⑨ 主人公、面接をする・後
引き続き第三者視点
R指定は大丈夫……大丈夫じゃない?
確かに裏は有った。だがそれは自分が考えてるような低俗なものではなく、言ってしまえば年頃の少女にどう接していいかわからないから助けてくれという、なんとも可愛らしい内容である。
シズカは今まで余裕が無かったから他人を助けようなどとは考えなかった。だが、これからは違う。それにこれは無料奉仕ではなく、給料を貰いながら人を助け、そして恩人に報いることができる仕事なのだ。
それを理解した以上、シズカの中には行太が出した要求を断る気は無くなっていた。むしろ娘のサポートと合わせてこちらからお願いしたいとさえ考えていた。
今の彼女の心境を言い表すなら(このお仕事を断るなんてとんでもない!)と言ったところだろうか。
――このような感じでシズカは行太の懐の深さに感動さえ覚えていたのだが、実のところ行太にそこまで深い考えはない。
そもそも時系列からして、行太が巫女候補である少女を保護したのは、アキラの弟子入りと遠征のあとなのだ。よってシズカたちを扶養することと、目の前で寝ている少女のケアはまったくの別問題である。
ちなみに元々彼女を見つけた時の行太の気持ちとしては『レアモノゲットだぜ!』程度の気持ちであった。しかし後から相手は犬や猫ではなく人間であり(犬や猫でも責任は生じるが)拾った以上は責任が生じることを思い出したのだ。
いや、正確には『拾い主がとるべき責任には二種類ある』ということ思い出した。というべきであろうか。
元々行太が考えていた責任は、もしも彼女が『死にたい』と願った際に、責任を持って自分が殺すことであった。この場合はそれで終わる話なのでとくに問題はない。問題は彼女が『生きる』と決めた場合にある。
何故彼女が生きようとすることが問題になるのか? それは行太がこの年代の少女に対して「飯を食わせる」以外の接触方法を知らないからだ。
飯をくわせるのはいい。
戸籍を用意するのもいい。
一人で生活できるように探索者としての技術を色々と教えるのもいい。
で、その後は?
最初はそれで問題ないと考えていた行太であったが、少し冷静になって考えたとき『これで保護者としての責任を果たしたことになるのか?』という疑問を抱いてしまったのである。
考えた結果、答えは『否』。どう考えてもそれだけでは「責任を果たしている」とは言えないという結論に至ったのである。
弟子にあれだけ偉そうに語っておいてこの体たらく。有言不実行どころの話ではない。
ではどうする? どうなれば人間として面倒をみたことになる?
一晩かけて色々と考えたものの、結局いい案は浮かんでこなかった。そんな中、行太は彼女が弟子と同年代であることを思い出し、そして思ったのだ。
『あれ? 同世代の娘を育てた経験をもつ弟子の母親ならなんとかできるんじゃね?』と。
そして実際にシズカを見て『この様子なら俺からの要求を断れまい』と判断した行太は、自分で拾ってきた犬猫を親に育てさせるが如く、自分が保護した少女の世話を『仕事』としてシズカに押し付けることにしたのだ。
……誰が何と言おうと外道の所業であるが、真実を知らなければ美談となるという一例であろう。
そんな真実を知っても誰も得をしない情報はさておくとして。
(質問への答えは得た。ならば私も答えを伝えよう)
行太の人間性と慈悲深さに感動しながらも己の思いを継げるために顔を上げたシズカに対し、行太はまたも爆弾を投げつけた。
「あ、言い忘れてましたけど、俺と○○○もしてもらいますよ?」
「……え?」
(今、この子なんて言ったのかしら?)
あまりにもストレートな物言いにシズカの思考が止まりかけるが、行太は止まらなかった。
「と言うかシズカさん。貴女、件のギルド職員にクスリを打たれてるでしょう? いや、飲むヤツかもしれませんが、少なくとも何らかの影響を受けていますよね?」
「……っ!?」
(な、なんで!?)
