④ 主人公、決める
「まさかこんなところで巫女候補を見つけるとはなぁ。いや、むしろこんなところだからこそか?」
【巫女】それは共生派にとっての理想の1つである、魔物に襲われない人間の女性のことを指す言葉だ。
実際襲われていた? まぁ、多少はね。
でも殺されてはいなかった。それが全てだ。
本来人間を食料としか認識していないはずのゴブリンが、捕えた人間を殺さず、さらに食事まで与えていた。この一点だけでも『魔物と共生をしている』と言えなくもない。
ただまぁ、当然のことながら共生派が目指す『共生』とは、自由も何もないままに苗床として生かされることではない。
彼らが目指す『共生』は、人間としての様々な権利を保持しながら魔物に襲われないというものだ。
その夢想とも言える理想を実現するために必要とされているのが【巫女】の存在である。
巫女の作り方は様々あるが、一番お手軽かつ簡単なのが処女をゴブリンの巣にいれることである。
通常であれば巣に叩き込まれた女性は、生かさず殺さずの状態にされ苗床としてその生涯を終えてしまう。しかし極々稀にそうならない者が生まれる。それが【巫女】だ。
大前提として、ゴブリンは体が小さい。そして生殖器の大きさもそれに比例する。そういった事情から、連中に襲われても奇跡的に処女が処女のままの時があるのだ。
この状態であれば、当然ゴブリンとの子は生まれない。だが体内にゴブリンの魔力や精液やらが混ざった……なんというか、まぁゴブリン成分が残ることになる。
この成分は通常ゴブリンを出産することで体外に出されるのだが、ゴブリンを出産できない場合、ゴブリン成分が体内に溜まる一方となり、肉体がその成分に染まってしまう。
こうなるとゴブリンはその女性を人間や苗床としてではなく同胞として見るようになる。こうなった状態の女性を彼らは巫女と呼ぶ。
あの少女はこの巫女になる前段階、言ってしまえば巫女候補というわけだ。
そして巫女となった女性は、下っ端のゴブリンの相手ではなく、ゴブリンキングなど上位種の番として丁重に扱われるようになる。
ただし、ゴブリンから丁重に扱われるようになった巫女は、他の魔物からも生殖の相手として狙われることになるらしい。
昔の記憶で騎士や村娘がオークやオーガに犯される絵が有ったが(俺の前世ぇ)残念ながら(?)人間と彼らでは生殖器の大きさが違いすぎるので実際にそのような状況になることはない。
しかし巫女になった女性は違う。彼女らは半分以上が魔物みたいなものに変異しているらしく、普通に異種族との子が産めるようになるらしいのだ。
基本的に母体の規格が違うので、生まれてくる子供の大きさは小さめになるのだが、体格差を補って余りあるほどのメリットがあると言われている。
具体的には、巫女との間に生まれた子どもは、その多くが特殊な力を持って生まれてくるのだそうだ。
で、力こそ正義をモットーとする魔物は、強い後継者を産ませるための道具として巫女を求めるらしい。
で共生派の連中は自分たちが作った巫女を交渉材料として、ダンジョンコアのような知性ある魔物と交渉しようとしているのである。
当然魔物が馬鹿正直に人間と取引する必要もないのだが、人間が定期的に巫女を提供してくれるというのであれば交渉の余地はある……かもしれない。
この辺は魔物の価値観なので俺にはよくわからないが、ダンジョンコアが関係者に聞いた話だとそういうことらしいので、おそらく本当の話だろうと思われる。
つまるところこの巣は『知性ある魔物が大都市圏の近くで何らかの行動を起こすために用意した拠点であると同時に、共生派が巫女を作る為の場』として用意された可能性が極めて高いわけだ。
もしもここを放置していたら、今後も孤児やら何やらを送り込まれることになる。その結果、すぐにでも1000を超えるゴブリンの群れができるだろう。当然、巫女も数人生まれる可能性がある。
