③ 主人公、学校に行く
幼少期? いつかやるかも……
やぁ。なんやかんやで12年生き延びて15歳になったコー君こと俺こと神保行太だよ。
この12年間、両親に鍛えられたり、突発的にダンジョンアタックに挑戦して死にかけたり、その途中で何故か外国のお嬢さんの命を救ったり、色々あって探索者ギルドに所属したと同時に世の中の裏側を垣間見させられたりしたけど、俺は元気です。
そんな過去のことはさておいて、いやはや、12年も経てば装備やら武器もそれなりに進化すると思いきや、大幅なバージョンアップは見られなかったな。
最初は意外に思ったが考えてみればそれもそうかと納得もできる。そもそも150年の間に最適化されてきたモノが、いきなり規格を変えるなんてことは早々無いってことかもしれない。
ただ、それぞれの基本性能やら汎用性は高まってるし、母さんが持っていた生体兵器っぽいものも随分と数やバリエーションが増えている。
まぁ、そういった特殊な装備については後に説明することにして、先に俺の現状を伝えたいと思う。
―――
俺は今、仙台にある探索者を育成するための学校に来ている。その名も『仙台探索者育英高等学校』だ。
うむ。どこで、何を目的とする学校なのかが一目でわかるのが素晴らしいと思う。
……そんな褒めるべきかあきれるべきか悩むネーミングセンスはさておくとして、なんでもここは探索者を育成しつつ前世で言うところの高卒資格を得ることが出来る国家公認の学校なんだそうな。
で、探索者を育成する学校はここ以外にもいくつかあるのだが、基本的にどの学校にも2つの学科がある。
1つ目は、そのままずばり『探索科』
この学科は世界中にできたダンジョンや、ダンジョンから溢れた魔物によって人間の手から離れた地域を探索し、資源や情報を集めたりする人材である探索者……の卵を育成する為に創設された学科である。
2つ目は『錬成科』だ。
この学科は、探索者が集めてきた魔石や、大氾濫のあとで色々と変わってしまった土地を探索して得た資源を利用してエネルギーを生成したり、装備品を作ったりする技術者……の卵を育成するための学科になる。例を挙げるとすれば、工業高校のようなものと思えばわかりやすいだろうか。
ちなみに俺は魔物が蔓延る修羅の巷で3歳の頃から両親に付いて回って狩りやら討伐やら採取やら何やらをしているし、先述したようにもう既に探索者ギルドに登録しているプロの探索者であるため、探索者の卵を育成する探索科ではなく錬成科を受験し、合格している。
……本来危険から遠ざけられるべき幼少期に散々危険な目に遭ってきたというのに、この歳になっていきなりの安全地帯で学業に勤しむことになるんだから、まこと世の中とは不思議なものである。
あと、受験については特にいう事はない。
もともと国語やら数学の基本的な知識はあったし、歴史やら科学に関する常識も両親から教わっていたので(とくに科学は知らないとまずい)筆記試験には普通に合格できた。実技に関しては当たり前に免除。だって普通に探索者だし。
そのせい、と言えば良いかどうかはわからないが、入試の成績優秀者に与えられる奨学金の対象になれなかったみたいだが、金は有っても困らないけど少しなら余裕有るので問題はないと思っている。
そもそも俺には自分で稼げる手段も有るからな。奨学金とかは、本当に必要なヤツに使えば良いと思うんだ。それに受験の成績もそんなによくなかったはずだし。
……いやいや、基礎的なことは知っているぞ? だけど流石に関数がどうこう言われたらなぁ。
ハイ、ほとんど覚えていませんでした。
いや、魔物だの何だのとの戦闘では数学なんか使わないし、完全記憶能力なんか無い。普通は忘れるっつーの。父さんも母さんも科学には強いからそこそこの応用は利いたけど、そこそこでしかないんだよなぁ。
あとは俺のやる気もあるだろう。具体的に言えば「転生してまで関数の勉強したいか?」って話だ。数学が好きな人なら「やりたい!」と言えるのかもしれないが、俺には無理だった。
そもそも探索者としての資格を始めとした様々な国家資格を持つ俺がここに来たのは、パーティーメンバーに裏切られたとか、役立たずとして解雇されたとか、凄いチート能力に目覚めたとか、邪魔だからと排除されたから、とかではない。(……どこぞの夫婦の夜の生活は邪魔していたかもしれないが)
