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⑫ 主人公、目的のものを手に入れる

基本的に素体とはいえ、生み出されるものはダンジョンボスだ。当然ある一定以上の実力が無ければ殺されてしまう。そしてこの討伐に対してはダンジョンコアもオッサンも挑戦者に味方することは無い。だからこそ彼女は一人で素体の購入を申し入れた俺を試そうとしたわけだが……


「GUUUUUUU……」


断末魔、と言うには弱々しい声を上げて倒れるオーガ。まぁ普通のオーガに比べたら多少は強かったが、今更Dランク相当の魔物に負けるほど俺も弱くはないからな。


もっとも、もしこれがオーガロードとかなら流石に面倒だったけどな。まぁ学生の木下にそこまで上位の素体をやるつもりはない。そこまでしたら、それはもう育成じゃなくパワーレベリングだからな。そんなつまらない真似をするつもりはないぞ。


「ふむ。当たり前ではあるが合格じゃな。では素体を加工するから待っておれ」


「よろしくお願いします」


結果を見届けて、俺が始末したオーガからコアが内包された魔石を取り出し、何やら手を加えていく市松人形。


どんな原理なのかはわからないが、彼女は魔物が宿していたコアを素体として人間が取り込めるように加工しているらしい。


電気で言えば直接発電所から生み出される電気を家庭で使えるように変換しているとでも言えばいいだろうか。本来はこうして人間に合わせたフォーマットをする必要が有るんだとか。


当然移植される本人がこの場にいればもっと細かい調整ができるが、木下は待機中だからな。流石にGランクの学生にこの階層への立ち入り許可はでない。


それにあまり個人にカスタマイズすると彼女が死んだ後、妹が使うときに不自由が出るからな。個人的な慣らしは後でやらせれば良いってわけだ。


「ふ~ん。新人の、しかも学生の嬢ちゃんにDランクの、それもカスタマイズされた素体とはなぁ。まぁお前さんの感覚だとDランク程度なら大したことないかもしれんがよぉ」


オッサンが何かを言いたげにしてるが、まぁ分かる。入れ込み過ぎるなっていうのと、増長させるなって言いたいのだろう。


何せ他の学生はGランクで、素体なんていう外付けの補強がされていないんだからな。今の状態でも学校内では無双できるようになるはずだ。


だが、本来子供が外付けの力で無双しても良い事なんかない。この辺を甘やかしたり、放置すれば必ずしっぺ返しが来る。具体的には彼女が調子に乗って死ぬか、彼女を羨んだ同級生が素体を求めてダンジョンボスに挑み、そのまま死ぬか、になるだろう。


……実際は挑む以前の問題だがな。


なにせ素体の生成に関する情報は、ギルドの上層部以外に知られていない秘中の秘。さらに、俺みたいに特殊な事情があって個人的にダンジョンコアと知見がある場合を除けば、ダンジョンコアとの直接交渉が可能なのはダンジョンコアに認められたギルドの支部長のみ。


その支部長とて、ダンジョンコアの気分が乗らなければ交渉は成立しないという鬼畜仕様である。


そんな状況なので、普通の探索者が素体を入手するためには、彼女らダンジョンコアたちが定期的に生み出す素体を買うしかない。


ただし、定期的に生み出される素体は他の探索者も狙っているものなので、基本的に産み出されると同時に競売にかけられる。もし金に物を言わせて素体を入手したとしても、本人や周りにそれなりの力がなければアングラな連中に命ごと奪われることになる。


たとえゴブリンの素体でも他の魔物の魔石を喰らえば喰らうほどステータスが上昇するようになるし、外付けの強化は侮れないからな。


このように、絶大な可能性を秘めるが故に犯罪組織に流れることを懸念される素体だが、実のところ最悪なのは犯罪組織云々ではなく他の魔物に奪われた場合である。


この場合、素体を手に入れた魔物は、素体に溜め込まれたエネルギーを全て自己の進化へと使うのだ。その結果、溜め込まれた魔力にもよるが、GランクのゴブリンがCランクのゴブリンロードになったりする。


するとどうなるか? 


