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⑯ 主人公、話し合う

なんやかんやで弟子の一家を抱え込むことになったが、こうなったら仕方が無い。なんとか良い方向に持って行く方法を考えよう。


とりあえずは母親に今のパートを辞めてもらわんといかんだろうな。下手に続けてたらギルド職員が接触してきそうだし。


「確かにそうです。でもパートが無くなったら家計が……」


親との連絡を終えて戻ってきた弟子にそのことを伝えたら、納得はできるが、職を失うのは厳しいと所在なさげに呟いてきた。


まぁ結局は金が無いと何もできないのは確かだ。そういう意味ではこの弟子はしっかりと現実を理解しているから、馬鹿みたいに夢だ正義だと騒ぐことがないだろうな。


弟子として迎え入れる以上は、基本的に俺の方針に従わせるつもりだったが、この辺は楽を出来そうでなによりである。


「あ、あの、師匠?」


一人でうんうん頷いてる俺に何かを感じ取ったか、恐る恐ると言った感じで話しかけて来る弟子。うむ、その慎重さと勘の良さは大事だぞ?


ただし、今さら何を言っても遅いがな。すでに俺の方針は固まったし。こいつには己の選択の結果を受け入れてもらおうじゃないか。


「もちろん母親に新しい職と支度金を用意するさ。あぁ職はともかく支度金に関しては貸しだから、しっかり働いて返して貰うけどな」


木下が一人前の探索者になれば、このくらいの金額なら余裕で稼げるんだが、あんまり舐められてもな。それに少しは追い込まないと、今のまま調子に乗られても困る。


「か、貸しですか!? つまりは借金!?」


ん? 妙にリアクションが大きいが……あぁ。


「借金に関しては心配するな。無利子・無期限で催促もせんよ。担保はすでに貰っているし」


一家の身柄という形で、な。


「無利子と無期限って、借り倒しされたら……あぁ、担保がありますもんね」


どこか諦め顔で呟く弟子。当たり前の話だが、コイツが逃げたら、しっかりと殺した後で家族を使わせてもらう予定である。その為に借金も俺が払っているしな。


とは言いつつ、こいつらが抱えていた借金は全て返済した後だから、木下一家は俺に借りはあるものの法的な借金が有るわけではない。


矛盾している? ふふふ、これは罠だ。……どんな罠かはまだ秘密。


そんなわけで、データ上弟子が抱えてる借金は、今回用意した支度金くらいだ。ちなみに素体に関しては俺が勝手にやったことなので、借金扱いにはならない。そもそも言わなきゃわからんだろう。


かなり甘いように見えるが、これも罠。どんな罠かは(ry


「あ、あの。わ、私はどうなっても構わないので、お母さんと妹たちはっ!」


弟子がそう言って必死にすがり付いてくるが、何を今さら。


「いや、お前が死んだら次は妹なのは確定してるだろうが。せいぜい死なないようにしろよ?」


「あうっ!? そ、そうでしたっ!」


さらりと妹を除外しようとすんな。いくらなんでもそこまで甘やかす気はないぞ。まぁ簡単に殺す気も無いけど。


「納得したら行くぞ、これから暫くは帰れないから、着替えも買っておけ、あぁこれも当然貸しだぞ」


そう言って一万円を弟子の口座に振り込む。


「うぇ!?」


いきなり自分の口座に金が振り込まれたのを見た弟子が、一瞬驚いた後で何やら考え込みはじめたが、何となくわかるぞ?


