㉔ 主人公、色々と学ぶ
「うっ! 体が重い!」
「そりゃそうだろ」
何というか、自信満々のドヤ顔を浮かべながら『武器の貯蔵は十分か?』の構えで勢いよく6匹のゴブリンの群れに突っ込んだものの、さっき4匹のゴブリンを潰したときのような早さも勢いもなく、ヨタヨタと言う音が聞こえてきそうな速度で歩いて、ぽーんと言う軽い音が出るような飛び込みをした後に、着地でバランスを崩した弟子が居た。
完全に待ち伏せしてる相手の中に自分から飛び込んでいった形になってしまったじゃないか。
なぜ自分の体が重いということを理解していながら自分から動いたのか。これがわからない。
「「「「「「ギャギャギャ!!」」」」」」
そんなアホな獲物を前にしてテンションを上げるゴブリンもなぁ。テンプレを踏襲してるというかなんというか。
「くっ! これは一体?!」
自分の体の不調、というか、体に違和感を感じて焦っている? しかし惜しい。もう少しでくっ殺だったのに。……そのフラグはしっかり折ってきやがった。
しかしながら今の弟子は思ったように体が動かないのだろう。攻撃が当たらんし防御もままならない状態に陥っている。
状況的には、ゴブリンを舐めた素人が無策に突っ込んで、奴等に囲まれて一方的にボコられるという、ある意味では良くある状態になりつつ有るな。
自分の状況を理解できずに焦ってる彼女の身に何が有ったのかと言えば、何のことはない。消化中のゴブリンが邪魔をしているのだ。
この世界のゴブリンは、基本的に小柄な存在だ。見た目通り筋肉も無ければ骨も頑丈という程ではないので、一体当たりの重さはそれほどでもない。だが生き物なので当然血は流れているし、肉体を構成する水分もある。
で、その死体の重さは大体15~20キロ。つまり現在4体分のゴブリンを消化中の弟子は60~80キロの負荷がかかってる状態となるわけだ。
まぁ亀○人のように甲羅という形じゃなく、全身に万遍なくといった感じなので、現時点で力がFランク相当のステータスを持つ弟子にしたら、普段通りに動いてる分には「少し重い」で済む。しかし、戦闘機動となるとそうはいかない。
この「少し」の重さが全身に回っていると、全ての感覚が狂うのだ。
「うわ! くそ! このっ!」
で、イメージと肉体の乖離が発生しているせいで全体的にちぐはぐな動きとなり、あんな感じで苦戦することになる。
「「「「「「ギャギャギャ~♪」」」」」」
「うわ! ぐっ! ちょ! まっ!」
ポコポコとリズム良く叩かれる音が聞こえてきそうな感じでは有るが、俺の目に映る光景は6匹のゴブリンに群がられて、一方的に攻撃を受けている女子高生の図である。
普通なら引き倒されて○○○一直線なのだがここは「重さ」による利点が働いた結果だろう。いろんな方向に引っ張られても体勢を崩すことなく振り払えている。
そりゃ通常の体重に加えてゴブリン4体分の重さがあればそうなるわな。相撲取りにそのへんの子供がぶつかったところで吹き飛ぶのは子供の方だろう。
だがいつまでもマゴマゴしてはいられない。攻撃をしなければいつまで経っても殴られっぱなしだし、顔じゃなくてもしっかりダメージは受けるのだ。
特に膝の裏とかを狙われてバランスを崩されることを考慮すれば、何とかして状況を打開すべきだ
しかし、弟子にはその為の引き出しがない。
囲まれないように動くこともできなければ、攻撃を回避して反撃する技術もない。かといって捕まえようとしても逃げられる。まさしく八方塞がりだ。だからこの状態で弟子がするべき事と言えば……
「し、師匠! アドバイスを! 何かアドバイスを下さい!」
顔に対する攻撃はなんとかガードしながらも俺にアドバイスを求めること。うん、間違っていない。自分に引き出しがないなら有る人に聞けばいいじゃないってことだな。
助けてくれ! と言わないのは、まずは自分で対処することの大切さを教えたからだろう。非常に鍛えがいのある弟子である。
「こういったケースに対する打開策は大きく分けて二つある」
「っ~!」
前置きは良いからさっさと教えろっ! って感じか?
「一つ目は投擲。武器を投げる」
「そっか! とりゃ!」
俺の声が終わるかどうかというところで、弟子は左手に持っていたこん棒をサイドスロー気味に投げ捨てた。
……少し前に大事そうに愛撫していた武器を投げ捨てることに何の迷いもないのはある意味すごいと思うが、まぁ大事に持ってても片手がふさがってかえって邪魔になるし、その結果苗床にされるくらいなら投げ捨てると言うのはわかる。
わかるんだが……うん。あの辺の切り替えの速さは重要だよな。だけど、それだと不正解だ。
「ギャギャギャ!」
本人的には思いっきり投げつけたつもりだろうが、どうしてもヒョロって感じの投擲になってしまい、相手にはあっさりとよけられてしまう。
「あ、あれ?」
一瞬「なんで?」という表情を浮かべた弟子だが、すぐにその表情を改めた。
うむ、気付いたな?
