① プロローグ。少女、家に帰る
R規制が掛かった2章の投稿です。
ちゃんと改稿するから大丈夫……と思いたい。
私、木下アキラです。15才で探索者兼学生をしています! この度師匠との遠征を終えて、家族が待つ家に帰宅することができました。
「ただいま~!」
素体の中に収納している師匠から貰った(買ったなんて言えません)お土産を見たら、みんな驚くだろうな~とか、どんなリアクションするのかな~とか考えてたいんですよ。ですけどね?
「お帰りなさいお姉ちゃん。とりあえずそこに正座して」
「ファ!?」
みんなより先に私が驚いて変な声が出てしまいました!
だって誰も居ないと思って玄関のドアを開けたら、すぐそこで上の妹であるアオイが仁王立ちして待っていたんですよ! さらにそのアオイが私に正座を強要してたんです!
「一体何事!?」
「いいから正座っ!」
狼狽える私を半眼で睨みつけ、下を指差し「正座して」と再度玄関口で正座させようとする愛しの妹。一体彼女に何があったのか……。
というか今日は平日ですから、普通に学校ですよね? で、お母さんがパートに出ている(辞めると言っても、シフトの関係上直ぐには辞められませんからね。あと、半月ほど働くことになっているそうです)から、てっきり誰も居ないんだろうな~とか、誰もいないうちにYAKINIKUパーリーの準備をしてみんなを驚かせてやろう! なんて思っていたんですけどねぇ。
いや、私のYAKINIKUパーリー計画はさて置くとして。
どんな理由があったかは知りませんが、中学三年生の妹が平日に学校を休むのはよろしくありません。
平凡な私とは違って、成績優秀で運動神経も抜群、更に見た目も超プリチー! そんな自慢の妹が学校を休むなんて……。
一瞬、病気を疑いましたけど、見た感じかなり元気そうですからそっちの線はなさそうです。
ならば何故でしょうか? ……これは、お話を聞く必要がありそうですねぇ。
「とりあえず話を聞きましょうか。私の正座は……必要なら中でしましょうか」
「なっ! ちょっと待ってよ!」
「はいはい」
アオイからは怒りのオーラのようなモノを感じますが、壁の外で複数のゴブリンに囲まれた時に感じた殺意や性欲を隠しもしない剥き出しの野生に比べたらこの程度可愛いものです。
特に、慣熟訓練中にヘマをして師匠にお味噌汁をぶっかけそうになったときに感じたアレに比べたら全然ですよ!
いやはや、まさか飛び散った液体を全て空中で回収して器に入れ直すなんて芸当ができるとは「素体って凄いですね!」と言ったときの師匠の目ときたら……。
うん。あれはあと1秒でも土下座が遅れていたら死んでいましたね。もしくはゴブリンの巣に叩き込まれたかも。えぇ。あの人は確実にやりますよ。
あ、いや、師匠の怖さはいいんです。
可愛く怒気を放つアオイの頭を撫でつつ、玄関から家の中に入ると、アオイはアオイで憮然とした顔をしたまま私の後ろに続いてきます。うん。何だかんだで素直な良い子なんですよね、この子。
そしてリビング(1DKだからダイニング? 細かいことは良いんですよ。私がリビングと言ったらここがリビングなんです!)に入った途端、アオイは自分の椅子に座りました。そして床を指差して「お姉ちゃんはそっち」と言ってきます。
どうやら私が床で妹が椅子っていうは、今日の彼女的に絶対に譲れないところみたいですね。
そんなアオイの態度を見てちょっと微笑ましく思ったんですが、私は姉としてアオイが学校を休んだわけや何を怒っているのかを聞かねばなりません。
アオイの将来のことも有りますが、あんまりプリプリしてたら折角のONIKUも台無しですからね!
「それでアオイ、今日は学校でしたよね。お休みしたんですか?」
私は言われた通り床に正座しながら椅子に座るアオイに質問します。
玄関先に仁王立ちしていたのは、おそらくは私の帰宅予定時間をお母さんに聞いたからでしょう。態度はともかくとして、私を出迎えてくれるのは嬉しいのですが、その為に学校を休むのはよろしくありません。
なにやら怒っていましたけど、それなら学校から帰ってきてから怒れば良いのです。学生の本分は勉強すること。学校で問題が起こってないなら学校に行って授業を受け、社会性と知識を学ぶことが仕事なのです。
その仕事を放棄するなんてとんでもないことです。学費だって無料じゃないんですよ?
