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③ 主人公、仕事に出る/???、発見される

このくらいならまだR指定にはならない……よね?

さて、なんやかんやでオッサンからの依頼を受けて動くことになったのだが、問題は他にも有る。


「巣を掃除した後はどうしましょう? 流石に何日も見張れませんし、罠を張るにしても下手に共生派との接触は出来ませんよ? また現在巣の中に居ない連中の処理とかはどうお考えで?」


相手の数も質も分からないのに単独で討伐任務に当たるほど俺は自分の力を過信していない。また罠を張った後で逆探知やら何やらをされて奇襲を受けることになっても困るしな。


さらに言えば、裏に共生派が居た場合、自分たちと繋がりがある壁の中の連中の権力を使って俺を社会的に抹殺しようとしてくるかもしれない。


ギルドとしては共生派と繋がっている壁の中の連中を誘い出す為の一手なのかもしれんが、俺はそんな面倒事にかかわる気もなければ餌になるつもりもない。


もし餌として使い捨てにされるくらいなら、ギルドも壁の中も関係なしに仙台の半分を巻き込んで自爆する所存である。


お国のためとか、組織のために死んでやるほど俺は潔くないのだ。


「後始末か。微妙なところだが、今回は要らねぇよ。お前ぇさんが掃除したら、そこに誰か置くか機械でも設置するって感じにするからな。終わったら連絡くれや」


「了解です。数日中に終わらせましょう。で、実行の際に巣の中にいない連中は放置で良いですね?」


聞き逃したか、忘れたか、それともわざと無視したのかはしらないが、俺はわすれんぞ。


標的に関する答えが無いまま仕事に出るなんてプロとしては有り得ないからな。


だいたい、ゴブリンの見分けがつかない俺には、どれが標的である巣に所属するゴブリンかわからんのだ。ここでもし「巣の外のヤツも対象だ」なんて言われた日には、この辺のゴブリン全てを討伐しないと依頼の不履行になってしまう。


さらに時間制限もな。数日後に戻って来たゴブリンも俺が処理しろって言われても無理だぞ。


このオッサンがそんなセコイ手を使うかどうかはしらんが「信用する」ということと「確認をしない」ということは違うのだ。金や労力に直結する件はきっちりしないとお互いが不幸になるからな。


「あぁ、そうだな。いないやつまで殺せとは言わん。依頼は明後日の24時まで。その間に指定の範囲にいる連中を掃除してくれや」


オッサンがそういうと、正式な依頼が俺のギルドカードに転送されてくる。依頼ランクはB。初期の偵察で敵にゴブリンロードやゴブリンキングを発見できなかったし、妥当な判断だろう。


表面だけ見れば、な。


「……はぁ」


内容を見れば溜息を吐きたくもなる。なにせ報酬はBランク任務としては最安値である1000万だしな。事実上の殲滅作戦でこれは無い。


普通なら「おめーはたった1000万で、それだけの数がいるかも不明で、どんな戦力がいるかも不明。高い確率でなんらかの罠が仕掛けられている敵の砦を攻めるのか?」と言いながら依頼主をどつくところだぞ。


ま、今更だな。


「了解ですよっと」


とりあえず依頼期限と達成条件を確認して承認。


任務は威力偵察。期間は明後日の24時まで。

範囲は地図上に印が付けられている範囲。

なにかいたら全部俺の判断で処理しても良し。

掃除したときに発生したものは全部俺のもの。

うむ。最後のこれだけが癒しだな。


「では早速往くとしましょう。……カエデ殿お願いします。あぁ、転送料金はギルドに請求で」


この場にはいないが、間違いなく観測しているであろう市松人形に対してセーフハウスまでの転送を依頼する。勝手にギルド請求にしたが、今回はギルドの依頼だからな。経費として降りるだろうよ。


「おう。なんか珍しいモノが有ったらお土産に持って来てくれても良いんじゃぞ!」


「ミミズでも食ってろ」


「ムキー!」


「……おめぇら、なんやかんやで仲良いよなぁ」




―――

 

ー???視点ー


「「「「ギャギャギャ!!」」」」


まともな明かりの無い薄暗い密室。私はすぐ近くから聞こえる連中の鳴き声で目を覚ます。どうやら、また気絶していたようだ。


ずっと気絶できていれば良かったのだろうが……現実はそうはいかない。今、目を覚ました私の目の前には緑色のゴブリンが大量にいて、代わる代わる私の上に覆いかぶさっている。