「なるほど。分かりましたよ!」
そう言って弟子は素体から新たなこん棒を取り出したかと思ったら、今度はそれをすぐには投げず、まず上に掲げた。
そうだ。それが正解だ。
右手でブンブンとこん棒を振り回して近寄らないようにしつつ、左手で掲げたこん棒を上から下に振り落とす。つまりオーバースローで投げつける。
「グギャ!」
勢いよく投げられたこん棒が当たり、胴体部分から弾けるゴブリンA。
そう、重さが有るならそれを利用すれば良いのだ。これに気付けばこん棒の攻撃もむやみやたらに振り回すのではなく、上段から下段に叩き落とすやり方にすれば良いということにも気付くだろう。
「「「「「ギャギャ!!!」」」」」
こん棒を両手に持ち、それを上に向けて佇む弟子の姿はバッファ○ーマンを相手にした際のウォー○マンを彷彿とさせる。
「よくもやってくれましたね! 私が受けたこの痛み! 倍返ししてやります!」
今の弟子が生み出す攻撃力を考えればゴブリンの攻撃の倍どころではないが、まぁ2倍とは言ってないからな。ゴブリンの攻撃でダメージを受けた制服の分の借りも合わせれば弟子の気持ちもわからんではない。
ドヤ顔の弟子が放つ異様な雰囲気に気圧されるゴブリンたち。だが弟子は勘違いしている。俺が言ったのは投擲であって上から振り下ろすことではない。
いや、あの構えが隙だらけなのは良いんだ。ゴブリンの通常攻撃ではよほどクリーンヒットしない限り一撃では倒れないからな。間合いに入って来たところを潰せばいずれ勝てる。自分のタフネスと攻撃力に自信がある喧嘩師のような戦い方だ。
アレって逃げられたらどうするんだろうな?
寝転んで「さぁ」とか言ってる中年の鬼みたいに間抜けな感じになるんだぞ? でもって知性ある魔物を逃がして下手に学習されたら面倒なことになる。だから俺は二つ目のアドバイスをする。
「で、二つ目。消化中のゴブリンを放出すれば軽くなるよな」
荷物が重いなら捨てなさいってな。戦闘が終わったらまた取り込めば良いだけだろ? 思考の穴とでも言うのだろうか、これが中々思いつかないんだよな。
「……」
「「「「「………」」」」」
両手を上に掲げながら浮かべていたドヤ顔を驚愕に代え、さらに何とも言えない表情を作りつつ徐々に赤面していく弟子と、そんな弟子を見て「なんだ?」と思いながらも睨み合うゴブリンたち。
弟子的に『これが二つ目の答えだ!』と思って上段の構えをしてたんだろうが、結果としては非常に面白い映像が録れただけの話である。
いや、あれだって弟子が真剣に考えた結果だから笑いはしないぞ? ただ反省会で自分の姿を確認して、のたうち回った挙句、間違いなく黒歴史に認定することになるだろうが。
「ふっ」
そんなとりとめのないことを考えていると、弟子は何かを諦めた顔をしながら左手を下ろしながらこん棒を収納し、空いた左手の掌をゴブリンに向けた。
「「「「「……」」」」」
非常に無駄な挙動だが、真顔の弟子がゆっくりとした動作で行うそれは明らかな強者ムーヴとなっていて、ゴブリンたちもその隙を突いて動こうとはしなかった。
むしろ自分らに向けられた掌から何か出てくると警戒しているようだ。
……つまり、あのゴブリンたちは掌から何かを出す存在を知っているのだ。
「……ふぅ」
非常に面倒なことになりそうなので今からテンションが下がるが、今は弟子の戦闘中だから。
「はぁ!」
ぼてっ。ぼてっ。ぼてっ。ぼてっ。
「「「「「ギャ?!」」」」」
弟子がクワッ! っと目を見開き掛け声を挙げると、その掌からコブリンの死体がこぼれ落ちる。
いきなり仲間の死体を見せられたゴブリンはかなり動揺しているが、肝心の弟子は「あるぇ?」って顔をしてるな。 おそらく弟子の中では勢い良く射出するようなイメージだったのだろうが、残念ながらそんなAUOチックな真似はできん。
ま、射出はできなくとも身軽になるという目的は果たしたのだ。あとは殺るだけだろう。
「隙有りぃぃ!!」
「「ギャギャ?!」」
自分の失敗を無かったことにするかのように勢いを付けて突っ込み、両手のこん棒を振り回して棒立ちしていたゴブリンを撲殺に成功した弟子。
残りは三匹なので、普通に狩って終わりだろう。
これで今日は十匹。あと十は狩りたいところだな。
「逃げるゴブリンは敵ですっ! 逃げないゴブリンは訓練された敵ですっ!」
なぜ女子高生がその格言を知ってるのかはしらんが……どーせOTAKUだろう? なんかソレっぽいことを教本に纏めていそうだし。
「「「ギャ、ギャー!」」」
撲殺されて地面に汚ねぇ花火をまき散らすゴブリンたちの断末魔を聞きながら、今後の弟子の育成についてを考える。
「まずは素体からの出し入れと吸収の効率化を優先すべきだな」
掌を開けなければ出せないというのは明らかにマイナス要素である。事実さっきのケースで言えば、口から出すように見せることもできたんだ。
そうしたらゴブリンへ与える恐怖は数倍どころじゃなかっただろう。やるかどうかは別にして、効率的な使い方を学ぶのは大事。
『やらない』と『やれない』は違うということも教えていこう。
しかし新人ってのは教えることが一杯で大変だな。 何を知らないで何を知っているかわからないから、とにかくやらせてみろっていう本の教えの意味を、言葉ではなく魂で理解したぜ。
賢人は歴史に学ぶというが、俺も弟子もまだまだ未熟。思い上がること無く失敗から学んでいこう。
「グ、グギャギャ……」
「勝った! 24話、完!」
「メタいわ」
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