「う、いや、まぁ……はい。そうです」
最初の勢いを殺されたアオイは無理して作ってたキャラを止め、いつもの感じに戻りました。うん。この子がしっかりしてるのは確かなんですが、やっぱり中学生なんですよねぇ。
「それで、理由を聞いても?」
しっかりとアオイの目を見て確認をとります。こういうコミュニケーションに失敗して家出とかされても困ります。この子は可愛いから騙されたりしないか心配なんですよ。
「理由って……そうだ! お姉ちゃん! お姉ちゃんは一体ぜんたいなにをしているの!?」
「いや、え? なにをしているって……なんのこと?」
いきなり火を噴いたように怒り出しましたけど、これって躁鬱とかって言われるヤツですか? やっぱりお父さんが死んでから苦労をかけているからでしょう。
あぁ。この子も色々溜め込んでたんですね……。
「なんで私が可哀想な子を見るような目で見られてるのかわかんないけど、普通に考えたらわかるでしょ!」
「普通と言われても、ねぇ?」
普通に考えたらストレスの原因は貧乏ですよね? それとも私がいない間にあのクソ野郎が何かちょっかいをかけてきたのかな? かな? 今の私なら奇襲で殺れるんじゃない? あぁいや。まだです。まだ早い。
密かにクソ野郎への殺意を抱く私を見て、アオイは「わかってないなぁ~」と溜め息を吐き、バンッと机を叩きました。微妙に痛そうにしているのは見ない振りをしてあげますよ。
「いい? 頑張って国立の探索者を育てる為の学校に入ったお姉ちゃんが、入学式の次の日には帰ってこなくて、電話で『プロの人に弟子入りしたのでこれから遠征に行きます。帰ったら引越だから荷物を纏めておいてね』なんて連絡を入れてきたかと思ったら、それから今まで『生きてる』とか『疲れた』とか、そーゆーよくわからない連絡しか無かったんだよ!? 普通はなにしてんの? ってなるじゃない!」
「お、おおぅ」
アオイが怒っている原因は私の素行でした。
うーむ。言われて思い返してみれば、私の中では息吐く間もない怒濤の十日間でしたが、皆にとってはそうではありませんからね。
探索者だったお父さんが外で死んだこともあって「疲れていても家族に連絡だけはしておけ」っていう師匠のお気遣いをありがたく思いつつも、毎日心から疲れていましたから簡単な連絡になってしまっていたんですよ。それで、かえって心配をさせてしまったんですね。
「そうかぁ」
この子は私を心配して学校を休んだのかぁ。
そう思うと、目の前でプリプリと怒っているアオイの顔も可愛く思えます。いや、実際私の妹は可愛いんですけどね!
「最初はお姉ちゃんが不良になったんじゃないか? とか、あのクソ野郎みたいなヤツに騙されて愛人契約でも結ばされたんじゃないか? って心配したんだよ!?」
「心配の方向性が違わないかな!?」
てっきり壁の外で戦う私を心配していたのかと思ったら、虚偽報告を疑われていましたっ!
「……っていうか、アオイもクソ野郎のことには気付いてたんですね?」
お父さんを嵌めたことはともかくとしても、お父さんが死んでから今までの間、ヤツが私たちに親切にしていたのは純粋な善意なんかじゃなく、お母さんや私たちを狙っていたっていう悪意に基づくモノだってことに気付いてなかった場合、どうやってヤツとの接触を絶たせようか? って考えていましたからね。
話が早くなったと喜ぶべきか、まだ中学生のアオイにドロドロしたのを見せてしまっていたことに悩めばいいのか、悩むところです。
「え? そりゃ露骨に色目っていうか物色してくるような目を向けてきてたしね。お母さんだってウチのシャンプーとかとは違う匂いで帰ってくるときもあったし……アレってそういうことでしょ?」
「……えぇ」
アオイもお母さんとヤツの関係には気付いていましたか。だから私がヤツみたいなのと愛人契約を結んでお金を稼いでると勘違いしたんですね。
いや、まぁ? もし師匠がその気になってくれていたら。今頃私は弟子兼愛人になれていたんでしょうけど、残念ながら師匠はそんなに軽い人ではありませんからねぇ。
「お母さんにも話したけど、私の師匠は真っ当……ではないかもしれないけど、間違いなく良い人だよ!」
ちょっと常識とは外れたところが有るけど、それは私が探索者としての常識を知らないからだし。何より師匠は体目当てとかじゃなくて、ちゃんと私を育ててくれる人だっていうことは確かですからね!