おそらく『このお金でどうやって家族へ食い物を買おうか?』的なことを悩んでるんだろう。


ちなみにこの時代、金は基本的に電子マネーが使われている。


理由は単純で、紙幣の開発に金を使う余裕が無かったと言うことと、政府側の管理のしやすさだな。発展途上国の物価? ダンジョンで得られる資財には人間が造った国や価値観は関係ないので、基本的には魔石を基準とした万国共通の相場が有る。


あとは独裁者による搾取だとか、政治体制により色々だな。また、陸地だけでなく空や海にも現れるようになった魔物のせいで、日本のような島国は他国との大規模な貿易はできておらず、内需に特化しているような状態である。


それでも情報のやり取りはあるし、過去の勇敢なOTAKUによって築かれた国家間の貿易ルートも無いわけではないが、わざわざ各国で新紙幣を開発する必要性が薄い状態だ。


それに個人が力を持つ世界では銀行やら店に現金を置いてたら強盗に襲われる可能性が高い。そんなわけでこの電子マネー制度は安全保障の意味もあって全国的に普及している。


そして当然このデータに対して何かをするのは重罪だし、データに不正なアクセスが無いかどうかは、常に幾つかの国により相互監視されてる状態なので、たとえ政府の高官も弄ったりはできない。


ちなみに探索者の場合、ギルドカードや学生の持つ学生証にその機能が付与されているので、俺から弟子への送金は学生証の口座に振り込めば簡単に済むという寸法だ。


閑話休題。


「あの……」


送金された金をどう使うかを悩んでいたはずの弟子が、何やら真剣な顔で俺を見てきた。


これはきっと正面から「お釣りは貰っても良いですか?」とか聞いて来るんだろうなぁと思いきや。


「……なんで、なんでこんなに良くしてくれるんですか? 私の体が目当てならこんなことをしなくても師匠に捧げますし、家族だって師匠が面倒見る必要なんか無いじゃないですか! 同情ですか? それとも狙いは私じゃなくてお母さんや妹たちなんですか!?」


そう真顔で問い詰めてきた。


……いや、あざとい真似して俺を嵌めようとしたのはお前だろうに。


「私、師匠の優しさにつけこんで卑怯な真似をしました! 最初から体で迫ったり、わざと下着を見せたり、今だってお母さんとの会話を聞かせてなし崩し的に師匠のお世話になろうとしてます! それなのに一言も責めないで……何でこんなに良くしてくれるんですか?」


あぁ、どうやら良心の呵責に苛まれていたようだ。


家族の為だから俺に何をされても我慢して食らいつくつもりだったし、体の関係になればそれが目的だったって割りきれるのに、あっさりと肯定された挙げ句に俺が当たり前に家族の面倒までみるつもりなんだもんな。


そりゃまともな感性を持っていたら潰れるわ。


「ん-む」


厚かましさも探索者としての素質ではあるが、厚かましいだけの奴よりはマシだな。


だがいくつか勘違いをしているようだから、それは糺しておこう。


俺は断じてただのお人好しじゃないってことを理解してもらおうじゃないか。


そう判断した俺は、落ち着かせる為にガシッと両肩を掴み、弟子の目を見て話しかける。


「まず、お前を弟子にすると決めた以上、最初に生活環境を整える必要が有ると判断した。今のままだと金を求めて無茶をするし、母親がお前たちの為にギルド職員に抱かれてるってのは間違いなくストレスになる。それはわかるな?」


俺が聞けば、コクンと頷く弟子。


「さらに情報の漏洩だ。お前も知っての通り、ギルド職員とて人間だ。信用なんかできん。そんな奴に借金の件でもって脅された場合、お前はともかく母親や妹とやらから情報を抜かれる可能性がある」


そもそも弟子はともかく、その家族に守秘義務なんか無いし、情報を扱うプロは世間話からでも情報を抜いてくるからな。


あえて抜かせたならまだしも、何を知られるかわからないというのは恐怖でしかない。お土産に包んで貰ったモノみたいな政府の犬ならまだしも、共生派に情報が流れるのはゴメンだ。


「はい」


納得できたようで、コクンと頷く弟子。


「で、でも、そもそも私なんかを弟子にしなければ……」


「そうだな。そもそもお前を弟子にしなければ、こんな面倒なことはしなくて済んだ。情報云々もお前を殺せば良いだけだし、お前の家族については、正直言って俺には関係ない。そう言いたいんだろう?」