本来GランクやFランクしかいないはずの場所に、Cランクの魔物が現れることになるのだ。結果、本来その辺を狩場にしてる探索者や、奥に行こうとしてる探索者が予想外の奇襲を受けて死ぬことになる。


こういった事例が懸念されるからこそ、素体の生成には様々な制限が課せられている……ということになっているのだが、実際は少し違う。


当然の話だが、ギルドとしては探索者の能力を底上げしてくれる素体はできるだけ多く欲しい。作ってもらえるならいくらでも魔石を献上するだろう。しかし肝心のダンジョンコアたちが定期的に素体を生成すること以外で素体を生成することを面倒臭がっているのである。


過去には国が素体の生成を強要しようと試みたそうだが、あっさりと拒否された上に、差し向けられた軍隊も返り討ちにされたそうだ。


そもそも今まで数多の素体やダンジョンコアを生み出し、その力を吸収してきた彼女たちが弱い筈がない。実際目の前に居る市松人形だって、現役のAランクである支部長を歯牙にも掛けない程に強いのである。


そんな強い市松人形が支部長よりも弱い俺に怯えているのは、不幸な事故があったためである。


具体的には、初対面の際に油断慢心した市松人形が『先手を譲ってやろう』とか言ってきたので初手で全力で殺しにかかったら、たまたま俺が扱う特殊な毒が通り、殺しかけることに成功してしまったのだ。


そのせいで彼女はどうも俺に苦手意識を持ってしまったらしい。まぁ交渉が楽で助かるから良いんだけど。


ただ、苦手意識を持たれているからと言って調子に乗って無茶振りとかをした場合、キレられて殺される可能性があるので、そういうことはしないように心がけている。


閑話休題。


そんなこんなで、今回俺が市松人形に用意してもらったオーガ(改)の素体だが、当然通常の素体より性能は上だ。ちなみにそれぞれの素体の違いは能力の初期値と特殊能力の有無と成長しやすい能力、そして限界値である。


ゴブリンみたいなタイプなら敏捷や器用が上がりやすくなり、オーガのようなタイプなら力や頑強、メイジタイプなら魔力。後は特殊能力に振られるらしい。


ちなみに、素体のステータスについては大きく分けて以下の6種類がある。


力  

頑強

敏捷

器用

魔力

特殊


噂では【運】という項目も有るらしいが、そんなの数値にはできるものでもないので、とりあえず放置されている。


魔力についてだが、基本的にこの世紀末染みた世界でも人間は魔法を使えない。だが、魔物は生命力というか、精神力のようなものを使うことで現実世界に様々な現象を生み出すことを可能にしている。


これを過去のOTAKUたちは【魔法】と定義し、それを使う為の力を【魔力】としたわけだ。そして素体によっては魔法を使える素体が有り、運よくそれを使える素体入手した場合、実戦で使い方を覚えるか、ギルドでダンジョンコアから教えを受けることで探索者も【魔法】を使うことが可能となる。


で、人間のステータスは明確に数値化することはできないが、素体のステータスはダンジョンコアによって明確に分類されている。


つまり『握力100~150キロがEランク相当』という指標は、魔物の数値を参照にしたわけだ。


ちなみに素体をもったゴブリンの能力は以下のようになっている。


力・・・・F(G)

頑強・・・F(G)

敏捷・・・E(G)

器用・・・E(G)

魔力・・・G(G)

特殊・・・G(G)


括弧内の全部Gは野生のゴブリンだ。一応素体はダンジョンボスなので、そこそこ強くなっているのがわかるだろう。30~40倍のコストは伊達では無いのだ。


これがオーガだとこうなる。


力・・・・C(D)

頑強・・・C(D)

敏捷・・・E(F)

器用・・・E(G)

魔力・・・F(G)

特殊・・・D(G)


脳筋のわりに【特殊】が有るのが特徴であるが、俺にはあまり関係が無い話だな。


そしてこの素体の能力がそのまま成長比率となるわけだ。本来なら初期化された素体は全ての能力がGからスタートだが、今回はカスタマイズを依頼しているので


力・・・・F

頑強・・・F

敏捷・・・G

器用・・・G

魔力・・・G

特殊・・・G


こんな感じにしてもらった。


強化する分、魔石の消費はあるし討伐する素体も強くなるので、今後カスタマイズする場合はその辺の兼ね合いを探索者と支部長が交渉することになるだろう。


ちなみに魔石のお値段をざっくりと言えば


G・・・100円~200円

F・・・千円~2千円

E・・・1万円~2万円

D・・・10万円~20万円

C・・・100万円~200万円

B・・・1000万円~2000万円


となる。A以上はもう相手次第としか言えないところだ。


基本的にダンジョンボスはAランク以上なので魔石に内包されている魔力やらなにやらをダンジョンコアに見て貰い、彼女らがどれだけ評価を付けるかという話になる。まぁ確実に億は超えると言っておこう。


