⑪ 主人公、悩む/未亡人、風呂に入る
前話の文章がかなりアレだったので修正しております。
きゃっきゃウフフのお風呂回? そんなものはねぇ。
「さて、これからどうするか」
風呂に入って緊張の糸が切れたのか、湯船に浸かりながら寝てしまった少女を抱き上げて寝室へと運んだあとのこと。俺は一つの難題にぶち当たっていた。
「ねぇんだよなぁ。服」
意外! (でもない) それは服っ!
「必要だよなぁ」
考えるまでもなく必要である。どこの世界に保護した年頃の娘さんを裸のままにさせておく保護者がいるというのか。少なくとも俺にそんな特殊性癖はない。
である以上服を着せなくてはならないが、俺は女性ものの服など持っていない。
下着? あるわけがない。
「でも裸でいさせるわけにもいかないんだよなぁ。ジャージくらいはあるが、それだけで過ごさせる訳にもいかんだろうし」
年頃の娘さんが下着もなしで素肌にジャージはさすがにまずい……まずくない?
「その辺は本人に買いにいかせればいいか? いや、駄目だな。それだと自分で買いに行けるようになるまでジャージだけで過ごすことになる」
俺が買いにいく? 女性用の下着とか無理ぞ? 社会的な立場もあるが、それ以前の問題だ。女もの場合は男みたいにS・M・L・LLのサイズが合っていればいいというわけじゃないんだぞ?
「はてさて、どうしたもんか」
あれ? そういや、なんか解決策があったような?
「あ、あの……先ほどは本当にお恥ずかしいところを……」
「ん? あぁ!」
なんだったかなぁと考えていたら、向こうからその答えがやってきた。
そうだよな。うん。彼女がいたよ。
俺の目の前に現れたのは、先ほどまで医療行為のために(ここ大事)○○○をしていた相手である、弟子の母親ことシズカであった。
うん。彼女なら女性用の下着を買いに行っても変態扱いされないし、サイズとかも大丈夫だろ。趣味が合うかどうかはわからんが、そこまでは面倒みきれん。自由に動けるようになったら自分で買ってくれと言いたい。
「え、えぇっと?」
おっと。とりあえず挨拶を受けたからには挨拶をかえさないとな。
挨拶は大事。古事記にもそう書いてある。
「おはようございますシズカさん。喉の調子は大丈夫ですか?」
忘れていたわけじゃないぞ。 元々彼女に少女の世話をしてもらう予定だったんだ。うん。だから彼女に服の購入を頼むのも問題はないのだ。
いやはや、本来は件のギルド職員から弟子たち一家を引き離す為にハウスキーパーとして雇うことにしていたのだが、思わぬところで役に立ったな。少し前の自分の判断を褒めたくなるな。
とはいえ、さっきまで○○○をしていた相手に対し、いきなり「服を買いに行け」なんていうつもりはないぞ。
円滑な人間関係を構築する為に事後トークはとても大事って、それ一番言われてるから。
「の、喉って……は、はい。年甲斐もなくあんな……」
ウィットに富んだ小粋なジョークと見せかけた下ネタを真に受けたのか、シズカさんは顔を真っ赤にして俯いてしまう。さっきまでしていた○○○での自分の痴態を思い出してしまうのだろうか? 見た目もそうだが中身も随分と若いというか擦れていないというか。
いや、俺としても擦れているよりは今のままの方が良いから問題ないけどな。
「いえいえ、さっきまでのシズカさんはとてもかわいくて魅力的でしたよ? これからもあんなシズカさんを独占できると思うと、うん。色々と元気が出てきますね」
「い、色々って。あ、あぅ……」
揶揄うたびにいちいち反応をしてくれるシズカを見て、俺は(やっぱり女子高生よりも、精神的に同年代である(自分がやや上だとは思うが)彼女の方がやりやすいなぁ)と再認識する。
まぁこれだって相手が訴えれば普通にパワハラかつセクハラになるのだろうが、向こうに訴える心算はなさそうなので一安心である。というか、そもそも一連の行為は医療行為だからシカタナイネ!
