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⑦ 主人公、面接をする・前

「この度はアキラが……娘がご迷惑をおかけして、誠に申し訳ございませんでした!」


そう言いながら俺の目の前で土下座する女性が一人。態々説明するまでもないが、この女性こそ弟子の母親こと木下シズカさんである。


見た感じは弟子と同じく黒髪で黒目。身長は弟子より少し低いものの、髪は彼女の方が少し長いかな。あと胸部に搭載されている装甲は圧倒的にこちらが上だ。


さらに勝気な弟子とは違って大人しめの顔立ちをしていて、全体的に人妻感、とでも言えばいいのだろうか、そういうのがある。 


弟子の年齢を考えれば今は30代の中頃から後半くらいだと思うが、ぱっと見20代前半から中頃にしか見えないという特徴もある。


こういった感じで老化が遅くなるのは探索者や探索者の子供に良くある傾向だな。おそらくだが、彼女の親か祖父の世代に探索者がいたものと思われる。


彼女の両親や祖父母についてはさて置くとして。


そんな彼女が怯えながら頭を下げている様子は、庇護欲をそそるというかなんというか……うん。件のギルド職員が調子に乗るのもわかる気がする。


ちなみに現在に至るまでの話の流れを簡単に説明すると、オッサンに各種報告をして正式に仕事が終わったことを確認して、自身の検疫と素体の更新をしてから、休ませていた巫女候補の少女を抱えて自宅に帰宅。少女を簡単に洗浄してから寝室に放り、自分はソファーを使って就寝した。ここまでが昨日の話。


そして今日。まだ起きて来ない巫女候補を放置して、とりあえず飯を食ってから弟子の母親との面接をすることにした。


で、その母親が俺の家に来たので出迎え、面接をするためにリビングに案内したと思ったら、突然彼女が土下座を敢行したのである。


うん。態度次第ではアレな扱いをしようと思っていたが、恩を踏み倒すようなタイプではないようでなによりである。


ちなみに今日は日曜で学校は休みだ。しかし弟子は素体の収納機能を利用して引越しをする予定なのでこの場には居ない。


母親は『パートの最後の出勤』ということでここに来てもらっている。


実際仕事の面接みたいなもんだし、娘に聞かれたくない事も有るだろうからな。


ちなみのちなみに、弟子の日程としては先週の月曜日に始業式を迎え、翌日火曜日に俺に弟子入りを嘆願。水曜日に正式に弟子入りをしてから今週金曜日までの10日間で遠征や検疫などを行っている。


昨日は休息と慣らしをして、本日引越しを完了させる予定である。


引っ越し先は件のギルド職員にばれても対処できるように、俺と同じマンションだ。敷金と礼金と最初の家賃は俺が払っているので金銭的な問題はない。


……うむ。そりゃ彼女の立場なら土下座の一つもするわな。


かと言ってここで土下座されても俺には一銭の得もないわけで。


「とりあえず土下座は結構です。そのままでは話ができませんから、普通に座ってください」


時間の無駄だしな。


「は、はい……」


俺が土下座に価値を見いだしていないことを理解したのだろう。


彼女はキョロキョロ周囲を見渡しつつオドオドとしながらも大人しく勧められた椅子に座った。


あの弟子の母親にしては度胸が無い。というべきだろうか? 


いやまぁ、彼女の気持ちもわかるのだ。なにせ彼女からすれば俺は娘が世話になってる相手というだけでなく、旦那や件のギルド職員なんかよりもずっと格上の存在だ。


俺がその気になれば簡単に殺される事も分かっているのだろう。


その上で経済的な面でも生殺与奪権を握られているとなればこの怯えようも理解できなくはない。


……だからと言って手心を加えようとは思わんけどな。


「さて、早速ですがシズカさんにしてもらう仕事についてお話をさせて頂きます」


「はい! 私は何でもします! ですので娘は! 娘だけはなんとかお許し願えませんでしょうか!?」


俺が用件を切り出すとオドオドしてたのが一転して食い気味になって自己主張してくるシズカさん。こういうところは弟子と同じだ。


家族愛が強くて何よりである。だがしかし、今は話の邪魔でしかない。


「とりあえず落ち着きましょうか」


「あう!?」


流石に素体の無い母親にデコピンはできないので、かなり威力を弱めた指弾を額に当ててみた。


前傾姿勢になってたので強すぎればムチ打ちになっていたかもしれないが、涙ぐんで額を抑えるだけなので、どうやら首は大丈夫のようだ。


というか、リアクションがまんま弟子と同じだな。まぁ別にどうでもいいけど。


「落ち着いたようで何より。といいますか。まだ自己紹介もしていませんでしたね。娘さんから聞いてるとは思いますが、神保です。現在15歳で娘さんと同じ学校に通う学生ですが、プロの探索者の資格を持っています。今回は偶然私の事を知った娘さんが私に弟子入りを志願して今に至ります」


自己紹介ってこんな感じで良いのか? 就職の面接官が自分のプライベート明かすっておかしい……おかしくない? 