……もう何日目なのかすらわからない。


一日に2回だけご飯っぽいモノを食べる時間が与えられ、嫌がっても無理やり食べさせられて、それが終わったらまたゴブリンが圧し掛かってくる。


こうなる前、私が最後に覚えてる記憶は何日か前のこと。


急にお父様が部屋に入ってきたと思ったら、ボディーガードの人が私に何かを押し当ててきて、そのまま気絶させられた。


……そして、目が覚めたら私はゴブリンの巣の中にいた。


声を上げても助けがくるわけでもなく、むしろ奴らが喜ぶだけだった。それがわかってからは声を出さないように我慢した。手は頭の上に、足は左右に固定されていて動かせない。


「ギャッ!」


あぁ、また出された……最初はこの粘つくモノが何なのかわからなかったけど、今は分かってしまう。そして出した後は別のゴブリンが……つまるところ、今の私はゴブリンの巣で苗床として生かされているのだ。


これがゴブリンに捕まった女性の末路。私はまだだが、同じ部屋にいる女性は数日でお腹が大きくなり、ゴブリンを出産していた。


ゴブリンは生まれた子供をどこかに連れて行くと、産み終わった直後の女性に対して何やら薬をかけていた。おそらくポーションの一種だと思われる。


そして強制的に回復させられた女性に再度ゴブリンが圧し掛かる。


人間と比べて小さいからだろうか。出産の手前で有っても小さく膨らむ程度で出産と言うよりは産卵に近いようだ。人間の出産より負担はかなり少ないらしい。


それでも出産の後は敏感になるらしく、泣き叫んでいた。とうの昔に枯れた彼女の喉からはまともな声も出ないんだけど、涙を流して必死で首を横に振っていた彼女が、私を見て「助けて!」という視線を向けてきたのは印象に残っている。


でも、それから少ししたらその「助けて」という意思も消えて、諦めたように脱力してゴブリンを受け入れるようになった。彼女はそうして今も生きている。


……これが苗床。


常々あの男は『いつか人間と魔物が分かり合うことができる世界がやってくる』と言っていた。私もそれが出来たら素晴らしいことだと思っていた。


でも、そんなものは夢でしかない。この数日で理解した。


私たちはゴブリンと言葉を交わすことはできない。そもそもゴブリンは私たちを理解しようとしない。彼らに有るのは性欲と食欲だけ。


これが魔物というならば、理解し合うことなど不可能だ。


まさかあの男は、今まで私がお父様と呼んでいたあの男は、この行為が『相互理解』とでも言うつもりなのだろうか?


少し前、私と違って抵抗できたらしい女性がいた。きっと探索者だったんだろう。


彼女は出産の際に拘束が緩んだらしく、隙を突いてゴブリンに抵抗した。

奴らを何匹か蹴り殺して脱出しようとした彼女は、複数のゴブリンによって殴り殺された。


その後、ゴブリンたちは女性に蹴り殺された仲間や、自分たちが殴り殺した女性の死体に群がり、喰らっていた。あのときの凄惨な光景は今も忘れない。


それを見て私は『助けなんか来ないんだ。このまま苗床として殺されることもできずに死ぬまで生きていくんだ』って理解した。


……そして私は、考えることを止めた。


いや、実際にはまだこうして考えている。それはきっと、せめて死ぬ前にお父様、いや、あの男を殺したい。そういう気持ちがまだ残ってるからだろう。


だけどきっとこの気持ちもゴブリンの子を産んだら消えるんだ。全部諦めて、他の人みたいに目から光を失って、アハハハとしか言わなくなって、死ぬまでゴブリンの子を産まされるんだ。


時間とともに怒りの気持ちが薄れて、自分がどんどん冷たくなっていくのがわかる。


「あぁ……」


誰か私を殺してほしい。心が死んだ人形でもなく、ゴブリンを産んだ魔物の母でもない、私が私であるうちに。


「おね……が……い」


助けてとはいわない。だからせめて殺して。


「ん? 声が聞こえたと思ったら、これは珍しい」


「え?」


最初は気のせいだと思った。


なにせご飯のとき以外はずっとゴブリンが私に体を打ち付けてくるのだ、その衝撃や痛みで満足に寝ることなんかできない中、耐えきれなくなったら気を失ってしまう。そして目が覚めたらまた別のゴブリンが覆いかぶさっているのを見てしまう。