「え? そんなに驚くことですか?」
予想もしなかった言葉をぶつけられてシズカは驚愕の表情を見せた。そんな彼女の表情を見た行太は行太で「隠してるつもりだったのか?」と逆に衝撃を受ける。
「これでもプロですからね。そのくらいはわかります。今も禁断症状に近いのが出ていますよね?」
「……はい」
行太の断定するような口調を受け隠しても無意味と判断したのだろう。シズカは項垂れて、スカートを握りしめながら肯定した。
事実、彼女は件のギルド職員によって薬を使われていた。しかし、アキラから連絡を受けて『あの男と縁を切る』と決めてから今日までおよそ10日間。件のギルド職員とは接触しなかった。
それはつまり、それだけの期間シズカがギルド職員が用意した薬を摂取していない。ということだ。
健康の事を考えれば間違いなく良いことである。しかしこのご時世、そういう意図があって作られた薬の依存度は極めて高い。
そんなクスリを一年以上のあいだ定期的に摂取させられてきたにもかかわらず、こうして10日以上耐えているだけでもシズカは立派だといえよう。
まぁ少しだけ妄想が暴走したが、その程度で済んでいるのが一種の奇跡のようなものだ。
これはシズカの母親としての矜持と精神力。そして件のギルド職員が使ったクスリの純度が市販されている程度の純度のものであったというのが大きい。
まことに皮肉なことに、こういったところでも違法な薬に手を出さないという、件のギルド職員の狡猾さに救われたと言えるかもしれない。
ただし、これを以て件のギルド職員に酌量の余地があるか? と問われれば、当然答えは否である。
「今のところ症状は軽~中度みたいですけど、こういうのは一日でも一気に進みますからね。さっさと処方しないと面倒なことになります」
「……はい」
「別にクスリ自体は構いません。嫌なことを忘れたいと思うのは当然ですし、意識を朦朧とさせた方が気分が楽なときもあります。それに、どうせ○○○するなら気持ち良い方がいいでしょうからね」
(恐らくだが、件のギルド職員はクスリを使って行う○○○の最中に彼女が理性のタガを外すのが好きなのだろう。NTRとか言ったか? 前世の記憶にそういうのも有るしな)
「……」
行太の前世の記憶はさておくとしても、ある種の理解をしめした行太の言葉に対し、シズカはスカートを握りしめて俯いたままの姿勢を崩せなかった。
(知られてしまった……。私がクスリに侵されていることが知られてしまった)
どこの世界にクスリに侵されたとわかっている女を雇おうとする者がいるというのか?
どこの世界にこんな汚れた女を近くに置こうとする男がいるというのか?
(このままでは、私がアキラたちの足を引っ張ってしまう! あぁ。折角助かりそうだったのに……私のせいで! あの男の善意を信じた私の愚かさのせいでっ!)
自分の愚かさに対する怒りやら、情けなさやらで目の前が真っ暗になるシズカだったが、ここでも彼女は勘違いをしていた。
なにせ行太は初めから彼女がクスリに侵されていることを理解した上で、彼女を雇おうとしていたのだから。
故に行太はなおも俯くシズカにできるだけ優しく語りかけた。
「今までは娘さんの為、生活の為という言い訳が有りました。ですがこれからは違います。もしも貴女がクスリや快楽を目当てに件のギルド職員に接触するようになれば、貴女たちに引っ越してもらったり、こうしてお給料を払って貴女に仕事をさせる理由が無くなってしまいます。それはわかりますね?」
実際問題、件のギルド職員との関係を絶つ為にこうして色々と動いている中で、当事者の一人であるシズカがクスリが原因とはいえ自分の意思で向こうに接触してしまったら今までの行為に意味が無くなってしまうのだ。行太にとっても他人事ではない。
「……はい」
「貴女が脅されて私の情報を漏洩したり、弟子となったアキラまでクスリ漬けにされても困ります」
「……はい」
「ですので、貴女の体からクスリを抜きます。その為の○○○だと思ってください」
「えっ!?」
『だからさっきまでの話は無しにする』そう言われると思っていたシズカは、予想していたものとは違う言葉を受け、驚愕しながら問いかけた。
「こ、これを抜けるんですか!?」
そんな彼女の問いに対する答えは当然『是』である。そうでなければ最初からこんな提案はしない。
「もちろんです。ギルドの職員程度が用意出来るクスリ程度であれば確実に解毒をしてあげますよ」