そして俺との会話を見れば分かるように、基本的に彼女たちは嘘が下手なので、海千山千のギルド支部長なら騙されるということはまず無い。


さらにダンジョンコアがダンジョンコアを内包している魔石を吸収すればかなり強化されるそうで、あまり強化されるとやばいんじゃないか? と言う意見は根強く存在する。


これも国が彼女たちを隷属化させようとした要因であるが、それも俺には関係のない話である。


俺にとって重要なことは、俺が【ねんがんの そたい を手に入れた】こと。これだけだ。


で、これからこの素体を下で待っている木下に移植する必要が有るわけだが……さて、この素体どういった形にするかも問題である。


俺としては体内に移植して、自分と完全に一体化させて強化させていくべきだと考えている。しかしながら、人によっては移植が嫌だと主張する場合もあるらしい。


「グダグダ抜かすな!」と言って無理やり移植しても良いが、自らの中に宿る素体を嫌ってるような探索者は長生きできないのも業界の常識である。


だから母さんみたいに部分的な接続による生体兵器のような感じの武器にするのも(当時は移植よりもこちらが主流だった)有と言えば有りなんだが……先述したように素体は誰もが欲しがってるものなので、素人丸出しの学生が所持しているのが知られてしまうと、盗難されたり、詐欺で騙されたり、殺してでも奪い取るをされたりと、色々大変なのだ。


だからこそ移植させて一体化させるのが一番なのだが、この辺は本人の気持ち次第だろう。


「カエデ殿、お世話になりました」


とりあえずは目的を果たしたから戻ろう。いやはや、弟子を尊重する俺って優しいな。何時からこんなに甘くなったのやら。そう思いながら無理を言った市松人形に感謝を告げてから4階の部屋を後にする。挨拶は大事。古事記にも書いてるからな。


「おぅ。Bランクの魔石なんて久しぶりじゃったわい! また来るがよいぞ!」


先程の怯えはどこに消えたのか、親戚にお気に入りのお菓子をもらったかのようなリアクションを取る市松人形。


まぁ彼女らにしてみたら魔石はそんなもんなのだろう。さてさっさと素体を……って


「あぁ、それと支部長」


危ない危ない。もうひとつの目的を忘れるところだった。


「ん~なんでぇ?」


俺に声をかけられて訝しげにこちらを見るオッサン。


この話し方と言い、その目線と言い、完全に癖なんだろうが慣れないと威圧感が凄いことになる。そんなんだから娘や娘の友達に怖がられるんだろうが。


支部長と娘さんの複雑な人間関係はさておくとして、立ち合いのために一緒にいたオッサンに俺の目的を告げる。


「下で待ってる弟子、木下って言うんですが、ギルドに父親の借金があるらしいんです。で、元Dランクで去年死んだ木下某って奴の借金を調べてくれませんか? 俺が立て替えますので」


「Dランクがギルドに借金だァ? あぁ……あのガキがここに居るのはそういうことかよぉ」


「そういうことです。俺としても育成中の弟子に余計な手出しやら口出しをされるのは面白くないですからね」


「はっ。そぉいう事にしといてやるよぉ」


ん? なんか勘違いしてるみたいだが……どうでもいいか。


とりあえずこれで例のギルド職員が木下の母親に言い寄る理由が消える。現在母親のパートでも家賃と借金の利子分は払えているらしいので、あとは木下が食費と妹たちの学費を稼げば良いだけだ。


ついでに言えば、俺は返済の催促もしないし利子なんか取らんから、木下が稼いだ分の何割かを返済に回して、残りを一家の蓄えに回してもいいだろう。


余裕を無くすために追い詰めるのは必要だが、全く余裕が無いのもいかんからな。


あとは……そうだな。とりあえず本人には教えないでおこう。流石に次の返済のときに気づくだろうが、それまでは必死で稼ぐ必要があるって思わせたままの方が効率が良さそうだし。


「さてさて、どんな探索者に育ててやろうかねぇ」

閲覧ありがとうございます



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