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㉙ エピローグ的なお話

「いよぉ色男。公衆の面前で女を泣かせるなんて、中々やるじゃねぇかよぉ」


泣きつかれた弟子を用意された部屋に運んで出てきたら、いきなり現れた強面のハゲに挑発されたんだが、何を言っているのやら。


「いやいや、路上で偶然会った実の娘さんとそのご友人を泣かせて官憲のお世話になった支部長には及びませんよ」


自分の黒歴史を忘れたか?


「ぐはっ!」


鋭利な特大ブーメランにより、ピンポイントでトラウマを抉られて膝から崩れ落ちるハゲこと支部長。つーかアイツの事情を知ってるだろうに、茶化すなよ。


戦闘中にモラルだのハラスメントを気にしてたら魔物に喰われるのが探索者って職業ではあるが、私生活においては少しくらいデリカシーってヤツを持って欲しいもんだと思うよ。


ま、俺としても下手に気遣われても面倒だから、あえて茶化してきたんだろうけどな。


「容赦ないのぉ。いや、今のは下手に踏み込んだコヤツが悪いんじゃけど」


「出たな市松人形(お疲れ様ですカエデ殿)」


崩れ落ちたハゲの陰から現れる市松人形。当たり前のように俺に対して全身を晒さないようにして居るが、普通に戦えば向こうの方が強いんだからもっと堂々としても良いと思うんだが……


「うむ。挨拶と本音が逆転しとるが、まぁ良かろ。とりあえずホレ、料金を貰うぞ」


「はい」


さっさと寄越せと手のひらを此方に向けてクイクイしてくる市松人形にの手のひらの上に、串に刺さったイナゴ(3匹刺し)の佃煮を載せる。


「うむ、コレよコレ。イナゴは油で揚げて塩をパラッとすると止められないし止まらないが、佃煮にすることで、硬いはずの足がぐにゃってなりつつ、サクッてイケる感じが癖になるんじゃよなぁ……って安いわっ!」


煮蝗を渡された市松人形は、微妙な食レポをしながらイナゴを全部食べ、さらには某飛べない鳥倶楽部に所属する竜が如く「訴えてやる!」と言わんばかりに串を地面に叩きつけた。流石は引きこもり。とうとう乗り突っ込みまで覚えたか。


食べ物を粗末にしないようにしっかり全部食べた後で、ってところも俺的にはポイント高いぞ。


もっと言えば、突っ込むところが「値段が安い」というところなのもいい。なかなか良い目の付け所をしているとも思う。


ただし、反論はさせてもらう。


「いや、このご時世天然のイナゴはかなり貴重ですよ?」


野生の昆虫は大体がゴブリンやコボルトの餌になるからな。その辺を跳んだり飛んだりはしてないんだ。でもって今の状況でわざわざ食糧危機の代名詞みたいなイナゴを再現しようとするヤツはいないし、それに予算を割くような企業はかなり限定される。


一応、お隣の大陸には魔物を食らって魔物化した昆虫とかも存在するらしいが、それは既にイナゴとは別種だしな。だからこそ天然のイナゴの佃煮は知る人ぞ知る高級嗜好品なのだ。(具体的には弟子にやった肉より高い)


「知っとるわ! だがそうじゃなかろ!?」


むきー! と言わんばかりに地団駄を踏むが、なら食うなと言いたい。まぁ流れで渡した俺にも悪いところはあったかもしれないけど。


「あぁ、話が前に進まねぇからチャッチャと支払いを済ませてやってくれぃ」


いつの間にか復活したハゲのオッサンが話を進めようとしてくる。うん、俺としてもわざわざ市松人形の乗り突っ込みを見たいわけではないしな。


「了解です」


料金としてCランクの魔石を差し出すと、市松人形はうむ。と頷いて魔石を取り込んだ。


「最初からそうせい! いや、イナゴは旨かったけど。ご馳走さまじゃ!」


「そりゃどうも」


”いただきます”は言わなかったが、オヤツ扱いと考えるならばシカタナイ。大人の俺は御馳走さまだけで許してやろうじゃないか。


「しっかし、検疫と素体の更新が13000円ってのはなぁ、一体いつから更新がそんな破格のお値段になったんでぃ?」


ニヤニヤしながらウリウリと俺の頭を弄くり回すオッサン。ガキの頃からの付き合いだから悪気が有る訳じゃなく、年頃の甥っ子が初めてできた彼女を甘やかしてるように見えるのだろう……まさかこうやって頭皮にダメージを加えて同類を作ろうとしているんじゃねぇだろうな?


