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⑧ 主人公、面接をする・中

突然の第三者視点ですが、仕様です

(やっぱり、そういうことなのかしら)


リビングを出て他の部屋へ歩を進める行太の背中に続きつつ、シズカは考えていた。


娘であるアキラが目の前の少年に弟子入りしたことや、その条件としてだされた条件がかなりの好待遇であったことは知っている。


さらには帰って来たアキラからの報告で、彼がアキラに一切手をださなかったり――ゴブリンと戦わされたり、オークに潰されそうになったりと危険な目に遭わされたりはしたようだが――むしろ『師匠に手を出して貰うにはどうしたら良いか?』などという相談を受けたことなどからも、彼が件のギルド職員のようなゲスでは無く、信用に値する人間であるということは理解しているつもりだった。


しかし、しかし、だ。


仕事として頼まれたのは、今後探索者となる娘のサポートと家事(それも掃除)である。これではあまりにも厚待遇に過ぎる。


(甘い話には罠がある。そのことはこの1年で十分に知ったわ。自分や亡き夫が愚かだったせいで、娘たちにも塗炭の苦しみを経験させてしまった。……自分がもう少ししっかりしていればこんな事にはなっていなかった)


己の愚かさを自覚しているからこそ、シズカは行太の言ったことを頭から信じたりはしなかった。


(たとえ彼が私たちに哀れみを持っていたとしても、弟子としたアキラを育てるための障害を取り除くのが目的だからと聞いていても、所詮私たちと彼は無関係なの。そうである以上、簡単に初対面の人を信じてはいけないわ)


少なくとも彼は件のギルド職員とは違い、自分を安く買い叩こうとはしないだろう。元々の経済力も段違いだということは、彼が住んでいるこの部屋や、一昨日帰ってきたアキラが彼から貰った様々な食材が物語っている。


(……確かに、彼がその気になれば自分たちを養うことなど簡単なことでしょうね。でも……)


そう。遠征に行く前にアキラが『これからは師匠に養って貰えるから安心して!』と連絡をしてきたのは、決して誇張ではないのだ。


そのことはシズカも理解している。……だからこそ問題は『彼をその気にすることだ』とシズカは考えていた。


(仕事内容に性的なモノが含まれる? 今更よね。私は一向に構わないわ!)


シズカは件のギルド職員の愛人のようになっていたことを一種の肉体労働と考えていた。いや、労働に対して対価を貰っているのだと割り切ることで、己の心を保ってきたのだ。


翻って今の状況はどうか? 端的に言えば、相手が変わっただけの話である。


(アキラに手を出さなかったのは……多分だけど彼はアキラみたいな若い子じゃなくて私みたいな年上に興味が有るから、よね?)


正直に言えば彼と関係を結びたがっているアキラには悪いと思わなくもない。だが、母親として娘を差し出すことなく継続した繋がりが作れるというのであれば、彼からの誘いを断る理由がない。むしろ望むところである。


この場に来る前から覚悟は決めてきた。故にシズカは自分から『性的な仕事をさせるつもりなのか?』と聞いたのだ。


……そこに(もしかしたら、彼は他の男とは違うかもしれない)という一縷の望みがなかったとは言わない。


「性的な意味……まぁ一応それも有りますね」


しかし、問いかけを受けた行太が口にしたのは、己の問いに対する肯定であった。


(……やっぱりそうだったんだ)


コータの言葉を受けて、シズカの中には、落胆とそれと同じくらい大きな安堵の気持ちが生まれていた。


(彼も男だものね)


シズカとて大人の女性だし、自分が悪く言えば男性受けするタイプの人間だという自覚はあった。まぁ、娘のアキラよりも自分を選ぶというのには少し驚きもあったが、歳上趣味というのは別段珍しいものではないということも理解している。


何よりこの1年と数か月の生活でシズカは悟ったのだ。無料より高いものはない、と。故に、無償の善意を気取って近づいてくる輩よりも、こうして裏がはっきりしている方が安心できた。


(私はすでに汚れた身ですもの。こんな体で良いのなら好きにすればいいわ)


一度そう思えば、彼と関係を持つのは悪くはないと思えた。


なにせ彼はあの豚みたいなギルド職員と比べたら顔も体型も体臭も全然違うのだ。そういう意味での我慢が必要ないと思うだけで幾分気持ちは楽になる。


(一応そういう可能性を考えて下着もそれ用のを着てきたし。……大丈夫、私は大丈夫。元より覚悟は決めて来たのだから)


葛藤から脱却したシズカの表情から、恐れの感情が消える。


「百聞は一見に如かずとも言いますし、まずは寝室を見て貰いましょう。それで大体のことはわかります」


そんな、悲痛とも言える覚悟を決めたシズカに対し、彼女の前を歩く行太の口調はお気楽そのものである。


「……はい」


(寝室、か。これからすぐにするのかしら? でも見ればわかる? 何を?)