「は、はい……」


まったくもってその通りなんだが、不信感を持たれても困るので、誤解の無いように今のうちにしっかり話すべきだろう。


「まずお前を弟子にしたことに関してだが」


「……」


「端的に言って、暇潰しだ」


「えぇ~」


何か感動的な言葉を期待したんだろうが、残念だったな。俺は別に同級生を口説いてるわけじゃないんだ。


「そもそもあの学校は学歴の為に入学しただけだし、今さら彼処で3年間も半人前とおままごとなんかしてもなぁ……わかるだろ? 金にも実績にもならんのだぞ?」


「はぁ。それはまた、なんと言いますか」


気の抜けた返事だが、一応名門の学校だからな。それなりに入るのは大変だったのだろう。それが同級生からこんな微妙な扱いをされればリアクションも取りづらいだろうさ。


今の段階でも名門学校中退って書けるから、色々飽きて「もう良いや」と判断したら何時でも辞めることはできるのだが、折角3年間はノーリスクで指名依頼をキャンセルできるんだ。利用しないと勿体ないじゃないか。わざわざ言わないけど。


「更にお前には素質がある」


なんだかんだで努力だけでは限界がある。何事も大成するには素質が重要だからな。暇潰しとはいえ、これが無ければ弟子入りなんか絶対に認めなかっただろう。


「そ、素質ですか? 探索者としての素養、ではなく?」


自分に何か有るのか? って感じだな。だが己を自覚するのは優秀な探索者の必須条件だ。しっかりわからせよう。


「お前はさっき『卑怯な手を使って俺に取り入った』と言ったがな」


「は、はい」


「良いか、探索者にとって卑怯、卑劣は誉め言葉だ」


「はぁ?」


弟子が「なに言ってるんだコイツ?」って顔で俺を凝視するが、それは俺の台詞だ。


卑怯卑劣は誉め言葉だろ? 罠を仕掛ける探索者を卑怯と言うのは罠に嵌められた獲物だけ。つまり負け犬の遠吠えだ。


「そもそも探索者は正々堂々と戦うことを求められている職業ではない。何を使ってでも生きること、そして何を使ってでも勝ち、資源や情報を持ち帰ることが求められている職業だ」


この辺は最初にしっかりと教え込まないとな。


「頑張ったけど負けました」だの「頑張ったけど死にました」じゃ意味がない。まずは生き抜くこと。そして勝つ(目的を達成する)ことが重要になる。


それを踏まえて考えれば、こいつは最初から『自分の体』という唯一の資産を効果的に利用してみせたわけだ。しかも悩んだり、値を吊り上げようとしたりせずに、最短距離で。追い詰められていたとは言え、この決断力と判断力は天性のモノだろう。


「は、はい」


家族ぐるみで騙した相手(俺)からの力強い肯定に何とも言えない顔をしているが、まぁ良い。


「でもって、弟子が死んだら俺の評価が下がる。これを防止するためにお前には余裕が必要と判断した。これまでで何か質問はあるか?」


ギルドが制定している子弟制度においては、弟子をDランク以上にすれば育成の面で評価が付く。その評価はAランクになるためには必要なものなのだ。逆に、そこまで育つ前に弟子が死んでしまった場合、師匠側にマイナスの評価が付く。わざわざ公開はされないので一般の探索者は知らないだろうが、どれだけの弟子を育ててもマイナスは消えない。


そういう意味でも、一度弟子と認定した以上コイツに死なれたら困るんだ。


「な、なるほど、わかりました。失礼な事を言って申し訳ありません!」


色々と話したらそう言って頭を下げてきた。


こいつなりに納得してるようだが、俺は質問が有るか? と質問したんだ。その答えが無いぞよ?


