⑮ 主人公、扶養家族を得る?
「し、師匠! なんか師匠に固くて太いものを口に入れられた挙句お腹に何かアツいモノをぶちまけられた夢を見たんです! それになんか体が熱いし節々が痛いし……まさか私が寝てる時にナニかしましたか!? いや、師匠なら良いんですよ? でももうちょっと雰囲気と言うかムードというかをですね。あ、責任とってね? というべきでしょうか? でもむしろ覚えてないって私が失礼なのかもしれませんけどアレですかねアレすぎて意識が飛んじゃったとか? だとしたらもう一度ちゃんとしたところでンプシーッ!?」
「やかましい」
レッツコン○インした後でも気絶から回復せず呻くだけだったので、取り敢えず医務室に放置して、尋問が終わって医務室に戻ってきたら、息継ぎなしで戯言を吐いてきた女子高生がいたのでしっかり成敗したぜ←いまここ。
いや、何がどうなってそんな思考になるのやら。
まぁ熱いものと言うか何というか、マッチングも無しに素体をぶち込んで、半強制的に移植したから体の節々が痛いんだろう。ある意味で責任はとらねばならんとは思うが、とりあえずココは伝統的な挨拶だろう。
「ハッピーバースデー。今日からお前も探索者だ」
Gランクだけどな。
「ほぁーん?」
俺の言葉に対しても返事なのか何なのかよくわからない言葉を発する弟子。だがそれはお前に「私、探索者になっちゃったよ」って言われた時の家族の台詞だぞ。別に良いけど。
「よくわかっていないようだが、とりあえずこれから慣熟訓練だ。素体を移植した場合は力の制御ができなくて人を傷付ける場合が多いからな。今日は家に帰れんから、親に連絡しておけ」
この訓練をしないと家具だのなんだのを壊すんだよ。自分の中にスイッチみたいなのを作るか、それとも力の解放を段階によって制御するかは個人の感覚がモノをいうから、まずは素体の効果を経験することからだ。
……つーか、結構な貧乏生活してるようだが、電話はあるよな? いや、有るはずだ。なにせギルド職員が用意した家だし、母親だってパートの仕事をしてる以上連絡先は必須なはず。
「え? 今日は帰れないんですか!? いえ、師匠と夜を明かすって言うならお母さんも喜んでくれると思いますけど!」
なんでそれで親も喜ぶんだよ。有る意味身売りしたみたいな感じだぞ? いや、アレか。どこの誰かわからん、自称夫の友人を名乗るギルド職員から離れてプロの庇護を受けれるからか?
夫の仇みたいなヤツに娘を抱かれたら……そりゃ嫌だろうな。今は自分だって嫌だろうがなんとか娘の為に耐えているって感じだろ? うん。良い母親じゃないか。あんまり心配させんなよ。
「な、なんか凄く優しい目で見られてますけど、ソレって同級生とか可愛い女子高生を見る目じゃないですよね!? アホな子とかアホなペットを見守る飼い主の目ですよね!?」
そう言って抗議のような事をしてくる木下、いや弟子。
「まさしくその通りだ」
精神は肉体に引っ張られるというが、俺は高校生を性的な目では見れない。いや、この世界では同意が有れば犯罪では無いし、そもそも同い年だから犯罪では無いんだけどな。
勿論性欲が無いわけではない。だが女子高生は、な。
前世の影響かもしれないが、性的な目で見るには精神的なハードルが果てしなく高いんだ。
「ギルドの職員さんとかクラスメイトに性的な目で見られるのは嫌だけど、この歳になって生温かい目で見られるのもキツいっ!」
そう言いながら目をバッテンにしてベッドの上でのたうち回る女子高生と、その前でなんとも言えずに立ち竦む俺。なんだこの状況?
なんつーか、オッサンとカエデが指差して笑ってそうだな。
だがこうして俺の視線の意味に気付くのは良い資質だ。他人からの視線や、それに込められた感情に敏感なのは女子の特性では有るが、やはり一度騙されてある程度の底辺を知ったからだろう。
普通の女子高生よりも磨きがかかってると言っても良い。
うむ。この調子なら簡単には騙されないだろうし、甘ったれたクラスメイトに利用されるような馬鹿にはならんだろう。
例の受付嬢モドキを尋問した結果から、こいつも情報の管理や重要性についてもそこそこ知っているようだし、このまま教育を進めても良さそうだな。
死んだ父親を反面教師にするのはアレだが、どんな人格者であっても結局は家族に借金残して死んだヤツだ。せいぜい娘の教育に役立ってもらうとしよう。
「あ、あの、師匠?」
……そう言えば、コイツの借金を肩代わりした以上、ギルド職員が用意した家に住むのは危険か?
家族に俺の事を話しているみたいだが、盗聴や盗撮は大丈夫か?
