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㉕ 主人公、決断を迫る/少女、決断を迫られる

さて、なんやかんやで1週間。すでに予定していたゴブリン百体を討伐し、吸収もさせた。予想外なことが一つあったが、今のところは問題ない。


……問題があるとすれば、弟子のテンションだな。


「師匠! 私はONIKUが好きです! 私はONIKUが大好きです! 牛肉が好きです。豚肉も好きです。馬も羊も山羊も鶏も魚肉だって大好きです!」


なんか「ノルマ達成のご褒美が欲しい」とか言い出したから何が欲しいか聞いてみたら、こんなことを抜かしてくる始末。ただ魚をしっかりと魚肉と分類したのは俺的にポイント高いぞ。


「焼くのも良いし、蒸すのも良い、炒めても美味しいし、部位によっては生でもイケます!」


虚空を眺めながらうっとりとした目で肉に対する愛をこれでもかと語ってくる弟子の図である。


つーか生は止めとけ。


いや刺身に始まり、ユッケだの生ハムってのは有る。畜産されてる肉はきちんと管理されているから病気とかも無いらしいし、探索者の体なら当たり前に生でもがっつけるけどな。だが今の弟子からは普通に生肉の塊に塩をかけて喰らう絵しか思い浮かばん。


「タンも好きです! 塩でもタレでもイケるし、ネギも良いですね! 肉厚なタンが生み出す弾力の有る噛みごたえがたまりませんよ!」


とうとう種類から部位の主張に移行しやがった。最初に「タンはもっと薄いんです! あ、あぁぁ! 勿体ない! これは十枚分の厚さですよ! 贅沢は敵って言葉を知らないんですか!?」とか言って俺に説教してきたヤツの台詞とは思えんな。


「ロースも好きだし! フィレも好きです! シャトーなんか絶品でした! あ、ハラミも良いし、基本にして王道のバラカルビも良いですね!」


バラカルビって。どんどん庶民的になっていくのな。


この分だと初日みたいに「YAKINIKUを! 一心不乱のYAKINIKUを!」とか言い出して黙々と肉を喰らう機械になりそうだ。


しかもコイツは「白米は胃に肉を入れる邪魔になるから不要です!」とか抜かすタイプだったからな。


焼肉において、肉汁とタレが絶妙にブレンドされたナニカを纏った白米こそ至上。アレを食わずに何を食うと言うのだ。それに肉と米の黄金比は1:3だと言うだろうが。牛丼屋で肉と米が1:1とかなら、間違いなく胃もたれおこすし、白米無しなんて自殺行為以外のナニモノでもないぞ。


酒のツマミならありかもしれんが、コイツは普通に肉だけ喰うからな。


いや、まぁコイツの主張は良いんだ。さっさと明日の予定に移ろう。そもそも弟子が勝手にご褒美を欲しがってるのであって、俺がやると言ったわけじゃないし……。


何より今後の予定を確認すれば焼肉どころじゃなくなるだろうからな。




―――



「むぅ」


師匠がONIKUを出し惜しみしてます! この一週間でゴブリンを討伐してノルマである100匹の討伐&吸収を終えた可愛い弟子にご褒美の一つくらいは出すべきでしょう! 飴と鞭って言うじゃないですか! 鞭だけじゃダメなんですよ!


「さて」


そんなことを考えていたら今までなんとも緩やかな表情をしていた師匠が急に真顔になり、机に肘をついて両手を組んで口元を抑える、所謂『司令官の構え』を取りました。


「さて、明日が今回の遠征の最終日なのだが、問題が一つある。これに関しては弟子に決定権をやろう」


「んむ?」


この別名「いいから黙って話を聞け」の構えの前には、弟子でしかない今の私では抵抗できません。ここは悔しい気持ちを我慢して師匠に話の先を促すことにします。


「妙に上から目線だよな。ま、矯正は後でするとして、本題だ」


なんか聞き捨てならない言葉が聞こえましたが、きっと気のせいでしょう。それに私としても『私に決定権が与えられる問題』とやらに興味が無いわけでは有りませんからね。


(もしかしたらご褒美を選べるのでしょうか?)