「あ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
最悪行太にアキラたちを託したあと件のギルド職員と心中することさえも覚悟していたシズカは、その瞳に涙を溜めながら頭を下げ続けた。
そんなシズカに、行太は告げる。
「ただし。体内に浸透した毒を外から抜くのは大変です。できないわけではありませんが時間がかかるし面倒なんですよ。なので手っ取り早い方法として〇〇〇による解毒をさせていただきたい。まぁ対価みたいなものです。もしそれが嫌だというのであれば……」
行太にとってシズカの身を侵すクスリを抜くだけであれば肉体的な接触までする必要はない。しかし真っ当な方法では時間がかかるのもまた事実である。しかしながら行太が欲しているのは即戦力だ。
冷たいようだが、今の行太に弟子を育成しつつ、巫女候補をケアして、母親の薬も抜く。そんな面倒な作業を並行して行う心算はない。また行太自身にだって人並みに欲はある。だからこそ行太は一番手っ取り早い方法である『○○○による解毒』を対価の一環として提案したのだ。
もしこの提案をシズカが断ったら? そのときは『彼女が考えていた通りの未来が待っている』とだけ言っておこう。
そんな、シズカの感情を無視した、時代が時代ならパワハラ&セクハラで訴えられても文句が言えない、ある意味で人として最低の提案をされたシズカはというと……。
「大丈夫ですっ! 是非お願いします! いつからですか? 今からですか!?」
「お、おう?」
もしかしたら「男の人っていつもそう! 私たちのことを何だと思っているんですか!?」なんて反論されるかもなぁ。などと考えていた行太が思わず数歩引くくらい乗り気であった。
それもそうだろう。
まず大前提として、ときはまさに世紀末であり、当然この時代を生きる者たちの倫理観や価値観は行太が知っている平成のものとはまるで違うものとなっている。具体的に言えば文字通り『体が資本』がまかり通っている時代なのだ。
そんな平成と比べて壊れた価値観や倫理観が蔓延る中にあって、シズカは自分たち一家全員を養ってもらう(アキラに至っては弟子入りまでさせてもらっている)という多大な恩を受けることになる。
その対価がハウスキーパーと少女の世話だけでいい?
ありえない。
あまりにも釣り合っていない。
用済みになれば捨てられるのでは?
行太の人間性を評価しつつも、シズカは心のどこかでそう思っていたのだ。
さらに言えば、クスリの禁断症状や件のギルド職員とそういう関係にあった経験によってシズカの中では〇〇〇の要求に対するハードルが非常に低くなっていたというのもある。
行太はそんな彼女に〇〇〇の提案をしたのだ。
もともと行太に自分の体を差し出すつもりだったシズカからすれば『最初から決めていたことを実行するだけで行太との繋がりを保てるだけでなく、自分の身を侵している忌まわしいクスリの効果からも解放される』ということとなる。
そこに是非などあろうはずもない。
むしろ(彼の気が変わる前に既成事実をつくるらなきゃ!)と考えたからこそ、シズカは行太が予想していた以上に乗り気になっていたのである。
そんな乗り気なシズカを見て、据え膳はしっかりと頂く主義を信条としている行太は「思ってたのと違うけど拒否されるよりはいい」と判断し、作戦行動を開始した。
「寝室のベッドは少女が使ってますので、リビングのソファーを使います。時間的にも早いしムードもへったくれも有りませんが……クスリ無しでもきちんと気持ち良くなれるようにしますから、意識を手放さないでくださいね?」
行動はイケメンの所業だが、口から出ている言葉はただのオッサンの下ネタである。
いきなり下ネタをぶつけられたシズカは、ギルド職員の愛人をしていた経験があるとは思えないようなたどたどしさを見せながら、顔を真っ赤にして俯き、小さな声でこう呟いた。
「は、はい! ……不束者ですが、宜しくお願いしますっ!」
「……っ」
(いくぞ英〇王。弾丸の貯蔵は十分だっ!)
それは行太の中に宿る、探索者としての、否、男としての魂に火が着いた瞬間であった。
「アッ、アッ、アッーーー!」
――この日、シズカは運命と出会い、そして心の底からプロの探索者の凄さを知ることになったそうな。
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