この様子だと問題ないような気もするが、きちんと質問には答えるようにと掴んだ両肩に圧力をかける。


「え、えっと? ……あっ!」


何故自分に圧力をが掛かってるのか理解していなかったようだが、少し遅れて理解したようだ。うむ。頭の回転は悪くないんだよ。まぁあれだけあざとい真似をしてくるから馬鹿ではないのは分かっていたがな。


そう思ってた時期が俺にもありました。


「んっ」


何を勘違いしたのか、目を閉じて口を前に出してくる弟子。顔以外を見れば体は強張っているものの、スカートのホックに手をつけようとしている。


いや、確かに医務室だからベッドは有るが。


「このアホ」


「ふぎゃ!?」


肩を放して軽くチョップをくれてやると、涙目になってこちらを見上げてくる。いや、あざといのは良いことだがな。


「盛るなら場所を選べ。ここは学校の保健室じゃねぇ。つーかここでヤったら監視カメラに撮られるぞ?」


監視カメラっつーか、市松人形に見られるんだけどな。流石に見られてると分かってるのに○○○する趣味はない。


……うん。それを考えたらダンジョンで○○○してたっていう昔のOTAKUは凄かったんだな。いや、知ってたかどうかは知らんけど。いやいや、昔のOTAKUに関しては考えるだけ無駄だ。奴らに自重の文字はない。


そして今の問題は、現在俺の目の前で真っ赤な顔してキョロキョロと周囲の様子を伺うアホの子だ。


「話も終わって納得したならさっさと行動に移せ。買うのは着替えだけで良い、お釣りはやるから母親に送りたきゃ送って良いぞ」


女子高生の着替えにいくらか必要か知らんからな。ただ、こいつならその辺の安物を買うだろうから、足りないということは無いだろう。


「ほ、本当ですか! ありがとうございますっ!」


お釣りのくだりで固まってた弟子が動き出す。まぁ頑張ってくれや。


「とりあえず上の店に行け。400秒で支度しな」


ヒラヒラと手を振りながら行動を促す。女の買い物は長いからな、本当に必要な場合以外はこうして時間を切らないとろくに決断しないでダラダラするんだろ? 俺は詳しいんだ!


「よ、400秒ですか。妙に具体的な数字ですね?」


「文句が有るなら着替え無しで行くか?俺は構わんぞ?」


自分の分は持ってるからな。


「そ、それはちょっと……では行ってきます!」


そうだろうそうだろう。昨日と同じ下着らしいから、明日も同じは嫌だろう? 


……まぁ、ダンジョンアタックの際は普通に着替え無しなんてのもザラだが、去年までは普通の女子中学生だったんだから、この辺の価値観は普通の女子校生と同じだろうよ。


さて、あとは待つか。


そう思ってロビーに行こうとしたら、なんか弟子がエレベーターの前で俺が行くのを待ってる。


カウントダウンは始まってるぞ? もしかして金が足りんのか? なんて思ってたんだが。


「あの、着替えは何日分必要なんでしょうか?」


そんな質問が来た。うん普通に俺の連絡漏れだったでごさる。てなわけでカウントダウンはストップで最初からだな。それはそれとして質問には答えようじゃないか。


「あぁ、言ってなかったな。とりあえず一週間だ」


「い、一週間っ!?」


俺の宣言を聞き驚きの声をあげるが、これはどう言う意味だろうな?


一週間も帰れないことを驚いたのか、一週間分の着替えなんか買ったらお釣りが発生しないじゃないかという非難の声なのか。


どっちでも良いや。もう一万振り込んでやろう。


「うぇあ!?」


急に追加で金が振り込まれたせいで思考停止して固まる弟子。甘いかもしれないがこれ以上無駄な時間を使いたくないんだよ。それに予定通り行けばこのくらいはすぐに回収出来るから、多少の前借りは許してやろう。って感じだな。


「だから固まってないでさっさと行けってばよ」


閲覧ありがとうございます



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