しかしまぁ、正直もう少し揶揄いたいところだが時間は有限である。
「色々話したいこともあるでしょうが、まずはお風呂で汗を流してきたらどうでしょうか? お仕事や今後のことについてはその後でしましょうか」
俺としても事後の甘ったるい空気は嫌いではないが、仕事の話はお互いにとって重要なことだからな。
重要な話をする前に風呂に入ってもらうのは悪い話ではあるまいよ。
先程は話の流れで○○○をすることになったが、元々はその話をするために彼女を呼んだのだ。仕事の話は彼女にとって本当の意味で死活問題に直結する話題なので、彼女の方にもこの提案に対して否はないはずだ。
「で、では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ごゆっくりどうぞ」
「……はい」
―――
「優しい、のは間違いないんでしょうけど……」
シズカは風呂場にてシャワーを浴びながらつい先ほどまで体を重ねていた少年のことを考えていた。
「信用できる人ではあるのよね」
少なくとも弱みに付け込んで下衆な欲望を叩き付けてくるような男ではない。
自分にアキラのサポートをさせるのもそうだ。おそらくだが「自分たちの力で自立できるようになれ」と言いたいのだろう。それはわかる。
「こっちの気持ちも汲んでくれているみたいだし。……でも」
確かに簡単な説明を受けて自分がこれからすべき仕事の概要は理解した。だが具体的な内容は何も知らないままだ。だからこそ細かい説明を受けたいと思っていたが、その為には空気の切り替えが必要だった。そのために自分に入浴を勧めたというのも理解しているつもりだ。しかし……。
「……もう少し優しくて欲しかった、かな」
今まで張り詰めてきた分の反動として、もう少し甘えたかった。それがシズカの偽らざる気持ちであった。
「だけどそれはまた別の機会でも良いわよね」
だって、彼がいう『今後のこと』って、きっとそういうことだから。
「ふふっ」
そう思えば、自然と笑みが浮かぶ。
「今後の事を考えて笑うだなんて、いつぶりのことかしら?」
今まではそんな当たり前のこともできないくらい辛かった。
件のギルドの職員に呼び出しを受けるたびに吐きそうになっていた。
亡き夫に謝りながら。でも『クスリのせいだから』と罪悪感を誤魔化していた。
……ふと我に返った時、自己嫌悪で死にたくなった。
狭い部屋で迎える食事の時間。
娘たちの我慢しているのを隠しきれていない表情を見るたびに、情けなさで泣きそうになった。
件のギルド職員から渡されたお金でご飯やおかずを買っているときも、惨めさで泣きそうになった。
少し豪華になった食卓に喜ぶ娘たちをみて、こんな自分でもまだ役に立てる。そう思って笑った。
だけど娘たちが居ないとき、一人で泣いていた。
辛かった。出口が見えないトンネルの中を無理やり走らされているようだった。
「でも、これからは違う」
もうはした金のためにあの男に抱かれる必要はないのだ。
いつ娘が毒牙に掛かるか? なんて心配する必要もないのだ。
自分達のせいで娘たちにひもじい思いをさせている。なんて悔やむ必要もないのだ。
娘たちの幸せを諦める必要もなければ、とうに捨て去ったはずの自分の幸せさえ望めるかもしれないのだ。
明るい未来は手の届くところにある。その未来をつかみ取るためにも。
「彼と仲良くならなきゃ、ね?」
切っ掛けは医療行為かもしれない。でも確かに彼は自分を求め、自分はそれに応えたのだ。
「アキラには悪いけど……」
彼に敬意以上の感情を抱いている娘に悪いと思わないでもないが、シズカとて今更退くつもりはない。だって彼が求めたのは、ずっと一緒にいた娘ではなく、今日初めて会った自分なのだから。
「だけど……そうね。なんなら二人とも、なんてどうかしら?」
シズカとて力こそ正義なこの時代に生きる女である。独占できればそれにこしたことはないが、自分の年齢を考えるとそれも難しいということぐらいは分かっている。そして下手な女に侍られるくらいなら、娘の方が良い。それくらいの判断はできるのだ。
「もちろん、アキラが嫌がるなら強制はしないけど、ね」
母として、娘の幸せを願う気持ちに偽りはないが、女として自分の幸せを求める気持ちもまた捨てる気はない。
「ふふっ。悪い女ね。わたし」
そう言ってお湯が満杯に溜め込まれた浴槽に浸かると、シズカは娘であるアキラたちが今まで見たこともないような顔を浮かべつつ、これから話し合われるであろう『今後のこと』に思いを馳せるのであった。
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