誘われるがままに寝室に向かうシズカの頭の中には大量のハテナマークが浮かんでいた。


(あ! もしかしたら彼は特殊な趣味の持ち主なの!?)


夫は至ってノーマルであった。ギルドの職員はかなり粘着質ではあったものの、痛みとかそういうのはなかった。


(あ、あわわわわ!)


寝室の前に着いたときようやくその可能性に辿り着いて、内心であわあわするシズカ。しかし彼女とてここまで来た以上、今さら何をしても完全に手遅れであることくらいはわかっている。


(が、がんばらなきゃ!)


「?」


内心で更なる覚悟を決めたシズカを見て「なんか勘違いされてねぇか?」と思いつつ行太は寝室のドアを開けた。


(くっ! …………あれ?)


部屋の中を見たくはない。だけど目を閉じたところで、これから自分がされることが変わるわけでもない。そう思ったシズカは勇気を振り絞って寝室の中を見て、そして固まった。


「どうしました?」


「い、いえ、あの、その~ですね?」


「はい?」


さっきまで決めていた覚悟は何処に消えたのか。シズカはしどろもどろになりながら寝室の奥に配置されているベッドを、正確にはそのベッドの上に居るものを指差しながら呟いた。


「えっと、私の気のせいで無ければ、なんですけど」


「はい」


「女の子が寝ていませんか?」


「寝ていますね」


「……ですよね」


これから何をされるのか? と不安に思っていたら、まさかの先客である。さらにその先客の寝顔は心底安心しているようで、とても安らかなものであった。それを見てしまえば、どう頑張って解釈しても、行太が彼女に対してなにか酷いことをした後には見えない。


(どういうことなの?)


ベッドに眠る先客、もとい少女の特徴を見れば――布団が掛けられているため頭部しか見えないが――髪の色は微妙に緑が入った黒のようだ。あどけなさが残る顔立ちを見れば娘と同年代のようにも見える。


そんな少女が眠る寝室で一体自分は何をすれば良いのだろう? 混乱するシズカを見かねたか行太が説明を始める。


「彼女はある事件に巻き込まれた被害者でしてね。私が保護したのです。保護したときは起きていたのですが、疲労が溜まっていたのでしょう。すぐに気を失ってしまいました」


「は、はぁ」


彼女の事情を説明するコータの言葉や視線には性的なシグナルは一切なく、真面目に仕事についての説明をしている。


(う、うわぁぁぁぁぁ~!)


ここまできてシズカは自分は勘違いをしていたことを自覚した。それも最低の部類の、である。


(やっぱり男なのね。だとか、年上趣味なのね。だなんて! わ、私はなんて勘違いを!)


少し前の自分はどれだけ自意識過剰だったのか。恥ずかしさで顔から火が出そうになるシズカだったが、行太の話は終わってはいない。というか始まったばかりである。


「そこでとりあえず寝室で休ませているのですが……シズカさんに聞きましょう。もしも貴女が何らかの事件に巻き込まれて意識を失った際。よく知らない部屋で目覚め、よく知らない男が傍に居るのと、よく知らない女性が居るのではどちらが安心しますか?」


シズカのライフはもうゼロだ。


(あうぅぅぅ~。恥ずかしい。で、でも恥ずかしがっている場合じゃないわ!)


行太がこうやってわかりきった質問をするのは、自分を落ち着かせると同時に自分自身に答えを出させ、状況を正しく理解させる為だろう。


行太の思惑を理解したシズカは、大人としてのなけなしのプライドを振り絞って前を向き、質問に答える。


「そ、その2択ならもちろん後者ですね。つ、つまり私の2つ目の仕事は、彼女のお世話も含まれる。ということでしょうか?」


「そうですね。本来彼女の事情はペラペラと吹聴して回るようなことでは無いのですが……これだけは教えましょう。彼女が巻き込まれた事件において、彼女は性的な虐待に近い目に遭っていました」


「では私にさせたい性的な仕事と言うのは、彼女の?」


答えは既に出ているが一応確認を取るシズカ。流石に勘違いは無いとは思うが、思い込みは駄目だと今経験したばかりである。


そんな彼女の思いを知ってか知らずか、行太は頷いてベッドで眠る少女を見たまま自分がシズカに望む業務内容を伝える。


「そうですね。彼女のメンタル……いや、体のケアも必要でしょう。失礼ながら貴女も性的虐待に近い経験をなさってるようですので、できるなら何かアドバイスとかをあげれれば良いと思いまして。……流石に同年代の男子である自分には相談できないでしょう?」


「それは、そうだと思います」


詳細はわからないが、確かに男性に相談することは難しい。それどころか同年代である娘にだって難しいはずだ。


(あぁ。私は本当に何であんな勘違いを……)


説明を受けたシズカは、娘と同年代である少女が性犯罪の被害に遭い苦しんでいたこと、そして行太がそんな少女の世話をさせるために自分を雇ったということを理解し、先ほどまであらぬ勘違いしていた己を心から恥じたのであった。



閲覧ありがとうございます


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