自分でも微妙と思える自己紹介だが、こっちが雇う側だし、問題無いだろ。


ただ、こうして話すと自分のことながら素っ頓狂な経歴だよな。こんな曖昧な経歴と薄い関係しかない人間に家族全員の生殺与奪権が握られてるんだから、そりゃ緊張もするわな。


「あっ。これはご丁寧に。わ、私は木下シズカと申します。神保さんの弟子にして頂いたアキラの母で、今までは……パートで暮らしていました」


自分でも微妙な自己紹介だなぁと思っていたら空気を読んだのか向こうも自己紹介してくれた。仕事を言い澱んだのは、ギルド職員の愛人も兼任していたからだろうか? さすがに娘に知られてないとは思っていないだろうが、俺がそれを知っているかどうかはわからんだろうからな。嘘とは思わんよ。


だが「パートで()()()()()()()」と過去形で話すということは、彼女は現時点ですでに『提案された仕事はどんなものでも受け入れる!』という覚悟が完了しているのだろう。


ならば乗るしかない。この大波に!


「で、本題のシズカさんにして欲しい仕事の件ですが、大きく分けて2つあります」


「2つ、ですか?」


ゴクリと唾を飲み込み俺が立てた指を凝視するシズカさん。その目には「何をさせる気だ?」という不安と「何でもしてやる!」という覚悟が見え隠れしている。


それはいいことなんだが、彼女は一体俺をなんだと思っているのだろうか?


……あとで弟子に確認だな。



――――


「はっ!?」


「ん? どーしたのお姉ちゃん?」


「今、なんか師匠が私のことを考えてくれた気がしました!」


「あーハイハイ。サッサと荷物持ってよ。いやぁ素体って便利だよねぇ」


「冷たっ!? 妹が冷たいっ!」


――――



なんかどこかで弟子が騒いでいる気がするが、まぁいいや。今は話を進めるとしよう。


「えぇ、まずは弟子、つまりアキラさんの体調管理をお任せしたい」


「え?」


思ってもいなかったことだったのだろうか、普通に気が抜けたような返事をしてきた。


しかし俺としても冗談や酔狂でこんな提案をしているわけではない。今のご時世、クランやパーティに探索者の体調管理をするマネージャー的なスタッフがいるのは当たり前のことなのだ。


「貴女にとっては娘さんですから、普通に気にかける延長でも良いのですけどね。凹んでいたら慰める。体調が悪いようなら休ませる。後はスケジュールの調整や受ける依頼の管理ですね。いずれ彼女が独り立ちした時に対応できるように、今のうちからサポートスタッフとしての経験を積んで頂きたい」


ついでに、10代女子のメンタルケアなんて無理だからな。予想される面倒事を丸投げさせてもらう所存である。


「……私としては母親として当然の事だと思いますし、特に問題は有りません。むしろそういう経験を積ませて貰えるならこちらからお願いしたいです!」


うん。俺の狙いはさておくとしても、彼女らには間違いなく損が無い申し出だもんな。彼女からしたら『それを断るなんてとんでもない!』と言ったところだろうか。それに恐らくだが彼女には『自分が旦那の仕事をきちんとサポートできていたらこのような目にも遭っていなかった』という思いも有るのだろう。


その目に秘めた決意に揺らぎはないように見える。


「結構。ではサポートについては良いでしょう。では2つ目です」


「は、はい」


そもそも1つめは娘のサポート。母親としての仕事の延長なので、こちらを断られるとは俺も思ってはいない。本題は2つ目だ。


まぁ本題とは言っても、彼女に特に難しいことを頼むつもりはないけどな。


「ハウスキーパーとして働いていただきたいんです」


せっかくギルド職員の魔の手から解放されたのだから普通にしてくれれば良い。それが弟子のメンタルケアに役立つだろうし、何より俺のためにもなる。


「え? ハウスキーパーって……お掃除とかをする人、ですよね?」


「えぇ、それで合ってます。古い言い方をすれば、メイドさんみたいな感じですね」


「メイドさん……」


「とは言いましても、俺としては主に掃除をしてもらうだけで十分だと思っています」


()()()()、ですね?」


「はい」


シズカさんが訝しげに確認をしてくるが、他に何があると言うのか。あぁ、普通は飯の準備とかもあるのか? だがさすがに自分の体調管理を見ず知らずの相手に任せる気は無いぞ。


俺としては本当に掃除だけしてくれればいいと考えていたのだが、向こうはそれだけとは思わなかったらしい。


「……私がするお仕事には、性的なモノも含まれていますか?」


覚悟を決めた表情をしながらそう聞いてきたのだ。


()()と言ったことから察したのだろうか。なんにせよ俺からは言い出しにくいことを聞いてくれたことに安堵しつつ、俺は彼女の質問に正直に答えることにした。


「それもありますね」


「……そうですか」


俺の言葉を聞いたシズカさんは『やっぱりそうか』という表情をして俯いた。気持ちは分かる。しかし、これはどうしても必要なことなのだ。


「ここではなんですから、場所を移しましょう。ついて来てください」


「……はい」


未だに俯いてはいるものの、しっかりと俺についてくるシズカさん。俺はそんな彼女にしてもらいたい仕事を説明するために寝室へと歩を進めるのであった。


閲覧ありがとうございます


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