微妙な不安を覚えるが、頭皮に関してはあまり気にしすぎるのも良くないと考えた俺は、フサフサな両親の頭を思い浮かべることでオッサンからの攻撃を我慢することにした。


実際に検疫だけなら13000円も有れば釣りがくるが、宿泊費用や素体の更新となるとそんな端金では不可能だ。最低でもDランクの魔石が必要になる。(実際のところは市松人形が納得すれば何でも良いのだが)


そもそも素体の更新とは何か?


素体は移植型であっても武装型であっても、基本的に使用者の魂魄と結び付いているので、魔物の肉体を喰らっただけでは成長しない。魔物の中に含まれている魔力なら何やらを消化して栄養っぽい何かに変換して取り入れることで初めて成長するのだ。


この素体に取り込まれたモノを栄養っぽいものに変換し、素体を成長させる作業のことを探索者は『更新』と呼んでいる。


弟子は自分の強化と素体の強化を一緒に考えているようだが、実際は別なのだ。


でもって素体の強化に必要なのが、市松人形による調整となる。細かい仕様は不明だが、この作業を行う為には一晩市松人形のテリトリー内で寝る必要があるらしい。


つまるところ、肉体は最終幻想式(もしくはロ○サガか)のように経験やら何やらでその都度成長するのに対し、素体はウィザード○ィのように宿屋(馬小屋でも可)で休息しないとレベルアップしないということだな。


この理屈で言えば、更新するだけならセーフハウスでも可能ではある。しかし、ゴブリンを数匹吸収した程度で更新なんかしてたら費用が無駄にかかる上に、更新で素体が成長する度に微調整を行わないと事故の元となるので、基本は遠征帰りに一括でやるのが探索者としての常識となっている。


そんなわけで今回の遠征の最終的な工程は、検疫や休息ではなく、弟子の素体を更新することと、素体更新後の慣熟訓練を行うことである。


なぜ慣熟訓練が必要かと言うと、今回の遠征で弟子はゴブリン130体に加え、オークと探索者と思しき存在(受付嬢モドキ)(最終日に狩ったゴブリンの中に混ぜて袋に入れ、そのまま消化させている)を吸収しているからだ。


あの受付嬢モドキがどれだけのモノかは不明だが、最初の強化素材としては間違いなく破格の存在だ。そんな破格のモノを吸収した以上、きちんと慣熟訓練を行わないと『つい力を込めて叩いてしまったら、家族が死んでしまった!』なんて冗談では済まない事故がおきてしまう。


こういった事故を予防するためにも、素体を更新した後は慣熟訓練をしなくてはならないのだ。


今回弟子になった彼女を育成することは俺にとってもテストケースである。現在は先行投資中で、収支のバランスなどは年単位で見るべきだと決めている。


いうなれば、金と労力を余すことなくつぎ込んで行う史上最強の弟子の育成、といった感じだろうか。うん。完全に俺の趣味だな。


で、趣味だからこそ俺はオッサンにどう見られようとも金も労力もケチるつもりはない。


だいたい、あそこまで探索者に向いた学生なんか他にはいないだろうし、そもそも素人すぎて何の癖もなければ一般家庭の出柵も無いっていうのが良いじゃないか。


俺の持論だが、探索者の実力は潜り抜けた地獄の数と密度に比例するものだと思っている。地獄を潜り抜ける為には確固たる土台の上に積み重ねた実力が必要だが、未熟なうちから地獄で土台造りをすればどこまで成長できるのか……正直愉しみでしょうがない。


これが史上最強の弟子を育成している最中に某達人たちが味わっている気分なのだろうか? 学生生活の無聊を慰めるための暇潰しのつもりだったが思わぬ収穫だった。


「くっくっくっ」


「……悪りぃ面してやがるぜ」


「……まったくじゃ。こやつこそ魔王よ」


お前らが言うな。


―――


次の日のこと。


「お、おはようございます師匠!昨日はあの、その……」


弟子は顔を真っ赤にして俯きながら朝の挨拶をしてきた。礼儀としてはどうかと思わないでもないが、まぁ泣き疲れてそのまま寝たからな、年頃の娘さんとしたらそりゃ恥ずかしいだろうさ。