そんなことを考えていた時期が私にもありました。


「今まで見てきたゴブリンの数や連携パターンから、この近くにゴブリンの巣が有ると推測される。数は100~200かそれ以上。そしてそこには『戦利品』も有るだろう」


「え?」


本当に面倒だ。と呟く師匠。 でも、巣? ゴブリンの? そこにある戦利品ってもしかして……


「大問題じゃないですか! こんなところでお茶飲んでる場合じゃ無いですよ! 知ってて助けないって、一体師匠は何を考えてるんですか!?」


師匠がいう『戦利品』とは、おそらく女性のことです。


ゴブリンの巣に捕えられた女性がどうなるかなんて、その辺の子供だって知っていますし、実際にゴブリンと戦ったからわかります! アレは駄目です! 同じ女として、一刻も早く助けねばなりません!


「そう。大問題だ。で、お前に対する提案としては大きく分けて2つ。ここで巣を潰すか、それとも一度帰還し、ギルドに報告してから動くか、だ」


二本の指を立ててきますが、アレですか? その指をへし折れば良いんですか!?


「いや、そんなの選ぶまでもっ! ……いや。師匠が態々こんなことをいうんです。何かデメリットが有るんですね?」


私としてはすぐにでも巣を潰しにいきたいのですが、デメリットがあるならそれを確認しなくてはなりません。何せ私は目の前の師匠から『探索者は感情で動いてはいけない』と口を酸っぱくして教えられてるからです。


もしも下手に感情に任せて動けば私も「戦利品」になってしまうかもしれません。


今は師匠がいるから大丈夫かもしれませんが、ずっと見て貰えるわけではありませんし。


私にはお母さんや妹たちを養う為にお金が必要なんです! 見ず知らずの人を助けるのは良いですが、その結果自分が死んでしまっては意味が有りません。


「ふむ。その冷静さは良いな」


組んだ手で隠れているので見えませんが、今絶対ニヤリと笑ってますよね。もう完全に悪役ですよ。


「お前の予想通り、ここで巣を潰すとデメリットが有る。具体的に言えば報酬が減る」


「詳しくお願いします!」


ノータイムで答えますが、当然ですよね? 危険を省みずにゴブリンの討伐をして、報酬が減る? 増えるならまだしも、減るってどういうことですかねぇ?


「まずこのままゴブリンの巣を強襲した場合から説明しよう。この場合得られる利益は討伐したゴブリンの数×100円と素体の餌となる肉だ」


「そうですね」


単純に二百体居れば2万円ですね。でもって倒した敵はそのまま全部私の栄養になります。これを独り占め出来るなら立派な利益ですよね?


「対してギルドに報告した場合、10万円の報酬と特殊討伐任務が発生する」


「10万円!?」


報告するだけで? 戦わなくても1000ゴブリン!?


「そう。10万円。で特別討伐の場合は報酬も増える。巣の規模にもよるが大体一体あたり500円だ」


「ごっ……ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


5倍ですよ!5ゴブリンですよ!


「さらに『戦利品』に救助依頼が来ている場合、その救助報奨金だな。これは単独で突っ込んでも貰えるが、巣が有ると告知された場合、行方不明者の家族が新たに探索依頼を出してくる場合も有るので、その救助やら遺品やらでも報酬が増える。最低でもそれぞれの依頼に関する情報提供料は入るな」


「な、なるほど!」


そうか。今までは諦めていたけど、巣が有ると分かれば『そこに何か有るかもしれない』と思った人たちが、一縷の望みを懸けてそういう依頼をしてくるんですね?


だけど私たちがギルドに巣の存在を報告して、さらにギルドが巣の存在を告知してからじゃないと依頼をする人にも何の情報もないから、依頼そのものが発生しない。つまり報酬が減ります!


「何も知らずに巣を完全に破壊すれば、形が残ってる戦利品は何とかなっても遺品とかはどうしようもない。結局そういう『きっかけ』を望む人間から機会を奪うことになって、恨みを買うことになる」


「なるほど」


『諦める為のきっかけ』ですか。


確かに、いくら素体に吸収できると言っても、骨だって重さは有るし、遺品に関しては何が遺品になるか分かりませんからね。極端な話、戦利品が持ってたヘアピンや履いてた靴だって遺品ですけど、依頼も無いのにそれを探して回収するか? と言われたら……無いですよね。


「加えて業界の仁義としても問題が有る」


「業界の仁義? それ、報酬以上にヤバイですよね?」


「あぁ」


私の内心を察したのか師匠も真剣な顔で頷きます。

いや、ずっと真面目な表情だったんですけどね?