「お、おーい?」
ふむ、ならば早急に引っ越しさせるべきだろう。流石にコイツの為に家を買う気は無いが、アパートの部屋を借りてやるくらいなら問題ない。敷金と礼金と数ヵ月分の家賃を払っておけば、生活はかなり楽になるだろうしな。
というか、それくらいの余裕が無いと金を求めて死にかねん。
それに妹が何人か居るようだが、妹ってことはコイツより年下だろ? 母親は、まぁ夫婦だし「自分が選んだ旦那の結末なんだから諦めて受け入れろ」とも言えるんだが、流石に子供に罪はない。それなのにアホな父親のせいで貧乏生活を送るのはなぁ。
「あのー?」
う~む。別に知らなければそのまま放置してたんだが、知った以上は少しは面倒を見てやるのが良い師匠と言うものだろう。
……とりあえず親に連絡するときに引っ越しの段取りも組ませようか。
「ししょ~。無視しないで下さいよ~。……いや、待てよ? こうして無視してる内にちょ~っと服をはだけてから抱きついて、写真を撮っておけば既成事実になるんじゃナッパぁ!?」
「なってたまるか」
まったく、これだから痴漢冤罪のジツを使う女子高生は怖いんだ。油断したら社会的に抹殺されるからな。
ん? 社会的に抹殺? ……俺の前世には何が有ったんだ? い、いや、まぁ良い。今は弟子だ。
「取り敢えず親に連絡してこい、それと引っ越しだな。お前がギルド職員の計画通りに動いてないと知られたら何をされるかわからんし」
「引っ越し、ですか? ……あぁ。なるほど。確かにそうかもしれません」
「引っ越し」と言われた時は何を言われてるか分からない様子だったが、その後のギルド職員のくだりで俺が言いたいことを正確に理解したようだ。地頭は良いんだよな。地頭は。
で、件のギルド職員は話を聞く限りだと随分と木下一家に執着してるみたいだし、母親との関係を利用した脅しとか、リベンジポルノ的な何かを仕掛けて来るかもしれんからな。
流石にそうなったら面倒だろ。
現時点ではなんだかんだでまだ犯罪を犯してるわけではないから、今の内に処するのは不可能だしなぁ。
ならば何かをされる前に接触を絶つのが一番だと思う。
「師匠の言っていることはわかるんです。だけど」
「だけど?」
「……お金が」
「あぁ」
チラチラ俺を見てるのは、言い出しっぺなんだから払ってくれるかな? むしろ払って下さい! って感じなんだろう。そりゃ引っ越しだってタダじゃないしな。
「その程度なら問題ない。敷金礼金と数ヵ月分の家賃は負担するし、必要ならハウスクリーニング業者も含めて手配してやるさ」
「ほ、本当ですか!?」
「嘘ついてどうする」
「!!!」
それを聞いた途端、弟子は不安そうな顔から一転パァ! っという音が聞こえそうなくらいの笑顔を見せてきた。
普通の男子学生が今の弟子の顔をみたら「可愛い」だの「尊い」と言うリアクションをするのだろうが、俺にはそんな感情はない。
何故って? 女子高生が怖いのも有るが、前の会話と合わせてみればわかるだろう? こいつは俺にじゃない、俺が出す金に対して笑顔を向けてるんだぞ?
いや、俺が持つ金に対してだから同じことなのかもしれないが……いや、経済力も男のステータスの一つと割りきって考えれば問題はないんだけどな。
とりあえず女の笑顔に油断するとろくなことがないのは事実だ。
ただこいつの場合、滲み出る生活感が警戒心を薄れさせるんだよなぁ。
食事処で水しか飲まないで時間を潰せる精神力といい、水しか飲んでねぇくせにシュガースティックを懐に忍ばせるあつかましさ(しかも五本)といい、目的の為に手段を選ばない姿勢と心の強さは探索者として資質があると言えるんだが、いろんな意味で残念なヤツなんだよなぁ。
「じ、じゃあお母さんに連絡してきます! 直ぐに戻るので待ってて下さい! 置いてかないで下さいよ? 振りじゃないですからね!?」
「はいはい」
そう言って医務室を出て親に連絡を取ろうとする弟子だが、別に外に出なくても良いんじゃないか? 家族との会話を聞かれたら恥ずかしいとかか?
ま、弟子としては引っ越しには異存は無いようだし、頑張って親を説得して欲しいもんだ。
しかしアレだな。弟子の慣熟訓練で弟子を置いていってどうしろと言うんだ?
アイツなりの冗談なのかも知れんが、流石に十代女子の考えはわからん。かと言って師匠として修行を押し付けるだけじゃダメだろうし……うむ。俺も学ばないと不味いかもしれんな。
うむうむと頷いていたら、「もしもしお母さん?」と弟子の声が聞こえてくる。
「いや、声が聞こえるようなところで話をしたら部屋から出て行った意味が無いんじゃないか?」
そう考えてた時期が俺にもありました。
「お母さん! 引っ越しだよ! うん! 師匠が養ってくれるって! これでもうアイツの言いなりにならなくても良いんだよ! もちろんみんなで! だから今日は帰らないけど安心してねっ!」
「コイツッ!」
わざと聞かせてやがるっ!
何を勝手な事を抜かしてるんだ!? とツッコミを入れたいところだが、距離があるからツッコミすらできん! あ、これが部屋から出た理由か!
ふざけるな! とツッコミを入れようとした俺だったが、次いで聞こえてきた言葉を耳にしては動きを固めざるをえなかった。
「うん。うん。良かった……本当に良かったっ!」
……本気で泣きながら電話をしてる女子高生がいて、電話口の相手も涙声で何かを喋っているのが聞こえたのだ。
流石の俺も、この状況でこいつを殴り飛ばすのは無理だった。
「はぁ」
ある意味でやり込められた形となったが、これは油断した俺が悪い。
「素質はあるんだよな。素質は」
溜息と共に色々と諦めた俺は、とりあえずコイツを一人前の探索者にしてやろうと思いましたとさ。まる
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