では何があったかというと、普段から世話になってるギルドのお偉いさん(支部長)の何気ない一言が原因である。
これが裏切られたと言えばそうなのかもしれないが、支部長曰く『ボウズの最終学歴が白紙ってのは不味いだろう』って言われたらなぁ。
うん、ごもっともです。としか言えんわ。
一生探索者として過ごすならそれも有りかもしれないけど、負傷やら歳やらで引退した場合、学歴無しはヤバいというのは想像に難くない。
さらにギルドとしても「子供を学校にやらずに危険な地域に送り込んだ!」などと非難される可能性もあるわけで。まぁ義務教育では無いにせよ、外聞は悪いよな。なんたって、今じゃギルドが独占禁止法に触れてるだのなんだのと言って騒ぐ馬鹿な政治家も居るんだから、なおさらだ。
政治家に関して言えば「長年の積み重ねの結果、色んな会社や傭兵集団が関与していて、利権や権力争いもあるだろうけど、それでも有事の際の指揮系統が統一されてないのは不味い。だからこそギルドに所属している戦力を軍隊として編成し直すべきだ!」って考えらしいけど、残念ながらその意見は現実的ではないんだよなぁ。
なぜか? それは探索者ギルドに所属している探索者の役割が、民間人を守ることではなく、ダンジョンの踏破や資源の回収にあるからだ。
これが国営になった場合、建前上どうしても民間人の守護を優先しなくてはならなくなる。
だが魔物を相手にする場合、軍隊では対処できないところに対処する為にも民間なりの身軽さが必要になるのだ。加えて、政治家が唱えているギルドの分権は、大きくなりすぎた組織に対する警鐘という名目はあるものの、実際のところ『政治家が関連している軍やら企業の利権を得るため』ということが主目的となっているからな。
問・そんな連中の意見に従ってギルドを国営化させた場合、どうなる?
答・絶対に碌なことにはならない
今のところ大半の人がこのことをわかってるので、そういった主張をする議員の賛同者は多くはない。
ただし、今は実際の戦場を知らない連中の戯言として切って捨てられているこの主張だが、これが数年後、数十年後に魔物との戦いがルーチン化して軍事的に安定したならば、話は変わるだろう。
いずれギルドを国が完全に管理しようとしてくる可能性は高くなると思われる。
それは利権の問題だけではない。
自分たちこそが国家を運営している(と思っている)連中からすれば、自分たちが制御できない武力集団の存在が怖くて仕方がないのだ。
俺の知ってる時代の日本だって自衛する為の武器の所持すら認めないくらい病的な管理体制だったしな。
こんな世紀末染みたご時世になっても、そんな連中は多いらしい。
結局のところ、これは技術が発展し、国家としての軍事力が回復して文民統制を言えるだけの余裕ができた事に対する弊害でもあるのだろうと思われる。
あと、提案している政治家どもにしたら、ギルドを弱体化させたところで軍によって守られている自分が死ぬわけじゃないというのも無関係ではないだろう。
そりゃそんなところに居たら「民間の軍事力なんか不要だ」と勘違いするのもわからないでもないわな。
うん。結局のところ、所詮人間の敵は人間と言うことかもしれない。
過去に万物の霊長を宣い、長年地球を好き勝手に荒らしてきた人間社会において、権力とそれを補完する武力は常に人を引き付けるモノであったし、これからもそうなのだろう。
ま、探索者ギルドだって品行方正って訳でも無いし、色々と問題もあるのは事実だから、弱体化させたいって気持ちもわからなくはないんだけどさ。
それでも俺としては現実を見ることができていない政治家先生に管理させるよりも、それなりに現実と向き合っている探索者ギルドに管理を任せたほうが幾分マシだと思っているが、そこをどう思うかは、それこそ人それぞれだろう。
……そんな政治家やギルドに対する愚痴はさておいて。そろそろ俺も現実を見ることにしようか。
「わ、私とチームを組んでくれませんか!」
「なんでやねん」
ノータイムでそんな似非関西弁が出たのはシカタナイことだと思う。
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