畢竟、養殖場はここ以外にも有るはずだ。
そう考えればこの周辺だけで一体どれだけのゴブリンが居ることか、想像するのも億劫になるな。
「そりゃ弟子もあっさりゴブリン百匹討伐できるわ」
今更気付いた事実にあきれつつも感心してしまう。
しかし問題はこれから。そう、増えたゴブリンたちの利用方法である。
「このまま放置は……ない、な」
今はまだ放置されているが、時間が経てば経つほど仙台周辺に生息しているゴブリンの数と質が明るみにでるだろう。
そうなれば増やしたゴブリンが無駄に狩られることになる。共生派としてはゴブリンなんざどうなろうと知ったことではないのだろうが、知性ある魔物からすればゴブリンだって立派な兵士だ。
無駄死にさせるくらいなら何かしらの方法で利用しようとするはず。
「具体的には……共生派の連中を騙して壁の中に送り込む、とかか?」
普段はG扱いされて駆除されるゴブリンだが、当然探索者としての素養を持たない女子供よりは強い。さらにEランクのゴブリンメイジやDランクのゴブリンナイトあたりに率いられた場合、Dランクの探索者パーティーでさえ殺される可能性が出てくる。
もしCランクであるゴブリンジェネラルが暴れたら、鎮圧するまでに洒落にならん被害が出るだろう。共生派も大量に死ぬが、魔物にとってはどうでもいい話だ。
「ま、所詮は憶測だし、今はいいか」
報告はするけどな。そもそも最悪仙台がどうなろうと俺は生きていくことはできるからな。
「となると、俺が今考えるべきは、さっき見つけた少女の扱いだな」
俺としっかりと会話ができていたから、人間的にも壊れていない。いや、壊れていないどころか将来を考える知性さえ残っていた。
ここに何日いたかは知らないが、数日間ゴブリンに苗床にされて、意識と知性を保つなんて並大抵の事ではない。おそらくは絶望を上回るほどの怒りを抱いていたことが要因だと思うが、よくもまぁ耐えたものだ。
「あれならリハビリ……というか、洗脳教育の必要は無い。あのままでも怒りに任せて魔物を狩る優秀な探索者になるだろうからな」
そうなると俄然彼女の選択肢は広がる。
ただし、救助したあとに放置したり軍人にしたりするのは駄目だろう。そもそも放置した場合、彼女には行き場がないからな。さらに彼女をここに送り込んだやつに発見された場合、回収されて再度苗床にされる可能性がある。それでは助けた意味がない。軍も同じだ。国の機関だし、壁の中にいるであろう共生派に目をつけられたら逃げることはできないからな。
放置も軍も駄目となると、俺が後見人となって探索者にさせるか、ギルドあたりを後見人にさせて一般人として保護させるか、だな。
「うーむ」
ギルドに差し出しても俺に旨味がないんだよなぁ。巫女の肉体は人間とは一線を画すというし、候補にすぎない状態でも一般人よりは上だよな。
ふむ。どうせなら鍛えて弟子と競わせるのも悪くない、か?
ライバルが居たほうが伸びるっていうし、必要ならパーティーも組めるよな。
今回の依頼の契約上、戦利品の所有権は俺に有るから、彼女を保護するのは問題ない。適当な戸籍を用意して学校は……さすがに無理だな。ま、普通に探索者をさせればいいや。
「よし、決めた」
昔の偉い人も「相手の嫌がることをやりなさい」って言ってたし。いくつか選択肢を与えた上で、最終的に探索者を選択するように誘導しよう。
もしもどうしても探索者が嫌だというなら、情報をもらってから放置して共生派を釣るための餌にすればいい。
今後は共生派やここでの思い出に怯えながら生きていくことになるだろうが、それも彼女の選択だ。
「そうと決まれば掃除だ掃除。さっさとお仕事を終わらせましょうかね」
今更だけど、ここって、めっちゃ汚くて臭いからな。考え事には向かんのよ。
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