「いや、真っ当じゃないなら駄目じゃん!」
「む?」
アオイが焦ったような顔をしていますけど、何か勘違いをしていますね。
性欲がどうこうっていうのもありますけど、そもそも私と同い年なのにプロの探索者って時点であの人は確実に異常でしょう?
かと言ってこの子が師匠を誤解してしまって、漫画とかであるように尾行だの公衆の面前で文句をつけるだのをされてしまってはこまります困ります。(普通に破門されちゃいますからね)
ここはしっかりと師匠の偉大さを教えるべきでしょう!
「師匠を真っ当と言い切れないのは、私がまだ探索者の常識を知らないからですよ。探索者を養成する学校に入学したとは言え、所詮学生でしかない私とプロの探索者である師匠が色々と違うのは当たり前の話でしょう?」
特にお金に関する価値観とか。
「あぁそういうこと? それはそうかもしれないけど……」
「けど?」
「その師匠さんは同い年なんでしょ? それって学校で浮くってことじゃない?」
「え? 最高じゃないですか」
ぼっち上等! 是非浮いてほしいですよ! そしたら私と師匠でずっと二人で居られますからね!
「うわ~なんか、お姉ちゃんが変わっちゃったよ……」
「そりゃ変わりもしますよ。何時までも悲劇のヒロインなんかしてる余裕はありませんし、壁の外でそんな後ろ向きなこと考えていたら、今ごろゴブリンの巣で○○○されてますからね」
いやほんと。ウジウジしてる余裕なんか有りませんでしたねぇ。
「壁の外ぉ!? お姉ちゃん、この数日で一体何をしていたのっ?」
何? 何って……。
「強いて言えばゴブリン狩りですかねぇ」
強いてもなにも、それしかしてませんけど。
あとはギルド支部の地下での慣熟訓練ですけど、そんなのを聞いてもつまらないでしょうし。
「いやいや、はしょり過ぎ! ちゃんと詳しく聞かせてよ!」
んー気持ちは分からなくはないんですけどねぇ。
「お母さんにも説明するから、帰って来てからにしましょうか。とりあえず夕飯の支度をするから手伝って下さい」
「軽っ!」
バンバンと机を叩いて不満を露にしてますが、他人事じゃありませんよ?
「貴女が学校を休んだ件も有りますからね? 私の話と合わせて、その辺は詳しく聞かせてもらいましょうか。私の心配をしてくれたのは嬉しいですが、それとこれとは話が違いますからね」
「うっ」
ジト目のアオイに対してジト目で返せば、アオイとしても後ろめたいところがあったらしく、大人しくなってくれました。
なんやかんやありましたが落ち着いてきたので、元々の予定だったYAKINIKUパーリーの準備をしましょうか!
晩御飯を思い浮かべてウキウキになった私と違い、アオイは暗い顔のままです。何があったのでしょうか? そう思っていた時期が私にもありました。
「支度ったって……ご飯炊いて混ぜるのを切るだけでしょ?」
あぁ。そうでした。最近のウチの食事はもっぱらお握りでした。当然具は無し。味付けはその辺の食べられる草か塩という貧乏仕様です。
いえ、それだけでも食べられるだけマシと言えばマシなのかもしれません。
私はそう割り切って日々の食事をしていたんですが、お母さん的にはやっぱり私たちに良いものを食べさせたいらしく、あのクソ野郎と……。
で、そういうことをしたと思しき日は夕飯や翌日の朝ご飯にはオカズが並ぶんですよね。そうなると下の妹は満面の笑みで「おいしいね」って言いながらご飯を食べるんです。
それがまた普段から我慢させているって思わせちゃう要因になるので、私は顔に出さないようにしてたし、アオイだって順応したように見せてたんですけど、どう頑張っても愉しみにはなりませんよね
いえ、もちろんお母さんに感謝の気持ちを忘れたことは有りませんよ? いつもありがとうございますって言ってから、いただきますをしてましたし、それはアオイも一緒でしょう。
……あのクソ野郎はかなり足元を見ていたようですが、もうヤツに関わる必要は無いんです! なんたって師匠はあのクソ野郎みたいに足元を見て買い叩くような真似をするようなゲスでも無ければケチでもありませんからね!