こんな地獄の中で、男の人の声なんか聞こえるはずがない。そう思っていた。


「見た感じ。まだ目に光が有るな。さらに思考もできている」


また聞こえた。それは若い男の人の声。


「だ、れ?」


「とりあえずゴミは片付けるか」


「「「「「ギャギャ!?」」」」」


その声と同時に、私の上に乗っていたゴブリンが消えた。いや、私の上だけじゃない。部屋の中にいたゴブリン全部が消えた。残されたのは私を含めて4人の女性だけだった。


「な、な……に?」


何がなんだかわからない。部屋には間違いなく誰もいない。なのに『ゴミを片付ける』という声が聞こえたと思ったらゴブリンだけが消えている。


この声の主が言った『ゴミ』とはゴブリンなのだということは分かった。だけど他はさっぱりだ。急なこと過ぎて思考が追い付かない。


「さて、煩いゴミが消えたところで聞こう。死にたいか? 生きたいか? ……あぁ、声が出せないなら、頷くか首を横に振ってくれ。死にたいなら『死にたい』という意味を込めて頷け、生きたいなら『死にたくない』と首を振れ。どちらもできないなら、心が壊れて俺の言葉を理解できなくなったと見做し、介錯してやることになる」


「あ……あぁ……!」


ようやく私は理解した。間違いない。救援だ、と。 


助かるとわかったら、未だに自分の拘束を解いてくれないことに文句を言いたくなってしまった。だけど。


「ちなみに俺が確認をしてるのは『生きたいか』それとも『死にたいか』だけだ。それ以外の恨み言だのなんだのを聞くつもりはない。仕事の邪魔だから殺してやろう。上には『君たちはゴブリンに捕まって殺されていた』と報告すれば済む話だしな」


……不満の言葉が口を衝く前にぐっと耐えた。


簡単に『殺してやる』と言っていることからも、この部屋にいた全てのゴブリンを殺したのはこの声の主だ。そして、冷静に考えればこの声の主が救援じゃないというのもわかる。


だって、私をこんなところに送り込んだあの男が私を助けるために動くはずがないもの。


「くっ」


ゴブリンが消えた喜びよりも、己の中で消えかけていた怒りが再燃してくるのがわかる。


生きたい。さっきまでは殺してほしいと思っていたけど、今は違う。

あの男に復讐するまでは死ぬわけにはいかない。


そう考えた私は、言われたとおりに首を横に振った。


そんな私とは違い、他の人はそうじゃなかった。


彼女たちはゴブリンがいなくなったことで、溜っていたモノが噴出したのだろう。壊れていたと思った女性までもが泣きわめいて「遅い」とか「なんで私が」といった恨み言や泣き言を言っている。


その嘆きが数秒続いたころだろうか。


「そうか」


言葉が聞こえたと思ったら、消えていた。それも私以外の三人全員が。


「で、君はどうだ? 首を振っていたが『生きたい』ということで良いのかな?」


おそらく声の主は彼女たちも殺したのだろう。そんなことをしておきながら、私に問いかけてくる声は何事もなかったかのように平坦だ。


今更ながら恐怖を覚える。もしかしたらこれが悪魔の囁きというものかもしれない。


だけど、だけど。


この声の人がいなくなったら、またゴブリンどもが来る。


さっきまでは『生き続けるくらいならいっそ殺して欲しい』と願っていたのに、今の私は「死にたい」という気持ちよりも「ここから逃げたい」という気持ちが強かった。


そのためなら悪魔の誘いにでも何でも乗ってやる。そう思った。だから聞いた。


「……私は、生きたい。だけど、生きていけるの?」


ここから出られたとしても、私はもうあの男の子どもじゃない。おそらく孤児とかそういう扱いになる。戸籍もなく、身分証もない。それにもしあの男に見つかったら、おそらく保護とか言って回収されて、またここみたいなところに運ばれてしまうだろう。


私はここから出た後も、あの男に怯えながら生きていくのか? それは生きていると言えるのか?


不安に怯えながらも掠れる声で尋ねる私に、声の主は少しの間沈黙し、そして、


「すごいな」


そんなことを言ってきた。


この声が何を言ってるのかさっぱりわからないけど、私のことを本気で褒めているのは分かった。


「無論、生きていけるさ。そうでなくては助ける意味がない」


「……」


「生きるために君にはいくつかの選択肢を用意しよう。もしそれを聞いたあとで『やっぱり死にたい』と願うのなら、俺が殺してあげよう。とりあえずここの掃除が終わったらまたくるから、それまでは休んでおけ」


「え?」


声がすると同時に、私はゴブリンの体とはまるで違う、暖かくて優しいなにかに包み込まれた。


「……あぁ」


私はただただ体が求めるままに休息をするため、ゆっくりと目を閉じた。目が覚めたとき、この暖かさが夢じゃありませんように。と願いながら。


「こんなところで『巫女』を見つけるとはな。もしかしてこれが連中の狙いか?」


意識が途切れる前に、そんな声が聞こえた気がした。

閲覧ありがとうございます。



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