「若手や低ランクの探索者はこういう依頼で自身の強化や臨時収入を得ている連中も多い。だから1人で巣を潰す行為は、そう言った連中から機会を奪う形になるわけだ。当然、同業者からの評価は落ちることになる」


「うわぁ……」


貰えるお金が貰えなくなるだけじゃなく、恨みまで買うって最悪ですよね。でも……


「関係者全員、ですか? 救助された人は?」


せめてそのくらいの報酬は有ってもいいと思うんですけど。


「大概は『なんでもっと早く来てくれなかったんだ!』って感じで恨まれるか『殺してくれ』と頼まれるな」


「うわぁ……」


気持ちが分かるだけに何とも言えません。


「反対にギルドに報告を上げた場合は、その家族には感謝されるし、本人にも、まぁ個人で恨みを受けることは無くなる」


「あぁ」


攫われた方にしたら、誰かを恨まないとやってれらないってのも有るんでしょうね。だからって自分が恨まれても良い! なんていうほど私は人間できてませんよ。


なにより報酬がね。


だけどギルドへの報告を選んだ場合、私の中にはその人を見捨てたっていう事実が残ります。


……あぁ、そうか。


「師匠は私に『選択することの意味と、その選択に責任をもて』と言いたいんですね?」


「そうだ」


思いついたことがそのまま口に出てたのでしょう。師匠は私の呟きに対してしっかりと頷きました。


そもそもこの業界は自己責任が基本です。つまりゴブリンに捕まるのも殺されるのも自己責任。


そんな中、いるかもしれない『戦利品』の救助を優先し、自分の身を危険に晒してでもすぐに助けたいと願うのか、それとも確実なゴブリンの殲滅を目的としてギルドに報告するのか。


「ちなみにギルドに報告した場合、お前は討伐依頼を受けることができないぞ」


「え?」


ナンデ? それじゃあゴブリンを殺せないっ! なんとも言えない不快感が私を襲います。


「学校があるからな。今月はもう遠征できんだろ。ギルドが態々学校の休みを待つはずも無いし、依頼人の関係も有る。そんなわけで準備が完了次第動くことができる連中が動くことになるな」


「あ、そうでした」


言われてみれば納得です。そもそも私はGランクの学生でした。


「つまり私が関与できるのは報告するまで。それ以降はこの件に関わることはできないんですね?」


やるせなさが残りますが、報告も立派な仕事だと考えれば、卑下することはないでしょう。だけど、どうしても胸のあたりがモヤモヤします。


「そうなる。さ、メリットやデメリットについては説明した。後はお前次第だ。あぁ、ちなみに討伐を選択した場合は流石に新人一人に任せるような案件じゃないから、俺も動くことになる。具体的には、お前がソコソコの数を討伐したのを確認したあとは、残りは俺が殺ることになるだろうな」


「つまり私が油断して即死しない限りは、このまま巣の殲滅に向かっても私が死ぬようなことは無い。そういうことですね?」


「そうだ」


後は私の決定次第、か。


ここで動かないと私はゴブリンを殺して強化することもできないし、報酬も得られない。だけどそもそもの話、今の私は巣にいるであろうゴブリン全部の相手ができる程強くはない。精々50くらい討伐できればいいところだと思う。


つまり私に得られるのは現金が五千円と50匹分の餌ってことになります。


対してゴブリンの巣を報告した場合はそれ以上の報酬が貰える。戦うことはないから強化はされないけど約束された報酬は最低で10万円。他の依頼が入って達成された場合はその情報料も入る。


だけどだけど、それを選べば討伐部隊の準備ができるまでの間『戦利品』の人がいたらその人はどうなる? 私の行動はその人たちを見捨てる事になりませんか?


進むか退くか。葛藤する私を見かねたのか、それまで黙って私の決断を待ってた師匠が声を掛けてきました。


「いいか? 人間には限界がある。物語の主人公のように『あれもこれも』となんでも手に入れるなんてのは不可能だ。だからこそ探索者は常に取捨選択をしなければならない。……それを踏まえた上で聞こう。お前の目的は何だ? 目的を差し置いても貫くべき感情、すなわち信念はお前に有るか?」


私の目的は、言うまでもありません。お金です。では感情は? 信念は?

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