「昨日も言ったが、お前はまだ子供だ。泣けるときに泣いておけ。……場所は選んで欲しいがな」


公衆の面前でってのは流石にキツいぞ。お互いに。


「あ、アハハハ……」


思い出せば思い出すほど恥ずかしいのだろう。照れ隠しなのか、顔を真っ赤にしたまま頭を掻いているが、まぁ随分とスッキリしたようで何よりだ。


「とりあえず検疫の結果は出たぞ。問題なしだ」


こうして自由に動けている時点で分かって居るだろうけど、ま、一応な。


「な、なるほど! 気が付いたら部屋のベッドで寝ていましたから検査されていたって実感はありませんけど、終わっていたなら良いんです! ……もう一度検査のお金を支払えって言われても払えませんからね」


堂々と金が無い宣言をしつつ、素体からクーラーボックスを取り出して愛おしそうに撫でる弟子。おそらく中の肉を思い出しているのだろう。かなり幸せそうだ。


「あ、それとなんですけど!」


「?」


「なんか、朝起きたら凄くスッキリしてて、今までに無いくらいの力が湧き出てくる感じなんです!

コレはアレですかね!? 師匠と私の愛の絆によって私の中で眠っていた力が覚醒したとかじゃないですかッツェ!?」


「……アホか」


トリップから一転、いきなり真顔になったと思ったら真剣に寝言を言い出したので、眠気覚ましのデコピンをくれてやる。


「うぅ……師匠の愛が痛い……」


なんか「えぇ~」とか「もっとこう……有りませんかねぇ?」とか言っているが、何が悲しくてオッサンや市松人形に見られてるところで青春せねばならんのだ。


映像を見てニヤニヤしてるのがここからでもわかるわい。


「それだけ元気なら十分だ。朝飯食ったらそのパワーアップについての説明と慣らしをするから、シャワーでも浴びてこい。あぁギルドに備え付けてある器具は今のお前程度が力加減を間違えても壊れたりはしないが、食器とかは普通に壊れるぞ」


「へ?」


「当然だけど、食器は壊したら弁償だぞ」


「えぇ!?」


眠ってた力とやらをしっかり制御してくれ。


「べ、弁償!? わかりました! 食器を使わずに食べます!」


「……それじゃ慣熟訓練にならんだろうが」


あぁ、いや、パンとかおにぎりなら食器を使わずとも食えるから最初はそれでもいいのか? で、おかずを食べたくなったら本気で制御を覚えようとするだろうし、飲み物だってあるからな。 


「うーむ」


ハングリー精神の使いどころとしてはどうかと思うが、一概に間違いとも言い切れん。もしかして貧乏ってのは一種の起爆剤になるのか? 


……この分だとこいつの妹もかなり探索者に向いてそうだな。今のうちから弟子候補としてキープしとくか?


「む、師匠が私以外の女のことを考えてる気がします!」


まだ見ぬこいつの妹のことを考えていたら、なんか浮気されている人妻みたいな事を言い出しやがった。別に俺が誰の事を考えようと俺の勝手だろうに。


「アホか。良いからさっさとシャワー浴びてこい。涙の跡とか寝汗とか寝癖で面白いことになってるぞ」


「え? は、はわわわわ~~! み、見ないで下さ~い!」


「いや、手遅れだろ」


指摘したの俺だし。


ま、あの調子ならこれからの訓練中に変な雰囲気にはならないだろう。訓練が順調に進むのはいいことだ。


……だがなぁ。


「学校がなぁ」


探索科はどうかしらんが、錬成科の同級生からすれば今の俺って『入学式の日の翌日に、探索科からきた優等生から師匠がどうこう言われた男であり、その次の日から探索科の生徒と一緒に10日近く学校を休んでいる正体不明の男』になるんだよなぁ。


どこからどう見てもゴシップの塊だ。他人事なら俺も揶揄う自信がある。だからこそ……。


「めんどくせぇ」


週明けに引き起こされるであろう面倒事を想定してしまった俺は、溜息を吐きつつそう独り言ちるのであった。


閲覧ありがとうございます。


こちらで一章に相当する部分が終了となります。



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