あぁ。師匠には本当に感謝してもしきれません。だからこそ今日くらいは豪華なお食事するんです! まずはこの暗い顔を浮かべているマイプリチーシスターを笑顔にしてあげましょう!
「ふっ、これを見てもそんなことが言えますか?」
「え?」
聞いて驚け見て笑え!
「出ろぉ! クーラーボォーーックスッ!」
おもむろに立ち上がり、右手を上に突き上げて指パッチンをすると同時に、足からクーラーボックスを出します。
アオイはいきなり立ち上がって「クーラーボォーーックスッ!」なんて叫びだした私を怪訝そうな顔で見ていますが、フフフ、甘いですよ。完全にミスディレクションに引っ掛かっています。
「おねぇちゃん……」
その痛々いモノを見るのは止めて貰えませんかねぇ!?
「貴女が見るのは私ではなく下ですよ、下」
「下?」
チョイチョイと足元に出したクーラーボックスを指差せば、ようやくアオイも私の足元にある存在に気付きました。
「うわ! クーラーボックスが有る! マジ? どっから出したの!?」
「フフフ、良いリアクションですね!」
アオイは探索者とは無関係ですから素体のことも知らないでしょう。だからこそ何も無いところからクーラーボックスが出てきたら、驚くのも当然です!
ですが、本当に驚くのはこれからですよ!
「アオイ、中を見てみなさい。そこに師匠の力の一端が有ります」
百聞は一見にしかず。これくらい分かりやすいのも無いですよね!
「な、中?」
「そう、クーラーボックスはあくまで入れ物です。メインが中にあるモノなのは当然でしょう?」
「た、確かに……ゴクリ……」
ふっ。唾を飲む音を出すくらい動揺していますよ。 気持ちはわかります。今の話の流れからすれば、このクーラーボックスの中あるものが何かなんてことは想像に難くありませんからね!
そしてアオイにもわかるのでしょう。クーラーボックスの中に在りがらも、しっかりと存在を感じさせるONIKU様のオーラがっ!
「さぁ、開けてみなさい」
「い、いいの? 私が開けて本当にいいの?」
「無論です」
「わ、わかった」
私の言葉を受け、アオイはおそるおそるクーラーボックスを開けました。そしてアオイは奇跡の目撃者となりました。
「な、なん……だと……!」
ガチャリという音と共に開帳されたクーラーボックス。その中に在るモノを一瞥し動きを止めるアオイ。
彼女の目に映るは正しくお宝。否、久し振りに見るONIKU様です。
「そこにあるのはただのONIKUではありません」
「と、といいますと?」
「それはONIKU様。高級ONIKU様です!」
「こ、高級!?」
「そう。その等級はなんと」
「なんと?」
「A5、です」
「エッッッ!?」
「ふふふ、驚きましたか?」
「……っ!(コクコク!)」
ONIKU様の存在に動揺して目をぐるぐる回しながら頭を振るだけの機械になってしまったアオイを見て(この分だと回復には時間がかかりそうですね)と思った私は、準備をするために1ゴブリン程度の重さのクーラーボックスを抱えて台所に運ぼうとしたのですが……
「ま、まって!」
「ん?」
いつの間にか再起動していたアオイは私の服を掴んでその動きを止めてきました。
視線はずっとクーラーボックスに釘付けだったので、てっきり自分で持ちたいのかな? でも意外と重いからなぁ~なんてお気楽なことを考えていたんですが、可愛い可愛い私の妹は私が考えていたことなんかよりも、もっとぶっ飛んだことを言ってきたんです!
「お姉ちゃん! 私に師匠さんを紹介してっ! 私、師匠さんのお嫁さんになるっ!」
「そんなこと言われて紹介するわけないでしょ!?」
会った事もない男性のお嫁さんとか一体何を考えているんですか! だいたい、師匠のお嫁さんになるのは私です! たとえ妹とは言え、ONIKU目当ての小娘なんかに師匠は渡しませんよっ!
閲覧ありがとうございます




