性が有りますが、たとえランクが上がっても学生であれば強制依頼は適用されません。つまり、相手が何を言ってきても娘さんが動かなければならない理由はないということです。ゆめゆめ騙されないようにしてください」


これもな。俺を学校に入れるきっかけを作ったオッサンはまだしも、他の支部の連中や学校関係者からすれば今の俺は完全にフリーな高ランク探索者だから、なにか面倒事が発生したら絶対に利用しようとするはずなんだよな。


だが俺は働く気がないし、そもそも学校では俺に支払うための報酬が用意できるとは思えない。そうなると向こうが俺を使いたいと思った場合、直接俺に依頼をだすのではなく、弟子を利用して俺を働かせようとするはずだ。


何も知らなければ、ただの学生でしかない弟子に学校からの依頼は断れないように思うかもしれない。しかし、だ。そもそもの話、弟子に限らず本来学生とは必要な力もなければ経験も、知識もない。総じて半人前の存在でしかないのである。


そんな半人前に対して、一応は公的な組織である学校が依頼を出すことなどありえない。あるとすれば、教師が『現場の判断』とか言って、立場を利用して依頼を押し付けるパターンだけだ。


この場合、依頼に対する危険度が不明で危険が増すのに対して報酬が曖昧になってしまうという、ふざけた話になってしまう。


今回のゴブリンの巣がいい例だ。


オッサンだってこんなに近くにAランクのゴブリンキングが潜伏しているなんて想定すらしていなかったしな。実際あれ、最初に動いたのが俺じゃなかったら大勢死んでたぞ。いやマジで。


何はともあれ、俺は自分が学校の為に命を賭ける気もなければ、弟子にだって学校なんかの為に命を賭けさせる気はないのだ。


考えすぎとは思わない。なにせかく言う俺がつい昨日まで良いように使われていたからな!


まぁ今回は例外だが、そんな例外を何度も認める心算はないってことだ。


「はい!」


うむ。これでよし。彼女にしたらギルドの職員を信じた結果旦那を亡くしたんだもんな。弟子が探索者になることにも反対していたっていうし、これ以上騙されたくはないだろうよ。


「で、次はハウスキーパーとしての仕事ですね」


「えっと。このお部屋のお掃除と簡単なお食事の準備。それと彼女のお世話、ですよね?」


「えぇ。そうです。特に急ぐのは彼女の服ですね」


「あぁ……確かに」


うん。掃除も飯の準備もある程度は自分でできるからいいけど、こっちは無理だからな。是非お願いしたい。


「でしょう? 上着もそうですが、それ以上に問題なのが下着です。正直私にはわかりません」


上着ならとりあえず大きめのそれっぽい服を買えば良いかもしれないけど、下着はなぁ。


「えぇ、まぁ、そうでしょうね」


「非常にナイーブな問題になりそうですので、シズカさんに全てお任せしたい。勿論彼女が望むものがあったらそちらを優先していただきます。一定の金額をお預けしますので、その範囲内でお願いします」


上手だろ? 節約。


「はい。わかりました」


うんうん。ケチるわけではないが、無尽蔵に金を使うのも違うからな。いずれ独り立ちした際に回収できる範囲にしておいたほうが、向こうの精神衛生上よかろうよ。


「あとは待遇ですね」


「……っ!」


顔色が変わったか。そりゃこれからの生活がどうなるかはここでの待遇次第だもんな。真剣にもなる、か。というかここで真剣にならないような奴を雇う気は無いけど。


それはさておき、話を進めよう。


「給料はとりあえず月30万円。休日は基本土日がお休みの週休二日制。依頼によっては長く空けることもありますので、その際はご自宅で待機して下さって構いません。有休などは、その都度相談しましょうか」


年金や保険はない。その辺は個人が入るものだからな。


「……こんなに?」


驚いているが、気持ちは分かる。仕事内容と比べて高いか安いかと聞かれたら、間違いなく高いからな。だが俺だって意味もなく高い給料を出すわけじゃないぞ。


「お給料の中には家賃も含まれていますからね。『お給料が安くて家賃を払えませんでした』なんてことになったらわざわざ引っ越してもらった意味がないでしょう?」


何の為に用意したんだって話だよな。ついでに言えば安い賃金でこき使った場合、逃げられるかもしれないからな。簡単に逃がすつもりはないが、予防は必要だろうよ。まぁ高すぎても不自然だろうからとりあえず30万円にしてみたけど、問題は無さそうだな。


「あ、そうか。まだ聞いていませんでしたね。ここのお家賃っておいくらするんでしょうか?」


「シズカさんが住む階だと、月30万円ですね」


「そうですか。月30万円……えぇ!?」


なんだかんだでそこそこいいマンションだからな。それくらいはするのよ。


「勿論全額を負担してもらおうは思っていませんよ? シズカさんは10万円を負担してください。……お給料の1/3ですので高いと思うかもしれませんが、貴女たち、とくにアキラさんの安全を確保するためには私の目が届くところに居てもらう必要があると考えていますので、何卒ご了承ください」


これもな。俺が知らないうちに嵌められても困る。でも俺と一緒のマンションに住んでいれば、いつでも簡単に報連相ができるだろ? あと本来なら俺の都合で引っ越しさせたんだから住宅手当として家賃を全額を負担するべきなのかもしれないが、それをやると自立心が養えないし、何よりこの引っ越しは木下家のためにもなるからな。少しくらいは負担してくれ。


「10万円……でもそれなら……」


そんなに悪い感触じゃないな。もう一押しいっとくか。


「その上でアキラさんが探索者として稼いだお金があれば、贅沢はできないかもしれませんが普通に生活する事はできると思いますけど、どうでしょうか?」


パートでいくら稼いでいたかは知らないし、娘を三人育てるのにどれだけの金が必要だったかはわからんが、弟子が醸し出していた生活臭を鑑みるに、家賃を支払ったあとで20万が残っていたとは思えんのよな。


「はい! だ、大丈夫です! 20万円もあれば学費を払ったあとでもお湯を沸かしてお風呂に入れますし、ご飯のおかずだって一品、いえ、二品は用意できますよ!」


「……そうですか」


光熱費とおかずって。……苦労してんなぁ。まぁいいや。話を進めよう。


「あとは特に思い付きませんが、シズカさんの方でなにかありますか?」


こっちが払う側とは言え、我慢をさせ続けるのは違うだろうしな。ちゃんとした理由が有るのであれば待遇の見直し交渉にだって応じる所存である。


「……そう、ですね。お仕事とお給料については特になにもありません」


「ほう?」


お仕事とお給料については、ときたか。つまり他に何か問題が有るわけだ。


「えっと、ですね」


「はい」


「その、ですね」


「はい」


「あれ、なんですけど……」


「あれ? すみません。別に怒ったりはしませんので、はっきりと言ってもらえますか?」


なんとも要領を得ない様子をまだるっこしく思った俺はストレートに聞くことにした。するとシズカさんは俯いて「わ、私の口から言わせるの?」とか、なにやらごにょごにょと言っているではないか。


そうだよ。お前から言うんだよ! そう言おうとした次の瞬間。シズカさんは顔を上げ、恥ずかしそうにしながらも、はっきりとした口調――というかやややけくそ気味に――言い放った。


「今後の○○○(医療行為)はどれくらいの頻度でして頂けるのでしょうか!」


「……あぁ。そうですね。そうでした」


勢いに任せた興奮と自分が口にした内容の恥ずかしさからか、今も顔を真っ赤にしているシズカさんを前にして、俺は「そりゃ言い辛いですよね。察しが悪くて申し訳ない」と頭を下げたのであった。



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